祈ればいいってもんじゃない!

鹿音二号

文字の大きさ
7 / 24

第七話 転生

しおりを挟む
修道院の生活は、カロリーナにとって今までの生活に比べてすこしつらかった。
教会の孤児院にいたために、規則やお祈り、簡単な修練と共同生活での家事分担などは毎日していたけれど、修道院ともなると、生活自体が修行で、身体も精神も鍛えるために厳しく指導された。
けれど、カロリーナが王宮から『偽聖女』と追い払われたことについては、誰も口にしなかった。

「聖女イシス様は真の聖女であらせられます」

はじめて、聖女について詳しく聞いたのは、修練のひとつである座学のときだった。
修道女であり院長の高齢の女性は、穏やか語っていた。

「まずは、転生についておさらいをしましょう。我々の肉の体に宿る力の形そのものである魂は、肉が朽ちても残ります。それは私のようなただの修道女などには見えません。ですが、高い魔力や特別な力を持つものには見えたりします。たしかに存在するものです」

修道院は節制を常に心がけていて、食べ物や着るもの、道具なども制限される。明かりも、日が高いうちは絶対に使わない。
今も外は曇り空なのに、講堂の窓からぼんやりとした光しか入ってこなくて薄暗い。

「我々が死んでのち、その魂は世界を巡り、やがてまた生を受けます。人間や動物、また植物であるかもしれませんが――これが転生です」

魂は数十年、数百年を経てから新しく生を受けるのだという。

「国の王や、名高い戦士、真理を極めた魔道士、僧侶、そして聖女も例外ではありません。みな死を迎えたあと、また魂は世界をめぐり、時が来れば再度生を受ける」

――外では、雨が降り出したらしい。

「真の聖女とは、聖女の生まれ変わりなのです」

院長は一度言葉を切って、しばらくしてまた続けた。

「何度も聖女として転生し、その都度祈りを習得され、魂に刻む。その魂がいつしかまた聖女になり、また祈りを刻む。それを繰り返すことで、すべての祈りをお知りになる、真の聖女に成られるのです」

つまり、イシスは生まれながらにして聖女なのだ。

(バカみたい)

そんな人を相手に、自分はもっとうまくやれるなんて、どうして思ってしまったのだろう。
それは、ゴイドンという貴族がカロリーナを聖女として扱い、王太子が受け入れたからだ。
たった500程度の祈りを覚えただけで、もてはやされて。
たった一文字でも唱え、聖属性の魔力を使えば祈りだった。同じ詠唱でも所作が違えば違う祈りになる。500の祈りなんて、少し文字を知っていればすぐに覚えられた。

でも、カロリーナはたったそれだけ。
王宮に迎えられ、聖女イシスのように祈れと言われて、ほとんどできなかった。
当たり前だ、5001の祈りなんてどれだけ修練しても人間には時間が足りない。そんな事も知らなかった。
情けなくて、悔しくて。

院長の柔らかな声が講堂に響いている。

「ですが、祈りは聖女ではなくても出来るのです」

はっと、カロリーナは顔を上げる。
他も数名、院長のうっすらと微笑むシワだらけの顔を見た。

「熱心に祈れば、神は見届けてくださり、奇跡は誰にでも起こるのです。魂の力でしょう。けれど、奇跡のため、自分のために祈ってもそれは神の御心に叶いません。どう祈るか、何のために祈るかは、この修道院で修練されれば、自ずと分かるでしょう」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

異世界カントリーライフ ~妖精たちと季節を楽しむ日々~

楠富 つかさ
ファンタジー
 都会で忙しさに追われる日々を送っていた主人公は、ふと目を覚ますと異世界の田舎にいた。小さな家と畑、そして妖精たちに囲まれ、四季折々の自然に癒されるスローライフが始まる。時間に縛られず、野菜を育てたり、見知らぬスパイスで料理に挑戦したりと、心温まる日々を満喫する主人公。現代では得られなかった安らぎを感じながら、妖精たちと共に暮らす異世界で、新しい自分を見つける物語。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

叶えられた前世の願い

レクフル
ファンタジー
 「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー

処理中です...