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しおりを挟むとりあえず追っ手では無いと判断し、ホッとする。
ティアーナもアイシャも幼少期から近隣諸国の言語を何ヵ国か学んでいたので、もちろんリアンタールの国の言葉も理解している。
「アーサー…様。何故、私を、その……抱きしめていたのですか?」
「君達は、二人で旅でもしているのかな?だとしたらあまりにも無防備過ぎる。こんな船内で寝ていたら置き引きに合うよ」
言われてハッとする。
直ぐに荷物を確認するが、どうやら財布は無事なようだ。安心して一息ついた。
「それは…ご忠告ありがとうございます。今後は気をつけます」
「あぁ……で、どうして君を抱きしめていたかというと、良からぬ連中が狙っていたんでね。牽制しておいた」
良からぬ連中?何のことだ?
それと抱きしめることと、何の関係があるのか、ティアーナにはわからなかった。
油断はしないが、少しだけ警戒心を解く。
「お嬢様。この方々は少し怪しいですよ。もう少しで港に着きますから、すぐに出ましょう」
アイシャが後ろから耳打ちしてくる。
それはティアーナも賛成だ。
助けてもらったのかイマイチわからないが、知らない人間に簡単に心を許す訳にいかない。
小さく頷き、なるべく関わらないよう距離を置こう。
「色々とありがとうございました。感謝致します」
少し船が揺れ、リアンタールの港に着いたようだ。
所狭しと座っていた客たちが、次々と船から降りる。
「それでは、失礼致します」
お礼を言うと、鞄を背負い立ち上がる。
だが、その瞬間同じく立ち上がったアーサーに腕を取られ、グイッと引き寄せられる。
「えっ!あっ」
「お嬢様!」
広い胸の中に再び抱き寄せられ、胸がドキリと跳ねる。
伸びてきた手が顎を捕らえ、強引に上を向かされる。
「君の名前は?」
「はい?」
「名前は何て言うんだい?」
いきなりの台詞にポカンとしてしまう。
アーサーは顎に添えてあった手を動かし、親指で唇のラインをなぞる。
その感触にゾクリと鳥肌が立つ。
「っ……ティナです。お離しになって頂けますか?」
「やっぱり青紫色の瞳……もしかして…君は…………」
伊達眼鏡に手をかけようとしたアーサーを、身を捩って何とか振り切る。
「お嬢様!大丈夫ですか!?」
「おい、アーサーその辺にしてそろそろ行くぞ」
同じくフードを被り、姿形のわからない長身のギルバートと紹介された人物が止めに入ってくれた。
「ギル、邪魔しないでくれないか」
「時間が無いんだ。行くぞ」
ギルバートはスタスタ歩いて行ってしまう。
「ったく……ティナ」
「は、はい?」
急に呼ばれ、思わず返事をしてしまう。
「また、会おう」
去り際に腰をさらわれ、軽く頬にキスされる。柔らかな唇の感触が頬を掠める。
「!」
フードを被っていてもわかる美麗な顔で微笑み、踵を返して船内の出入りへ去って行った。
残されたティアーナはキスされた頬に手を当て、真っ赤になっている。
(何て軟派な男なの!いくら顔が良いからって信じられない!)
「お嬢様……大丈夫ですか!?あの男達は一体?」
「私も、わからないわ。助けてくれたらしいんだけど……」
もう二度と会わないだろうけど、初対面でこんなことをしてくるなんて、信じられない。
気持ちを落ち着け、ティアーナとアイシャも下船するべく出入りへと向かった。
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