運び屋『兎』の配送履歴

花里 悠太

文字の大きさ
30 / 58
配送履歴#4 配達物『薬』

第25話 薬受け取りいざ試飲

しおりを挟む
 領主邸宅は広く、門には複数の門番が立っている。
用事がある場合は、門番に声をかけて中に取り次いでもらうのだ。
ユウヒは近くにいた門番に声をかけて用件を伝える。

「領主様にお届け物です」
「ご苦労、預かろう」
「すみません、領主様に直接渡す依頼なんです。これを領主様に渡してもらえますか?」

 配達時に渡すように伝えられていた手紙を渡すユウヒ。
その手紙には、ユウヒの住む町を治める領主の家紋をかたどられた封がしてある。
門番はその家紋を見て重要性は感じ取った様子で応えた。

「わかった、ちょっとまってくれ」
「わかりました」

 封された手紙をもって邸宅内に入っていく門番。
ユウヒがそれを見送っていると、先ほど声をかけてきた商人が目に入る。
商人は顔見知りの門番に話しかけた様子で、すぐに邸宅内に連れられて行った。

 取り残されたユウヒが引き続きぼーっと待っていると、先ほど確認に行った門番が戻ってきた。

「隣街からの運び屋だな、中に入ってくれ。領主様がお会いするそうだ」
「わかりました」

 邸宅内に入ると、そこで執事が迎えて執務室に案内される。
依頼主と届け先の領主邸宅は似た様な大きさ、作りで不思議と安心感をユウヒに与えていた。

 執務室の前に着くと、ノック。
執事が入室を打診すると中から男の声で入室を促される。

「入れ」
「失礼します」

 ユウヒが頭を下げつつ部屋に入ると、届け先と思われる領主が執務机に向かって座っていた。
引き締まった体つきに鋭い眼差しで、年齢以外の面では中年と呼ぶのは抵抗がある風貌の領主がユウヒに尋ねる。

「薬を持ってきた、とのことだが本当か?」
「はい、これです」

 箱を差し出すユウヒ。
領主は慎重に箱を受け取ると、家紋でされた封を切って箱を開ける。
中には文書と小さな小箱が入っている。
文書を開いて読み進める領主は、次第に怪訝な表情となっていく。
しまいには、一人ぶつぶつとつぶやきだした。

「信じてよいものかどうか……長らく争っている敵を……」
「荷物問題なければ受け取りのサインいただますでしょうか」

 荷物受け取って考え込む様子の領主に、ユウヒが受け取りのサインを要求する。
しかし、領主は気づかない様子で引き続きぶつぶつ言いながら考えに耽っていた。

「毒を盛るにしては律儀で悠長なやり方だ。そして今毒を盛る理由も見当たらん」
「あの」
「ということは本当に貸しを作りたい、そして手を組もうということか」
「えっと」
「それもありか。どの道今のままではあいつを治してやる見込みもない。この薬を試す価値はあるな」
「さいん……」

 完全に一人思考の海に泳ぎに行ってしまった領主。
何とか戻ってきてサインをもらいたいユウヒ。

「サインおねがいします!」
「お、すまんな。意外な送り主だったので戸惑っていた」

 思考の海から帰ってきた領主は、おもむろに立ち上がると、ユウヒについてくるように指示する。

「この薬を試してみたい。こちらにきてくれ」
「サインは」
「もしこれが悪意の品であれば受け取れないからな。こっちだ」
「わかりました……」

 サインを受け取れずに項垂れるユウヒ。
ユウヒの両脇には衛兵が二人つき、挟み込んだ状態で別室へと案内される。
ドアをあけるとそこには領主夫人と思われる女性がベッドに臥せており、メイドが看病していた。

 時折咳き込む仕草も見せる夫人に領主が声をかける。

「どうだ、調子は」
「ええ、なんとか」

 領主と夫人が言葉を交わす。
衛兵にサンドイッチされたユウヒもその様子を見守る。

「隣街の領主がな、新しい薬をよこしてきた」
「隣街の?」
「ああ、長年の敵ではあるが、姑息な真似をしてくるような人間ではない。試してみようと思う」
「喜んで。ありがたいことですわね」

 言うと、領主はユウヒから受け取った箱の中から薬を取り出してメイドに渡す。

「これを水に溶かしてくれ」
「かしこまりました」

 メイドは薬を受け取ると、領主と夫人に背を向けて水差しがある机に向かう。

「これで少しは良くなるとよいのだがな」
「もしよくなれば隣街の領主様にも感謝させていただかないといけないですね」
「まったくだ。癪に障るがな」
「仲良くできるといいですわね」

 領主と夫人は引き続き他愛ない会話をしている。
ユウヒをサンドイッチ中の衛兵は、変な動きをとらないようにロックしてユウヒを監視する。

 その中でただ1人、自分の届けた薬が気になるユウヒだけはメイドの動きを目で追っていた。
コップに水をそそぐと、渡された薬を水にいれてかき混ぜて溶かすメイド。
そのまま夫人の元に持っていくかとユウヒが思っていると、メイドがためらうそぶりを見せる。

「?」

 メイドは少し震える手で別の包みを懐から取り出した。
領主達に背を向けるメイドの横顔がこわばっているのがユウヒに見える。
メイドはわずかに震える手で包みをあけて、コップに中身をいれようとした。

「アリス!」

 それを見たユウヒが叫んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。

まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」 ええよく言われますわ…。 でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。 この国では、13歳になると学校へ入学する。 そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。 ☆この国での世界観です。

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...