赤十字(戦死者達の記録)

具流 覺

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39頁 狙われる赤十字の旗

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 敗走中に我々を見付けて、連合軍の戦闘機が編隊(三機)を組んで襲って来ました。

私達は散り散りに砂浜からジャングルの中に逃げ込みました。
暫く戦闘機の機銃掃射が続き、砂浜には数十名の兵隊(患者)サンが倒れています。
酷(ヒド)いものです・・・。
操縦士(パイロット)は当然、『赤十字の旗』は見えた筈です。
武器も無く「骨と皮」の敗残兵(患者)達に容赦無く、狙い撃ちして来たのです。

 戦闘機の爆音が遠くに去り、兵隊(患者)サンが一人、また一人と砂浜に出て来ました。
緒方軍医長以下、二人の軍医、私達看護婦、三人の看護兵、二人の衛生兵達は幸い皆、無事でした。
私達は砂浜に倒れた兵隊(患者)サン達に『合掌』して、また隊形を整え、粛々と数十キロ先に在る海沿いの日本軍陣地へと向いました。

 暫く進むと、前方に一見元気そうな兵隊サン達の隊列が見えました。
赤十字の腕章を巻いた松本さん(衛生兵)が前に進む隊列に走って行きました。
暫くすると松本さんが戻って来て、緒方軍医長に何かを報告しています。
『ラエ・サラモア守備隊の残兵』だと聞こえて来ました。
目を凝らして見ると、兵隊サン達は負傷こそしてない様子でしたが、全員見るに堪えない姿です。

 たとえフィンシハーヘンの陣地に辿り着いても、その陣地が健在で在るかは分かりません。
まるで「死地」を求めて移動する『野ネズミ』の様なものです。
 私達の向かう所すべてに、希望の持てる場所は無い筈です。
                つづく
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