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可愛がられる聖女
演習の手伝いと喧嘩
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それから三日後。クララは演習の手伝いで演習場に来ていた。そして、その場にはマーガレットとユーリーの姿もあった。マーガレットとユーリーは、クララの両側に分かれて座っている。
「軍の手伝いもしているなんてね。休みあるの?」
「それを加味して、手伝いの頻度は、かなり下げました。手伝うのは、大きな演習をする時のみとなっています。クララさんの手伝いがあった方が、重傷者が少なくなりますので、なるべく手伝って欲しいようです」
クララの忙しさを加味してアーマルドは、少し激しめの演習をする際にクララを呼ぶという事にした。これは、ガーランドやカタリナとアーマルドが話し合った結果の事だった。
「なるほどね。それじゃあ、クララは休みの時は何してるの?」
「えっと、薬学書を読んだりしてます」
「それも勉強じゃない。もしかして、趣味らしい趣味はない?」
マーガレットの問いに、クララは頷いて答える。
「あ、でも、明日は城下町に降りるので、その時に趣味になりそうな道具を買うって話になってます」
クララがそう言った瞬間、マーガレットとユーリーの目がギラリと光った。
「それなら、私と一緒に芸術系をやってみない?」
「いや、私と一緒に服飾系をする」
二人は、ずいっとクララに詰め寄って互いの仕事関係のものに誘う。二人同時に誘われてクララは、どうすればいいのか分からず、あわあわと狼狽えていた。そこに、リリンが助け船を出す。
「では、お二人からどちらも学んでみては如何でしょうか? どの趣味はクララさんに合うか分からなかったので、色々と試すつもりでしたので」
リリンの提案にマーガレットとユーリーは顔を見合わせる。そして、同じ考えになったのか、どちらからともなく頷いた。
「それでいこう。クララの暇な日って、どのくらいある?」
「調整します。せっかくですから、ベルフェゴール殿の講義を、そちらの時間に変えても良いかと」
マーガレットとユーリーは、ずっと魔王城にいるわけではないので、二人が滞在している間、特別授業という事で、ベルフェゴールの講義の時間を使うという提案をクララにする。
「でも、大丈夫なんですか? 変態紳士さんに怒られませんか?」
「大丈夫ですぞ」
「!?」
その場にいた全員が驚いて声のした方を見る。すると、観客席の影からベルフェゴールが出て来た。
「ベルフェゴール!? 何で、こんなところにいるの!?」
マーガレットが警戒しながら訊く。ベルフェゴールは、マーガレットやユーリーの講師をしていた事もある。そのためベルフェゴールの性格は、二人ともよく知っていた。だからこその警戒だった。
「ふっ、幼女の成長を監視するのは当然のことです」
この場にお盆など投げやすい物があれば、リリンが即座に投げていた事だろう。だが、この場にあるのは、今日の昼食を入れたお弁当しかない。それを投げてしまえば、クララの昼食がなくなるので、投げる訳にはいかなかった。
「というのは冗談です」
その言葉が出て来ても、全員安堵はしなかった。ベルフェゴールならやりかねない。全員がそう思っていたからだ。
「演習場を散歩していましたら、私を呼ぶ声が聞こえましたので」
「…………」
全員から疑いの眼差しを受けたベルフェゴールだったが、全く気にした様子はなかった。
「講義を減らしても大丈夫ですか?」
そんな中でクララはベルフェゴールにそう訊いた。気になる事だったので、なるべく早く訊きたかったのだ。
「ええ。大丈夫ですぞ。基礎の基礎は、もう学び終えましたからな。それに、その経験は役に立つでしょうからな」
「役に立つですか?」
クララの疑問に、ベルフェゴールはニコリと笑うだけだった。
「ああ、駄目だ。その状態のベルフェゴールは、何を訊いても笑うだけ」
クララよりもベルフェゴールと長い付き合いのマーガレットが首を振りながら、クララに教える。
「そうなんですか?」
「そう。あれは、全部を教えてくれるわけじゃない。そういう事に気付く能力を付けさせるために、敢えて黙っている事がある」
ユーリーもベルフェゴールの生徒になっていた際に、同じ事をされたようだ。
「では、マーガレット様とユーリー様が滞在の間は、講義を休みにするという事でよろしいですか?」
「構いませんぞ。では、私はこれで失礼」
ベルフェゴールは、クララにウィンクをしてから、また影に消えていった。
「あの変態の趣味は変わってないのか……」
いつまで経っても変わらないベルフェゴールに、マーガレットは戦慄していた。
「性的嗜好はそんな簡単に変わらない。それがよく分かる」
「本当にね。一つだけ救いがあるとしたら、絶対に手を出してこないという事だけど、それもいつ破るか分からないのが、本当に恐ろしい」
「えっ、変態紳士さんは手を出してくるんですか?」
クララは、ベルフェゴールが自分に手を出すかもという話をされたので、少し驚く。これまで一度たりとも手を出されていないから尚更だ。
「今までやった事がないからって、これからもやらないとは限らないから。警戒だけはし続ける事。良い?」
「はい。分かりました」
クララは、マーガレット達と約束をする。
「でも、今まで一度も手を出していないのなら、本当に一度も結婚したことがないんですね」
「そのはず。生粋の幼女趣味だからね。色々と終わってる」
「でも、講師としては優秀」
「それは同意。本当に分かりやすく説明するし、こっちの力になるように、色々と工夫しているみたいだから。それが逆にむかつくけど」
マーガレットは複雑そうに眉を寄せていた。実際に、生徒として講義を受けたので、その実力は知っている。欠点はあっても、そこは優秀なので全部を悪く言えないのだ。
「あれがなければ、学校で優秀な教師になれたはずなんだけどね」
「結局一兵士として軍に入って、今は家庭教師をしながら隠居生活」
「へぇ~、ベルフェゴールさんの教え子って、私達だけなんですか? それも、他のところでも家庭教師を?」
そう訊かれて、マーガレットとユーリーは顔を見合わせる。そして、同時に首を横に振った。
「分からない」
「基本的にお母さんからの指示でやっている感じだと思うから、他の家庭教師をしている事はないと思うけどね」
「そうなんですね」
そんな話をしていると、突然リリンが手を鳴らした。三人は、音に驚いてビクッとした後にリリンを見る。
「ベルフェゴール殿の話は、ここまでにしましょう。許可は頂いたので、これから講義の時間をお二人で分け合って頂きます。午前と午後で半日ずつ分けるか一日ずつ分けるかどうされますか?」
リリンからそう訊かれる。ここは決めておかないと、後で揉める事になりかねない。
「半日ずつだと少ないと思うんだけど」
「私もそう思う」
「なら、一日ずつね」
「かしこまりました。どちらからやっていきましょうか?」
どっちが先かと訊かれ、マーガレットとユーリーが睨み合う。
「ここは姉に譲るとかないわけ?」
「何であると思うの?」
「そう。なら、久しぶり争うしかないって事ね」
「おあつらえ向きに演習場」
睨み合っていた二人は、目にも留まらぬ速度で演習場に降りていった。
「あっ、ど、どうしますか!? お二人がけ、喧嘩を!」
「落ち着いて下さい。大丈夫ですから」
リリンは、そう言いながらサーファに目配せする。それを受けて、サーファはクララを膝に乗せて後ろから抱きしめた。
「ほ、本当に大丈夫なんですか?」
「ええ。演習場にいるのは、お二方だけではありませんので」
「? あっ……」
何を言っているのだろうと思ったクララだったが、すぐにどういうことか察した。
クララの見ている先で、喧嘩を始めようと互いに突っ込んだマーガレットとユーリーの頭に拳骨が振り下ろされた。
「何やってんだ?」
アーマルドが二人の間に立ちながらそう訊いていた。
「痛っ……叔父さんには関係のない事」
「っ……私達には必要な事」
そんな事を言う二人に、アーマルドは大きくため息をつく。
「はぁ~……何でも良いが、クララを心配させるな」
そう言われて、ハッとした二人は揃ってクララの方を見る。サーファの膝に乗りながら二人を見ていたクララは、心配そうな表情をしていた。
「ったく、この大馬鹿共め。第一、演習をしている場所に降りてくるやつがいるか!?」
「あのくらいだったら、混ざっても問題ないかなぁって」
「龍族は頑丈」
「だったら、演習そのものに混ざって来い!!」
アーマルドは、二人の首根っこを掴んで魔法が飛び交っている中央に投げ飛ばす。唐突に二人が降ってきたので、全員が手を止める。
「誰が休んで良いと言った!?」
アーマルドの怒声が響き、演習が再開される。その中で、マーガレットとユーリーも喧嘩を始めた。
「あれって、何か解決しました?」
「結局喧嘩はさせていますね。場所が戦場の中心に変わっただけです」
アーマルドが二人の喧嘩を諫めると考えていたリリンとサーファは、最終的に焚き付けて戦場に放り込んだのを見て、呆れていた。
そんな中、やはりクララは二人の心配をしていた。
「だ、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫でしょう。お二人とも頑丈ですから。それに、本気で喧嘩をしているわけでは……」
マーガレットとユーリーの喧嘩を見ていたリリンは途中で言葉を止める。ただ単純に順番を決めるだけなので、そこまで本気で喧嘩はしないだろうと思っていたのだが、二人の喧嘩が完全に本気なものになっていたからだ。
「……本気でやっていますね。それだけクララさんへの愛が深いという事でしょう」
「こんな形の愛の証明は要らないんですけど……」
「そうですね。それに、お二人は失念していますが、これがバレてしまえばカタリナ様から雷を落とされるでしょう」
「それなら、尚のこと止めた方が……」
「いえ、やりたいのであればやらせておけば良いのです」
二人の喧嘩は演習が終了するまで続いた。そして、勝ちを拾ったのはユーリーだった。裁縫でも常に魔法を使っているユーリーの方が魔法の扱いが上手く、マーガレットがしてやられたという形だ。
「ああ! もう! 悔しい!」
大の字に寝そべったマーガレットが大声で喚いた。本当に勝つつもりだった事が分かる。
「それじゃあ、私が先」
「はぁ……まぁ、仕方ない」
さすがに、ここで駄々をこねる程子供でもないので、マーガレットも納得した。寝そべっているマーガレットをユーリーが手を差し出して起こす。クララに教える順番を決めるという、かなり下らない理由から始まった喧嘩だったが、何故か良い雰囲気で終わりを迎えようとしていた。
「終わったようですね」
「お二人とも怪我がなくて良かったです。というか、あんな激しく戦っていたのに怪我をしていないってどうなっているんですか?」
「龍族は頑丈ですから。衝撃などは受けますが、あのくらいでは怪我はしません」
「それなら良かったです。じゃあ、私も仕事をしにいかないとですね」
「そうですね。お二人の争いに巻き込まれた方々の治療をしないといけませんからね」
クララは、せっせと治療を進めていく。怪我をしたと言っても擦り傷などがほとんどなので、治療自体はあまり苦労しなかった。
そして、事の顛末を聞いたカタリナから、マーガレット達はしっかりと叱られた。そして、文字通り雷を落とされる事になったと言う。
因みに、その際、寝ていたクララはいきなりの雷に驚いて、リリンの部屋に飛び込んだらしい。
「軍の手伝いもしているなんてね。休みあるの?」
「それを加味して、手伝いの頻度は、かなり下げました。手伝うのは、大きな演習をする時のみとなっています。クララさんの手伝いがあった方が、重傷者が少なくなりますので、なるべく手伝って欲しいようです」
クララの忙しさを加味してアーマルドは、少し激しめの演習をする際にクララを呼ぶという事にした。これは、ガーランドやカタリナとアーマルドが話し合った結果の事だった。
「なるほどね。それじゃあ、クララは休みの時は何してるの?」
「えっと、薬学書を読んだりしてます」
「それも勉強じゃない。もしかして、趣味らしい趣味はない?」
マーガレットの問いに、クララは頷いて答える。
「あ、でも、明日は城下町に降りるので、その時に趣味になりそうな道具を買うって話になってます」
クララがそう言った瞬間、マーガレットとユーリーの目がギラリと光った。
「それなら、私と一緒に芸術系をやってみない?」
「いや、私と一緒に服飾系をする」
二人は、ずいっとクララに詰め寄って互いの仕事関係のものに誘う。二人同時に誘われてクララは、どうすればいいのか分からず、あわあわと狼狽えていた。そこに、リリンが助け船を出す。
「では、お二人からどちらも学んでみては如何でしょうか? どの趣味はクララさんに合うか分からなかったので、色々と試すつもりでしたので」
リリンの提案にマーガレットとユーリーは顔を見合わせる。そして、同じ考えになったのか、どちらからともなく頷いた。
「それでいこう。クララの暇な日って、どのくらいある?」
「調整します。せっかくですから、ベルフェゴール殿の講義を、そちらの時間に変えても良いかと」
マーガレットとユーリーは、ずっと魔王城にいるわけではないので、二人が滞在している間、特別授業という事で、ベルフェゴールの講義の時間を使うという提案をクララにする。
「でも、大丈夫なんですか? 変態紳士さんに怒られませんか?」
「大丈夫ですぞ」
「!?」
その場にいた全員が驚いて声のした方を見る。すると、観客席の影からベルフェゴールが出て来た。
「ベルフェゴール!? 何で、こんなところにいるの!?」
マーガレットが警戒しながら訊く。ベルフェゴールは、マーガレットやユーリーの講師をしていた事もある。そのためベルフェゴールの性格は、二人ともよく知っていた。だからこその警戒だった。
「ふっ、幼女の成長を監視するのは当然のことです」
この場にお盆など投げやすい物があれば、リリンが即座に投げていた事だろう。だが、この場にあるのは、今日の昼食を入れたお弁当しかない。それを投げてしまえば、クララの昼食がなくなるので、投げる訳にはいかなかった。
「というのは冗談です」
その言葉が出て来ても、全員安堵はしなかった。ベルフェゴールならやりかねない。全員がそう思っていたからだ。
「演習場を散歩していましたら、私を呼ぶ声が聞こえましたので」
「…………」
全員から疑いの眼差しを受けたベルフェゴールだったが、全く気にした様子はなかった。
「講義を減らしても大丈夫ですか?」
そんな中でクララはベルフェゴールにそう訊いた。気になる事だったので、なるべく早く訊きたかったのだ。
「ええ。大丈夫ですぞ。基礎の基礎は、もう学び終えましたからな。それに、その経験は役に立つでしょうからな」
「役に立つですか?」
クララの疑問に、ベルフェゴールはニコリと笑うだけだった。
「ああ、駄目だ。その状態のベルフェゴールは、何を訊いても笑うだけ」
クララよりもベルフェゴールと長い付き合いのマーガレットが首を振りながら、クララに教える。
「そうなんですか?」
「そう。あれは、全部を教えてくれるわけじゃない。そういう事に気付く能力を付けさせるために、敢えて黙っている事がある」
ユーリーもベルフェゴールの生徒になっていた際に、同じ事をされたようだ。
「では、マーガレット様とユーリー様が滞在の間は、講義を休みにするという事でよろしいですか?」
「構いませんぞ。では、私はこれで失礼」
ベルフェゴールは、クララにウィンクをしてから、また影に消えていった。
「あの変態の趣味は変わってないのか……」
いつまで経っても変わらないベルフェゴールに、マーガレットは戦慄していた。
「性的嗜好はそんな簡単に変わらない。それがよく分かる」
「本当にね。一つだけ救いがあるとしたら、絶対に手を出してこないという事だけど、それもいつ破るか分からないのが、本当に恐ろしい」
「えっ、変態紳士さんは手を出してくるんですか?」
クララは、ベルフェゴールが自分に手を出すかもという話をされたので、少し驚く。これまで一度たりとも手を出されていないから尚更だ。
「今までやった事がないからって、これからもやらないとは限らないから。警戒だけはし続ける事。良い?」
「はい。分かりました」
クララは、マーガレット達と約束をする。
「でも、今まで一度も手を出していないのなら、本当に一度も結婚したことがないんですね」
「そのはず。生粋の幼女趣味だからね。色々と終わってる」
「でも、講師としては優秀」
「それは同意。本当に分かりやすく説明するし、こっちの力になるように、色々と工夫しているみたいだから。それが逆にむかつくけど」
マーガレットは複雑そうに眉を寄せていた。実際に、生徒として講義を受けたので、その実力は知っている。欠点はあっても、そこは優秀なので全部を悪く言えないのだ。
「あれがなければ、学校で優秀な教師になれたはずなんだけどね」
「結局一兵士として軍に入って、今は家庭教師をしながら隠居生活」
「へぇ~、ベルフェゴールさんの教え子って、私達だけなんですか? それも、他のところでも家庭教師を?」
そう訊かれて、マーガレットとユーリーは顔を見合わせる。そして、同時に首を横に振った。
「分からない」
「基本的にお母さんからの指示でやっている感じだと思うから、他の家庭教師をしている事はないと思うけどね」
「そうなんですね」
そんな話をしていると、突然リリンが手を鳴らした。三人は、音に驚いてビクッとした後にリリンを見る。
「ベルフェゴール殿の話は、ここまでにしましょう。許可は頂いたので、これから講義の時間をお二人で分け合って頂きます。午前と午後で半日ずつ分けるか一日ずつ分けるかどうされますか?」
リリンからそう訊かれる。ここは決めておかないと、後で揉める事になりかねない。
「半日ずつだと少ないと思うんだけど」
「私もそう思う」
「なら、一日ずつね」
「かしこまりました。どちらからやっていきましょうか?」
どっちが先かと訊かれ、マーガレットとユーリーが睨み合う。
「ここは姉に譲るとかないわけ?」
「何であると思うの?」
「そう。なら、久しぶり争うしかないって事ね」
「おあつらえ向きに演習場」
睨み合っていた二人は、目にも留まらぬ速度で演習場に降りていった。
「あっ、ど、どうしますか!? お二人がけ、喧嘩を!」
「落ち着いて下さい。大丈夫ですから」
リリンは、そう言いながらサーファに目配せする。それを受けて、サーファはクララを膝に乗せて後ろから抱きしめた。
「ほ、本当に大丈夫なんですか?」
「ええ。演習場にいるのは、お二方だけではありませんので」
「? あっ……」
何を言っているのだろうと思ったクララだったが、すぐにどういうことか察した。
クララの見ている先で、喧嘩を始めようと互いに突っ込んだマーガレットとユーリーの頭に拳骨が振り下ろされた。
「何やってんだ?」
アーマルドが二人の間に立ちながらそう訊いていた。
「痛っ……叔父さんには関係のない事」
「っ……私達には必要な事」
そんな事を言う二人に、アーマルドは大きくため息をつく。
「はぁ~……何でも良いが、クララを心配させるな」
そう言われて、ハッとした二人は揃ってクララの方を見る。サーファの膝に乗りながら二人を見ていたクララは、心配そうな表情をしていた。
「ったく、この大馬鹿共め。第一、演習をしている場所に降りてくるやつがいるか!?」
「あのくらいだったら、混ざっても問題ないかなぁって」
「龍族は頑丈」
「だったら、演習そのものに混ざって来い!!」
アーマルドは、二人の首根っこを掴んで魔法が飛び交っている中央に投げ飛ばす。唐突に二人が降ってきたので、全員が手を止める。
「誰が休んで良いと言った!?」
アーマルドの怒声が響き、演習が再開される。その中で、マーガレットとユーリーも喧嘩を始めた。
「あれって、何か解決しました?」
「結局喧嘩はさせていますね。場所が戦場の中心に変わっただけです」
アーマルドが二人の喧嘩を諫めると考えていたリリンとサーファは、最終的に焚き付けて戦場に放り込んだのを見て、呆れていた。
そんな中、やはりクララは二人の心配をしていた。
「だ、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫でしょう。お二人とも頑丈ですから。それに、本気で喧嘩をしているわけでは……」
マーガレットとユーリーの喧嘩を見ていたリリンは途中で言葉を止める。ただ単純に順番を決めるだけなので、そこまで本気で喧嘩はしないだろうと思っていたのだが、二人の喧嘩が完全に本気なものになっていたからだ。
「……本気でやっていますね。それだけクララさんへの愛が深いという事でしょう」
「こんな形の愛の証明は要らないんですけど……」
「そうですね。それに、お二人は失念していますが、これがバレてしまえばカタリナ様から雷を落とされるでしょう」
「それなら、尚のこと止めた方が……」
「いえ、やりたいのであればやらせておけば良いのです」
二人の喧嘩は演習が終了するまで続いた。そして、勝ちを拾ったのはユーリーだった。裁縫でも常に魔法を使っているユーリーの方が魔法の扱いが上手く、マーガレットがしてやられたという形だ。
「ああ! もう! 悔しい!」
大の字に寝そべったマーガレットが大声で喚いた。本当に勝つつもりだった事が分かる。
「それじゃあ、私が先」
「はぁ……まぁ、仕方ない」
さすがに、ここで駄々をこねる程子供でもないので、マーガレットも納得した。寝そべっているマーガレットをユーリーが手を差し出して起こす。クララに教える順番を決めるという、かなり下らない理由から始まった喧嘩だったが、何故か良い雰囲気で終わりを迎えようとしていた。
「終わったようですね」
「お二人とも怪我がなくて良かったです。というか、あんな激しく戦っていたのに怪我をしていないってどうなっているんですか?」
「龍族は頑丈ですから。衝撃などは受けますが、あのくらいでは怪我はしません」
「それなら良かったです。じゃあ、私も仕事をしにいかないとですね」
「そうですね。お二人の争いに巻き込まれた方々の治療をしないといけませんからね」
クララは、せっせと治療を進めていく。怪我をしたと言っても擦り傷などがほとんどなので、治療自体はあまり苦労しなかった。
そして、事の顛末を聞いたカタリナから、マーガレット達はしっかりと叱られた。そして、文字通り雷を落とされる事になったと言う。
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