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* * * * * *

俺の名前は、野崎隼人のざきはやと
高校の文芸部に所属している。

俺には好きな子がいる。
前の席に座っている、鴻上凜香こうがみりんかさんだ。

彼女は、あまり社交的ではなく、休み時間はたいてい一人で本を読んでいる。
文芸部の俺としては、これだけ本が好きならぜひ文芸部に入って欲しい、と思っているのだが、
凜香さんは授業が終わると、さっさと帰ってしまう。
いわゆる帰宅部だ。

はじめは彼女のことをあまり意識していなかったのだが、席替えで近くなってから、俺は凜香さんのことが気になってきた。
凜香さんと仲良くなって、いろいろな本について語り合いたい。

思いを募らせた俺は、凜香さんに告白することにした。
決行日は7月7日。
その日の帰りに俺は彼女に告白する。そう決めた。

毎日、凜香さんの顔を見るたびにドキドキしてしまう。
俺はこの子に告白するんだ。そう決心してから、ますます凜香さんが魅力的に見えてきた。

そうこうしているうちに、7月7日を迎えてしまった。

帰りに声を掛けよう。
そう決めていたはずだったが、俺は小心者だった。


凜香さんはさっさと帰ってしまい、気が付くと、俺は教室に一人残っていた。

なんてこった。
告白するって決めていたのに……

また別の日でもいいか、とも思ったが、
この日のために、と意識して過ごしてきただけあって、
できなかったから別の日に、とは簡単に割り切れない気持ちになった。

もう一度、7月7日をやり直すことができたのなら……
そんなことをぼんやり考えていたら、目の前の光景がぐるぐる回り始めた。

何が起きたのか、俺にはまったく理解できなかった。
教室の様子が、少し変わったような気がした。
が、俺は気にせず、文芸部の部室に向かった。

部室のカレンダーを見て、俺は衝撃の事実を知る。
時が2週間前に戻っていた!
2週間前、それは凜香さんに告白しようと決めた日だ。
その日の自分に戻っていたのだ。

タイムリープ?
そんなファンタジーなことが現実世界で起きるのか?
本の読み過ぎで、自分はおかしくなってしまったのだろうか?

しかし、これは夢でも幻でもなかった。
俺はこの事態を受け入れざるを得なかった。
それならそれで覚悟して、もう一度、2週間を過ごそう。
そして、7月7日に凜香さんに告白しよう。
俺はそう決意した。


2度目の7月7日がやってきた。
前回のような失敗はしない。

授業が終わり、帰ろうとする凜香さんに声をかけた。
不思議そうに俺を見る彼女。
正面からじっと凜香さんに見つめられた。
ドキドキする……

俺は頭が真っ白に、そして、顔は真っ赤になった。
完全にフリーズしてしまった。
しばらく、二人の間に沈黙が流れた。
やがて、凜香さんはこう言った。

「……じゃあ、私、帰るね……」

俺は何も言えなかった。
帰っていく凜香さんを、俺は呆然と見送っていた。
またしても、告白することができなかった。
2回目の7月7日を迎えたというのに……
自分の無力さに、がっかりしてしまった。

すると、辺りの光景がぐるぐる回り始めた。
あの時と同じだ!
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