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可愛がられる聖女
嬉しいプレゼント
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クララの部屋に入ってきたのは、マーガレットとユーリーだった。マーガレットは、布が被せられた大きな額を持ち、ユーリーは大きな袋を持っている。
「マーガレットさん、ユーリーさん、どうしたんですか?」
「クララにプレセントを持ってきたの。ユーリーも同じ」
「うん。良い物。サーファにも」
二人が持っていたのは、クララやサーファへのプレゼントだった。まずは、マーガレットからだ。クララに額を渡し、布を取り去る。そこにあったのは、白い服を纏い、神へ祈りを捧げているクララの絵だった。その背中からは、薄く光が差し込んできている。そして、その光に紛れて白い翼のようなものも見えた。
その事から、クララを天使のように見せかけている印象を受ける。そのせいもあってか、その絵からは神聖さも感じる。
「クララさんの可愛さに加えて、聖女の神聖さを感じさせる良い絵ですね」
「うわぁ……良かったね。クララちゃん」
サーファにそう言われて、ぼーっと見ていたクララが、ようやく我に返った。
「凄く嬉しいです。こんな風なプレゼントは貰った事がないので」
「まぁ、絵をプレゼントするっていうのは、あまりないしね。前に薬室で見たクララの姿から、クララの根底にあるのは思いやりと優しさだと思ったの。そこに聖女としての神聖さを加えた作品。作品名は、『聖なる姫の祈り』」
「……私、お姫様じゃないですよ?」
「そこは気にしない。クララの顔立ちは、お姫様みたいって事」
マーガレットは、そう言ってクララの頬を揉む。
「せっかくですから、ベッドの上に飾りましょう」
リリンは自室に戻って釘とハンマーを持ってきた。そして、クララのベッドの上にある壁に釘を打ち付け、マーガレットから貰った絵を飾ろうとする。その前に、マーガレットが止めた。
「ちょっと待って。確か、クララは聖女の魔力で聖別出来るのよね?」
「はい。魔力を込めれば出来るはずです」
「それじゃあ、この絵も聖別してくれる?」
「え、あ、はい」
クララは言われた通り、絵に聖女の魔力を込めていく。ベルフェゴールとの授業のおかげで、魔力の扱いも上達している。クララの魔力を込めていると、絵に変化が訪れる。
クララの後ろに描かれていた白色の光と翼に、金色の細かい光の描写が加わる。それと同時に、薄く描かれていた光と翼が少し濃くなっている。
「えっ、これどうなっているんですか?」
「姉さん……奮発し過ぎ」
突然の変化にクララは戸惑っていたが、どういう事か察したユーリーは、少し呆れていた。
「その絵に使った絵の具は、ちょっと特殊なものでね。魔力に反応して発色が変わるの。この作業は、私でも良いんだけど、やっぱりクララに任せたくてね。ついでに聖別したら、何か特殊な変化があるかなって思ったけど、本当に変化があるとはね。普通だったら、ただ色が濃くなるくらいなのにね」
「じゃあ、この金色の部分は聖別した結果なんですか?」
「多分ね。それか、この絵の具が聖女特有の魔力に反応した結果なのかも。でも、これで完成! それじゃあ、リリン飾ってあげて」
「かしこまりました」
今度こそ、リリンがマーガレットの絵を壁に飾る。クララが聖別したからか
「次は私」
マーガレットの前に出て来たユーリーは、袋からいくつかの服を取り出す。それをサーファに渡す。
「これはサーファ。動きやすさ重視でゆったりとしつつ、普通よりも丈は短くしてる。サーファなら、お腹まで隠れると思う」
「あ、ありがとうございます!」
サーファは嬉しそうに服を受け取る。畳まれている状態の服だが、そこからでも服の可愛さなどが分かる。大事そうに服を抱えるサーファの尻尾は激しく振られていた。
それを見て、ユーリーは満足したように頷くと、次にクララの方を向いた。
「これはクララ」
そう言ってユーリーが取りだしたのは、絢爛豪華な祭服のような服だった。白を基調として、所々に金色の刺繍が施されている。
「これを聖別したら完成」
「これも聖別するんですか!?」
まさかの二つ続けて聖別するとは思っておらず、クララは驚いてユーリーを見る。
「この布は、昔の聖女が使っていたものらしい。お母さんが言ってた」
「!?」
とんでもない情報が出て来て、クララは手に持った服をジッと見る。過去の聖女の物だったとしたら、布が綺麗すぎると思ったのだ。
「汚れ自体を弾く布みたい。どういう原理かはよく分からない。多分、聖女由来の魔力。だから、クララの力で上書きしてほしい」
「あ、はい。でも、そんな貴重な布を使って良かったんですか?」
過去の聖女が着ていた物が魔王城にある事自体には、クララも疑問はなかった。必ず勇者や聖女が勝つとは限らない。その戦利品と考えれば納得出来るからだ。
だが、汚れない布という特性を持っているのであれば、自分用じゃなく、魔族側で有効利用出来たんじゃないかとクララは考えたのだ。
「良い。クララの能力で聖別されているものじゃないから、私達が着るのは危ない。下手すると、怪我になる」
「えっ、じゃあ、ユーリーさんは大丈夫だったんですか?」
そんなものの加工をしたユーリーも同じように危なかったのではと思ったクララは、ユーリーを心配する。そんな心配を受けたユーリーは、一瞬きょとんとしてから、クララの頭を撫でる。
「問題無い。危ないのは、長時間の着用だから。少し手がヒリヒリするくらいで済んだ」
「それは大丈夫では無いのでは!?」
クララは、自分を撫でてくれるユーリーの手のひらを見る。特に問題はないようで、綺麗な手がそこにはあった。クララは、胸をなで下ろす。
「そんな危ないのであれば、すぐに聖別しちゃいますね」
魔族にとって、少し危険なものという事が分かったので、クララは遠慮無しに聖別する。絵と違って、先に聖別がされているからか、クララも聖別に手間取った。それでもかなり過去の物だったからなのか、クララの能力で上書きする事が出来た。
その結果、色の発色が良くなった。
「うん。これで大丈夫。着てみて」
「分かりました」
クララが着替えようとすると、すぐにリリンが手伝い始めた。
「ユーリーも人の事は言えないわね」
「私のは、実質無料」
「何が実質無料なんだか。あれ、家の宝物庫に置かれてたものでしょ?」
「私達には使えないんだから、有効利用しただけ。お母さんも納得した」
「お母さんは、あの子に甘いっていうのがよく分かったわ」
二人がそんな事を話している間に、クララの着替えが終わる。クララのサイズよりも、少しだけ大きく作られているので、ちょっとだけぶかぶかになっている。
「これって、これで正しいんですか?」
ぶかぶかの状態で良いのかと疑問に思ったクララは、ユーリーに訊いた。
「クララの成長を考えて、少し大きく作った。一応、それ以上の大きさにも出来るから、キツくなったら言って」
「あ、そうなんですね。分かりました。ありがとうございます」
クララがお礼を言うと、ユーリーは頷いて返事をする。そして、クララの周りをぐるぐると回って、どこかおかしな点はないか探す。
「違和感は?」
「特にないです。ちょっと動きにくそうな見た目でしたけど、思いのほか動きやすいです」
「それは良かった。私が触っても問題なし。後は、クララ自身の力が増幅されている可能性だけど、それに関して、自覚はある?」
そう問われたクララだったが、特に何も感じないので、首を傾げていた。
「自覚できるほどの上昇はなし。まぁ、想定内」
「ところで、この服っていつ着れば良いんでしょうか?」
クララも、さすがにこの祭服を普段着にしたいとは思わなかった。豪華すぎるというのが一番の理由だ。
「何か重要な日とかに使うと良い。聖女ならそういう服でいる方がらしく見える」
「なるほど……じゃあ、その時まで綺麗に取っておかないとですね」
「普段使いしても良いけど?」
「さ、さすがに、これの普段使いは怖いです」
「多分そう言うと思って、他の服も用意した」
「ユーリーさん……一体いくつの服を作ったんですか?」
サーファの服も合わせると、この短期間で作っているにしては、数が多いとクララは感じていた。
「そんなでもない。裁縫自体は自分の手を使わないでもやることが出来るから」
「手を使わず?」
「ユーリーの天才的な部分の一つよ。このデザインが思いつくってだけでも天才なのに、魔法を使って器用に裁縫道具と布を動かして、片手間で作っているのよ。それで、出来が悪くなるならまだしも、職人とほぼ同じくらいのものが出来上がるから面白く無いの」
マーガレットは肩を竦めながら、そんな事を言う。だが、クララはそれに納得する事は無かった。
(あんな絵を描けるマーガレットさんも十分天才なんじゃ……)
確実に否定されると思い、クアッラは声に出していないが、実際、周囲からの評価ではマーガレットも天才の一人に数えられている。
「そんな事どうでも良いから。こっちの服も着て。ちゃんとクララに合っているか確認したい。今までの服とは違う雰囲気の服にしたから」
「そういえば、黒い服が沢山ある気がします」
クララはどちらかというと明るめの服を着ることが多い。そのため、ユーリーが持ってきた黒の服はあまり着る事はない。それでも持ってきたのは、クララに似合うという風に思ったからだ。黒の上着やワンピースに、祭服にも使われた金色の刺繍が施されている。
「やっぱり黒でも似合う。気分転換したいときは、こっちを着てみて。それと、こっちは運動着にして。動きやすさを重視した服だから」
「はい。ありがとうございます」
ユーリー達が来てから、クララの服は一気に増えた。一ヶ月間毎日違う服を着ても大丈夫なくらいだ。そこに寒暖に備えた服もプラスされる。服がボロボロにならない限りは、買い足さないでも良いだろう。
「さてと、用事も終わったから、私達はここで失礼するよ。三人ともおやすみなさい」
「おやすみ」
「あ、はい! ありがとうございました! おやすみなさい」
「おやすみなさいませ」
「お、おやすみなさいませ」
マーガレットは、三人に手を振りながらユーリーの背を押していった。ユーリーも軽く手を振りながらマーガレットに押されて出ていく。
「それでは、今日は講義をお休みして、私達も寝ましょうか」
「えっ、あ、そうですね。もうそんな時間でした」
マーガレット達が来た事で、講義の時間はなくなってしまった。その事にちょっとショックを受けたクララだったが、そのおかげで良い物が貰えたので、文句は言わない。
「それじゃあ、おやすみ、クララちゃん」
「はい。おやすみなさい」
サーファはそう言って手を振ると、ユーリーから貰った服を抱えて部屋に戻っていった。リリンは、最後に戸締まりの確認をしていく。そんなリリンを見ながら、クララもベッドに入った。そして、リリンから視線を外して天井を見ると、ちょうどマーガレットから貰った絵が見える。自分が描かれているので、多少恥ずかしくはあるのだが、やはり嬉しさの方が勝る。
少しにやにやとしていると、リリンがジッとクララを見ていた。
「嬉しそうですね?」
「はい! こんな素敵な贈り物初めてですから。そうだ。ユーリーさんの作ってくれた服も飾ったりは出来ませんか?」
「そうですね。後日ライナーに相談してみます」
「……ライナーさん、今忙しそうなのに、こんなに色々頼んで大丈夫でしょうか?」
現在ライナーは長距離輸送の研究を進めている。そんなライナーに頼み事をし過ぎではとクララは考えていた。
「大丈夫でしょう。研究開発班は、ライナー一人ではありませんので、実際に作る方は別の方になるかと」
「それなら大丈夫……なんでしょうか?」
「大丈夫です。寧ろ、遠慮して言わないでいると、どこかで聞きつけた時に、怒鳴り込んでくるかもしれませんよ」
「うぇ!?」
リリンの脅しにクララはちょっと驚き、布団を口元まで上げる。その姿を見て、リリンは小さく笑う。リリンにからかわれたと分かり、クララは頬を膨らませた。
「怒鳴り込みは言い過ぎでしたね。ですが、変な遠慮はするなと言われるのは確実でしょう」
「マーガレットさんもユーリーさんもそうですけど、魔族の方々は良い人が多すぎではないですか? サラもメイリーさんもニャミーさんもそうでした」
「そうですね。それもこれも、ラビオニアでのクララさんの尽力があったからですよ」
ラビオニアでのクララの治療行為がなければ、今のクララを取り巻く状況は少し変わっていただろう。つまり、ラビオニアでの治療行為は、クララを見る目が変わった重要な転換点だった
「クララさんの善行は、こういったところに影響しています。そして、マリンウッドでの善行も色々な場所で影響していくでしょう。クララさんのその優しさが、聖女という力を得るに相応しいものなのだと、改めて思います」
「何だか、ちょっと恥ずかしいです」
リリンにべた褒めされ、クララはさっきとは違う意味で、布団で口元を隠した。
「事実です。クララさんの今の状況は、クララさん自身が勝ち取ってきたものです。誇って良いと思います。では、私も失礼します。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
リリンは部屋の照明を消してから、直接自分の部屋に戻っていった。それを見送ってクララは目を閉じる。運動していた事もあって、すぐに寝息を立て始めた。
「マーガレットさん、ユーリーさん、どうしたんですか?」
「クララにプレセントを持ってきたの。ユーリーも同じ」
「うん。良い物。サーファにも」
二人が持っていたのは、クララやサーファへのプレゼントだった。まずは、マーガレットからだ。クララに額を渡し、布を取り去る。そこにあったのは、白い服を纏い、神へ祈りを捧げているクララの絵だった。その背中からは、薄く光が差し込んできている。そして、その光に紛れて白い翼のようなものも見えた。
その事から、クララを天使のように見せかけている印象を受ける。そのせいもあってか、その絵からは神聖さも感じる。
「クララさんの可愛さに加えて、聖女の神聖さを感じさせる良い絵ですね」
「うわぁ……良かったね。クララちゃん」
サーファにそう言われて、ぼーっと見ていたクララが、ようやく我に返った。
「凄く嬉しいです。こんな風なプレゼントは貰った事がないので」
「まぁ、絵をプレゼントするっていうのは、あまりないしね。前に薬室で見たクララの姿から、クララの根底にあるのは思いやりと優しさだと思ったの。そこに聖女としての神聖さを加えた作品。作品名は、『聖なる姫の祈り』」
「……私、お姫様じゃないですよ?」
「そこは気にしない。クララの顔立ちは、お姫様みたいって事」
マーガレットは、そう言ってクララの頬を揉む。
「せっかくですから、ベッドの上に飾りましょう」
リリンは自室に戻って釘とハンマーを持ってきた。そして、クララのベッドの上にある壁に釘を打ち付け、マーガレットから貰った絵を飾ろうとする。その前に、マーガレットが止めた。
「ちょっと待って。確か、クララは聖女の魔力で聖別出来るのよね?」
「はい。魔力を込めれば出来るはずです」
「それじゃあ、この絵も聖別してくれる?」
「え、あ、はい」
クララは言われた通り、絵に聖女の魔力を込めていく。ベルフェゴールとの授業のおかげで、魔力の扱いも上達している。クララの魔力を込めていると、絵に変化が訪れる。
クララの後ろに描かれていた白色の光と翼に、金色の細かい光の描写が加わる。それと同時に、薄く描かれていた光と翼が少し濃くなっている。
「えっ、これどうなっているんですか?」
「姉さん……奮発し過ぎ」
突然の変化にクララは戸惑っていたが、どういう事か察したユーリーは、少し呆れていた。
「その絵に使った絵の具は、ちょっと特殊なものでね。魔力に反応して発色が変わるの。この作業は、私でも良いんだけど、やっぱりクララに任せたくてね。ついでに聖別したら、何か特殊な変化があるかなって思ったけど、本当に変化があるとはね。普通だったら、ただ色が濃くなるくらいなのにね」
「じゃあ、この金色の部分は聖別した結果なんですか?」
「多分ね。それか、この絵の具が聖女特有の魔力に反応した結果なのかも。でも、これで完成! それじゃあ、リリン飾ってあげて」
「かしこまりました」
今度こそ、リリンがマーガレットの絵を壁に飾る。クララが聖別したからか
「次は私」
マーガレットの前に出て来たユーリーは、袋からいくつかの服を取り出す。それをサーファに渡す。
「これはサーファ。動きやすさ重視でゆったりとしつつ、普通よりも丈は短くしてる。サーファなら、お腹まで隠れると思う」
「あ、ありがとうございます!」
サーファは嬉しそうに服を受け取る。畳まれている状態の服だが、そこからでも服の可愛さなどが分かる。大事そうに服を抱えるサーファの尻尾は激しく振られていた。
それを見て、ユーリーは満足したように頷くと、次にクララの方を向いた。
「これはクララ」
そう言ってユーリーが取りだしたのは、絢爛豪華な祭服のような服だった。白を基調として、所々に金色の刺繍が施されている。
「これを聖別したら完成」
「これも聖別するんですか!?」
まさかの二つ続けて聖別するとは思っておらず、クララは驚いてユーリーを見る。
「この布は、昔の聖女が使っていたものらしい。お母さんが言ってた」
「!?」
とんでもない情報が出て来て、クララは手に持った服をジッと見る。過去の聖女の物だったとしたら、布が綺麗すぎると思ったのだ。
「汚れ自体を弾く布みたい。どういう原理かはよく分からない。多分、聖女由来の魔力。だから、クララの力で上書きしてほしい」
「あ、はい。でも、そんな貴重な布を使って良かったんですか?」
過去の聖女が着ていた物が魔王城にある事自体には、クララも疑問はなかった。必ず勇者や聖女が勝つとは限らない。その戦利品と考えれば納得出来るからだ。
だが、汚れない布という特性を持っているのであれば、自分用じゃなく、魔族側で有効利用出来たんじゃないかとクララは考えたのだ。
「良い。クララの能力で聖別されているものじゃないから、私達が着るのは危ない。下手すると、怪我になる」
「えっ、じゃあ、ユーリーさんは大丈夫だったんですか?」
そんなものの加工をしたユーリーも同じように危なかったのではと思ったクララは、ユーリーを心配する。そんな心配を受けたユーリーは、一瞬きょとんとしてから、クララの頭を撫でる。
「問題無い。危ないのは、長時間の着用だから。少し手がヒリヒリするくらいで済んだ」
「それは大丈夫では無いのでは!?」
クララは、自分を撫でてくれるユーリーの手のひらを見る。特に問題はないようで、綺麗な手がそこにはあった。クララは、胸をなで下ろす。
「そんな危ないのであれば、すぐに聖別しちゃいますね」
魔族にとって、少し危険なものという事が分かったので、クララは遠慮無しに聖別する。絵と違って、先に聖別がされているからか、クララも聖別に手間取った。それでもかなり過去の物だったからなのか、クララの能力で上書きする事が出来た。
その結果、色の発色が良くなった。
「うん。これで大丈夫。着てみて」
「分かりました」
クララが着替えようとすると、すぐにリリンが手伝い始めた。
「ユーリーも人の事は言えないわね」
「私のは、実質無料」
「何が実質無料なんだか。あれ、家の宝物庫に置かれてたものでしょ?」
「私達には使えないんだから、有効利用しただけ。お母さんも納得した」
「お母さんは、あの子に甘いっていうのがよく分かったわ」
二人がそんな事を話している間に、クララの着替えが終わる。クララのサイズよりも、少しだけ大きく作られているので、ちょっとだけぶかぶかになっている。
「これって、これで正しいんですか?」
ぶかぶかの状態で良いのかと疑問に思ったクララは、ユーリーに訊いた。
「クララの成長を考えて、少し大きく作った。一応、それ以上の大きさにも出来るから、キツくなったら言って」
「あ、そうなんですね。分かりました。ありがとうございます」
クララがお礼を言うと、ユーリーは頷いて返事をする。そして、クララの周りをぐるぐると回って、どこかおかしな点はないか探す。
「違和感は?」
「特にないです。ちょっと動きにくそうな見た目でしたけど、思いのほか動きやすいです」
「それは良かった。私が触っても問題なし。後は、クララ自身の力が増幅されている可能性だけど、それに関して、自覚はある?」
そう問われたクララだったが、特に何も感じないので、首を傾げていた。
「自覚できるほどの上昇はなし。まぁ、想定内」
「ところで、この服っていつ着れば良いんでしょうか?」
クララも、さすがにこの祭服を普段着にしたいとは思わなかった。豪華すぎるというのが一番の理由だ。
「何か重要な日とかに使うと良い。聖女ならそういう服でいる方がらしく見える」
「なるほど……じゃあ、その時まで綺麗に取っておかないとですね」
「普段使いしても良いけど?」
「さ、さすがに、これの普段使いは怖いです」
「多分そう言うと思って、他の服も用意した」
「ユーリーさん……一体いくつの服を作ったんですか?」
サーファの服も合わせると、この短期間で作っているにしては、数が多いとクララは感じていた。
「そんなでもない。裁縫自体は自分の手を使わないでもやることが出来るから」
「手を使わず?」
「ユーリーの天才的な部分の一つよ。このデザインが思いつくってだけでも天才なのに、魔法を使って器用に裁縫道具と布を動かして、片手間で作っているのよ。それで、出来が悪くなるならまだしも、職人とほぼ同じくらいのものが出来上がるから面白く無いの」
マーガレットは肩を竦めながら、そんな事を言う。だが、クララはそれに納得する事は無かった。
(あんな絵を描けるマーガレットさんも十分天才なんじゃ……)
確実に否定されると思い、クアッラは声に出していないが、実際、周囲からの評価ではマーガレットも天才の一人に数えられている。
「そんな事どうでも良いから。こっちの服も着て。ちゃんとクララに合っているか確認したい。今までの服とは違う雰囲気の服にしたから」
「そういえば、黒い服が沢山ある気がします」
クララはどちらかというと明るめの服を着ることが多い。そのため、ユーリーが持ってきた黒の服はあまり着る事はない。それでも持ってきたのは、クララに似合うという風に思ったからだ。黒の上着やワンピースに、祭服にも使われた金色の刺繍が施されている。
「やっぱり黒でも似合う。気分転換したいときは、こっちを着てみて。それと、こっちは運動着にして。動きやすさを重視した服だから」
「はい。ありがとうございます」
ユーリー達が来てから、クララの服は一気に増えた。一ヶ月間毎日違う服を着ても大丈夫なくらいだ。そこに寒暖に備えた服もプラスされる。服がボロボロにならない限りは、買い足さないでも良いだろう。
「さてと、用事も終わったから、私達はここで失礼するよ。三人ともおやすみなさい」
「おやすみ」
「あ、はい! ありがとうございました! おやすみなさい」
「おやすみなさいませ」
「お、おやすみなさいませ」
マーガレットは、三人に手を振りながらユーリーの背を押していった。ユーリーも軽く手を振りながらマーガレットに押されて出ていく。
「それでは、今日は講義をお休みして、私達も寝ましょうか」
「えっ、あ、そうですね。もうそんな時間でした」
マーガレット達が来た事で、講義の時間はなくなってしまった。その事にちょっとショックを受けたクララだったが、そのおかげで良い物が貰えたので、文句は言わない。
「それじゃあ、おやすみ、クララちゃん」
「はい。おやすみなさい」
サーファはそう言って手を振ると、ユーリーから貰った服を抱えて部屋に戻っていった。リリンは、最後に戸締まりの確認をしていく。そんなリリンを見ながら、クララもベッドに入った。そして、リリンから視線を外して天井を見ると、ちょうどマーガレットから貰った絵が見える。自分が描かれているので、多少恥ずかしくはあるのだが、やはり嬉しさの方が勝る。
少しにやにやとしていると、リリンがジッとクララを見ていた。
「嬉しそうですね?」
「はい! こんな素敵な贈り物初めてですから。そうだ。ユーリーさんの作ってくれた服も飾ったりは出来ませんか?」
「そうですね。後日ライナーに相談してみます」
「……ライナーさん、今忙しそうなのに、こんなに色々頼んで大丈夫でしょうか?」
現在ライナーは長距離輸送の研究を進めている。そんなライナーに頼み事をし過ぎではとクララは考えていた。
「大丈夫でしょう。研究開発班は、ライナー一人ではありませんので、実際に作る方は別の方になるかと」
「それなら大丈夫……なんでしょうか?」
「大丈夫です。寧ろ、遠慮して言わないでいると、どこかで聞きつけた時に、怒鳴り込んでくるかもしれませんよ」
「うぇ!?」
リリンの脅しにクララはちょっと驚き、布団を口元まで上げる。その姿を見て、リリンは小さく笑う。リリンにからかわれたと分かり、クララは頬を膨らませた。
「怒鳴り込みは言い過ぎでしたね。ですが、変な遠慮はするなと言われるのは確実でしょう」
「マーガレットさんもユーリーさんもそうですけど、魔族の方々は良い人が多すぎではないですか? サラもメイリーさんもニャミーさんもそうでした」
「そうですね。それもこれも、ラビオニアでのクララさんの尽力があったからですよ」
ラビオニアでのクララの治療行為がなければ、今のクララを取り巻く状況は少し変わっていただろう。つまり、ラビオニアでの治療行為は、クララを見る目が変わった重要な転換点だった
「クララさんの善行は、こういったところに影響しています。そして、マリンウッドでの善行も色々な場所で影響していくでしょう。クララさんのその優しさが、聖女という力を得るに相応しいものなのだと、改めて思います」
「何だか、ちょっと恥ずかしいです」
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「事実です。クララさんの今の状況は、クララさん自身が勝ち取ってきたものです。誇って良いと思います。では、私も失礼します。おやすみなさい」
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その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
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