28 / 46
ショータイム(2)
しおりを挟む
「では、少しクサナギの術を知ってもらうために、彼に披露してもらいましょう」
「!?いけませんぞ!東洋の術は邪法!」
「僭越ながら。それでは――」
「誰か止めろ……え?」
マキアが近くのテーブルに手を伸ばし、そこにあったフォークに触れた。
それを柄を持ち立てて、周囲に見せつけるようにしてから、手を離す。
そのまま、フォークは床へと落ちもせず、宙に立っていた。
ざわっと、周囲が騒がしくなる。
マキアは気にせず、次はスプーンを同じように持ち、フォークの隣に並べた。やはり床に落ちることなく宙に浮く。いくつかカトラリーを、そうやって並べ、最後に、配膳用の皿を真ん中に置く。
ちょうど、テーブルのディナーのセッティングだ。
宙に浮いたままのそれに、彼は手をかざしてふい、とテーブルの方へ振ると――それらはぱっと消えた。
「あっ」
カトラリーを取っていって寂しくなっていたテーブルに、いつの間にか整然とセットが並んでいた。
ざわめきが大きくなる。
ついで、貴婦人がそばに立っていたテーブルに近寄り、そこに活けてあった花を1輪取る。
淡い桃色の花は、マキアが触れると、黄金色に変わった。
「どうぞ」
花を差し出され受け取った夫人が、じっと見て悲鳴じみた声を上げた。
「これ、金よ!」
マキアは自分の胸ポケットからハンカチを取り出すと、それを広げてふっと息を吹きかける。
ハンカチが、ふわりと浮いた。誰にも支えられることなく空中でゆっくりと折りたたまれ、形を変え……
「鳥……?」
ハンカチから折って形を変えた鳥は、羽ばたきながら少し幼気な令嬢の肩にとまる。
「後で返してくださいね」
令嬢はきゃあと嬉しげに声を上げた。
もうひとりの青年が、どこからか燭台を持ってきた。
蝋燭が2本、赤々と灯っているそれを、マキアに渡す。
彼はその蝋燭に、とんとんと指を触れさせる。
火が、大きくなる。
1メートルくらいの火柱になった燭台に誰もが目を奪われる。
「ビクトル」
マキアは、少し離れたもう一人の茶髪の青年に向けて、燭台を放り投げた。
「――!?」
誰もが、息を呑んで見ている。
火柱が、揺らめき――赤い炎から、透明へ。
瞬く間にしゅるりと透明な、水に、火から変わった。
ビクトルは、危なげなく燭台をキャッチした。
火ではなく、水になったそれはたなびき、飛び上がる。しゅるしゅると円を描くように天井近くで一回転して、すうっと流れるように蝋燭へと戻る。
水は蝋燭の先でふっと消え、ぱっと再び火がついた。通常の明かり程度の大きさで。
驚き息を呑むもの、歓声を上げるもの、拍手するもの。
マキアはふと、目を、泳がせた。
少し離れた御令嬢に寄っていき、軽く頭を下げる。
「……失礼。貴方様はもしやもう少しでご結婚を?」
「ど、どうしてそれを?」
「この度はおめでとうございます。私は占いもするもので。助言をひとつ。あと3日で貴方様の御心を煩わせるあのことは解決します。大丈夫です、落ち着き、じっとお待ち下さい。悪い結果にはなりません」
「え……?」
「もし違えて悪い結果でしたら、裕福区の古道具屋にご連絡ください。お詫びとともに、これからをさらに詳しく占わせていただきます」
「……本当に?」
「ええ。この街の名に誓って」
令嬢は不安げに頷いた。
彼女にもう一度礼をして、それからマキアはまた目を泳がせた。
「マキア?」
ビクトルが彼の近くに立つと、ふらりとマキアは別の男性へと近づいた。びくりとした貴族の令息だろう彼に、
「……失礼。少し色味が強い金髪で、50歳くらいの男性とは……お父様でいらっしゃいますか?」
「え?」
「右の頬に、ほくろがあります。目は薄い青……」
「なぜそれを!?」
「ああ、やはり。お父様から伝言です。気にするな、ありがとう、と」
「……っ」
彼は、ぐっと顔を強張らせ、手で覆った。
傍らの配偶者だろうか、女性が気遣わしげに彼の背中に手を添えた。
彼に軽く頭を下げたマキアは、男爵のもとに戻る。
クレイトスは悪戯げな笑みを浮かべて、マキアにグラスを持たせて軽く合わせる。
それを見ながら、マキアを焚き付けた男はとぼけた顔をしている。
「弟子が大変お騒がせしましたな。やりすぎたような……何のお話でしたかな?」
何人もの貴族が笑って、男に近寄って話を始めた。
「大変見事でしたわ。マキアさん」
マキアと男爵に一番に寄ってきたのは、見覚えのある子爵夫人と、その主人の男性だった。
「光栄です、夫人。それと――」
「いつかお目にかかりたいと思っていたよ、マキア殿」
子爵は機嫌が良さそうだった。商売に関しては厳しく遣り手の商館の持ち主だと聞いているが、この場では朗らかに見えた。
「ふさぎ込んでいた妻が元気になった。君のおかげだ」
「できることをしたまでです」
「うん、実に好青年だな」
「見てください、ほら、このペンダント」
夫人がそっと胸元を押さえた。
そこには青い宝石が一粒、銀の台座にはまっている。
「それは……あの首飾りの」
ビクトルも近くにいて、驚いた顔をしている。
「夫が腕のいい職人に頼んで加工してくださったの。これで姉も、私と一緒に少しは気晴らしができるかしらと」
「そうですね。きっと」
まあ人それぞれだ。もう無害になっているし、夫人が喜んでいるならとやかく言うことはない。
「もしかして、あの方がしてくださったのかしら?」
「ええ、ナンリといいます。お話した私の師匠にあたる人です」
談笑しているナンリは、貴族と見間違うほどの落ち着きと姿勢の良さである。
「あとでお話させていただきたいわ」
「夫人、子爵、ぜひともその前に私とお話をしていただけませんかな?」
「まあ、お待たせしたわ。クレイトス男爵、お久しぶりね。まさかマキアさんとお知り合いとは」
「ええ、彼とは浅からぬ付き合いがありましてね」
クレイトス男爵は酔ったような上機嫌さで、声も大きい。
子爵夫人も、分かったように微笑んで、話し始めた。
「わたしはこのペンダントのことでマキアさんには恩がありますの。マキアさん、もし何かあったら夫の知り合いと言ってくださって結構ですわ、ねえ貴方様」
「ああ、子爵夫人を味方にしているとは。マキアもいつの間にか成長しているな」
「……男爵」
「はは、恥ずかしがることはない。……」
じりじりと、男爵と子爵夫妻へ人の輪が狭まってきている。
街の実質領主と、遣り手の子爵。彼らが機嫌がいいときに、一言でも交わすことができたらこの危ういパーティーで思ってもみない収穫だった。
そして、東洋の術だという不思議なことをやってのけた青年。彼もこの面々と和気あいあいと話すとは、ただ者ではない。
誰も、二級魔法士たちのことは忘れた。
ぽかんと言葉もなく佇む薄水色の集団の周囲には誰もいない。最後に――主催のニルス侯爵令息が青ざめそっとその場を離れた。
「!?いけませんぞ!東洋の術は邪法!」
「僭越ながら。それでは――」
「誰か止めろ……え?」
マキアが近くのテーブルに手を伸ばし、そこにあったフォークに触れた。
それを柄を持ち立てて、周囲に見せつけるようにしてから、手を離す。
そのまま、フォークは床へと落ちもせず、宙に立っていた。
ざわっと、周囲が騒がしくなる。
マキアは気にせず、次はスプーンを同じように持ち、フォークの隣に並べた。やはり床に落ちることなく宙に浮く。いくつかカトラリーを、そうやって並べ、最後に、配膳用の皿を真ん中に置く。
ちょうど、テーブルのディナーのセッティングだ。
宙に浮いたままのそれに、彼は手をかざしてふい、とテーブルの方へ振ると――それらはぱっと消えた。
「あっ」
カトラリーを取っていって寂しくなっていたテーブルに、いつの間にか整然とセットが並んでいた。
ざわめきが大きくなる。
ついで、貴婦人がそばに立っていたテーブルに近寄り、そこに活けてあった花を1輪取る。
淡い桃色の花は、マキアが触れると、黄金色に変わった。
「どうぞ」
花を差し出され受け取った夫人が、じっと見て悲鳴じみた声を上げた。
「これ、金よ!」
マキアは自分の胸ポケットからハンカチを取り出すと、それを広げてふっと息を吹きかける。
ハンカチが、ふわりと浮いた。誰にも支えられることなく空中でゆっくりと折りたたまれ、形を変え……
「鳥……?」
ハンカチから折って形を変えた鳥は、羽ばたきながら少し幼気な令嬢の肩にとまる。
「後で返してくださいね」
令嬢はきゃあと嬉しげに声を上げた。
もうひとりの青年が、どこからか燭台を持ってきた。
蝋燭が2本、赤々と灯っているそれを、マキアに渡す。
彼はその蝋燭に、とんとんと指を触れさせる。
火が、大きくなる。
1メートルくらいの火柱になった燭台に誰もが目を奪われる。
「ビクトル」
マキアは、少し離れたもう一人の茶髪の青年に向けて、燭台を放り投げた。
「――!?」
誰もが、息を呑んで見ている。
火柱が、揺らめき――赤い炎から、透明へ。
瞬く間にしゅるりと透明な、水に、火から変わった。
ビクトルは、危なげなく燭台をキャッチした。
火ではなく、水になったそれはたなびき、飛び上がる。しゅるしゅると円を描くように天井近くで一回転して、すうっと流れるように蝋燭へと戻る。
水は蝋燭の先でふっと消え、ぱっと再び火がついた。通常の明かり程度の大きさで。
驚き息を呑むもの、歓声を上げるもの、拍手するもの。
マキアはふと、目を、泳がせた。
少し離れた御令嬢に寄っていき、軽く頭を下げる。
「……失礼。貴方様はもしやもう少しでご結婚を?」
「ど、どうしてそれを?」
「この度はおめでとうございます。私は占いもするもので。助言をひとつ。あと3日で貴方様の御心を煩わせるあのことは解決します。大丈夫です、落ち着き、じっとお待ち下さい。悪い結果にはなりません」
「え……?」
「もし違えて悪い結果でしたら、裕福区の古道具屋にご連絡ください。お詫びとともに、これからをさらに詳しく占わせていただきます」
「……本当に?」
「ええ。この街の名に誓って」
令嬢は不安げに頷いた。
彼女にもう一度礼をして、それからマキアはまた目を泳がせた。
「マキア?」
ビクトルが彼の近くに立つと、ふらりとマキアは別の男性へと近づいた。びくりとした貴族の令息だろう彼に、
「……失礼。少し色味が強い金髪で、50歳くらいの男性とは……お父様でいらっしゃいますか?」
「え?」
「右の頬に、ほくろがあります。目は薄い青……」
「なぜそれを!?」
「ああ、やはり。お父様から伝言です。気にするな、ありがとう、と」
「……っ」
彼は、ぐっと顔を強張らせ、手で覆った。
傍らの配偶者だろうか、女性が気遣わしげに彼の背中に手を添えた。
彼に軽く頭を下げたマキアは、男爵のもとに戻る。
クレイトスは悪戯げな笑みを浮かべて、マキアにグラスを持たせて軽く合わせる。
それを見ながら、マキアを焚き付けた男はとぼけた顔をしている。
「弟子が大変お騒がせしましたな。やりすぎたような……何のお話でしたかな?」
何人もの貴族が笑って、男に近寄って話を始めた。
「大変見事でしたわ。マキアさん」
マキアと男爵に一番に寄ってきたのは、見覚えのある子爵夫人と、その主人の男性だった。
「光栄です、夫人。それと――」
「いつかお目にかかりたいと思っていたよ、マキア殿」
子爵は機嫌が良さそうだった。商売に関しては厳しく遣り手の商館の持ち主だと聞いているが、この場では朗らかに見えた。
「ふさぎ込んでいた妻が元気になった。君のおかげだ」
「できることをしたまでです」
「うん、実に好青年だな」
「見てください、ほら、このペンダント」
夫人がそっと胸元を押さえた。
そこには青い宝石が一粒、銀の台座にはまっている。
「それは……あの首飾りの」
ビクトルも近くにいて、驚いた顔をしている。
「夫が腕のいい職人に頼んで加工してくださったの。これで姉も、私と一緒に少しは気晴らしができるかしらと」
「そうですね。きっと」
まあ人それぞれだ。もう無害になっているし、夫人が喜んでいるならとやかく言うことはない。
「もしかして、あの方がしてくださったのかしら?」
「ええ、ナンリといいます。お話した私の師匠にあたる人です」
談笑しているナンリは、貴族と見間違うほどの落ち着きと姿勢の良さである。
「あとでお話させていただきたいわ」
「夫人、子爵、ぜひともその前に私とお話をしていただけませんかな?」
「まあ、お待たせしたわ。クレイトス男爵、お久しぶりね。まさかマキアさんとお知り合いとは」
「ええ、彼とは浅からぬ付き合いがありましてね」
クレイトス男爵は酔ったような上機嫌さで、声も大きい。
子爵夫人も、分かったように微笑んで、話し始めた。
「わたしはこのペンダントのことでマキアさんには恩がありますの。マキアさん、もし何かあったら夫の知り合いと言ってくださって結構ですわ、ねえ貴方様」
「ああ、子爵夫人を味方にしているとは。マキアもいつの間にか成長しているな」
「……男爵」
「はは、恥ずかしがることはない。……」
じりじりと、男爵と子爵夫妻へ人の輪が狭まってきている。
街の実質領主と、遣り手の子爵。彼らが機嫌がいいときに、一言でも交わすことができたらこの危ういパーティーで思ってもみない収穫だった。
そして、東洋の術だという不思議なことをやってのけた青年。彼もこの面々と和気あいあいと話すとは、ただ者ではない。
誰も、二級魔法士たちのことは忘れた。
ぽかんと言葉もなく佇む薄水色の集団の周囲には誰もいない。最後に――主催のニルス侯爵令息が青ざめそっとその場を離れた。
1
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
透けるほどうすい/溶けるほどあつい
鴻上縞
BL
日々何をするでもなく適当に生きていた真柴久志が知人の紹介で入った会社で真柴の教育係になった堂前哲は、仕事は出来るが口調は荒く乱暴で無愛想な取っ付きづらい男だった。しかし歓迎会の席で明かされた哲の驚くべき過去は、真柴の若い好奇心を掻き立てた。
歓迎会の後、真柴は好奇心を抑えきれず、酔に任せて哲に手を出してしまう。
一夜明けて酔いが覚め、気まずさを抱え一応謝罪をしたものの、哲の態度が負けず嫌いな真柴に火を付けて────。
足場鳶職人達の、身体から始まる軽薄で微かに純情な恋物語。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる