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閑話 アーナリア
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「━━━さぁ、日付が変わったぞ?この首輪を着けろ」
ノックも無しにずけずけ入ってきて、奴隷の首輪を突きつける太った男の名はジコル……わたしたち兄妹が借金した相手…
わたしの名前はアーナリア、皆はアリアって呼んでる。━━両親は…いない……わたしが産まれたときに母が死んで、父も後を追うように姿を消したらしい……というのも7歳上の兄が教えてくれただけで、わたしは幼すぎて記憶がないからだ。
「…女性の部屋に入るのにノックしないだなんて、男性としてどうなんです?それに何度も言ってますが、国の基準では当日でも有効期限内であるはずですよ?それをなんです?━━前日のそれも日付が変わった深夜にいきなり訪ねてくるなんて…人として恥ずかしくないんですか?」
彼女はユリア、物心がつく前からわたしに仕えてくれてるメイドさんで凄く綺麗…なのにかなり毒舌なのが勿体ない、なんと言うか…わたしのお母さんみたいな人だ。
「相変わらずうるさいメイドだ…これ以上言ったところで、何も変わりはしないぞ?」
…そう…何も変わらない…だって………わたしはもう……諦めているから………
*****
わたしが生まれた家は、ユーカリアの町でもかなり大きな商館だったんだけど……父が出ていってからは縮小の一途をたどって、兄が成人する頃には…小さな店に、わたしたち兄妹とユリアしかいなくなっていた……それでも、不自由ということはなくて、幸せに生活していた。
実は、わたしたち兄妹はドワーフとのクォーター何だけど…兄は人間の血が、わたしはドワーフの血が濃く出たみたいで、鍛治と土魔法、後…“固有スキル”で『人形操者』っていうゴーレムを動かすのに便利なスキルと………あ、後…その……む、胸が、大きく………
それで、その…男の人が、よく胸を見てくるから…恥ずかしくて…恥ずかしくて………だから、お店は兄とユリアに任せて、わたしは裏でずっと鍛治をしていた。
1人だったけど…ゴーレムを作ってお手伝いさせてたから、結構良い物が造れるようになってたの━━でも……それが、もしかしたら…イケなかったのかもしれない………
それは…今から半年前━━━
━━━その日はいつもと変わらない…よく晴れた日の昼過ぎだった。
「━━アリアっ!凄いぞ!聞いてくれ!」
突如、裏の鍛治場の扉を勢いよく開けて、飛び込んできたのはわたしの兄、ルートニス。7つ年上の割りに、童顔で線の細い、ちょっと抜けてるところがある………でも、優しい自慢の兄だ。
「━━兄さん、ビックリするじゃない…今はちょうど手を休ませてたから良かったけど…」
「あぁ、ご、ごめんね?で、でも聞いてほしい事があるんだよ!」
「わかったよ兄さん、━━それで?どうしたの?」
話を聞くと、どうやら剣の大量受注が入ったらしい…それも高額で…!
「ロムナス商会…って確か…南の方の町のだよね?」
「あぁ、サイジって所の商会だ。町自体はここより小さいけど、同じような初心者向けのダンジョンがある筈だよ。それで依頼しようとしてた鍛治師が高齢で少し前に亡くなってしまって…代わりに頼める様な鍛治師を探してたんだって」
「で…それが…わたしだったと…?」
「そう!お店に置いてある剣を見て、是非お願いしたいって!」
「で、でも…わたしより凄い鍛治師はたくさんいるよ…?何でわたしなのかな…?」
「あぁ、それは儀礼用の剣が欲しいらしいんだ。だからじゃないかな?」
「そっか…それならわかったよ。それで?詳しい内容は?」
「期間は1ヶ月で5本、素材は鉄で良いそうだけど、装飾には銀を使って欲しいって。前金で金貨5枚貰って、出来上がったらもう5枚貰える事になってる」
「ウソ…!ホントに…!?小金貨じゃなくて…!?」
「ホントさ!だから頑張ってな?」
「うん!」
………そして、ゴーレムやユリアさんの手伝いもあって、順調に剣の作製は進み…残り一本という所で━━━それは起きた。
━━期日まで後5日の出来事だった……その日はお店もお休みで、みんなで買い物に出かけた帰り━━━
「あれ?あそこ…煙が上がってる!」
「ホントだ!ねぇ、あそこって家の方じゃない!?」
「急ごう!早く確認するんだ!」
━━そこは、わたしたちのお店だった…空高く火が立ち上ぼり、中から色々な物が壊れる音と炎の燃え盛る音が聞こえてくる………これは、現実なのかな……?
━━あり得なくて…認めたくなくて…目の前で起きていることなのに、まるで夢の中にいるようだ━━
「…っ兵は!?兵士はまだかっ!?」
「…っ!」
兄さんの兵を呼ぶ声で、ようやくこの…目の前の惨状が現実の物だと━━理解した。
わたしはかぶりを振り、しっかりしなきゃ!と自分に活を入れて考えた。
(大丈夫…!兵士さえ来てくれれば、火を消してくれるはず…!)
「そ、それが…当直の兵が誰も水魔法を持ってなかったらしくて…今使える兵を呼びに行ったとこなんだ…」
「そんな…!?いつもは必ず誰か使える人がいるはずじゃあ…!」
回りにいた野次馬の中には、水魔法を使える人が消火を試みてくれたりしていたが…焼け石に水でほとんど効果がなかった。
(うそ…それじゃあ…お店が………わたしたちの家が………)
「…マスター!ゴーレムを使って少しでも運び出しましょう!」
「あ!そ、そうね…!わかった!」
わたしは2m程のゴーレムを作り、燃え盛る家に突入させた。…わたしはMPが少なくてゴーレムを1体作るのがやっとなんだけど…『人形操者』のスキルで動かすのにMPを使わなくて済むの。でも…わたしにもっとMPがあればもっとゴーレムを作れるのに…悔しい………
そして…しばらくしてゴーレムが金庫を持って出てきた所で………ついにお店が崩れ落ちてしまった………
*****
━━━それから、わたしたちが地獄に落ちるのはあっという間だった…
幸い回りに火は燃え広がらなかったが…火事の原因が、わたしの鍛治だとされて………その日は鞘を作ってたから火をそもそも使ってなかったのに…認められなくて………罰金と鍛治の禁止になって………
その罰金だけで、持ち出せた金庫の中身が空になって……全部燃えてしまったから、約束の剣は用意できなくて…前金と違約金で金貨10枚が払えなくて……兄さんとユリアが方々駆けずり回ってお金を作ろうと頑張ってたけど…誰も貸してくれなかった………
わたし…もう…心が折れちゃった……結局、ジコルという娼館のオーナーがわたしが奴隷になる条件で、お金を出してくれた。兄さんとユリアは猛反対していたが…火事からすでに1ヶ月が経とうとしていた為、それ以外に道はなかった…ただ、ユリアが色々条件をつけてくれたお陰で、返済が4ヶ月と…1ヶ月も伸びた。
…でも…ダメだった……ダンジョンに潜っても…わたしが足を引っ張ってる…ゴーレムがあっても、壊れた所を直すMPが無くて…わたしは戦えなくて、兄さんとユリアに守られてる………
兄さんも…ユリアも…もう良いんだよ…頑張らなくて良いんだよ……?わたしの事は忘れて、好きに生きて…?
何で…?何で諦めないの?わたしが…わたしが鍛治なんかしてたから…わたしさえ奴隷になれば済むんだよ?わたしなんかの為に、危ないことしないでよ…
*****
…あれから随分たったけど…兄さんどうしてるかな…?無理してないかな………さすがに諦めてるよね…金貨10枚はやっぱり無理だったんだよ…でも………最後に、一言お礼が言いたかったな………兄さん………
━━あぁ、足音が聞こえる…おそらくこちらに向かってるのは、わたしたちの借金相手━━
「━━━さぁ、日付が変わったぞ?この首輪を着けろ」
やっぱり…ジコルだった………ユリアが日付が変わると同時に来るだろうと予想してたけどその通りだった………今はユリアが追い返そうと罵ってるけど…もういい…もういいんだよ…
「ユリア…もういいよ…」
「マスター…」
わたしはジコルの元まで向かうと奴隷の首輪を受けとりました…後は、これを着ければ…
「…ユリア…何度も言うけど…わたしについてこなくて良いんだよ…?」
「…いいえ、ワタシは何処までも、マスターについて行きますから」
「…もう…強情なんだから………ありがとう」
覚悟は…とうに出来ている…お金を借りたときから、ずっと………だから…わたしは、意を決して━━━奴隷の首輪を着けた━━━すると首輪が光り、体に馴染んでいく━━奴隷として、主人に逆らえないように…従うように━━
「フッフッ…待っていましたよ、この時を…これでようやく━━
コン、コン、コン…
━━クソっ…何の用だ?」
「申し訳ありません、旦那様。今『風の絆』のジョー様たちがいらっしゃいまして、旦那様と至急お会いになりたいそうです」
「フシュー…奴か……今度は誰の借金を肩代わりするつもりだ?物好きな奴め………わかったすぐ行く」
「かしこまりました」
「………お前はしばらく部屋で待機してろ。…戻ってきたらワシの相手をしてもらうからな?」
「………はい…」
…うん…予想はしてたけど…初めての相手があの豚かぁ………せめて、初めてくらいは好きな人としたかったな………そんな人いないけど…でも………子供の頃に読んだ『封印の勇者様』みたいに、格好よくて…優しくて………わたしを助け出してくれる、人が、いたら、良い、なぁ…!う、うぅ…うっ…ひぐっ…うぅぅ…
覚悟…してたはずなのに…仕方ないのに…どうして…?今になって…奴隷になって…涙が、止まらないよぉ…
*****
しばらく泣いている間、ユリアに寄り添ってもらい、少し落ち着いた頃━━また足音が近づいてきた━━あぁ…ついに来ちゃったか……ダメだ…また泣いてしまいそう………
絶望に崩れ落ちそうになる中、扉が開き━━━黒く汚れてボロボロに様変わりしたジコルが入ってきた━━━
…ん?…え…?あれ…?な、何があったの…?
ちょっと状況が解らず、混乱していると…ジコルが忌々しそうに…苦虫を100匹は噛み潰したような顔で口を開いた。
「…クソっ…どうしてこうなった………はぁ………貴様の新しい主人が決まったぞ…ついてこい…」
「「…なっ!?」」
どういうこと…?ついさっき奴隷になったとは言え、期日は来てないはずなのに…それってつまり…
「どういうことですか!?それはつまり…最初から奴隷にするつもりだったと!そういうことですか!?」
「人形風情が吠えるな!そんなこと、もうどうでもよいわ!」
「何ですって…!?」
ジコルとユリアが口論していると…開いたドアから、何か光る紙が飛んできました。それに気づいたジコルは急に怯えだし、壁まで後ずさると…醜く太った体を丸めて頭を抱えて蹲った…
「これは一体…?」
「…!マスター、これは…そこの男と交わした借用書ですよ!」
「えっ!!?」
借用書…?でも、借用書は兄さんが持ってるはずだし…それに何で光って飛んでいるの…?
『━━私ハ ”誓イノ借用書”。貴女 ハ、ジコル ニ、返金ガ確認サレマシタガ…犯罪奴隷ノ首輪ガ、付ケラレタ為…私ノ所有者 ”山本 康介” ニ、委譲サレマス。』
……え?……え?……ど、どういうこと…?犯罪奴隷の首輪…?そ、それに………兄さん…は………?
━━ユリアが…ジコルを問い詰め(ボコボコにして…)、借用書が補足してくれたおかげで、詳細がわかった……わたしは、助かったんだ…『封印の勇者』によって!実在した驚きと助かった嬉しさが…騙されてもう外せなくなった首輪の現実に……兄さんが、死んで、しまった、悲しみで………わたしは…わたしは………頭の中が、グチャグチャで…わたしは…わたしは………
「………スター、マスター!!」
「…え?あ…ユリア…?」
「マスター…主人になる『封印の勇者』を見てきました。男性だけあって胸に興味を引かれてましたが…優しそうで、悪い人では無いように感じました。少なくとも…ここにいるよりは、ましだと思うのですぐ行きましょう」
「……あ……そう…だね……うん…わかった……」
返事はしたものの…なかなか動けずにいたわたしに、ユリアが優しく抱き締めてくれた。
「━━マスター、泣いても良いんですよ?」
「で、でも…せっかく勇者様が助けてくれたんだよ…?」
「そうですね…でも、喜ぶのは後で良いんです。悲しいときに泣かないと、心が壊れていきますよ?━━家が火事になったのも、奴隷の首輪が外せなくなったのも…ルートニス…兄が…亡くなったのも……我慢しなくて良いんですよ…?」
「兄さん…兄さん…兄…さん……!う、うぅ、うああぁぁぁぁぁ…!!」
*****
泣いて、泣いて、泣き疲れて…少し…落ち着いた。
吹っ切れた訳じゃないけど…勇者様を待たしているのと……あの男がいるここから早く出たかった。
外で待たれてた勇者様は、黒目黒髪の大人しそうな方だった。幼い頃、憧れだった『封印の勇者』様…それが実在して、実際にわたしを助け出してくれた………ど、どうしよう…緊張してきちゃった…
「皆さん、お待たせしました。━━わたしはアーナリア。アリア、と呼んでください。……ふ、ふつつか者ですが…よろしくお願いします…」
「……マスター、それは結婚前の挨拶です」
「ふぇ!!?」
ど、ど、どうしよう…!?失敗しちゃった…!?
でも…勇者様は笑って、わたしの頭を撫でてくれた……とても…優しい方だった…
その後、付いていったギルドで『封印の女神』様とも出会い、わたしの為に泣いて下さいました。皆さん、優しくて…それに女神様と…イリーナと友達になりました。
わたしは…凄く…救われた気持ちでした。絶望…してたから…本当に…本当に、嬉しかった。
宿に着き、ユリアと二人きりになって…兄さんを亡くした悲しみがぶり返したけど…大丈夫……明日はきっと、大丈夫になってる。だって、わたしは救われたんだから。幸せになるよ。…だから…兄さん……今まで…ありがとう………
ノックも無しにずけずけ入ってきて、奴隷の首輪を突きつける太った男の名はジコル……わたしたち兄妹が借金した相手…
わたしの名前はアーナリア、皆はアリアって呼んでる。━━両親は…いない……わたしが産まれたときに母が死んで、父も後を追うように姿を消したらしい……というのも7歳上の兄が教えてくれただけで、わたしは幼すぎて記憶がないからだ。
「…女性の部屋に入るのにノックしないだなんて、男性としてどうなんです?それに何度も言ってますが、国の基準では当日でも有効期限内であるはずですよ?それをなんです?━━前日のそれも日付が変わった深夜にいきなり訪ねてくるなんて…人として恥ずかしくないんですか?」
彼女はユリア、物心がつく前からわたしに仕えてくれてるメイドさんで凄く綺麗…なのにかなり毒舌なのが勿体ない、なんと言うか…わたしのお母さんみたいな人だ。
「相変わらずうるさいメイドだ…これ以上言ったところで、何も変わりはしないぞ?」
…そう…何も変わらない…だって………わたしはもう……諦めているから………
*****
わたしが生まれた家は、ユーカリアの町でもかなり大きな商館だったんだけど……父が出ていってからは縮小の一途をたどって、兄が成人する頃には…小さな店に、わたしたち兄妹とユリアしかいなくなっていた……それでも、不自由ということはなくて、幸せに生活していた。
実は、わたしたち兄妹はドワーフとのクォーター何だけど…兄は人間の血が、わたしはドワーフの血が濃く出たみたいで、鍛治と土魔法、後…“固有スキル”で『人形操者』っていうゴーレムを動かすのに便利なスキルと………あ、後…その……む、胸が、大きく………
それで、その…男の人が、よく胸を見てくるから…恥ずかしくて…恥ずかしくて………だから、お店は兄とユリアに任せて、わたしは裏でずっと鍛治をしていた。
1人だったけど…ゴーレムを作ってお手伝いさせてたから、結構良い物が造れるようになってたの━━でも……それが、もしかしたら…イケなかったのかもしれない………
それは…今から半年前━━━
━━━その日はいつもと変わらない…よく晴れた日の昼過ぎだった。
「━━アリアっ!凄いぞ!聞いてくれ!」
突如、裏の鍛治場の扉を勢いよく開けて、飛び込んできたのはわたしの兄、ルートニス。7つ年上の割りに、童顔で線の細い、ちょっと抜けてるところがある………でも、優しい自慢の兄だ。
「━━兄さん、ビックリするじゃない…今はちょうど手を休ませてたから良かったけど…」
「あぁ、ご、ごめんね?で、でも聞いてほしい事があるんだよ!」
「わかったよ兄さん、━━それで?どうしたの?」
話を聞くと、どうやら剣の大量受注が入ったらしい…それも高額で…!
「ロムナス商会…って確か…南の方の町のだよね?」
「あぁ、サイジって所の商会だ。町自体はここより小さいけど、同じような初心者向けのダンジョンがある筈だよ。それで依頼しようとしてた鍛治師が高齢で少し前に亡くなってしまって…代わりに頼める様な鍛治師を探してたんだって」
「で…それが…わたしだったと…?」
「そう!お店に置いてある剣を見て、是非お願いしたいって!」
「で、でも…わたしより凄い鍛治師はたくさんいるよ…?何でわたしなのかな…?」
「あぁ、それは儀礼用の剣が欲しいらしいんだ。だからじゃないかな?」
「そっか…それならわかったよ。それで?詳しい内容は?」
「期間は1ヶ月で5本、素材は鉄で良いそうだけど、装飾には銀を使って欲しいって。前金で金貨5枚貰って、出来上がったらもう5枚貰える事になってる」
「ウソ…!ホントに…!?小金貨じゃなくて…!?」
「ホントさ!だから頑張ってな?」
「うん!」
………そして、ゴーレムやユリアさんの手伝いもあって、順調に剣の作製は進み…残り一本という所で━━━それは起きた。
━━期日まで後5日の出来事だった……その日はお店もお休みで、みんなで買い物に出かけた帰り━━━
「あれ?あそこ…煙が上がってる!」
「ホントだ!ねぇ、あそこって家の方じゃない!?」
「急ごう!早く確認するんだ!」
━━そこは、わたしたちのお店だった…空高く火が立ち上ぼり、中から色々な物が壊れる音と炎の燃え盛る音が聞こえてくる………これは、現実なのかな……?
━━あり得なくて…認めたくなくて…目の前で起きていることなのに、まるで夢の中にいるようだ━━
「…っ兵は!?兵士はまだかっ!?」
「…っ!」
兄さんの兵を呼ぶ声で、ようやくこの…目の前の惨状が現実の物だと━━理解した。
わたしはかぶりを振り、しっかりしなきゃ!と自分に活を入れて考えた。
(大丈夫…!兵士さえ来てくれれば、火を消してくれるはず…!)
「そ、それが…当直の兵が誰も水魔法を持ってなかったらしくて…今使える兵を呼びに行ったとこなんだ…」
「そんな…!?いつもは必ず誰か使える人がいるはずじゃあ…!」
回りにいた野次馬の中には、水魔法を使える人が消火を試みてくれたりしていたが…焼け石に水でほとんど効果がなかった。
(うそ…それじゃあ…お店が………わたしたちの家が………)
「…マスター!ゴーレムを使って少しでも運び出しましょう!」
「あ!そ、そうね…!わかった!」
わたしは2m程のゴーレムを作り、燃え盛る家に突入させた。…わたしはMPが少なくてゴーレムを1体作るのがやっとなんだけど…『人形操者』のスキルで動かすのにMPを使わなくて済むの。でも…わたしにもっとMPがあればもっとゴーレムを作れるのに…悔しい………
そして…しばらくしてゴーレムが金庫を持って出てきた所で………ついにお店が崩れ落ちてしまった………
*****
━━━それから、わたしたちが地獄に落ちるのはあっという間だった…
幸い回りに火は燃え広がらなかったが…火事の原因が、わたしの鍛治だとされて………その日は鞘を作ってたから火をそもそも使ってなかったのに…認められなくて………罰金と鍛治の禁止になって………
その罰金だけで、持ち出せた金庫の中身が空になって……全部燃えてしまったから、約束の剣は用意できなくて…前金と違約金で金貨10枚が払えなくて……兄さんとユリアが方々駆けずり回ってお金を作ろうと頑張ってたけど…誰も貸してくれなかった………
わたし…もう…心が折れちゃった……結局、ジコルという娼館のオーナーがわたしが奴隷になる条件で、お金を出してくれた。兄さんとユリアは猛反対していたが…火事からすでに1ヶ月が経とうとしていた為、それ以外に道はなかった…ただ、ユリアが色々条件をつけてくれたお陰で、返済が4ヶ月と…1ヶ月も伸びた。
…でも…ダメだった……ダンジョンに潜っても…わたしが足を引っ張ってる…ゴーレムがあっても、壊れた所を直すMPが無くて…わたしは戦えなくて、兄さんとユリアに守られてる………
兄さんも…ユリアも…もう良いんだよ…頑張らなくて良いんだよ……?わたしの事は忘れて、好きに生きて…?
何で…?何で諦めないの?わたしが…わたしが鍛治なんかしてたから…わたしさえ奴隷になれば済むんだよ?わたしなんかの為に、危ないことしないでよ…
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…あれから随分たったけど…兄さんどうしてるかな…?無理してないかな………さすがに諦めてるよね…金貨10枚はやっぱり無理だったんだよ…でも………最後に、一言お礼が言いたかったな………兄さん………
━━あぁ、足音が聞こえる…おそらくこちらに向かってるのは、わたしたちの借金相手━━
「━━━さぁ、日付が変わったぞ?この首輪を着けろ」
やっぱり…ジコルだった………ユリアが日付が変わると同時に来るだろうと予想してたけどその通りだった………今はユリアが追い返そうと罵ってるけど…もういい…もういいんだよ…
「ユリア…もういいよ…」
「マスター…」
わたしはジコルの元まで向かうと奴隷の首輪を受けとりました…後は、これを着ければ…
「…ユリア…何度も言うけど…わたしについてこなくて良いんだよ…?」
「…いいえ、ワタシは何処までも、マスターについて行きますから」
「…もう…強情なんだから………ありがとう」
覚悟は…とうに出来ている…お金を借りたときから、ずっと………だから…わたしは、意を決して━━━奴隷の首輪を着けた━━━すると首輪が光り、体に馴染んでいく━━奴隷として、主人に逆らえないように…従うように━━
「フッフッ…待っていましたよ、この時を…これでようやく━━
コン、コン、コン…
━━クソっ…何の用だ?」
「申し訳ありません、旦那様。今『風の絆』のジョー様たちがいらっしゃいまして、旦那様と至急お会いになりたいそうです」
「フシュー…奴か……今度は誰の借金を肩代わりするつもりだ?物好きな奴め………わかったすぐ行く」
「かしこまりました」
「………お前はしばらく部屋で待機してろ。…戻ってきたらワシの相手をしてもらうからな?」
「………はい…」
…うん…予想はしてたけど…初めての相手があの豚かぁ………せめて、初めてくらいは好きな人としたかったな………そんな人いないけど…でも………子供の頃に読んだ『封印の勇者様』みたいに、格好よくて…優しくて………わたしを助け出してくれる、人が、いたら、良い、なぁ…!う、うぅ…うっ…ひぐっ…うぅぅ…
覚悟…してたはずなのに…仕方ないのに…どうして…?今になって…奴隷になって…涙が、止まらないよぉ…
*****
しばらく泣いている間、ユリアに寄り添ってもらい、少し落ち着いた頃━━また足音が近づいてきた━━あぁ…ついに来ちゃったか……ダメだ…また泣いてしまいそう………
絶望に崩れ落ちそうになる中、扉が開き━━━黒く汚れてボロボロに様変わりしたジコルが入ってきた━━━
…ん?…え…?あれ…?な、何があったの…?
ちょっと状況が解らず、混乱していると…ジコルが忌々しそうに…苦虫を100匹は噛み潰したような顔で口を開いた。
「…クソっ…どうしてこうなった………はぁ………貴様の新しい主人が決まったぞ…ついてこい…」
「「…なっ!?」」
どういうこと…?ついさっき奴隷になったとは言え、期日は来てないはずなのに…それってつまり…
「どういうことですか!?それはつまり…最初から奴隷にするつもりだったと!そういうことですか!?」
「人形風情が吠えるな!そんなこと、もうどうでもよいわ!」
「何ですって…!?」
ジコルとユリアが口論していると…開いたドアから、何か光る紙が飛んできました。それに気づいたジコルは急に怯えだし、壁まで後ずさると…醜く太った体を丸めて頭を抱えて蹲った…
「これは一体…?」
「…!マスター、これは…そこの男と交わした借用書ですよ!」
「えっ!!?」
借用書…?でも、借用書は兄さんが持ってるはずだし…それに何で光って飛んでいるの…?
『━━私ハ ”誓イノ借用書”。貴女 ハ、ジコル ニ、返金ガ確認サレマシタガ…犯罪奴隷ノ首輪ガ、付ケラレタ為…私ノ所有者 ”山本 康介” ニ、委譲サレマス。』
……え?……え?……ど、どういうこと…?犯罪奴隷の首輪…?そ、それに………兄さん…は………?
━━ユリアが…ジコルを問い詰め(ボコボコにして…)、借用書が補足してくれたおかげで、詳細がわかった……わたしは、助かったんだ…『封印の勇者』によって!実在した驚きと助かった嬉しさが…騙されてもう外せなくなった首輪の現実に……兄さんが、死んで、しまった、悲しみで………わたしは…わたしは………頭の中が、グチャグチャで…わたしは…わたしは………
「………スター、マスター!!」
「…え?あ…ユリア…?」
「マスター…主人になる『封印の勇者』を見てきました。男性だけあって胸に興味を引かれてましたが…優しそうで、悪い人では無いように感じました。少なくとも…ここにいるよりは、ましだと思うのですぐ行きましょう」
「……あ……そう…だね……うん…わかった……」
返事はしたものの…なかなか動けずにいたわたしに、ユリアが優しく抱き締めてくれた。
「━━マスター、泣いても良いんですよ?」
「で、でも…せっかく勇者様が助けてくれたんだよ…?」
「そうですね…でも、喜ぶのは後で良いんです。悲しいときに泣かないと、心が壊れていきますよ?━━家が火事になったのも、奴隷の首輪が外せなくなったのも…ルートニス…兄が…亡くなったのも……我慢しなくて良いんですよ…?」
「兄さん…兄さん…兄…さん……!う、うぅ、うああぁぁぁぁぁ…!!」
*****
泣いて、泣いて、泣き疲れて…少し…落ち着いた。
吹っ切れた訳じゃないけど…勇者様を待たしているのと……あの男がいるここから早く出たかった。
外で待たれてた勇者様は、黒目黒髪の大人しそうな方だった。幼い頃、憧れだった『封印の勇者』様…それが実在して、実際にわたしを助け出してくれた………ど、どうしよう…緊張してきちゃった…
「皆さん、お待たせしました。━━わたしはアーナリア。アリア、と呼んでください。……ふ、ふつつか者ですが…よろしくお願いします…」
「……マスター、それは結婚前の挨拶です」
「ふぇ!!?」
ど、ど、どうしよう…!?失敗しちゃった…!?
でも…勇者様は笑って、わたしの頭を撫でてくれた……とても…優しい方だった…
その後、付いていったギルドで『封印の女神』様とも出会い、わたしの為に泣いて下さいました。皆さん、優しくて…それに女神様と…イリーナと友達になりました。
わたしは…凄く…救われた気持ちでした。絶望…してたから…本当に…本当に、嬉しかった。
宿に着き、ユリアと二人きりになって…兄さんを亡くした悲しみがぶり返したけど…大丈夫……明日はきっと、大丈夫になってる。だって、わたしは救われたんだから。幸せになるよ。…だから…兄さん……今まで…ありがとう………
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突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
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