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魔力回路の治療
しおりを挟むぴちゃん、と小さな水音が聞こえて。
ふっと意識が浮上した。
(……あれ?)
自分はどうしていただろうか。
ふわふわと心地がいい気がして、まどろみから半分も抜け出せずにまばたきする。
見えたのは材質からして固そうな、天井だろう――遠い。ぼやっとしているのは視界なのか、遠すぎてピントが合わないのか分からないけれど。
「……ん?起きたのか」
ぼうっとしていたときに……突然美形のドアップ。
心臓に悪い。
銀色の目と髪の、美しい男。
「ん!?」
ぎょっとしたが、さらに驚いたのは……体が動かない。
どうやら、カレスは仰向けに寝ているらしい。
しかも、床でもベッドでもなく。
水の中だろうか。水に浮いている。
しかも……なぜか、裸ではないだろうか?
全身、なにも身に着けていない。
「!?」
「動くなよ。と言っても、動けないだろうけど」
男、ミニデュアムは、なんでもなさそうにそう言って、手を、カレスの胸の上にぺたりと置く。
「うわー!?」
「なんだ、元気じゃないか」
ちょっとおもしろそうに彼は言って、すう、とカレスの胸を撫でる。
「ぅ、わ、」
その感覚が――心地いい。
癒される、という言葉がそのまま感覚になったようだ。
「……分かるか?今、君の魔力回路を繋いでいる」
「ああ、わか、た」
声がかすれている。ずいぶん寝ていたようだ。
魔力回路。
魔導師なら、魔法を使うために体中に発達させる器官。
それが、カレスはずたずたに切り裂かれていた。
癒す猶予もないまま、命を狙われ、逃げた。
これを癒やすために、このミニデュアムのもとに行こうとしていた、理由のひとつだった。
自分でするつもりだった施術を、宮主自らが行ってくれている。
しかも、
「……これ、マナ水……?」
自分が、全身浸かっている水のことだ。ミニデュアムはこともなげに頷く。
「ああ」
「これ、こんなに、精製できるもんなのか……?」
「まあ、この宮以外では無理だろうな」
「うえ……」
マナ水。
とんでもない高価な上に希少な、魔力を含んだ水である。
カレスも作れはするが、製法材料費その他、とにかくハードルが高くて作りたくない。
それを、こんないっぱい。
「……その、感謝する」
「ん?なんだ?そんなに君は素直だったかな」
「う……」
気まずい。
そうなのだ、カレスは、さんざんミニデュアムと敵対した。一方的に。
顔を合わせれば突っかかっていた。自覚はしている。色々理由はあるのだけれど。
けれど、今はこうやってカレスを助けてくれた。
謝らずにはいられないだろう。
「わ、悪かった……」
「何でもすると言ったな」
「お、おう」
……言った。
にやにやと笑っているミニデュアムが不吉だ。あとそんななのに顔がいい。
けれど、彼が笑っていたのもすこしの間。
「……まあ、まずは、ちゃんと治すのが先だね」
「え、……あ、っ、!?」
いきなり、体が熱くなった。
かっと、燃え上がるような熱。
「……ッ!」
「ふうん、やっぱり君もかなりの魔導師だった、ということか」
返事ができない。
胸の、心臓の上、そこに手を置かれていて、焼けるように熱い。
「分かると思うけど、全身細切れだった回路を繋いで、最後に心臓部に繋げた」
「……ぅ、ふ……!」
「今治療に使ったマナが魔力に変わろうとしている。あと、循環を始めたね。……今の君には刺激が強すぎたみたいだな」
じんじんと、体中が沸騰しそうだ。
苦しい、熱い、灼けそう。
「なんでこんなことになったのか……聞きたいけど、それもあとか」
「あ、ぐ……」
「……ん、終わり」
ぱっと、体が動くようになった。
とたんにばしゃりと水の中に落ちたカレスは、突然のことで、もがくだけだった。すぐにミニデュアムに助け起こされなければ、溺れていた。
「げほっ、げほげほげほ」
「あーあーそんなにマナ水飲んじゃって、平気かな?」
また愉快そうな声が聞こえるが、そう言うなら最初から支えていて欲しい。
……腹の底から新しい熱が上がってくる。マナ水……魔力の塊を飲んだのだから、当たり前だ。
しばらく魔力枯渇状態でいたカレスの身体が、過剰反応を起こし始めた。
「世話が焼けるね」
ひょいと抱えられて、ぎょっとしたが、危なげなく運ばれて……それはそれでなんだかモヤる。
細い腕だと思うのに……どうやら筋力を上げる魔法を使っているらしい。なんとなくほっとした。
降ろされたのはタイル張りの床で、座り込んだ下半身が冷たくて気持ちがいい。
ようやくすこし周りを見ることができたが、どうやら水場らしいというのは分かった。
タイルと石で作られた大きめの部屋に、大きな水槽のようなものが一つ。さっきカレスが浸かっていたものだ。なみなみと入っているマナ水がうっすらと発光していて、ともかくその量にあきれた。
どれだけの金額があそこに入っているのだろう。そして、使ったカレスは弁償しないといけないのでは。
くらりと、目を回したカレスに……さらに心臓に悪いような、ミニデュアムの魔法が。
コン、と頭に何か当たった。
「あ?ぅおあ!?」
カンカンカン、と立て続けに頭や体に当たる固いもの。
それは氷だった。
またたく間に周辺に氷の山が出来る。触れたところが冷たくて気持ちがいい。
呆気にとられて見上げた先、ミニデュアムはふっと笑った。
彼も水に浸かっていたから、水を含んだ薄い浴衣のようなものが体に張り付いている。スラリとした体の線が見えて、そこに銀色の髪が水をしたたらせながら流れている。微笑む美しい男に一瞬見惚れた。
だが、その彼は、カレスの一部を無遠慮に見ている。
「……なかなかいいモノ持ってるんだね」
「!?見んな!?」
ばっと股間を隠したがもう遅い。
……治療の途中から元気になっていたのは知っていたけれども。
ふっと嘲るように笑って背を見せたミニデュアムに怒鳴り散らしそうになったが、我慢だ。
「……はあ」
少し向こうの扉が閉まり、カレスは一人きりになった。
色々、事態に追いつけないし聞きたいことはあるけれど、ともかく……助かった。
「きもちぃ……」
ぼうっとして、全裸で寝そべって氷を堪能するくらいには発熱している。
これは後遺症のようなもの。そのうち、治まる。
腰のあたりがちょっと危ないことになっているのを無視しつつ、そっと大きな氷の塊を抱く。しゅう、と水になって腕にしたたる感覚にうっとりとした。
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