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配送履歴#3 配達物『空気』
第13話 スリルあふれる領主謁見
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「領主様との約束で参りました」
「確認させていただきます」
領主邸の入り口で門番に話しかける商業ギルド長。
その横にはユウヒの姿がある。
門番の一人はギルド長から書面を受け取ると、中に入っていった。
一分と待たずに門に戻ってくる門番。
「商業ギルド長様ですね、承っております。中にお入りください」
門を開け、中に誘導する門番。
ついて入るユウヒの姿を見て、首を傾げる。
「あれ、どこかで」
「……」
先日、ユウヒが領主邸にお邪魔した際に見回りに出ていた門番であることに気付いたユウヒ。
話しかけられているわけではないので素知らぬふりで黙って会釈する。
なおも首を傾げる門番と、状況は察したが無言のギルド長、気づかれないかヒヤヒヤするユウヒの三人は正面玄関に到着。
門番は案内役を出迎えたメイドに引き継ぎ会釈して門へ戻っていって、ユウヒは胸を撫で降ろした。
メイドは二人を案内して、一階の廊下を進む。
一際しっかりとした扉の前へ到着すると、ドアをノックした。
「商業ギルド長様がいらっしゃいました」
「入ってもらえ」
低い張りのある声で入室を促されると、メイドがドアを開けて二人を室内に誘導した。
「失礼します」
「失礼します」
二人が挨拶して入った部屋は領主の執務室である。
奥には一際立派な執務机があり、落ち着いた雰囲気の男性が机に向かって仕事をしていた。
入室した二人を確認した男は仕事の手を止め、歓迎する雰囲気で対談用の机に着座するように勧める。
「ギルド長、よくきてくれた。そこに座ってくれ」
「領主様もご機嫌麗しく。失礼します」
「失礼します」
領主も執務机から立ち上がり、二人に対面する形で着座した。
メイドがお茶を準備し終えて退室するのを確認すると領主から切り出した。
「忙しいところ足労かけてすまないな」
「領主様ほどではありません」
「疫病対策の薬の件、なんとか調達できそうで助かったよ」
「その件に関してもお役に立てたようで何よりです。他にもご入用の物があれば是非お声がけください」
領主と商業ギルドの関係は、客と商人の関係であった。
領主からすれば、ギルドに通すことで適切な商人が紹介されてスムーズに取引ができる便利な商人。
商業ギルドからすれば、この町で一番の大規模顧客である。
商売のやりとりについて軽く話をした後、領主がユウヒのことを尋ねた。
「ところで、ギルド長。今日は人を連れてきているんだな」
「ご紹介が遅れました。こちらが運び屋『兎』でございます」
「おお、お前が『兎』か」
ユウヒが頭を下げようとするのに食い気味に領主が確認した。
鞄がモゾモゾっと動くが蓋を抑えつつ、たどたどしく挨拶するユウヒ。
「は、はい。兎と呼ばれています。ユウヒと申します」
「なるほど。ああ、兎がいるんだったな。飛び出さなければ顔を出しても構わんよ。ギルド長から書面で聞いている」
領主に軽く笑いながら言われ、横目でギルド長に確認するユウヒ。
うなづくギルド長を見て、蓋を抑える手を離すと鞄から兎がひょこっと顔を出した。
「常に兎が一緒にいる運び屋。面白いな」
「あ、ありがとうございます」
「ところで、今日は梟はいないのか?」
「え?」
笑い顔から一点、領主に真顔で確認になって確認した。
固まるユウヒを見て、ギルド長がフォローに入る。
「領主様、なんのお話で?」
「部屋から出ていないはずの娘から、梟を連れた運び屋の話を聞いてな」
言葉に詰まる二人。
その姿を見つつ、領主は続ける。
「警備を解いた記憶もなく、招いた人物がいるわけでもない。娘が誰とあったのかが不思議なのだよ」
「……」
「娘が夢でも見たのかと思ったが、机の上には下手くそな恋文が置かれているしな」
完全にバレてしまっていることにいたたまれないギルド長とユウヒ。
その様子を見て、再び真顔を崩して笑う領主。
「すまんすまん。からかいが過ぎたな。不法侵入を責めるつもりはないから安心してくれ」
「……領主様、生きた心地がしませんでしたよ」
「表情で楽しませてもらったからな。不法侵入の件はそれで不問としよう」
「ありがとうございます。」
ひとしきり笑うと、領主はユウヒに向かって頭を下げた。
「先日は娘に世界を見せてくれて感謝する」
「いえ、そんな」
「本当に久しぶりなのだ。娘が楽しそうに笑ってくれてな。見ることも話すことも楽しかったと」
目上の人に頭を下げられ戸惑うユウヒ。
領主は顔を上げて、そんなユウヒを見据える。
その表情は真摯であり、一介の運び屋ではなく心から感謝しているとユウヒは感じた。
「そんな、ボクが勝手にやっただけなんです」
「目の不自由な領主の娘ではなく、一人の人間として見てもらえることがどれだけ貴重な機会か。いくら感謝してもしつくせん」
「は、はい」
「感謝している上で不躾な頼みにはなるのだが、時々娘と会って話してやってくれないか」
再び頭を下げる領主。
呆然としたユウヒだが、ギルド長に肘で突かれて言葉を発する。
「領主様、ボクからもお願いしたかったんです。時々会いにきても良いですかって」
言葉をかけられてゆっくりと佇まいを戻す領主。
ユウヒに向かって話しかけた。
「そう言ってもらえるとこちらとしてもありがたい。後ほど家人や衛兵にも話を通しておくので、時々きてやってくれ」
「わかりました、ありがとうございます」
ユウヒが礼を言うと、領主はギルド長に向き直った。
「それと、ギルド長」
「はい、領主様」
「運び屋『兎』に仕事を頼みたい時はギルドを通せば良いのかな?」
「我々でも、本人に直接でも問題ありません。信頼できる運び屋ですよ」
「実力は心配しておらんよ。何せ、警備しているこの屋敷に配送できるくらいだからな」
悪戯っぽい笑顔の領主とギルド長で笑いあう。
その様子を見てユウヒは、仕事先が増えそうなこと、不法侵入が不問に処されそうなこと、令嬢と再び会いに行けることなどの嬉しいことが重なり、ホッとしていたのだった。
「確認させていただきます」
領主邸の入り口で門番に話しかける商業ギルド長。
その横にはユウヒの姿がある。
門番の一人はギルド長から書面を受け取ると、中に入っていった。
一分と待たずに門に戻ってくる門番。
「商業ギルド長様ですね、承っております。中にお入りください」
門を開け、中に誘導する門番。
ついて入るユウヒの姿を見て、首を傾げる。
「あれ、どこかで」
「……」
先日、ユウヒが領主邸にお邪魔した際に見回りに出ていた門番であることに気付いたユウヒ。
話しかけられているわけではないので素知らぬふりで黙って会釈する。
なおも首を傾げる門番と、状況は察したが無言のギルド長、気づかれないかヒヤヒヤするユウヒの三人は正面玄関に到着。
門番は案内役を出迎えたメイドに引き継ぎ会釈して門へ戻っていって、ユウヒは胸を撫で降ろした。
メイドは二人を案内して、一階の廊下を進む。
一際しっかりとした扉の前へ到着すると、ドアをノックした。
「商業ギルド長様がいらっしゃいました」
「入ってもらえ」
低い張りのある声で入室を促されると、メイドがドアを開けて二人を室内に誘導した。
「失礼します」
「失礼します」
二人が挨拶して入った部屋は領主の執務室である。
奥には一際立派な執務机があり、落ち着いた雰囲気の男性が机に向かって仕事をしていた。
入室した二人を確認した男は仕事の手を止め、歓迎する雰囲気で対談用の机に着座するように勧める。
「ギルド長、よくきてくれた。そこに座ってくれ」
「領主様もご機嫌麗しく。失礼します」
「失礼します」
領主も執務机から立ち上がり、二人に対面する形で着座した。
メイドがお茶を準備し終えて退室するのを確認すると領主から切り出した。
「忙しいところ足労かけてすまないな」
「領主様ほどではありません」
「疫病対策の薬の件、なんとか調達できそうで助かったよ」
「その件に関してもお役に立てたようで何よりです。他にもご入用の物があれば是非お声がけください」
領主と商業ギルドの関係は、客と商人の関係であった。
領主からすれば、ギルドに通すことで適切な商人が紹介されてスムーズに取引ができる便利な商人。
商業ギルドからすれば、この町で一番の大規模顧客である。
商売のやりとりについて軽く話をした後、領主がユウヒのことを尋ねた。
「ところで、ギルド長。今日は人を連れてきているんだな」
「ご紹介が遅れました。こちらが運び屋『兎』でございます」
「おお、お前が『兎』か」
ユウヒが頭を下げようとするのに食い気味に領主が確認した。
鞄がモゾモゾっと動くが蓋を抑えつつ、たどたどしく挨拶するユウヒ。
「は、はい。兎と呼ばれています。ユウヒと申します」
「なるほど。ああ、兎がいるんだったな。飛び出さなければ顔を出しても構わんよ。ギルド長から書面で聞いている」
領主に軽く笑いながら言われ、横目でギルド長に確認するユウヒ。
うなづくギルド長を見て、蓋を抑える手を離すと鞄から兎がひょこっと顔を出した。
「常に兎が一緒にいる運び屋。面白いな」
「あ、ありがとうございます」
「ところで、今日は梟はいないのか?」
「え?」
笑い顔から一点、領主に真顔で確認になって確認した。
固まるユウヒを見て、ギルド長がフォローに入る。
「領主様、なんのお話で?」
「部屋から出ていないはずの娘から、梟を連れた運び屋の話を聞いてな」
言葉に詰まる二人。
その姿を見つつ、領主は続ける。
「警備を解いた記憶もなく、招いた人物がいるわけでもない。娘が誰とあったのかが不思議なのだよ」
「……」
「娘が夢でも見たのかと思ったが、机の上には下手くそな恋文が置かれているしな」
完全にバレてしまっていることにいたたまれないギルド長とユウヒ。
その様子を見て、再び真顔を崩して笑う領主。
「すまんすまん。からかいが過ぎたな。不法侵入を責めるつもりはないから安心してくれ」
「……領主様、生きた心地がしませんでしたよ」
「表情で楽しませてもらったからな。不法侵入の件はそれで不問としよう」
「ありがとうございます。」
ひとしきり笑うと、領主はユウヒに向かって頭を下げた。
「先日は娘に世界を見せてくれて感謝する」
「いえ、そんな」
「本当に久しぶりなのだ。娘が楽しそうに笑ってくれてな。見ることも話すことも楽しかったと」
目上の人に頭を下げられ戸惑うユウヒ。
領主は顔を上げて、そんなユウヒを見据える。
その表情は真摯であり、一介の運び屋ではなく心から感謝しているとユウヒは感じた。
「そんな、ボクが勝手にやっただけなんです」
「目の不自由な領主の娘ではなく、一人の人間として見てもらえることがどれだけ貴重な機会か。いくら感謝してもしつくせん」
「は、はい」
「感謝している上で不躾な頼みにはなるのだが、時々娘と会って話してやってくれないか」
再び頭を下げる領主。
呆然としたユウヒだが、ギルド長に肘で突かれて言葉を発する。
「領主様、ボクからもお願いしたかったんです。時々会いにきても良いですかって」
言葉をかけられてゆっくりと佇まいを戻す領主。
ユウヒに向かって話しかけた。
「そう言ってもらえるとこちらとしてもありがたい。後ほど家人や衛兵にも話を通しておくので、時々きてやってくれ」
「わかりました、ありがとうございます」
ユウヒが礼を言うと、領主はギルド長に向き直った。
「それと、ギルド長」
「はい、領主様」
「運び屋『兎』に仕事を頼みたい時はギルドを通せば良いのかな?」
「我々でも、本人に直接でも問題ありません。信頼できる運び屋ですよ」
「実力は心配しておらんよ。何せ、警備しているこの屋敷に配送できるくらいだからな」
悪戯っぽい笑顔の領主とギルド長で笑いあう。
その様子を見てユウヒは、仕事先が増えそうなこと、不法侵入が不問に処されそうなこと、令嬢と再び会いに行けることなどの嬉しいことが重なり、ホッとしていたのだった。
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