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中編
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若干のすけべな展開があります。
・・・・・・・・・・
「お義姉様、閨の指南をお願いしたいの」
「閨の?」
…閨の。閨の指南と言えば、
「エロリンティーヌ夫人は?」
貴人の閨事指南家、性の伝道師、エロリンティーヌ夫人。
ノーン不在の二泊三日の合宿で、普段は教えていないということまでみっちりと仕込まれました。知識だけは頭に詰まっています。
予約が取れないことでも有名ですが、義妹の閨指南もしてくださるのでは?
「夫人は愛人と南の地でバカンス中だそうなの」
「まあ」
「今回の愛人は3人ですって」
「まあ」
「それでね、私見てしまったの…」
「何をですか?」
「殿下は今、魅惑の未亡人に夢中なの」
「まあ」
「噂で聞いたのだけど…それはもう…すっっっごい♡らしいって」
「まあ」
「気になって殿下のお部屋をこっそり覗いたのだけど…」
「何やってるんですかね」
「…すっっっごかった♡の」
「まあ~」
ノーンが、ほとんど『まあ』しか言えない私の代わりに言葉を挟んでくれました。いつものように、私にしか聞こえない声で。
「私も殿下に、すっっっごい♡ことをしないと婚姻前に飽きられてしまうわ!」
「まあ~~~」
「お願い、お義姉様は王妃教育で夫人に教わってるのよね?」
「わ、わかりました…そうですね、明後日までに考えておきますね」
「ありがとう、お義姉様!」
ベルは輝くような笑顔で去って行きました。
「…婚前の性行為は許されてるんでしたっけ?」
「いけないということはないのでしょうけれど…王家式の婚姻の義では、問われる流れがあります」
「体裁が悪いんですか」
「よくないと考える方は多いでしょうね…ですから純潔を保ったうえで」
「すっっっごい♡こと、ですか」
「すっっっごい♡こと、ですね」
どんなことか聞いておけばよかったですね。動揺してしまっていました。
「明日も早朝から領地へ行くので明後日にしてもらいましたが…」
「頑張ってくださいね、お嬢さま」
「まあ~」
そうですよね、相談役は私なのですから、私が解決しないといけませんね。無意識のうちにノーンを頼っていました。恥ずかしいです、
翌日。
森の近くの集落には、万が一のために魔物除けを設置しています。土に潜ったり飛べるようになる魔物がいないとは限りませんから。見回りも欠かせません。
その途中で寄ったとある民家で、私は見つけてしまったのです。
壁にかけられた、大きな聖魔獣の角。聞くと数十年以上前に森で見つけたものだそうで、充分に乾燥しています。
ノーンが交渉してくれて、譲ってもらうことができました。
「これで身体をこすると美容にいいと聞いたことがあります」
「へーそうなんですか」
ノーンは男の子ですから、あまりそういうことに興味はないんですね。
実は私もあまりありませんが。王太子の婚約者だった頃は、催物の前など必要があれば専門のメイドに全て任せていました。急場しのぎでも文句ひとつ言わず仕上げてくれた彼女たちにはどれだけお礼を言っても足りません。
私は大きな角を抱え…途中からノーンが持ってくれて、王宮の離れに戻りました。
「これを…このくらいで、こう」
私は切断の術で、魔獣の角を大まかに切り出しました。
鋭い魔力の刃は、粉ひとつ落としません。掃除の手間も省けます。
ノーンは少し離れた場所で見守ってくれています。
ひとりで何とかするつもりでしたが、やはり―――
「ノーン、陰茎を見せてください」
「んぶっ」
「実物は見たことがありませんから…お願いします」
肌に優しい聖魔獣の角で、私は男性器を模したものを作り、悩める義妹に夫人から継いだ性技を伝えようと思ったのです。
夫人の授業では、このような道具などは使っていませんでした。
しかし、夫人の手の、指の、唇の、舌の…その先にはそそり立つ陰茎が、睾丸の重みが、この目に見えました。誰か…夫人の愛する殿方でしょうか…の男性器が、そこに確かに存在していたのです。
ですが、今となっては幻です。私にはとてもあの絶技を再現できないので、模型を用います。せっかくよい材料を得たことですし、やはり最上を目指したいのです。欲が出てしまったのです。
男性器の形は、夫人の持ち込みの教本にあった平面のものを思い出すことしかできません。
「適当でいいんじゃないですか…」
「嫌です、最善を尽くしたいのです、十全にしたいのです、世界一の教材を作りたいのです」
「お嬢さまの完璧主義で頑固なとこが出た…」
ノーンが、指で宙に円筒のようなものを描きました。
何と言われようとそんなのはお断り一択です。
がくりと項垂れてしまったノーンに私は縋ります。
「こんなこと、あなたにしか頼めません……けれど、どうしても嫌なのでしたら、どなたかに…」
「そりゃあ…そうでしょう…それはやめてください、わかりました」
「…ありがとうございます!ノーン大好き!」
はっ、つい昔の口癖が出てしまいました。
いけません。
「…では、勃起させてください、お嬢さま」
「えっ…」
「させなくていいんですか?」
「いえ、させたいです…手と口と胸と脚とあと…どれがいいか迷いまして」
「ごふっ」
「まずは手にしましょう、適宜口も用いて。いいですかノーン」
「お好きにしてください…」
『―――これは愛する殿方の分身、いわばちいさな殿方です。同じように愛しなさい』
はい、夫人。
愛の形はたくさんありすぎて私にはよくわかりませんが、ノーンのことは大好きです。
ちいさいノーンのこともきっと、大好きになるでしょう。
ノーンが下衣を下ろしてくれたので、現れたものにそっと指を…
「…少し待っていてください」
「このままでですか」
「すぐ戻ります」
私は部屋に置いてある手桶の水を魔法で温水にして手を洗い、水差しの水で口をゆすぎました。
「お待たせしました、ノーン」
「はあ」
…添えました。
まあ、実物はこんな触感なのですね。ふんわりと温かいです。
色合いは…個人差もあるのでしょうか。独特です。
知識が上書きされていくことに胸が沸き立つのを感じています。
曲げたり引っ張ってみたい衝動を抑えつつ、夫人の優雅にも見える手つきを思い出します。ノーンに寄り添い、時折見上げて表情を伺いながら。
ノーンが吐息交じりに言いました。
「…久しぶりに聞きました。『ノーン大好き』…って」
そうですね、本当に久しぶりでした。
「あらごめんなさい、痛かったでしょうか?」
「いえ、続けてください」
ノーンが一瞬眉を寄せたので加減を誤ったかと思いましたが、問題なかったでしょうか。
「ごめんなさいね」
顔を隠すようにノーンの胸元に頭を預け、私は手指を動かすことに集中しました。
緩く握って、手首を使って動かしました。くびれた部分や段差の縁を親指の腹でひっかけるようにゆっくりと刺激していると、もどかしそうに腰が揺れました。
「もっと強くしてもいいでしょうか?」
「……っ、はい」
私にあるのは知識だけなので、反応していることに安心します。
腰を落として膝立ちになり、形を変えたノーンの陰茎を観察しながら力を加えて扱くと、更に大きくなりました。
もう片方の指を添え、両手の指を組んで根元から先端まで動かしていると、更に…
これでいきましょう。私は息がかかる程近くにある、目の前のちいさい(大きい)ノーンを色々な角度から眺め、脳裏に焼きつけました。
「ありがとう、ノーン」
「…はあ」
「しばらく待っていてくださいね」
「このままでですか~」
「なるべく早く終わらせます」
切り出しておいた聖魔獣の角を包んでいた目の細かい布を床に広げ、その上で私は作業を始めました。
貴重な素材が、ふわりと手元近くまで浮かび上ります。
ノーンのものを細部まで思い描き、時折本物を見ながら、魔力を操ります。
少しずつ角を落とし、魔力を小刀のようにして削り…強く、時に緩め、細かく、丁寧に。
実際に手指を使う編み物などは不得手ですが、想像で補えるこういう作業は大丈夫です。
魔法を使い分け、細かい部分を整え、磨き…
――完成しました…!
削って出た粉や欠片を敷いていた布で包んで、片付けも終了です。
大きい欠片がいくつもあるので、身体をこするものも作りましょうか。後で美容に詳しいメイドに聞きに行きましょう。
あまり本物に近いとノーンが恥ずかしがるかと思って、
「この、ここの出っ張りの角度やこの、裏側の筋の太さなどはやや控えめにしました。反りも」
「はあ」
「逆に、わかりやすさを重視して頭の部分は若干大きめに…先端のこの、ここはくぼみのみにしました。道を作るかは迷いましたが、水洗いをして乾かないといけないので。血管もほんの少しずつ線を変えているのですよ、いえ、これは遊びのようなものですが。陰毛を再現するのは難しかったので…無毛だということにして妥協しましたが、結果的にはその方が全体的に美しいと思うのです。それもあり睾丸は敢えて左右対称にしてみました。刺激の仕方が口頭で伝わり辛いようなら改めて柔らかい素材を探そうと思います。尿道は特殊な行為になりますしおすすめはしかねますが必要ならこちらも別に用意を…どこまですっっっごい♡ことをしていたのか聞いておけばよかったですね。あっほら見てくださいこの照りと艶、丁寧に磨きました。角の質がいいので、お手入れも容易ですよ。潤滑油を使っても恐らく大丈夫です。持ってみてもそれほど冷たく感じませんし、硬いのですがどことなく柔らかいような…不思議な材質です」
こだわった点を自賛を交えて伝えましたが、ノーンと目が合いません。
目線を下げると、ちいさなノーンは何事もなかったかのようにしまわれていました。
あ…せっかくですから、平常時のものも欲しいですね…
気がつくと全身が暑いほどに温かく、魔法で冷気を発生させようかと思いノーンに聞いてみました。
「…暑いです…ノーンは? 部屋の温度を下げましょうか?」
「粉を吸ったからですよ」
「…粉?」
「この性魔獣の角は、媚薬の原料になるんです」
「媚薬……聖魔獣の角が? …美容にいい、としか…」
「美容にいいというのは…肌をこするだけでも血の流れはよくなるでしょうが、性魔獣の角の媚薬成分で気分が高揚し、なんやかんやで美しくなるという仕組みではないかと」
「まあ…詳しいんですね、ノーン…」
なんやかんや、とは…
愛のある性交をすると女性は美しくなるというあれでしょうか、夫人…
「粉にしただけの状態なら、誰彼構わず欲情するというものではありません」
「どういうこと、ですか…」
「身体を許していいと思う相手にしか欲情しません」
まあ…そんな都合のいい話が…いえ、悪い話なのでしょうか?…わかりません…
「この角の主である性魔獣は、繁殖期には雌を取り合う雄同士が角をぶつけあって戦います。その時削れた粉が舞い、それを吸った雌は繁殖の相手として相応しいか判断するんです」
「まあ…」
何でも知っている有能な従者の彼が言うのですからきっと、そうなのでしょう…
先程からなんだかくらくらして、あらぬ所が疼くのはそのためでしたか…
何年も前、「ノーン大好き」と言ったのを殿下に聞かれていて、後でぶたれ…そうになりましたが、避けたので殿下が転んでしまいました。たまたまそこにいた国王陛下の古くからの侍従が取りなしてくれて、本当に助かりました。恩人の彼には、この場は幼い故の発言だと見逃すが王太子の婚約者だという自覚を持つようにと窘められ…
…そのつもりでいました。
なのに私は、心の底ではノーンとそんな関係になりたいと思っていたのでしょうか…そんな、一体いつから…?
「あの男のこと、好きでしたか?」
「好き? ………努力は…でも、…わかりません…」
「婚約を破棄されても、何とも思わなかったでしょう?」
「そう…ですね……そう、可愛くないので…」
「あなたのことを可愛いと思えない男なんて、捨て置いてよかったんですよ」
「……ノーン?」
「すべてが終わってからでいいと思っていましたが、あなたを愛さない男に生を捧げることにならなくて本当によかった」
「な…に、ん……」
ノーンに抱き寄せられ、口づけられました。
ちゅ、ちゅ、と音を立てて、何度も唇を啄みます。
それだけで、身体の力が抜けてしまいそうです。
私は彼にしがみつくだけで精いっぱいになってしまいました。
小鳥のような口づけから解放されたと思ったら抱きしめられ、思いもよらなかったことを囁かれました。
「可愛いです、お嬢さま…」
「……え…?」
心の奥で、何かが動いた、ような…
ぼうっとする頭で、一生懸命考えました。
「私はもう…殿下の婚約者ではありません…」
「そうですよ」
「彼の方に操を立てる必要は…ありませんよね?」
「当然です」
「誰を好きでも…許されますよ…ね…?」
「もちろんですよ」
「好き、大好きです、ノーン…」
「俺もです、お嬢さま。愛しています、心から」
「…………本当、に…?」
『―――いいのですよ、…そこに愛があるのなら、心のままに振る舞いなさい』
夫人の声が、聞こえたような気がしました…
「私、他の誰かの何かではなく、ノーンのリーザレーナになりたいです…」
なんとまあ、回りくどいことを…
けれど、ノーンは今までに見たことのない笑みを浮かべ、従者としてではなく寝所に入ることをお許しくださいと言って私を抱き上げました。
ベッドの上に優しく下ろされ、いつものようにドレスを…ノーンは複雑なドレスも手際よく着せてくれますし当然脱がしてもくれています…でも、下着までさげられるのは初めてです。
恥ずかしい、けれど、これから先のほうが気になって落ち着きません。
ベッドの真ん中で座り込んでそわそわとする私に、裸になったノーンは、
「嫌になったらその時点で言ってください、約束ですよ」
そんなことを言いながら、目の前に腰を下ろし、私を引き寄せてその上に跨るように座らせました。
「あなたこそ…ん、ん…」
今度は、頭が痺れてしまうような、深い口づけでした。
口の中を彼の舌が這うだけでも腰が揺れて、夢中で舌を絡ませ合っていると私の女の部分がわななくのを感じました。
唇が離れて寂しさを感じる間もなく、耳たぶの形を辿るように舌を這わされ、ゆるく噛まれ、そのたびに勝手に身体が跳ねてしまいます。反対の耳は手で、髪の毛や首筋まで優しく撫でられて、どちらで感じているのかわからなくなってしまいます。
片方の手のひらで太腿をねっとりと撫でられ、もう片方の手のひらで胸を掬い上げるようにしながら乳頭の先端を指や爪で弄られ続けて、とうとう嬌声が止まらなくなってしまいました。
「あ、あ…あっ、んっ、あ、」
私は少し腰を引いて、何度も溢れるのを感じていた場所に指で触れました。
思っていた通り、いえ、それよりも、信じられない程に濡れていました。
そのまま、いいと思ったところを指で刺激していると、
「…自分で触ってるんですか」
「が、がまんできなくて…足りないの、ここに」
ばれてしまいました。ノーンの陰茎に手が当たっていたので、当然ですね。
見下ろしたそれは、完全に上を向いていて、くぼみには雫を浮かべていました。
私は、腰を動かして濡れた秘所をこすりつけました。
「あ、…ぅ、あ…っ」
「ん、んっ、ノーン…」
ノーンが可愛らしく声を上げ、私はなんだか嬉しくなってしまい、自分でもいい場所を見つけながら夢中で快楽を貪りました。
「あ、あ、だめ、敏感になって、ああ、」
「…っ、リー…」
「あ、だめ、―――っ」
私はとうとう、絶頂を迎えてしまいました。
びくびくと跳ねる体をノーンに抱きしめられて、顔中に柔らかく口づけられました。
「は、はあっ、わ、わたし、私、だけ」
「…媚薬の効果が切れるまで、何度でも達してください」
少し腰を浮かせて、ノーンのものを握りとろりと蜜を滴らせる入口に導こうとしたら、やんわりと抑えられてしまいました。
「……入れては、くれないの?」
ノーンは困ったような顔をして、目を伏せました。
媚薬に支配された私を、鎮めてくれるだけだったのですか…?
媚薬を使ってかりそめの愛を得るなんて、許されない行為だったのでしょうか…
「愛してると言ってくれたのは、嘘だったのですか…?」
「まさか!嘘偽りない本心です」
「なら、ください、王家式の婚姻はしません、誰かに知られたって構いません…違います、そんなことじゃない、私があなたを欲しいの、ノーン大好き、大好きだから……あ、…っ」
片手で腰を支えられ、もう片方の手はノーンのものを掴んだままの私の手の上に添えられ、ぬるりとした感触にそのまま腰を落とすと、私のいちばん深いところまで―――
「あ、あ、う、……っ」
「…っ、…大丈夫です、か」
―――私は、寝台の上に足を投げ出して座るノーンに跨り、彼と繋がっています。
ノーンは私を気遣ってか、荒い息を吐くだけで、動こうとしません。
「あなたこそ、大丈夫ですか…? 苦しそうです…」
「……じ…自分の中の獣と、戦っています…」
「まあ…ふふ、いいんですよ…心のままに動いて」
そういえば、『男なんて皆野獣だ』と、いつかお父様が仰いましたね…
首筋に軽く歯を立てられて、私はノーンの頭を少し荒っぽく撫でました。
「ふ、ふふっ、好き、好きです、ノーン」
「……っ、う、」
「あ、っ…」
尻を掴まれて押しつけられて、太腿で挟んでいるノーンの腰が震え、内に脈動を感じました。
肩に置いていた手を首に回して抱きついて密着すると、押しつけるような動きにまだ過敏なままの女性器が刺激されてしまいます。
「…んっ」
強い快感に背を反らせた隙に、乳頭を咥えられました。吸われて、厚い舌で舐めまわされて、さらに高められていきます。
腰を挟むように脚を絡めると、口づけられました。
あらためて首に腕を回すと、背中と腰に手のひらを添えられて持ち上げられ、そっと寝台に沈められました。
心地よい重みと体温を感じて、思わずため息が出てしまいました。
何気なく彼の髪の毛や背を撫でていると、触れ合っている唇が時折笑みの形になるのがわかります。
「ん……ふ…っ、ん、ん」
舌を絡められ、ノーンの腰の動きが変わりました。
「ふあ、あ、ん、んん」
「は…っ、…もういちど、いいですか、…っ」
「…はい、…あ、っ、………?」
火花が散るような絶頂感ではありませんでしたが、ふわふわと心地よく揺蕩うような感覚がしばらく続き、私はそれに身を任せました。
「いざとなると、何もできませんでした…」
要所要所で、夫人の技を繰り出す機会はあったはずなのに。挿入中だって、腰の動かし方とか、締め方とか…
「あなたが愛しいという気持ちで頭がいっぱいになってしまったの…これから先、私に余裕ができたら色々なことをさせてくださいね」
「はあ…ふっ、そうですね、期待しています」
「ええ、お任せあれ」
抱きしめられて、こんな風に抱き合う時だって何か…いえ、今はただ、瞼を閉じて、大好きなノーンの温もりを感じたいと思いました。
―――翌日。ベルとの約束の日です。
夕食後、私は人払いを済ませた義妹の部屋を訪れました。
そして、意気揚々とベルに自慢の教材を見せ、ノーンにも言ったようにどこを使う方法から教えましょうかと聞くと、
「え…お義姉様…何それ…えぇ…そんなこと……怖…」
鼻白んだような表情で言われてしまいました。明らかに引いています。えっ…怖いって言いましたか?聞き違いですよね?
ベルが昨日王宮での昼食の席で、件の魅惑の未亡人について問うと、陛下は『彼女は都合のつかないエロリンティーヌ夫人の代わりに友人の紹介で雇い入れた閨事の指南役で人目のある所でも身体を寄せてくるが無下にも出来ず少々困惑していた男の欲を解消させて欲しいと乞われたが決してやましい感情など無い決して無い気になるなら即刻解雇して男性の指南役を探す』といったようなことを長々と語ってくださったそうです。
「殿下の誠実さを感じたわ…」
ベルは頬を染めています。可愛いです。
私は『まあ』としか言えませんでしたが、ノーンは言うまでもなく私にしか聞こえない声で、『最初から指南役って言えばよかったんじゃないですかね』『満更でもなかったんじゃないですかねえ』『重ねて否定するところが怪しいですね』『食事の席での話題ですかねえ』などと呟いています。女性に恥をかかせるわけにはいきませんし、閨事の指南役でしたら自慰の補助などもおこなうかもしれません。王宮の使用人ですから他言などしないでしょう。すっっっごい♡という噂とやらの出所はわかりませんが。
ちなみに、魅惑の未亡人は手で扱くだけだったそうです。ものの数分だったそうなので、それだけと見せかけて卓越した技巧なのでしょう。
何か言いたげなノーンも、技術力に感服していたのでしょうね。
「私もあんな、すっっっごい♡ことをできるようになりたいとは思ったけれど…」
「ねえベル、結局のところ、あなたの閨事の指南役はどうするのですか?」
私、教えられますよ。きっとその魅惑の未亡人に劣らない、夫人の技を伝授します。私を頼ってもらえたら嬉しいです。ほら、教材もありますよ。
「ね…閨に関しては、殿下にお任せしようと思うわ…私には初夜まで真っ白のままでいて欲しいそうだから」
「まあ」
「え、それ、使用人もいる食事中での発言ですか」
「私も、殿下色に染められたいわ…きゃっ」
「そう…あなもがもが」
うっとりとその日を夢見る義妹への、『あなたたちの初夜の床に侍り補佐をするつもりがあった』という言葉は、ノーンに口を塞がれずるずると引きずられて部屋に戻ったので、伝えられることはありませんでした。
見送るベルは「本当に仲がいいのね」と苦笑していました。
何の役にも立てなかったのが悲しくてしょんぼりする私を、ノーンが私のいいところを挙げて慰めてくれました。身に覚えのないことばかりで、彼には私がそんな風に見えているのかと不思議に思いました。
・・・・・・・・・・
お読みいただきありがとうございました。
後編は設定のようなものなので、飛ばしても大丈夫です。
閨事指南大好き!媚薬大好き!
・・・・・・・・・・
「お義姉様、閨の指南をお願いしたいの」
「閨の?」
…閨の。閨の指南と言えば、
「エロリンティーヌ夫人は?」
貴人の閨事指南家、性の伝道師、エロリンティーヌ夫人。
ノーン不在の二泊三日の合宿で、普段は教えていないということまでみっちりと仕込まれました。知識だけは頭に詰まっています。
予約が取れないことでも有名ですが、義妹の閨指南もしてくださるのでは?
「夫人は愛人と南の地でバカンス中だそうなの」
「まあ」
「今回の愛人は3人ですって」
「まあ」
「それでね、私見てしまったの…」
「何をですか?」
「殿下は今、魅惑の未亡人に夢中なの」
「まあ」
「噂で聞いたのだけど…それはもう…すっっっごい♡らしいって」
「まあ」
「気になって殿下のお部屋をこっそり覗いたのだけど…」
「何やってるんですかね」
「…すっっっごかった♡の」
「まあ~」
ノーンが、ほとんど『まあ』しか言えない私の代わりに言葉を挟んでくれました。いつものように、私にしか聞こえない声で。
「私も殿下に、すっっっごい♡ことをしないと婚姻前に飽きられてしまうわ!」
「まあ~~~」
「お願い、お義姉様は王妃教育で夫人に教わってるのよね?」
「わ、わかりました…そうですね、明後日までに考えておきますね」
「ありがとう、お義姉様!」
ベルは輝くような笑顔で去って行きました。
「…婚前の性行為は許されてるんでしたっけ?」
「いけないということはないのでしょうけれど…王家式の婚姻の義では、問われる流れがあります」
「体裁が悪いんですか」
「よくないと考える方は多いでしょうね…ですから純潔を保ったうえで」
「すっっっごい♡こと、ですか」
「すっっっごい♡こと、ですね」
どんなことか聞いておけばよかったですね。動揺してしまっていました。
「明日も早朝から領地へ行くので明後日にしてもらいましたが…」
「頑張ってくださいね、お嬢さま」
「まあ~」
そうですよね、相談役は私なのですから、私が解決しないといけませんね。無意識のうちにノーンを頼っていました。恥ずかしいです、
翌日。
森の近くの集落には、万が一のために魔物除けを設置しています。土に潜ったり飛べるようになる魔物がいないとは限りませんから。見回りも欠かせません。
その途中で寄ったとある民家で、私は見つけてしまったのです。
壁にかけられた、大きな聖魔獣の角。聞くと数十年以上前に森で見つけたものだそうで、充分に乾燥しています。
ノーンが交渉してくれて、譲ってもらうことができました。
「これで身体をこすると美容にいいと聞いたことがあります」
「へーそうなんですか」
ノーンは男の子ですから、あまりそういうことに興味はないんですね。
実は私もあまりありませんが。王太子の婚約者だった頃は、催物の前など必要があれば専門のメイドに全て任せていました。急場しのぎでも文句ひとつ言わず仕上げてくれた彼女たちにはどれだけお礼を言っても足りません。
私は大きな角を抱え…途中からノーンが持ってくれて、王宮の離れに戻りました。
「これを…このくらいで、こう」
私は切断の術で、魔獣の角を大まかに切り出しました。
鋭い魔力の刃は、粉ひとつ落としません。掃除の手間も省けます。
ノーンは少し離れた場所で見守ってくれています。
ひとりで何とかするつもりでしたが、やはり―――
「ノーン、陰茎を見せてください」
「んぶっ」
「実物は見たことがありませんから…お願いします」
肌に優しい聖魔獣の角で、私は男性器を模したものを作り、悩める義妹に夫人から継いだ性技を伝えようと思ったのです。
夫人の授業では、このような道具などは使っていませんでした。
しかし、夫人の手の、指の、唇の、舌の…その先にはそそり立つ陰茎が、睾丸の重みが、この目に見えました。誰か…夫人の愛する殿方でしょうか…の男性器が、そこに確かに存在していたのです。
ですが、今となっては幻です。私にはとてもあの絶技を再現できないので、模型を用います。せっかくよい材料を得たことですし、やはり最上を目指したいのです。欲が出てしまったのです。
男性器の形は、夫人の持ち込みの教本にあった平面のものを思い出すことしかできません。
「適当でいいんじゃないですか…」
「嫌です、最善を尽くしたいのです、十全にしたいのです、世界一の教材を作りたいのです」
「お嬢さまの完璧主義で頑固なとこが出た…」
ノーンが、指で宙に円筒のようなものを描きました。
何と言われようとそんなのはお断り一択です。
がくりと項垂れてしまったノーンに私は縋ります。
「こんなこと、あなたにしか頼めません……けれど、どうしても嫌なのでしたら、どなたかに…」
「そりゃあ…そうでしょう…それはやめてください、わかりました」
「…ありがとうございます!ノーン大好き!」
はっ、つい昔の口癖が出てしまいました。
いけません。
「…では、勃起させてください、お嬢さま」
「えっ…」
「させなくていいんですか?」
「いえ、させたいです…手と口と胸と脚とあと…どれがいいか迷いまして」
「ごふっ」
「まずは手にしましょう、適宜口も用いて。いいですかノーン」
「お好きにしてください…」
『―――これは愛する殿方の分身、いわばちいさな殿方です。同じように愛しなさい』
はい、夫人。
愛の形はたくさんありすぎて私にはよくわかりませんが、ノーンのことは大好きです。
ちいさいノーンのこともきっと、大好きになるでしょう。
ノーンが下衣を下ろしてくれたので、現れたものにそっと指を…
「…少し待っていてください」
「このままでですか」
「すぐ戻ります」
私は部屋に置いてある手桶の水を魔法で温水にして手を洗い、水差しの水で口をゆすぎました。
「お待たせしました、ノーン」
「はあ」
…添えました。
まあ、実物はこんな触感なのですね。ふんわりと温かいです。
色合いは…個人差もあるのでしょうか。独特です。
知識が上書きされていくことに胸が沸き立つのを感じています。
曲げたり引っ張ってみたい衝動を抑えつつ、夫人の優雅にも見える手つきを思い出します。ノーンに寄り添い、時折見上げて表情を伺いながら。
ノーンが吐息交じりに言いました。
「…久しぶりに聞きました。『ノーン大好き』…って」
そうですね、本当に久しぶりでした。
「あらごめんなさい、痛かったでしょうか?」
「いえ、続けてください」
ノーンが一瞬眉を寄せたので加減を誤ったかと思いましたが、問題なかったでしょうか。
「ごめんなさいね」
顔を隠すようにノーンの胸元に頭を預け、私は手指を動かすことに集中しました。
緩く握って、手首を使って動かしました。くびれた部分や段差の縁を親指の腹でひっかけるようにゆっくりと刺激していると、もどかしそうに腰が揺れました。
「もっと強くしてもいいでしょうか?」
「……っ、はい」
私にあるのは知識だけなので、反応していることに安心します。
腰を落として膝立ちになり、形を変えたノーンの陰茎を観察しながら力を加えて扱くと、更に大きくなりました。
もう片方の指を添え、両手の指を組んで根元から先端まで動かしていると、更に…
これでいきましょう。私は息がかかる程近くにある、目の前のちいさい(大きい)ノーンを色々な角度から眺め、脳裏に焼きつけました。
「ありがとう、ノーン」
「…はあ」
「しばらく待っていてくださいね」
「このままでですか~」
「なるべく早く終わらせます」
切り出しておいた聖魔獣の角を包んでいた目の細かい布を床に広げ、その上で私は作業を始めました。
貴重な素材が、ふわりと手元近くまで浮かび上ります。
ノーンのものを細部まで思い描き、時折本物を見ながら、魔力を操ります。
少しずつ角を落とし、魔力を小刀のようにして削り…強く、時に緩め、細かく、丁寧に。
実際に手指を使う編み物などは不得手ですが、想像で補えるこういう作業は大丈夫です。
魔法を使い分け、細かい部分を整え、磨き…
――完成しました…!
削って出た粉や欠片を敷いていた布で包んで、片付けも終了です。
大きい欠片がいくつもあるので、身体をこするものも作りましょうか。後で美容に詳しいメイドに聞きに行きましょう。
あまり本物に近いとノーンが恥ずかしがるかと思って、
「この、ここの出っ張りの角度やこの、裏側の筋の太さなどはやや控えめにしました。反りも」
「はあ」
「逆に、わかりやすさを重視して頭の部分は若干大きめに…先端のこの、ここはくぼみのみにしました。道を作るかは迷いましたが、水洗いをして乾かないといけないので。血管もほんの少しずつ線を変えているのですよ、いえ、これは遊びのようなものですが。陰毛を再現するのは難しかったので…無毛だということにして妥協しましたが、結果的にはその方が全体的に美しいと思うのです。それもあり睾丸は敢えて左右対称にしてみました。刺激の仕方が口頭で伝わり辛いようなら改めて柔らかい素材を探そうと思います。尿道は特殊な行為になりますしおすすめはしかねますが必要ならこちらも別に用意を…どこまですっっっごい♡ことをしていたのか聞いておけばよかったですね。あっほら見てくださいこの照りと艶、丁寧に磨きました。角の質がいいので、お手入れも容易ですよ。潤滑油を使っても恐らく大丈夫です。持ってみてもそれほど冷たく感じませんし、硬いのですがどことなく柔らかいような…不思議な材質です」
こだわった点を自賛を交えて伝えましたが、ノーンと目が合いません。
目線を下げると、ちいさなノーンは何事もなかったかのようにしまわれていました。
あ…せっかくですから、平常時のものも欲しいですね…
気がつくと全身が暑いほどに温かく、魔法で冷気を発生させようかと思いノーンに聞いてみました。
「…暑いです…ノーンは? 部屋の温度を下げましょうか?」
「粉を吸ったからですよ」
「…粉?」
「この性魔獣の角は、媚薬の原料になるんです」
「媚薬……聖魔獣の角が? …美容にいい、としか…」
「美容にいいというのは…肌をこするだけでも血の流れはよくなるでしょうが、性魔獣の角の媚薬成分で気分が高揚し、なんやかんやで美しくなるという仕組みではないかと」
「まあ…詳しいんですね、ノーン…」
なんやかんや、とは…
愛のある性交をすると女性は美しくなるというあれでしょうか、夫人…
「粉にしただけの状態なら、誰彼構わず欲情するというものではありません」
「どういうこと、ですか…」
「身体を許していいと思う相手にしか欲情しません」
まあ…そんな都合のいい話が…いえ、悪い話なのでしょうか?…わかりません…
「この角の主である性魔獣は、繁殖期には雌を取り合う雄同士が角をぶつけあって戦います。その時削れた粉が舞い、それを吸った雌は繁殖の相手として相応しいか判断するんです」
「まあ…」
何でも知っている有能な従者の彼が言うのですからきっと、そうなのでしょう…
先程からなんだかくらくらして、あらぬ所が疼くのはそのためでしたか…
何年も前、「ノーン大好き」と言ったのを殿下に聞かれていて、後でぶたれ…そうになりましたが、避けたので殿下が転んでしまいました。たまたまそこにいた国王陛下の古くからの侍従が取りなしてくれて、本当に助かりました。恩人の彼には、この場は幼い故の発言だと見逃すが王太子の婚約者だという自覚を持つようにと窘められ…
…そのつもりでいました。
なのに私は、心の底ではノーンとそんな関係になりたいと思っていたのでしょうか…そんな、一体いつから…?
「あの男のこと、好きでしたか?」
「好き? ………努力は…でも、…わかりません…」
「婚約を破棄されても、何とも思わなかったでしょう?」
「そう…ですね……そう、可愛くないので…」
「あなたのことを可愛いと思えない男なんて、捨て置いてよかったんですよ」
「……ノーン?」
「すべてが終わってからでいいと思っていましたが、あなたを愛さない男に生を捧げることにならなくて本当によかった」
「な…に、ん……」
ノーンに抱き寄せられ、口づけられました。
ちゅ、ちゅ、と音を立てて、何度も唇を啄みます。
それだけで、身体の力が抜けてしまいそうです。
私は彼にしがみつくだけで精いっぱいになってしまいました。
小鳥のような口づけから解放されたと思ったら抱きしめられ、思いもよらなかったことを囁かれました。
「可愛いです、お嬢さま…」
「……え…?」
心の奥で、何かが動いた、ような…
ぼうっとする頭で、一生懸命考えました。
「私はもう…殿下の婚約者ではありません…」
「そうですよ」
「彼の方に操を立てる必要は…ありませんよね?」
「当然です」
「誰を好きでも…許されますよ…ね…?」
「もちろんですよ」
「好き、大好きです、ノーン…」
「俺もです、お嬢さま。愛しています、心から」
「…………本当、に…?」
『―――いいのですよ、…そこに愛があるのなら、心のままに振る舞いなさい』
夫人の声が、聞こえたような気がしました…
「私、他の誰かの何かではなく、ノーンのリーザレーナになりたいです…」
なんとまあ、回りくどいことを…
けれど、ノーンは今までに見たことのない笑みを浮かべ、従者としてではなく寝所に入ることをお許しくださいと言って私を抱き上げました。
ベッドの上に優しく下ろされ、いつものようにドレスを…ノーンは複雑なドレスも手際よく着せてくれますし当然脱がしてもくれています…でも、下着までさげられるのは初めてです。
恥ずかしい、けれど、これから先のほうが気になって落ち着きません。
ベッドの真ん中で座り込んでそわそわとする私に、裸になったノーンは、
「嫌になったらその時点で言ってください、約束ですよ」
そんなことを言いながら、目の前に腰を下ろし、私を引き寄せてその上に跨るように座らせました。
「あなたこそ…ん、ん…」
今度は、頭が痺れてしまうような、深い口づけでした。
口の中を彼の舌が這うだけでも腰が揺れて、夢中で舌を絡ませ合っていると私の女の部分がわななくのを感じました。
唇が離れて寂しさを感じる間もなく、耳たぶの形を辿るように舌を這わされ、ゆるく噛まれ、そのたびに勝手に身体が跳ねてしまいます。反対の耳は手で、髪の毛や首筋まで優しく撫でられて、どちらで感じているのかわからなくなってしまいます。
片方の手のひらで太腿をねっとりと撫でられ、もう片方の手のひらで胸を掬い上げるようにしながら乳頭の先端を指や爪で弄られ続けて、とうとう嬌声が止まらなくなってしまいました。
「あ、あ…あっ、んっ、あ、」
私は少し腰を引いて、何度も溢れるのを感じていた場所に指で触れました。
思っていた通り、いえ、それよりも、信じられない程に濡れていました。
そのまま、いいと思ったところを指で刺激していると、
「…自分で触ってるんですか」
「が、がまんできなくて…足りないの、ここに」
ばれてしまいました。ノーンの陰茎に手が当たっていたので、当然ですね。
見下ろしたそれは、完全に上を向いていて、くぼみには雫を浮かべていました。
私は、腰を動かして濡れた秘所をこすりつけました。
「あ、…ぅ、あ…っ」
「ん、んっ、ノーン…」
ノーンが可愛らしく声を上げ、私はなんだか嬉しくなってしまい、自分でもいい場所を見つけながら夢中で快楽を貪りました。
「あ、あ、だめ、敏感になって、ああ、」
「…っ、リー…」
「あ、だめ、―――っ」
私はとうとう、絶頂を迎えてしまいました。
びくびくと跳ねる体をノーンに抱きしめられて、顔中に柔らかく口づけられました。
「は、はあっ、わ、わたし、私、だけ」
「…媚薬の効果が切れるまで、何度でも達してください」
少し腰を浮かせて、ノーンのものを握りとろりと蜜を滴らせる入口に導こうとしたら、やんわりと抑えられてしまいました。
「……入れては、くれないの?」
ノーンは困ったような顔をして、目を伏せました。
媚薬に支配された私を、鎮めてくれるだけだったのですか…?
媚薬を使ってかりそめの愛を得るなんて、許されない行為だったのでしょうか…
「愛してると言ってくれたのは、嘘だったのですか…?」
「まさか!嘘偽りない本心です」
「なら、ください、王家式の婚姻はしません、誰かに知られたって構いません…違います、そんなことじゃない、私があなたを欲しいの、ノーン大好き、大好きだから……あ、…っ」
片手で腰を支えられ、もう片方の手はノーンのものを掴んだままの私の手の上に添えられ、ぬるりとした感触にそのまま腰を落とすと、私のいちばん深いところまで―――
「あ、あ、う、……っ」
「…っ、…大丈夫です、か」
―――私は、寝台の上に足を投げ出して座るノーンに跨り、彼と繋がっています。
ノーンは私を気遣ってか、荒い息を吐くだけで、動こうとしません。
「あなたこそ、大丈夫ですか…? 苦しそうです…」
「……じ…自分の中の獣と、戦っています…」
「まあ…ふふ、いいんですよ…心のままに動いて」
そういえば、『男なんて皆野獣だ』と、いつかお父様が仰いましたね…
首筋に軽く歯を立てられて、私はノーンの頭を少し荒っぽく撫でました。
「ふ、ふふっ、好き、好きです、ノーン」
「……っ、う、」
「あ、っ…」
尻を掴まれて押しつけられて、太腿で挟んでいるノーンの腰が震え、内に脈動を感じました。
肩に置いていた手を首に回して抱きついて密着すると、押しつけるような動きにまだ過敏なままの女性器が刺激されてしまいます。
「…んっ」
強い快感に背を反らせた隙に、乳頭を咥えられました。吸われて、厚い舌で舐めまわされて、さらに高められていきます。
腰を挟むように脚を絡めると、口づけられました。
あらためて首に腕を回すと、背中と腰に手のひらを添えられて持ち上げられ、そっと寝台に沈められました。
心地よい重みと体温を感じて、思わずため息が出てしまいました。
何気なく彼の髪の毛や背を撫でていると、触れ合っている唇が時折笑みの形になるのがわかります。
「ん……ふ…っ、ん、ん」
舌を絡められ、ノーンの腰の動きが変わりました。
「ふあ、あ、ん、んん」
「は…っ、…もういちど、いいですか、…っ」
「…はい、…あ、っ、………?」
火花が散るような絶頂感ではありませんでしたが、ふわふわと心地よく揺蕩うような感覚がしばらく続き、私はそれに身を任せました。
「いざとなると、何もできませんでした…」
要所要所で、夫人の技を繰り出す機会はあったはずなのに。挿入中だって、腰の動かし方とか、締め方とか…
「あなたが愛しいという気持ちで頭がいっぱいになってしまったの…これから先、私に余裕ができたら色々なことをさせてくださいね」
「はあ…ふっ、そうですね、期待しています」
「ええ、お任せあれ」
抱きしめられて、こんな風に抱き合う時だって何か…いえ、今はただ、瞼を閉じて、大好きなノーンの温もりを感じたいと思いました。
―――翌日。ベルとの約束の日です。
夕食後、私は人払いを済ませた義妹の部屋を訪れました。
そして、意気揚々とベルに自慢の教材を見せ、ノーンにも言ったようにどこを使う方法から教えましょうかと聞くと、
「え…お義姉様…何それ…えぇ…そんなこと……怖…」
鼻白んだような表情で言われてしまいました。明らかに引いています。えっ…怖いって言いましたか?聞き違いですよね?
ベルが昨日王宮での昼食の席で、件の魅惑の未亡人について問うと、陛下は『彼女は都合のつかないエロリンティーヌ夫人の代わりに友人の紹介で雇い入れた閨事の指南役で人目のある所でも身体を寄せてくるが無下にも出来ず少々困惑していた男の欲を解消させて欲しいと乞われたが決してやましい感情など無い決して無い気になるなら即刻解雇して男性の指南役を探す』といったようなことを長々と語ってくださったそうです。
「殿下の誠実さを感じたわ…」
ベルは頬を染めています。可愛いです。
私は『まあ』としか言えませんでしたが、ノーンは言うまでもなく私にしか聞こえない声で、『最初から指南役って言えばよかったんじゃないですかね』『満更でもなかったんじゃないですかねえ』『重ねて否定するところが怪しいですね』『食事の席での話題ですかねえ』などと呟いています。女性に恥をかかせるわけにはいきませんし、閨事の指南役でしたら自慰の補助などもおこなうかもしれません。王宮の使用人ですから他言などしないでしょう。すっっっごい♡という噂とやらの出所はわかりませんが。
ちなみに、魅惑の未亡人は手で扱くだけだったそうです。ものの数分だったそうなので、それだけと見せかけて卓越した技巧なのでしょう。
何か言いたげなノーンも、技術力に感服していたのでしょうね。
「私もあんな、すっっっごい♡ことをできるようになりたいとは思ったけれど…」
「ねえベル、結局のところ、あなたの閨事の指南役はどうするのですか?」
私、教えられますよ。きっとその魅惑の未亡人に劣らない、夫人の技を伝授します。私を頼ってもらえたら嬉しいです。ほら、教材もありますよ。
「ね…閨に関しては、殿下にお任せしようと思うわ…私には初夜まで真っ白のままでいて欲しいそうだから」
「まあ」
「え、それ、使用人もいる食事中での発言ですか」
「私も、殿下色に染められたいわ…きゃっ」
「そう…あなもがもが」
うっとりとその日を夢見る義妹への、『あなたたちの初夜の床に侍り補佐をするつもりがあった』という言葉は、ノーンに口を塞がれずるずると引きずられて部屋に戻ったので、伝えられることはありませんでした。
見送るベルは「本当に仲がいいのね」と苦笑していました。
何の役にも立てなかったのが悲しくてしょんぼりする私を、ノーンが私のいいところを挙げて慰めてくれました。身に覚えのないことばかりで、彼には私がそんな風に見えているのかと不思議に思いました。
・・・・・・・・・・
お読みいただきありがとうございました。
後編は設定のようなものなので、飛ばしても大丈夫です。
閨事指南大好き!媚薬大好き!
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