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しおりを挟むこのティアーナとアイシャには、一つの共通点がある。
実は二人とも前世持ちなのだ。二人とも幼い頃に記憶を取り戻した。
ティアーナは主婦、アイシャはフリーターと、あまり役に立たなさそうな職業だが、そのお陰で例え逃亡しても、前世の知識を応用して生活していけると踏んでいる。
アイシャはティアーナの1つ上。幼い頃から支えてくれた一番の親友でもある。
アイシャが居てくれるならティアーナも心強い。
「アイシャ、とりあえず必要な金銭はこちらで用意するわ。私が密かにバイトした貯金があるから」
ティアーナは王女だが、自身の持っている財産がない。ドレスも全てお下がりを直したもの。年齢や貧困のせいもあり、社交界にも顔を出していない。
今年デビューの予定だが、この状況では無理だ。
「ティアーナ様…王女様でございますのに……」
お仕着せのエプロンでソッと涙を拭う。
ティアーナの珍しい髪は高く売れる。腰辺りまで伸びると肩口まで髪を切り、売りに出すのだ。
後は小さくなって着れなくなったドレスをリメイクした、ハンカチや鞄などは割りと売れた。
こうしてコツコツと何年も溜め続けたお金は、逃亡するには十分な路銀となるだろう。
ティアーナとアイシャは固く手を繋ぎ、綿密に逃亡計画を練るのであった。
まずは偽名、ティアーナはティナ、アイシャはアシュリー。
ティアーナのことはティナもしくはお嬢様と呼ぶ様に徹底する。
そしてアイシャと話し合った結果、3つ程山を越え、船を乗り継ぐとリアンタールという海に面した大国がある。そこは女性が職に就くのに偏見がなく、比較的差別の少ない国だ。
善は急げ。思い立ったが吉日。
二人は最低限の荷物を纏め、その日の明け方に城を後にした。
馬車などは無いので、ひたすら徒歩移動だ。
アイシャはもちろんだが、王女のティアーナも割りと足が速い。
貧乏暇なしで、幼い頃から出来ることは自分でやり、体を動かしてきた。
荷物も必要最低限に抑え、担ぐタイプの鞄で邪魔にならないよう、工夫をしている。
ティアーナの髪や瞳は目立つ為、その日の内に肩口まで切り、一般的な茶色に染めた。服装もスカートではなく、走りやすいキュロットタイプの服を来てその上にフードを被り、だて眼鏡を付けている。念には念を入れ移動を開始する。
足早に山中を駆け巡り、途中旅の荷馬車に乗せてもらい、宿場町で1日過ごす。
更に徒歩や荷馬車での移動を終え、三日目でどうにか国境近くの港町までたどり着く。
検問所では偽造した身分証を出し、事なきを得る。
とりあえずここまでくれば一安心だ。
後は船に乗れば、自動的にリアンタールに運んでもらえる。
港町には沢山の人で溢れていた。人混みに紛れ、ティアーナとアイシャは港の船着き場まで移動した。船の切符は高いのだが、そんな我が儘は言っていられない。
巾着からお金を取り出し、切符を二人分買う。運良く目的地までの船はすぐ出港するようだ。
そのまま、客室まで移動し、大衆が集まる地べたに腰を下ろし、ようやく一息着いた。
ここまで宿屋からノンストップで、数時間の移動。常に見つからないかと緊張しながらの逃亡に疲れはて、二人は寄り添いながら眠りに着いた。
◇
ふと温もりを感じ、意識が浮上する。
腕の中だろうか…暖かくてホッとする。アイシャが寝惚けて抱きついているのだろう。
たまにティアーナが泣いているときや、悲しい時にアイシャはこうして抱きしめてくれた。
昔からの大好きな親友。
そう思いながら、ティアーナもその身体に抱きついた。
抱きついた身体が一瞬ビクッとする。
(あれ?なんだか………)
いつもと抱き心地が違う。柔らかくないし、背中に回した手も腕が回らないくらい広い。
そして匂いが違う。
アイシャはふんわりと香る石鹸の良い薫りがするのに、今香るのは鼻翼を擽るような清々しい芳香だ。
徐々に意識が覚醒する。
寝ぼけ眼で顔を上げると、そこには知らない男の人がいた。
(!!)
だ、誰!?この人!
その人物は隣にいる誰かと話しているのか、ティアーナが目覚めたことに気づいていない。
その人物もフードを被っているが、下から見上げているティアーナには顔が良く見える。
フードから少しはみ出ている髪は、光輝くような青銀の髪、吸い込まれそうな琥珀色の瞳。スッと通った高い鼻梁に、シャープな顎のライン。下から覗き見ただけでも端正な顔立ちなのが窺い知れる。
何故自分がそんな人物に、抱きしめられているのか全くわからない。
というか、この状況からどうやって逃れれば良いのか思い付かない。
頭が真っ白になってしまう。
とりあえず、このまま寝た振りするしかない?でも、この抱きしめられている状況に耐えられない。
固まってしまったティアーナに、ようやく抱きしめている人物が気づく。
息遣いが感じられる程間近に顔を寄せ、囁くように話しかける。これはリアンタールの言葉だ。
「ようやく目が覚めたかな?お姫様」
その言葉に、さっと身を離す。
(まさか、バレた?!)
威嚇のつもりで相手を睨む。
男はビックリした様子で、ティアーナを唖然と見ている。
(この狭い船内に逃げる場所は無い。泳いで渡り切ることは不可能……どうする……)
睨みながら逃走の手立てを模索するが、捕まれば逃げるのは無理だ。
後ろに避けたことで、眠っていたアイシャにぶつかり、その衝撃で目を覚ます。
「あれ、どうしました?お嬢様」
まだ寝起きで頭が働いていないのか、呑気な口調で話しかけてくる。
お嬢様と呼んだだけ合格点だ。
「何をそんなに警戒しているんだい?」
警戒していると悟った男は、不思議そうにこちらを眺めている。
しかし、ティアーナは警戒を弛めない。
それに気づいたアイシャが訝しげに、男達を見る。お互いフードを被り、明らかに怪しい。
後方に居たアイシャは小声で話し掛ける。
「お嬢様、この人達はどなたですか?」
「わからないの」
わからないから余計に怖い。自分をお姫様と呼んだのも、正体がバレたのも何故かわからない。
カナンからの追っ手ではなさそうだが……。
「俺はアーサー、こっちはギルバート。ただの旅人だ」
アーサーと名乗る男は、旅人にしては見目が良すぎる。明らかに貴族だろう。
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