同期の姫は、あなどれない

青砥アヲ

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 ゴールデンウィークが明けた7日の月曜日。

 大型連休という非日常が終わりを告げ、通常の社会活動が始まる日だ。
 押し込まれた人々の体温と湿気が滞留した満員電車、乗り合わせた人々の険しい表情。そんな不快指数高めの光景にも、いっそ懐かしさすら覚える。

 この日、私はいつもより少し早めに家を出ていた。
 というのも、取引先の本社部門が長期休暇の間も工場や倉庫は稼働していることがほとんどで、現場で発生したトラブルや溜まった問い合わせなどが休み明けにこちらへ一気にやってくる。まずはどれくらいのボリュームがあるか、早めに行って確認しておきたかったのだ。

 オフィスに出社すると、すでにちらほら出社している社員がいる。私はおはようございます、と挨拶をしてから自席に座ると、PCを開きメールをチェックした。

 ああ、やっぱり。

 すでに何件か問い合わせのメールが入っており、中には重要度が高いことを示す『!』のマークが付いたものもある。

 これは始業時刻と同時に電話がくるパターンだな。
 私は少し気が滅入りながらも、仕事モードに切り替えた。

 5件目の問い合わせへの返信が終わったところで、私は少し前から休息を訴えている脳内を休ませるべく、リフレッシュルームへと移動した。

(予想はしていたけど、ハードだなぁ)

 まだ11時なのに、すでに夕方ぐらいの疲労感がある。

「いやー、今日ヤバいですね!朝からずっと電話鳴りっぱなし」

 マイボトルのお茶を飲んでいると倫花ちゃんがやってきた。

「おつかれ。あれ、プロジェクト携帯は?」

上山かみやまくんにお願いしてきちゃいました。分かんなかったら『確認して折り返します』って言っといてって」

 倫花ちゃんはいたずらっぽく笑って、椅子に座る。

「さすがに休憩入れないとやってられないですもん。あの人たち何でもかんでも『重要度高』にしすぎですって。全部一度に確認できないのに」
「午後もこのペースだったら、こっちで優先度振り直そうか。最優先は製造と出荷。会計系は締め日がまだ先だから基本後回しで」
「それ大・賛・成です」

 そうだ、と、倫花ちゃんは思い出したようにカフェラテが入ったカップをテーブルに置く。そして、持っていたバッグの中から何かを取り出した。

「これ、お土産です」

 目の前に置かれたのは綺麗にラッピングされた箱。

「え、さっきお菓子もらったよ?」

 大型連休明けは、旅行へ行ったメンバーがお土産を配ってくれることが多い。倫花ちゃんもココナッツクッキーのお菓子を配ってくれていた。

「あれは課のメンバー全員向けで、これはいつもお世話になっている先輩にです」

 ラッピングのリボンを解くと、中身は綺麗な小瓶に入ったアロマオイルのセットだった。

「泊まったホテルのスパで使われてたんです。すっごくいい香りで、ブランド名を教えてもらって自分のも買っちゃいました」

 ハーブだろうか、まだパッケージを開けていないのにすでに仄ほのかないい香りがしている。リラックスできそうな癒される香りだ。

「ありがとう!嬉しい、今日帰ったら早速使うよ。旅行は楽しかった?」
「ずっと天気も良くて海もめちゃくちゃ綺麗で最高でしたよ~!もっといたかったなぁ、またすぐにでも行きたいくらいです」
「旅行って楽しいと帰りたくなくなるよね」
「そうそう!そうなんですよー」

 ニコニコと楽しそうに話す倫花ちゃんが、仕事のテンションとは打って変わっていきいきしていて可愛い。自分も楽しい気分をおすそ分けしてもらったような気持ちになる。

「こんないいお土産もらったのに、私からはお返しできるものが無くてごめんね?」
「そんなのいいですよ!…あの、彼氏さんのところへは結局?」
「うん、、行ってない」

 他の女性の影があったことや喧嘩の内容は伏せて、ただ大喧嘩の末に音信不通になったことだけを話した。
 倫花ちゃんは驚いて、信じられないとでもいうように首を振る。

「全然返信来ないんですか?」
「うん、メッセージも既読が付かないんだ。電話も出ないし」
「…先輩、私は彼氏さんには会ったことないですけど、たとえ別れるにしてもそんなやり方するなんて最悪ですよ」

 別れる。
 そうか、私たちは別れたことになるのか――――

 客観的に見ればその通りなのかもしれない。
 けれど、その言葉のインパクトと重さに対して、まだどこか現実ではないような、実感が沸かないのも本当だった。

「先輩って可愛いしモテるんですから、次行きましょう次!」
「やだなぁ、私なんかモテないよ」
「何言ってるんですかー、先輩が2年目で私たちの新人研修にアシスタントで来てくれた時、あの可愛い先輩は誰だ?ってめっちゃ盛り上がったんですから!」

 そんな話は初耳だ。たぶんこんなことになって落ち込んでいると思って、倫花ちゃんなりに励ましてくれているだろうな。

「あはは、ありがと」

 その気持ちだけは、ありがたく受け取っておこう。

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