運び屋『兎』の配送履歴

花里 悠太

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運び屋『兎』の休日

幕間 ギルド長の部屋にて

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 ユウヒが令嬢のもとに文を届けた翌日の夜。

 遅い時間にもかかわらず、執務室でギルド長が業務にあたっている。
机の上には書類が詰まれ、ペンを走らせて次々と処理していた。

 そこに、コンコンコン、と三回ノックの音が鳴る。
このリズムでノックする人物に心当たりがあるギルド長は入室を促す。

「どうぞ」
「はいるね」

 軽く言ってユウヒが部屋に入ってくる。
ギルド長はペンを動かす手を止めて、ユウヒに声をかけた。

「ユウヒ、お疲れ様。無事に仕事を終えたようだね」
「なんとかね」
「配送完了書に令嬢のサインよくもらえたね。おかげで依頼主は快く報酬を支払ってくれたよ」
「うん、よかった」

 歯切れの悪いユウヒ。
何か含みがあることを察したギルド長はユウヒが切り出すのを黙って待つ。

「あのさ」
「なんだい」
「あの子、目が見えないんだって」
「うん、そうだね」
「やっぱ知ってたんだ」

 ため息をつくユウヒ。
交流範囲も情報網も広いギルド長がそのことを知らないわけがないのだ。

「もちろん。領主様から相談受けたこともあるしね」
「デモンで文を見せてあげたらすごく喜んでた」

 意外な表情を見せるギルド長。

 仕事の時は、メリハリをしっかりつけろ。
割り切ってドライに、確実に仕事することを心掛けろ。

 ユウヒがこの仕事を始める時に、彼が繰り返し彼女に伝えた言葉だ。
今や彼女の仕事観となっている。
それだけにユウヒが仕事の途中で、誰かに何かをしてあげることに驚いたのである。

「……珍しいね。そこまでしたんだ」
「ちょっと、成り行きで」
「いいんじゃないかな、たまには」

 娘が成長するまで見守ってほしい、と、ギルド長はかつての友人から頼まれている。
それに応えて、仕事を見つけ、教えて。
彼女が自立できるようにしてきたつもりである。

 ただ、彼女は仕事をこなせても仕事以外の世界を広げようとはしなかったのである。
その彼女が同世代の人間に興味を持つとは、と感慨すら覚えていた。

 そんな様子を知ってか知らずか、ユウヒはおずおずとギルド長に聞く。

「あの子に会いに行く約束したんだ。仕事関係なくいっちゃダメかな」
「仕事でもないのに不法侵入するなんてダメに決まってるだろう」
「そうだよね、やっぱダメかな」

 残念そうにうつむくユウヒにギルド長が続ける。

「正々堂々、正面から会いに行きなさい」
「どういうこと?」

 ?マークを顔に浮かべギルド長に確認するユウヒ。
少し笑いながらギルド長は説明した。

「領主様はご令嬢のことをとても気にかけている。同年代の話相手ができるなら喜ぶはず」
「う、うん」
「私が領主様にお話しして許可をいただいてくるよ」
「え、じゃあ普通に会いに行っていいの?」

 驚くユウヒ。
優しく笑いかけてギルド長は続ける。

「商人たるもの、領主様と繋がりを作れる機会を逃すわけにいかないよ。それに犯罪者として大事な運び屋が捕まるのも困るしね」
「そっか、利害一致、ってやつだね」
「運び屋の取引先として領主様はもっとも上等な相手だと思うよ」

 仕事なんて気にしないで友達を作ってこい。

 親でもなく、あくまでも仕事の関係として彼女に関わってきたギルド長にはその言葉を発することができなかった。
仕事としてのメリットを説明し、会いに行く理由をつけることで折り合いをつけさせる。
彼女の生活を仕事中心にしたのは自分だという自覚があるだけに、今更友達を作って欲しいと発言する権利が自分にあるだろうか。

 大人としての勝手な迷いを抱きつつ、口先だけは滑らかに誤魔化しの言葉を紡いでやさしく笑うギルド長。
迷いに気づく様子なく、ユウヒは礼を言う。

「そっか、いつも仕事回してくれてありがとう」
「早く借金返済してもらわないと困るからね」
「うん、頑張るね。おやすみなさい」
「おやすみ、ユウヒ」

 ユウヒが部屋から出ていくのを見送ったギルド長。

「友達、か」

 つぶやいて、手元にあるペンを眺める。
ペンには彼女の父親の名前が刻まれていた。
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