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可愛がられる聖女

薬草園の手伝いと友情

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 それから三日後。クララ達は薬草園へと赴いていた。今日は、アリエス一人で薬室作業をして貰っている。多少どころかかなり緊張していたが、アリエスは頑張ると言い、クララ達を見送った。
 そうして、薬草園に来たクララ達をサラすぐに歓迎してくれた。

「いらっしゃい! ほら、こっちこっち!」

 すぐにクララの手を取って、薬草達の方に向かって行く。リリンは、すぐにクララを追わなかった。

「私はオウィスと話してきます。クララさんはお願いします」
「分かりました」

 リリンは、ここで別れて、サーファがクララ達を追っていった。
 クララは、この前よりも様変わりした薬草園を見て少し驚いていた。

「あの苗木は?」
「クララもいずれ使う事になる木だよ」
「ふぅん」

 木という事は、成長に時間が掛かる。そのため、クララに関係するとしても、十年後などだろう。その事をクララも知っているので、その時に教えてもらおうと考えた。
 そんなクララにお構いなしに、サラが次の薬草を指さす。

「それで、あれがバーン草で、その向こうがフェイシ草にアフディ草」
「バーン草って、火傷薬に使う薬草だ。でも、暑い地域でしか育たないんじゃなかったっけ?」
「ん? ああ、ガラスでさらに囲ったところを暑い地域と同じ温度にして育てたからね。今は、こっちの環境でも育てられないか研究中」

 サラはそう言って、端っこの方にある鉢植えを指さす。そこには、草も生えていない土が入っていた。つまり、結果は芳しくないという事だろう。
 さすがに、サラの研究について聞いても、ちゃんと理解出来る自信は、クララにはない。なので、次に気になる話題を出す。

「へぇ~、いつ頃収穫?」
「今日収穫出来るよ。思っていたよりも成長が早かったからね。他にも、さっき言ったフェイシ草とアフディ草も収穫出来るよ」
「じゃあ、収穫の手伝いをするね。あれ? そういえば、アフディ草って毒草じゃなかった?」

 収穫の手伝いを申し出た直後に、クララの頭にアフディ草の知識が過ぎった。薬学書でしっかりと勉強していたから気付けた事だった。

「うん。葉っぱの部分は毒だね。まぁ、使いようによっては、薬にもなるけど、調整が難しいって話だったかな。でも、根の方は毒はないよ。まぁ、ある意味、毒かもだけどね」
「ああ、根は媚薬の原料だっけ。ああいうのって効くの?」
「さぁ? 私も使った事ないから分からないけど」
「さすがに、毒を取り扱う気には、まだなれないけど、根の方は興味があるかな。提供したら売れるかな?」

 自分で使う訳では無く、あくまで売り出す用のものとして作りたいと考えていた。

「う~ん……まぁ、薬屋に卸すなら、ある程度の需要はあると思うよ」
「じゃあ、作ってみよう。どうやって収穫したら良い?」
「バーン草は、赤く色づいている葉っぱを選んで切って。フェイシ草は、緑が濃い葉っぱね。アフディ草は全部使うから丁寧に根っこから引っこ抜いて」
「うん。分かった」

 サラから教えてもらった通りに収穫を始める。その際、サラとマリンウッドであった出来事などを話ながら作業をした。水龍の話を聞くと、カタリナ同様にサラも驚いていた。そして、噴火の件になると、無事と知っているにもかかわらず、サラはハラハラとしていた。

「はぁ……本当に無事で良かったよ。マリンウッドって結構楽しそうだけど、意外と危険も付きまとってるんだね」
「でも、私が遭ったような噴火は、そこまでの頻度ではなさそうだよ? あれが、沢山起きているのなら、もっと慣れたような対応だっただろうし」
「まぁ、それは分かるけどね。クララの話を聞いたら、私も行ってみたくなったなぁ。どこかで休み取って行こうかな」
「あ、私も一緒に行きたい」
「クララが一緒に行くなら、きちんと許可を取らないとね」
「それは、頑張れば大丈夫なはず。今回も噴火以外は、問題無かったし」
「まぁ、行くとしても来年とかかな。しばらくは、薬草園の仕事は外せないし」
「そうなんだ。来年か……」

 魔族領に来て結構経っている。そろそろ来年を意識してもおかしくはないだろう。そして、魔族領での来年と言われても、クララにはあまり想像が出来なかった。

「私って何やってるんだろう?」
「変わらず、薬作って、運動して、勉強して、軍の手伝いをしてるんじゃない? 一度根付いた生活なんて、そうそう変わらないでしょ。いつもみたいに過ごして、時々旅行に行って楽しんでると思うよ」
「そうかな? そうだと良いなぁ」

 そんな調子で収穫を進めていった。特に何も問題無く収穫を終わらせると、いつの間にか土で身体が汚れていた。アフディ草を引っこ抜いた際に汚れたものだった。

「お風呂入らないとかな」
「あ、それなら、ここにもあるよ。シャワーだけど、汚れは落とせるでしょ」
「えっ、あっ……」

 クララは、サラに引っ張られて、見覚えのない扉の中に入っていく。

「クララちゃん達だけで行かせても良かったんですか?」
「ええ、大丈夫でしょう。あそこには、窓もありませんし、出入口はあそこのみのようですから」
「えっ、あそこにシャワーが付いているって、知っていたんですか?」
「カタリナ様から薬草園にシャワーを増設したと聞いていましたから。何でも、様子を見に行った際に、サラに要望はないかと訊いたところ、土汚れが付くからシャワーを付けて欲しいと言われたそうです」
「おぉ……意外と大胆な方なんですね」
「いえ、カタリナ様によれば、ビクビクしながら要望を出したそうですよ。さすがに、そこまで肝が据わっているわけではないようです」
「要望が出せるだけでも、結構据わっていると思いますけど……」

 クララが連れて行かれたシャワーは、サラが勇気を出して要望を出した結果、クララ達がマリンウッドへと旅行に行っている間に、増設されたものだった。そのため、クララに見覚えがないのも仕方ない事だった。因みに、しっかりと男女別で分けられている。
 サラと二人っきりでシャワーに来たクララは、少し焦っていた。魔族領に来てから、自分で自分の身体を洗っていないので、そこだけが心配だった。

「はい。脱いで脱いで」

 服を脱いで下着姿になったサラは、まだ脱いでいなかったクララの服を脱がしていく。そして、その服を干して、叩く事で土を払っていく。

「こんなもんかな。ほら、下着も脱いで」

 裸になったクララの背を押して、沢山シャワーが並ぶ場所に移動する。一応、シャワー毎に仕切りが付いていた。

「そこを捻ったら、温かいお湯が出るから、しっかりと洗い流しな」
「うん」

 言われた通り、ノブを捻って、シャワーを出しお湯を浴びる。

(これくらいなら、私一人でも出来る。こっちに来てから、さすがに甘えすぎかな……でも、やっぱりあの二人だと甘えちゃうんだよね……)

 そんな事を考えていると、隣の仕切りの向こうにいたはずのサラが、クララのところに侵入してきた。

「えい!」
「きゃあっ!?」

 後ろから抱きつかれたクララは、いきなりの事でかなり驚いた。

「クララって、聖女ってだけあって、綺麗な身体だね」
「別に聖女は関係ないと思うけど……」
「じゃあ、いつも綺麗にしてるんだね。誰かに洗って貰っていたりして」

 そう言われて、クララの耳が赤くなる。それをシャワーの温度によるもではないと見抜いたサラは、少し驚く。

「えっ、本当に洗って貰ってるの!? うわぁ……良いなぁ」

 さすがに馬鹿にされるかと思っていたクララは、サラが羨ましがったので、逆に驚いていた。

「私も誰かに洗って貰いたいもん。髪を洗うのとか面倒くさいし」
「じゃあ、切ったら良いんじゃないの?」
「嫌だよ。あの髪型気に入ってるんだから」
「なら、文句言っても仕方ないよ」
「えぇ~、じゃあ、クララが私の髪を洗ってよ」
「いいけど」
「やった」

 サラは、クララの前に立って大人しくなる。そんなサラの髪にクララが手を入れていく。サラの髪は柔らかく少しうねっていた。いつもツインテールにしているため、クララはあまり気にならなかったが、解いた髪を実際に見てみるとかなり長かった。

「そういえば、人の髪を洗った事なんてないんだけど、どうすれば良いの?」
「そこの入れ物から髪用の石鹸を手に出して、自分の頭を洗うようにすれば良いよ」
「なるほど……」

 言われた通りにして、サラの頭を洗っていく。

「あぁ~……気持ちいい……」
「そう? なら良かった」

 サラの頭を洗ってシャワーで流すと、サラがクララの方を振り返った。

「ありがと。じゃあ、今度は私がクララの頭を洗ってあげる」
「え? 髪の毛の方はやらなくていいの?」
「ん? ああ、髪の手入れは、夜にやるから今はいいよ。それよりほら、前に来て」
「うん」

 今度はサラに洗って貰うクララだが、いつもリリンやサーファに洗って貰っているので、気持ち良いのかどうかが分からなくなっていた。だが、二人と違い小さな手でやっているというのは感じていた。

「サラって、手が小さいんだね」
「ん? まぁ、まだ身体が小さいからね。クララも小さいでしょ?」
「まぁ、リリンさん達に比べたら小さいかも」
「ほらね」

 サラに髪を洗って貰ったクララは、まだ自分と一緒のシャワーを使っているサラの身体を見ていた。

「何?」
「ううん。サラの身体って、何か綺麗だなって。何か、整っているって感じ」
「エルフの特徴の一つだしね。身体や顔が整ってるのは」
「そうなの?」
「うん。どちらかというと、私は発育が悪い方だしね。本当は、もう少し胸が成長するはずだし……本当は……」

 サラは、そう言いながら、平らな自分の胸を見て絶望していた。そして、ちらっとクララの身体と自分の身体を見比べていた。

「私も気持ちは分かるよ」
「嘘だよ。私よりはあるくせに」

 自分が負けている事に気付いて、サラは少し拗ねていた。対して、クララはさっきのサラと同じくらいの絶望した表情を見せていた。

「いや、誤差だよ。私なんて、すぐ近くに、もと大きい人がいるんだから」
「あっ」

 サラは、クララの言いたい事が分かった。クララの傍には、サーファという山が存在する。そんな山と比べてしまえば、クララとサラなど、ちょっとした起伏と平野でしかない。そうなれば、クララの誤差という言葉も現実感が出て来る。

「小さい同士で争うなんて醜かったね」
「うん……これからは、支え合っていこう。いずれは、サーファさん越えを夢見て」
「夢と目標は高くないとね」

 クララとサラは、謎の友情に目覚め、硬く握手を交わした。
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