神戸有馬のあやかし宿と、甘い菓子

来海空々瑠

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離れの住人

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皿の上に残るシュークリームを見つめるその横顔は、どこか憂いを帯びていた。

「けれど、結局その約束も果たせないまま私は先に逝き……お父様やお母様をとても悲しませてしまったわ。いつしかその未練を抱えたまま、私はこの地の呪縛霊になってしまったの。そんなときに出会ったのが、しらたまたちよ」

そう言って小夜は、自分の手の肩や腕に乗る彼らそれぞれに視線をやった。

「この子たちは小さく弱いあやかしで、私の霊力に影響されたのか、私のことが見えるまでに死者に近い存在になってしまった。それを悪く思いつつも、ずっと長い間独りで過ごしてきた私にとって、この子たちと一緒にいる時間が楽しくて……ずっとその事実に目を背けていた。このままではよくないと、心の中ではずっとそう思っていたの。でも、今度は、か弱いこの子たちを置いて消えてしまうことがどうしようもなく不安に思えて、なかなか踏ん切りがつかないままでいた」

小夜はそう言うと、すり寄ってくるしらたまの頭を優しく撫でてやっていた。

「……ある日この離れにこの娘がやってきて、人間が作った料理を食べたからか、この子たちの力が少しずつ戻ってきたことを知ったとき、私はひどく動揺したわ。これまで離れにやってきたあやかしたちを追い出すことはできたけど、この娘は私の嫌がらせにももろともせずに言い返してくる始末だし」

そのときのことを思い出したのか、小夜はふと頬を緩める。

「……でも、そうね。この娘が……あかねがここにいるのなら、もう私がいなくてもこの子たちは大丈夫なのかもしれないわね」

そう言った小夜の横顔は、どこかすっきりとしているようにも見えた。

「ねえ、時景様……だっけ?お願いがあるんだけど」

小夜はしらたまたちを撫でてやりながら、私の方に向き直った。そして、私にひとつ頼みを言いつけた──。
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