君と交わした約束

第8話

　勇人は紗奈の言葉を受け止めながら、深く息をついた。

「篠原……俺、あの時の約束を守れなかった。でもこれからは違う」

　勇人は紗奈の瞳をまっすぐに見つめ、言葉を続けた。
　その言葉に、紗奈は少し驚いた表情を見せた。しかし、彼女は黙って勇人の言葉を待っていた。

「……相川君」

　紗奈は小さな声で呟いた。その声には、これまでの苦しみと寂しさ、そして感謝が込められていた。

「ありがとう……ずっと待ってたんだ。君が思い出してくれることを。自分勝手でごめんね｣

｢まぁとりあえず、これからもよろしくってことで｣

　勇人は、はにかみながらそういった。

　※

　翌日、文化祭が始まった。校内は生徒たちの歓声や笑顔で溢れ、どこもかしこも活気に満ちていた。展示やステージイベントも順調に進み、文化祭は大成功を収めつつあった。

　生徒会の一員として、勇人と紗奈は共に文化祭の運営を支え、忙しく動き回っていたが、二人の間にはどこか穏やかな空気が流れていた。過去の重荷から解放された紗奈は、以前よりも一層明るく、周囲の生徒たちと楽しそうに笑い合っていた。

　文化祭のクライマックスとして、生徒会が企画したステージイベントが始まる頃、紗奈はステージ上に立ち、生徒たちに向けて挨拶をした。彼女の声は明るく、力強かった。

「皆さん、今日は本当にありがとう！ 白華学園の文化祭は、みんなの協力のおかげで大成功です！」

その言葉に、観客席からは大きな拍手が沸き起こった。勇人は舞台袖でその様子を見ながら、心の中で満足感と達成感を味わっていた。

　文化祭が終わり、夕方の空が橙色に染まる中、勇人と紗奈は二人で静かな校庭を歩いていた。

「今日の文化祭、すごく楽しかったね」

紗奈が楽しげに言うと、勇人は軽く頷いた。

「ああ、最高の文化祭だったよ」

二人は何も言わず、しばらくの間、夕日に照らされた校庭を歩き続けた。これまでの二人の関係が、過去の約束から解放され、今この瞬間に繋がっていることを実感しながら。

「これからも、こういう思い出を積み重ねていこう」

　勇人がそう言うと、紗奈は少し照れくさそうに笑いながら、静かに頷いた。

「うん、約束だよ」

　その瞬間、二人は新しい未来への一歩を踏み出した。過去に縛られることなく、これからの時間を共に大切にしていく――そう心に誓いながら。