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第一話 あの子と食べたかぼちゃプリン
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今どき毎朝月曜日に朝礼をやる会社なんて都市伝説だと思っていたが、本当にそんな会社はある。
よって週のはじめは出社するのが嫌で嫌で仕方ない。社会人になってやっと半年くらいなのに、僕は既に社会の厳しさに打ちのめされていた。
「おい、小磯崎(こいそざき)! 先週もお前がだんとつで最下位だぞ! いくら新人だからって、ちょっとやる気が足りなすぎるんじゃないか!? まったくこれだから、今どきのZ世代ってやつは! まるで使い物にならりゃしねえ!!」
「すみません……」
反射的に出た謝罪はかえって、矢嶋(やじま)課長の怒りに火を点けるだけ。
矢嶋課長は中肉中背、額が絶賛後退中のおじさんで、営業三課でもいちばん厳しい人だと知られている。
とにかく蛇のように粘着質で、ヒステリック。
椅子を蹴り飛ばす、書類を投げつけるなんて日常茶飯事。
立派なパワハラだと思うのだが、なぜか誰も声を上げない。
今はだいぶ改善されていたと思っていたのに、オフィス機器を扱うこの会社は昭和に設立され、今もその頃から体質がまったく変わっていない。
「すみません、すみませんってなあ! ちっともそんなこと思ってないんだろ! また課長怒ってるー、うっざー、って感じなんだろ!?
あのなあ、いつまでも学生気分でいられちゃ困るんだよ! 仕事はしっかりやってもらわなきゃ!! この仕事はな、押して押して、相手に断られても押して、押しまくってナンボなんだ!
しつこいとか言われても、時にはグレーなことやってでも、契約取らないとうちが潰れるんだよ!!」
「本当に申し訳ないです……」
すみません、よりさらに上の謝罪語を使ったけれど、矢嶋の怒りは収まらない。
就活の時、僕はもともと広告代理店のクリエイティブ職を志望していた。そのために学生時代には、色彩検定やパソコンの資格だっていくつか取った。
でも今は売り手市場で若者は誰でも好きな仕事に就けるなんて、そんなの一流大学を出た人だけの話。
中途半端な三流の私大にしか受からなかった僕は、書類選考ですら落とされまくった。
四年生の夏、このままじゃ就活浪人になる、やりたいことにこだわっていちゃ駄目だとなんとか踏ん切りをつけ、それからはもう手あたり次第に応募して、やっと内定が取れたのがこの会社。
全国のオフィスにコピー機だの椅子だの果てはボールペンだの、そんなものを卸す仕事にやり甲斐を見出せるとは思えなかったが、それでもちゃんとした社会人、しかも正社員になれるのだから、それだけで安心した。
営業部に配属されるまでは。
自分が営業だけはぜったい向いてないことなんて、最初からわかっていた。どうしてそうなったのかよくわからないけれど、昔から人見知りな性格で、学生時代もなかなか友だちができなかった。
愛想笑いもお世辞も苦手だし、すぐに「ノリが悪いやつ」と思われる。
こんな僕が相手を持ち上げたり、すらすらとセールストークをするなんて、ハナから無理ゲーなのだ。
矢嶋の言うように、「押しまくってナンボ」なのだろうが、一度断られたらもう、それ以上食らいつくガッツなんてない。
「それと、宗川(むねかわ)! お前もたいがいだぞ! 小磯崎ほどじゃないが、お前だってうちの出来損ないなんだからな! ったく、いっつもボソボソボソボソ、小声でしゃべりやがって! お前の言ってることはまともに聞こえねえんだよ!!」
僕の同期であり、この春営業三課に配属された宗川さんが、蚊の鳴くような声でごめんなさい……と言った。
宗川さんは、常に矢嶋に怯えている。僕と同じようにそもそも営業に向いているように思えないし、見た目からして地味でおとなしそうで、実際声のボリュームも小さい。
そんな宗川さんが大人の男の人からこんなふうに怒鳴れたら、恐怖で頭が真っ白になってしまうだろう。
「宗川さあ、お前も一応女だろ? 女ならもっと契約取る方法なんていくらでもあるんじゃねえのか? そのクッツ貧相な胸にパッド入れて、化粧ぐらいしてこいよ! だいたいお前みたいな無能は、男に媚売って社内の花になるくらいしか、実社会で生き残れる道はねえんだよ」
宗川さんがはっと頬を引きつらせる。いやなんだよそれ、いくらなんでもひどいだろう。
時代錯誤な考えにもほどがあるし、それは立派な侮辱だ。
思わず矢嶋を睨みつけると、怒りの矛先はすぐ僕に戻った。
「おい、その目はなんだよ。言いたいことがあるなら言ってみろ」
「いえ……何も……」
にやっ、と矢嶋は笑い、僕の肩に腕を載せてきた。むわんとした臭い息が耳にかかり、顔をしかめたくなる。
「なあ、お前もそう思うだろ? 宗川みたいな無能は、そうやって生き残っていくしかねえって思うだろ?」
「いや、僕は……」
「思うよなあ?」
ノーとは言わせない、というものすごい圧に耐えられず、僕はうなずいてしまった。
おそるおそる宗川さんを見ると、すべてあきらめてしまったような顔をしていた。きっと僕に失望しただろう。ぐずん、と胸の底が軋む。
「ほうら、小磯崎もそう思うって! わかったらお前、今すぐ整形でもしてこいよ! 地味ブスでも二重にすれば、それなりに見えるんじゃねえの?」
にひひ、と下劣に矢嶋は笑い、それで朝礼は終わってしまった。
今日も最悪な一日が始まる。矢嶋は性格が終わってるし、宗川さんは僕に心底呆れただろうし、そしてきっとまた契約なんて取れない。
よって週のはじめは出社するのが嫌で嫌で仕方ない。社会人になってやっと半年くらいなのに、僕は既に社会の厳しさに打ちのめされていた。
「おい、小磯崎(こいそざき)! 先週もお前がだんとつで最下位だぞ! いくら新人だからって、ちょっとやる気が足りなすぎるんじゃないか!? まったくこれだから、今どきのZ世代ってやつは! まるで使い物にならりゃしねえ!!」
「すみません……」
反射的に出た謝罪はかえって、矢嶋(やじま)課長の怒りに火を点けるだけ。
矢嶋課長は中肉中背、額が絶賛後退中のおじさんで、営業三課でもいちばん厳しい人だと知られている。
とにかく蛇のように粘着質で、ヒステリック。
椅子を蹴り飛ばす、書類を投げつけるなんて日常茶飯事。
立派なパワハラだと思うのだが、なぜか誰も声を上げない。
今はだいぶ改善されていたと思っていたのに、オフィス機器を扱うこの会社は昭和に設立され、今もその頃から体質がまったく変わっていない。
「すみません、すみませんってなあ! ちっともそんなこと思ってないんだろ! また課長怒ってるー、うっざー、って感じなんだろ!?
あのなあ、いつまでも学生気分でいられちゃ困るんだよ! 仕事はしっかりやってもらわなきゃ!! この仕事はな、押して押して、相手に断られても押して、押しまくってナンボなんだ!
しつこいとか言われても、時にはグレーなことやってでも、契約取らないとうちが潰れるんだよ!!」
「本当に申し訳ないです……」
すみません、よりさらに上の謝罪語を使ったけれど、矢嶋の怒りは収まらない。
就活の時、僕はもともと広告代理店のクリエイティブ職を志望していた。そのために学生時代には、色彩検定やパソコンの資格だっていくつか取った。
でも今は売り手市場で若者は誰でも好きな仕事に就けるなんて、そんなの一流大学を出た人だけの話。
中途半端な三流の私大にしか受からなかった僕は、書類選考ですら落とされまくった。
四年生の夏、このままじゃ就活浪人になる、やりたいことにこだわっていちゃ駄目だとなんとか踏ん切りをつけ、それからはもう手あたり次第に応募して、やっと内定が取れたのがこの会社。
全国のオフィスにコピー機だの椅子だの果てはボールペンだの、そんなものを卸す仕事にやり甲斐を見出せるとは思えなかったが、それでもちゃんとした社会人、しかも正社員になれるのだから、それだけで安心した。
営業部に配属されるまでは。
自分が営業だけはぜったい向いてないことなんて、最初からわかっていた。どうしてそうなったのかよくわからないけれど、昔から人見知りな性格で、学生時代もなかなか友だちができなかった。
愛想笑いもお世辞も苦手だし、すぐに「ノリが悪いやつ」と思われる。
こんな僕が相手を持ち上げたり、すらすらとセールストークをするなんて、ハナから無理ゲーなのだ。
矢嶋の言うように、「押しまくってナンボ」なのだろうが、一度断られたらもう、それ以上食らいつくガッツなんてない。
「それと、宗川(むねかわ)! お前もたいがいだぞ! 小磯崎ほどじゃないが、お前だってうちの出来損ないなんだからな! ったく、いっつもボソボソボソボソ、小声でしゃべりやがって! お前の言ってることはまともに聞こえねえんだよ!!」
僕の同期であり、この春営業三課に配属された宗川さんが、蚊の鳴くような声でごめんなさい……と言った。
宗川さんは、常に矢嶋に怯えている。僕と同じようにそもそも営業に向いているように思えないし、見た目からして地味でおとなしそうで、実際声のボリュームも小さい。
そんな宗川さんが大人の男の人からこんなふうに怒鳴れたら、恐怖で頭が真っ白になってしまうだろう。
「宗川さあ、お前も一応女だろ? 女ならもっと契約取る方法なんていくらでもあるんじゃねえのか? そのクッツ貧相な胸にパッド入れて、化粧ぐらいしてこいよ! だいたいお前みたいな無能は、男に媚売って社内の花になるくらいしか、実社会で生き残れる道はねえんだよ」
宗川さんがはっと頬を引きつらせる。いやなんだよそれ、いくらなんでもひどいだろう。
時代錯誤な考えにもほどがあるし、それは立派な侮辱だ。
思わず矢嶋を睨みつけると、怒りの矛先はすぐ僕に戻った。
「おい、その目はなんだよ。言いたいことがあるなら言ってみろ」
「いえ……何も……」
にやっ、と矢嶋は笑い、僕の肩に腕を載せてきた。むわんとした臭い息が耳にかかり、顔をしかめたくなる。
「なあ、お前もそう思うだろ? 宗川みたいな無能は、そうやって生き残っていくしかねえって思うだろ?」
「いや、僕は……」
「思うよなあ?」
ノーとは言わせない、というものすごい圧に耐えられず、僕はうなずいてしまった。
おそるおそる宗川さんを見ると、すべてあきらめてしまったような顔をしていた。きっと僕に失望しただろう。ぐずん、と胸の底が軋む。
「ほうら、小磯崎もそう思うって! わかったらお前、今すぐ整形でもしてこいよ! 地味ブスでも二重にすれば、それなりに見えるんじゃねえの?」
にひひ、と下劣に矢嶋は笑い、それで朝礼は終わってしまった。
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