運び屋『兎』の配送履歴

花里 悠太

文字の大きさ
41 / 58
配送履歴#5 配達物『容疑者』

第35話 容疑者同士の再会

しおりを挟む
「ヒポ、しゅっぱーつ」

 ユウヒの掛け声に合わせて、カバが走り出す。
時速は先ほどと同じく時速三十km程度だ。

「こ、れは、なかなか、揺れるものだな」

 馬に騎乗するよりもタイミングが不規則で、一回一回の揺れが激しい。
ユウヒが平然としているのは、乗っている回数が多くてカバ慣れしているだけである。
兵士も乗せてくれと言った手前とプライドで耐えているが、中々きつい。

「うーん、でも今日はマシなほうだよ?」
「あの、青年の、時はもっと、酷かった、のか?」
「あの時はもっと速く走ってたからねー」
「あー、なる、ほど」

 ユウヒいわくのゆっくり速度で訓練を受けている自分でもこの有様なのだ。
年配の兵士は、もっと早い速度で走るカバに揺れに一般人にはさぞ辛かっただろうと同情した。

 ある程度走ってくると、兵士も揺れるリズムに慣れてきて辺りを見渡せるくらいに落ち着きを取り戻す。
次々に後ろに流れていく風景を見ながら、兵士はユウヒに問いかける。

「運び屋、先日も我々の街に来たことがあるのだよな」
「うん、領主様にもあったよ」
「その時は同じように行ったのか?」
「ううん、森の中走ってた」

 せっかく落ち着いたのに再び顔が引き攣る兵士。
整備された街道を走っていてこの有様である。
全く整備されていない森の中をより高速で走っているカバの上はまさに地獄絵図だ。
青年が必死に首を横に振った理由をようやく体感できたのと同時に、森林破壊の犯人は間違いなくこの少女であることを確信した瞬間でもあった。

「まあ、だとしてなんの罪になるのかはわからんのだがな」

 ぽつりと呟く兵士。

 森を壊してはいけません、などという法律があるわけでもない。
そのため、罪としては街を騒がせた、くらいなのだ。
年配の兵士には会話のやり取りでこの少女が悪意を持ってないことがわかったし、悪人でもなさそうだと感じている。
何か山賊の仲間でないことを証明できれば良いかな、と思い兵士はユウヒに尋ねる。

「ところで、山を抜けたときに山賊には遭遇しなかったのか?」
「ふぁい?」

 兵士が考え事をしている最中に、しれっとサンドイッチタイムを再開していたユウヒ。
ごくんと飲み込んで聞き直した。

「はい、なんですか?」
「ああ、山を抜けたときに山賊には遭遇しなかったか?」

 同じ質問を繰り返す兵士にユウヒはサラッと答えた。

「ゴブリンの集団と、山小屋に怪しい人がいるのは見たよ」
「なんだと?」
「多分、ゴブリン操ってたんじゃないかなあ。山小屋襲ってなかったし」
「領主様にそれを言ったか?」
「言ってないよ?」
「なぜ?」
「聞かれなかったから」

 がっくりと肩を落とす兵士。
ユウヒは兵士に反応に気づいてないのか気にしていないのかスルーしていたが、ちょうど何かを見つけたようで声をかけた。

「あ、あそこだよ。前来たときにボクが通ってきたところ」

 森の一角で不自然に木々が倒されており、山奥へと続いているのが見える。
木々が倒れているところにカバで二人が近づくと、木の影に隠れていた人が街道に出てきた。

 轢かないようにカバを減速するユウヒ。
速度が落ちた様子を見て、その人物はユウヒに声をかけた。

「お嬢さん、困ると言ったんですがね」
「お仕事だからね」
「ん? 誰か後ろに人が乗っているのですかね」

 年配の兵士は揺れる視界をなんとか収めてその人物を視認する。

「お前は、薬を納めていた商人じゃないか!」
「!? なんで、兵士がカバに乗っているんです? くっ」

 そこにいた人物は、領主夫人に対して旧来の薬を納品し続け、新薬を飲ませないためにメイドに毒薬を渡した人物である。
領主の令によって指名手配されており、兵士からすると捕まえなければならない容疑者だ。

 しかし、指名手配されている商人は舌打ちすると身を翻して森の中に去っていく。
兵士が追いかけるため、固定している紐を外そうとするとユウヒが声をかけた。

「うーんと、とりあえず配達続けてもいいかな?」
「いや、あいつは捕まえなければならんのだ」

 当然の責務として捕縛に向かおうとする兵士。
ユウヒは淡々と運び屋としての責務を告げる。

「ボクは配達しないといけないんだ」
「……く、そうだな。山賊がいるところに1人でいくわけにもいかん。報告を優先しよう」

 ユウヒを巻き込むわけにもいかず、また重要参考人を領主邸宅につれていくと言う任務もある。
追跡を断念する兵士の発言を聞いて、ユウヒはほっと胸を撫で下ろした。

「よかった、置いてっちゃおうかと思ったよ」
「置いていく?」
「だって、おじさんは配達物じゃないから、置いて行っても問題ないしね」
「それは、確かに。そうだな」

 ユウヒの発言に、年配の兵士は苦笑を浮かべるしか無かった。

 短く話がまとまると、ユウヒは停止していたカバを再スタート。
十分ほど走ったところで、ユウヒはカバを止める。

「あんまり街に近づくとまた怒られちゃうから、ここからは歩いていくよ」
「ああ、ここまでくれば問題ないな。ここからは私が護衛しよう」
「お、やった。お願いします」

 さっと降りるユウヒと、なんとか降りた兵士。
多少ふらつきがあったものの、日頃の鍛錬の成果も出て五体満足でカバから降りる偉業を達成する。

 ユウヒはカバを召喚解除すると、兵士に連れられてテクテクと街に向かうのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。

まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」 ええよく言われますわ…。 でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。 この国では、13歳になると学校へ入学する。 そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。 ☆この国での世界観です。

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...