いわく付きより難しい

鹿音二号

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ショータイム(2)

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「では、少しクサナギの術を知ってもらうために、彼に披露してもらいましょう」
「!?いけませんぞ!東洋の術は邪法!」
「僭越ながら。それでは――」
「誰か止めろ……え?」

マキアが近くのテーブルに手を伸ばし、そこにあったフォークに触れた。
それを柄を持ち立てて、周囲に見せつけるようにしてから、手を離す。
そのまま、フォークは床へと落ちもせず、宙に立っていた。

ざわっと、周囲が騒がしくなる。
マキアは気にせず、次はスプーンを同じように持ち、フォークの隣に並べた。やはり床に落ちることなく宙に浮く。いくつかカトラリーを、そうやって並べ、最後に、配膳用の皿を真ん中に置く。
ちょうど、テーブルのディナーのセッティングだ。
宙に浮いたままのそれに、彼は手をかざしてふい、とテーブルの方へ振ると――それらはぱっと消えた。

「あっ」

カトラリーを取っていって寂しくなっていたテーブルに、いつの間にか整然とセットが並んでいた。

ざわめきが大きくなる。
ついで、貴婦人がそばに立っていたテーブルに近寄り、そこに活けてあった花を1輪取る。
淡い桃色の花は、マキアが触れると、黄金色に変わった。

「どうぞ」

花を差し出され受け取った夫人が、じっと見て悲鳴じみた声を上げた。

「これ、金よ!」

マキアは自分の胸ポケットからハンカチを取り出すと、それを広げてふっと息を吹きかける。
ハンカチが、ふわりと浮いた。誰にも支えられることなく空中でゆっくりと折りたたまれ、形を変え……

「鳥……?」

ハンカチから折って形を変えた鳥は、羽ばたきながら少し幼気な令嬢の肩にとまる。

「後で返してくださいね」

令嬢はきゃあと嬉しげに声を上げた。
もうひとりの青年が、どこからか燭台を持ってきた。
蝋燭が2本、赤々と灯っているそれを、マキアに渡す。
彼はその蝋燭に、とんとんと指を触れさせる。
火が、大きくなる。
1メートルくらいの火柱になった燭台に誰もが目を奪われる。

「ビクトル」

マキアは、少し離れたもう一人の茶髪の青年に向けて、燭台を放り投げた。

「――!?」

誰もが、息を呑んで見ている。
火柱が、揺らめき――赤い炎から、透明へ。
瞬く間にしゅるりと透明な、水に、火から変わった。
ビクトルは、危なげなく燭台をキャッチした。

火ではなく、水になったそれはたなびき、飛び上がる。しゅるしゅると円を描くように天井近くで一回転して、すうっと流れるように蝋燭へと戻る。
水は蝋燭の先でふっと消え、ぱっと再び火がついた。通常の明かり程度の大きさで。
驚き息を呑むもの、歓声を上げるもの、拍手するもの。

マキアはふと、目を、泳がせた。
少し離れた御令嬢に寄っていき、軽く頭を下げる。

「……失礼。貴方様はもしやもう少しでご結婚を?」
「ど、どうしてそれを?」
「この度はおめでとうございます。私は占いもするもので。助言をひとつ。あと3日で貴方様の御心を煩わせるあのことは解決します。大丈夫です、落ち着き、じっとお待ち下さい。悪い結果にはなりません」
「え……?」
「もし違えて悪い結果でしたら、裕福区の古道具屋にご連絡ください。お詫びとともに、これからをさらに詳しく占わせていただきます」
「……本当に?」
「ええ。この街の名に誓って」

令嬢は不安げに頷いた。
彼女にもう一度礼をして、それからマキアはまた目を泳がせた。

「マキア?」

ビクトルが彼の近くに立つと、ふらりとマキアは別の男性へと近づいた。びくりとした貴族の令息だろう彼に、

「……失礼。少し色味が強い金髪で、50歳くらいの男性とは……お父様でいらっしゃいますか?」
「え?」
「右の頬に、ほくろがあります。目は薄い青……」
「なぜそれを!?」
「ああ、やはり。お父様から伝言です。気にするな、ありがとう、と」
「……っ」

彼は、ぐっと顔を強張らせ、手で覆った。
傍らの配偶者だろうか、女性が気遣わしげに彼の背中に手を添えた。
彼に軽く頭を下げたマキアは、男爵のもとに戻る。

クレイトスは悪戯げな笑みを浮かべて、マキアにグラスを持たせて軽く合わせる。
それを見ながら、マキアを焚き付けた男はとぼけた顔をしている。

「弟子が大変お騒がせしましたな。やりすぎたような……何のお話でしたかな?」

何人もの貴族が笑って、男に近寄って話を始めた。

「大変見事でしたわ。マキアさん」

マキアと男爵に一番に寄ってきたのは、見覚えのある子爵夫人と、その主人の男性だった。

「光栄です、夫人。それと――」
「いつかお目にかかりたいと思っていたよ、マキア殿」

子爵は機嫌が良さそうだった。商売に関しては厳しく遣り手の商館の持ち主だと聞いているが、この場では朗らかに見えた。

「ふさぎ込んでいた妻が元気になった。君のおかげだ」
「できることをしたまでです」
「うん、実に好青年だな」
「見てください、ほら、このペンダント」

夫人がそっと胸元を押さえた。
そこには青い宝石が一粒、銀の台座にはまっている。

「それは……あの首飾りの」

ビクトルも近くにいて、驚いた顔をしている。

「夫が腕のいい職人に頼んで加工してくださったの。これで姉も、私と一緒に少しは気晴らしができるかしらと」
「そうですね。きっと」

まあ人それぞれだ。もう無害になっているし、夫人が喜んでいるならとやかく言うことはない。

「もしかして、あの方がしてくださったのかしら?」
「ええ、ナンリといいます。お話した私の師匠にあたる人です」

談笑しているナンリは、貴族と見間違うほどの落ち着きと姿勢の良さである。

「あとでお話させていただきたいわ」
「夫人、子爵、ぜひともその前に私とお話をしていただけませんかな?」
「まあ、お待たせしたわ。クレイトス男爵、お久しぶりね。まさかマキアさんとお知り合いとは」
「ええ、彼とは浅からぬ付き合いがありましてね」

クレイトス男爵は酔ったような上機嫌さで、声も大きい。
子爵夫人も、分かったように微笑んで、話し始めた。

「わたしはこのペンダントのことでマキアさんには恩がありますの。マキアさん、もし何かあったら夫の知り合いと言ってくださって結構ですわ、ねえ貴方様」
「ああ、子爵夫人を味方にしているとは。マキアもいつの間にか成長しているな」
「……男爵」
「はは、恥ずかしがることはない。……」

じりじりと、男爵と子爵夫妻へ人の輪が狭まってきている。
街の実質領主と、遣り手の子爵。彼らが機嫌がいいときに、一言でも交わすことができたらこの危ういパーティーで思ってもみない収穫だった。
そして、東洋の術だという不思議なことをやってのけた青年。彼もこの面々と和気あいあいと話すとは、ただ者ではない。

誰も、二級魔法士たちのことは忘れた。
ぽかんと言葉もなく佇む薄水色の集団の周囲には誰もいない。最後に――主催のニルス侯爵令息が青ざめそっとその場を離れた。

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