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先祖返りの真祖
初めての外出
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それから二週間が経った。一度、引っ越してきたリーシアが封印とセレーネの魔力保有量を確認しに来たが、特に大きな問題は無かった。
魔術に関しては、【水球】を突き詰める形で進んでいる。様々な魔術に触れる前に、一つの魔力をある程度扱えるようになろうというレイアーの方針だ。このおかげで、【水球】の形の維持は簡単に出来るようになっていた。維持にも、集中力を必要としなくなっている。
そこから更に発展し、【水球】の形を崩して変えるという事にも挑戦し、四角や三角などの簡単な形であれば、変形させられるようになった。後は、敢えて形に拘らず、物に押し付けて、包み込むという事も出来るようになった。
そして、一つだけやることが追加された。それは、運動の時間だ。普段の追いかけっこではなく、身体作りと護身術を身に付けるための運動だ。まだ五歳という事もあり、本当に簡単な事のみをしている。そのための講師は、カノンがするのではなく、屋敷で働いていた執事が行っていた。元騎士という出自の執事で、キリル・バーガンディーという名前だった。暗い紫みのある赤髪と赤眼の青年だ。
まだ若いが、騎士という仕事から別の仕事をしたくなり、執事に応募して採用された。仕事ぶりは丁寧。セレーネへの指導も二つ返事で引き受けた。騎士でいる時には指導などする立場では無かったので、一度経験してみようと考えたからだった。
その結果、真剣に取り組むセレーネに強く感心していた。加えて、セレーネと一緒にカノンも取り組んでいた。セレーネと一緒にカノンもやる事で、セレーネのやる気を維持するという目的があった。
そうした日々を送っていく中で、セレーネはミレーユに呼ばれて、カノンと一緒に執務室に向かった。
「お母様? 何か用?」
「セレーネ」
ミレーユは、セレーネが来るなり、すぐに抱きしめる。抱きしめられる事は嬉しいが、それだけが用事ではないという事を、セレーネは知っている。そんな用事で呼び出すのなら、毎日呼び出されるはずだからだ。
「今日は、セレーネに朗報があるの」
「良いお知らせ?」
「そう。カノンと一緒なら外出を許可します」
「街に出て良いの!?」
これまで、セレーネは屋敷の敷地外に出た事はなかった。年齢的な理由もあったが、それ以上に力の制御の問題があったからだ。この三年間で問題が無かったという点から、そろそろ外出をして知見を広げても良いだろうと判断したのだった。カノンというお目付役は必要となるが、セレーネにとって、それは拘束だと感じない。寧ろ、一人での外出を許可されてもカノンを連れていくだろう。
「やった! 早く行こ!」
セレーネは、カノンの手を引っ張る。そんなセレーネをカノンの方が引っ張って抱き上げた。そうでもしないとカノンを引っ張って飛び出していきそうだったからだ。
「外出許可は本日からですか?」
「はい。セレーネ。カノンの言うことをよく聞いてね。絶対に、カノンから離れちゃ駄目だから。分かった?」
「うん! 早く! 早く!」
「はい。分かりました。では、失礼します」
「行ってきま~す!」
「はい。いってらっしゃい」
元気に手を振るセレーネに、ミレーユも手を振り返した。そして、二人が出て行った後で、深いため息を零す。せっかくなら自分も一緒に外出したいところだが、街の運営における報告書などを処理していかなければならないので、席を立つことが出来ないのだ。
「早く終わらせよう」
せめて、夕食を一緒に取る為に、大急ぎで仕事に取り組んでいく。
そんなミレーユを知らずに、セレーネは自室のベッドに座っていた。そんなセレーネの元に、カノンが服を持ってくる。
「取り敢えず、動きやすい服にしておきましょう」
「うん!」
服を渡されたセレーネは、若干もたもたとしながら着替えていく。普通の着替えであれば、もう自分だけで出来るようになっていた。その間に、カノンもテキパキと準備をしてから鞄を確認する。
「お財布に飲み物、間食、念のための着替え、タオル……取り敢えずは、これで充分かな」
鞄を肩に掛けたカノンの元に着替えたセレーネがやって来る。そして、カノンの事を上から下へと見ていった。
「カノンは着替えないの?」
「はい。こちらの服の方がお嬢様も見つけやすいでしょうから」
カノンは敢えてメイド服のままでいる。普段着に着替えてしまうと、雑踏に紛れてしまい、もし仮にはぐれてしまった場合に見つけにくくなってしまう。それを考慮した結果が、見慣れたメイド服でいる事だった。
「後、顔に赤いの付いてるよ」
「お嬢様とお揃いですね」
「?」
カノンの意図が分からず、セレーネは首を傾げる。そんなセレーネにカノンが手を差し出した。
「それでは参りましょう」
セレーネとカノンは、手を繋いでレッドグラスの街へと繰り出す。初めて屋敷の敷地を出たセレーネは、少々緊張していた。カノンが用意してくれた服のおかげで、封印の刻印のほとんどは隠れているものの顔まで及んでいる部分は見えてしまう。これを見られてどう思われるかという事が怖かったのだ。
無意識に、自分の頬にある紋様を撫でた。それと同時に、カノンの方を向いた。カノンが自分の頬に描いた赤い紋様の答えが分かったからだ。セレーネの視線に気付いたカノンは、微笑みながら目線を合わせるためにしゃがむ。
「どうされました? まだ一歩外に出ただけですよ。ここからが街の本番です。楽しみましょう」
「……うん!」
セレーネに元気が戻り、改めて外への一歩を踏み出す。少し歩くだけで、住人達が闊歩する大通りに出る。
街の喧騒を味わった事のないセレーネは、そこで少し怖く感じ、カノンにくっついた。
「大丈夫ですよ。大通りは、基本的にこんな感じです。屋台などもありますので、ちょっとだけ食べ歩きをしてみますか?」
「食べ歩き?」
「はい。ちょっと行儀が悪いですが、ここら辺の食べ物は歩きながら食べられるように工夫されています。屋敷ではやってはいけませんよ」
「ふ~ん……食べてみる」
セレーネは、カノンの腰にくっついて歩く。そうしてカノンが案内した屋台は、牛串屋だった。
「一本お願いします」
「あいよ!」
カノンがお金を払い、牛串を貰って大通りの端っこに移動する。屋台と屋台の間には、一応スペースがあるので、そこで立ち止まれば迷惑にはならない。
カノンは、その場でしゃがんで、セレーネと目線を合わせる。そして、手を添えながら牛串を差し出す。
「はい。あ~ん」
「あ~んっ……美味しい!」
屋敷で出て来る料理とは異なる味付けをしているため、セレーネにとっては新しい味だ。カノンとしては気に入るか心配だったが、その問題は突破した。
「それは良かったです。喉に串を刺さぬように気を付けて食べてください」
「うん!」
セレーネは牛串一本をあっさりと平らげた。そこに牛串屋の店主が一本の牛串を持ってくる。
「嬢ちゃんの食べっぷりを称えて、一本サービスだ」
「ありがとうございます。お嬢様」
カノンは牛串を受け取り、セレーネの背中に手を添える。それだけで、カノンが何を言いたいのかセレーネも察した。
「あ、ありがとう」
「良いって事よ! いっぱい食べて大きくなりな!」
店主はセレーネの頭を優しく撫でると、屋台に戻っていった。
「よく言えました。半分食べますか?」
「良いの?」
「はい。今日のお昼は外で済ませる事になっていますので」
セレーネが気付かぬ内に、様々な手配をカノンはしていた。通りすがりに知り合いのメイドに言伝を頼んだりと、淀みなく支度を済ませていたのだ。
「じゃあ、食べる」
「では、どうぞ」
セレーネが牛串の半分を食べたところで、カノンももう半分を食べる。そうして出た串のゴミは近くのゴミ箱へと入れる。
「街にゴミ箱があるの?」
「はい。街の衛生管理のために、ゴミが道端に撒き散らされる事を防ぐ目的で設置されています。日に三度ゴミが回収されて処理施設へと運ばれます。処理施設では、ゴミの分別、再利用、焼却などが行われます。人の手だけでやれば大変ですが、魔術を使う事で手間を省いているそうです」
「ふ~ん……どんな魔術なんだろう?」
「大きく出回っているわけではないので、私も詳しいところは分かりませんが、基礎魔術を使っていると言われています」
「先生の研究室?」
「恐らくは関わっていると思います。次の授業の日にお訊きしてみるのも良いかもしれませんね」
「うん」
そんな会話をしながら、セレーネとカノンは、手を繋ぎながら大通りを歩いて行く。
魔術に関しては、【水球】を突き詰める形で進んでいる。様々な魔術に触れる前に、一つの魔力をある程度扱えるようになろうというレイアーの方針だ。このおかげで、【水球】の形の維持は簡単に出来るようになっていた。維持にも、集中力を必要としなくなっている。
そこから更に発展し、【水球】の形を崩して変えるという事にも挑戦し、四角や三角などの簡単な形であれば、変形させられるようになった。後は、敢えて形に拘らず、物に押し付けて、包み込むという事も出来るようになった。
そして、一つだけやることが追加された。それは、運動の時間だ。普段の追いかけっこではなく、身体作りと護身術を身に付けるための運動だ。まだ五歳という事もあり、本当に簡単な事のみをしている。そのための講師は、カノンがするのではなく、屋敷で働いていた執事が行っていた。元騎士という出自の執事で、キリル・バーガンディーという名前だった。暗い紫みのある赤髪と赤眼の青年だ。
まだ若いが、騎士という仕事から別の仕事をしたくなり、執事に応募して採用された。仕事ぶりは丁寧。セレーネへの指導も二つ返事で引き受けた。騎士でいる時には指導などする立場では無かったので、一度経験してみようと考えたからだった。
その結果、真剣に取り組むセレーネに強く感心していた。加えて、セレーネと一緒にカノンも取り組んでいた。セレーネと一緒にカノンもやる事で、セレーネのやる気を維持するという目的があった。
そうした日々を送っていく中で、セレーネはミレーユに呼ばれて、カノンと一緒に執務室に向かった。
「お母様? 何か用?」
「セレーネ」
ミレーユは、セレーネが来るなり、すぐに抱きしめる。抱きしめられる事は嬉しいが、それだけが用事ではないという事を、セレーネは知っている。そんな用事で呼び出すのなら、毎日呼び出されるはずだからだ。
「今日は、セレーネに朗報があるの」
「良いお知らせ?」
「そう。カノンと一緒なら外出を許可します」
「街に出て良いの!?」
これまで、セレーネは屋敷の敷地外に出た事はなかった。年齢的な理由もあったが、それ以上に力の制御の問題があったからだ。この三年間で問題が無かったという点から、そろそろ外出をして知見を広げても良いだろうと判断したのだった。カノンというお目付役は必要となるが、セレーネにとって、それは拘束だと感じない。寧ろ、一人での外出を許可されてもカノンを連れていくだろう。
「やった! 早く行こ!」
セレーネは、カノンの手を引っ張る。そんなセレーネをカノンの方が引っ張って抱き上げた。そうでもしないとカノンを引っ張って飛び出していきそうだったからだ。
「外出許可は本日からですか?」
「はい。セレーネ。カノンの言うことをよく聞いてね。絶対に、カノンから離れちゃ駄目だから。分かった?」
「うん! 早く! 早く!」
「はい。分かりました。では、失礼します」
「行ってきま~す!」
「はい。いってらっしゃい」
元気に手を振るセレーネに、ミレーユも手を振り返した。そして、二人が出て行った後で、深いため息を零す。せっかくなら自分も一緒に外出したいところだが、街の運営における報告書などを処理していかなければならないので、席を立つことが出来ないのだ。
「早く終わらせよう」
せめて、夕食を一緒に取る為に、大急ぎで仕事に取り組んでいく。
そんなミレーユを知らずに、セレーネは自室のベッドに座っていた。そんなセレーネの元に、カノンが服を持ってくる。
「取り敢えず、動きやすい服にしておきましょう」
「うん!」
服を渡されたセレーネは、若干もたもたとしながら着替えていく。普通の着替えであれば、もう自分だけで出来るようになっていた。その間に、カノンもテキパキと準備をしてから鞄を確認する。
「お財布に飲み物、間食、念のための着替え、タオル……取り敢えずは、これで充分かな」
鞄を肩に掛けたカノンの元に着替えたセレーネがやって来る。そして、カノンの事を上から下へと見ていった。
「カノンは着替えないの?」
「はい。こちらの服の方がお嬢様も見つけやすいでしょうから」
カノンは敢えてメイド服のままでいる。普段着に着替えてしまうと、雑踏に紛れてしまい、もし仮にはぐれてしまった場合に見つけにくくなってしまう。それを考慮した結果が、見慣れたメイド服でいる事だった。
「後、顔に赤いの付いてるよ」
「お嬢様とお揃いですね」
「?」
カノンの意図が分からず、セレーネは首を傾げる。そんなセレーネにカノンが手を差し出した。
「それでは参りましょう」
セレーネとカノンは、手を繋いでレッドグラスの街へと繰り出す。初めて屋敷の敷地を出たセレーネは、少々緊張していた。カノンが用意してくれた服のおかげで、封印の刻印のほとんどは隠れているものの顔まで及んでいる部分は見えてしまう。これを見られてどう思われるかという事が怖かったのだ。
無意識に、自分の頬にある紋様を撫でた。それと同時に、カノンの方を向いた。カノンが自分の頬に描いた赤い紋様の答えが分かったからだ。セレーネの視線に気付いたカノンは、微笑みながら目線を合わせるためにしゃがむ。
「どうされました? まだ一歩外に出ただけですよ。ここからが街の本番です。楽しみましょう」
「……うん!」
セレーネに元気が戻り、改めて外への一歩を踏み出す。少し歩くだけで、住人達が闊歩する大通りに出る。
街の喧騒を味わった事のないセレーネは、そこで少し怖く感じ、カノンにくっついた。
「大丈夫ですよ。大通りは、基本的にこんな感じです。屋台などもありますので、ちょっとだけ食べ歩きをしてみますか?」
「食べ歩き?」
「はい。ちょっと行儀が悪いですが、ここら辺の食べ物は歩きながら食べられるように工夫されています。屋敷ではやってはいけませんよ」
「ふ~ん……食べてみる」
セレーネは、カノンの腰にくっついて歩く。そうしてカノンが案内した屋台は、牛串屋だった。
「一本お願いします」
「あいよ!」
カノンがお金を払い、牛串を貰って大通りの端っこに移動する。屋台と屋台の間には、一応スペースがあるので、そこで立ち止まれば迷惑にはならない。
カノンは、その場でしゃがんで、セレーネと目線を合わせる。そして、手を添えながら牛串を差し出す。
「はい。あ~ん」
「あ~んっ……美味しい!」
屋敷で出て来る料理とは異なる味付けをしているため、セレーネにとっては新しい味だ。カノンとしては気に入るか心配だったが、その問題は突破した。
「それは良かったです。喉に串を刺さぬように気を付けて食べてください」
「うん!」
セレーネは牛串一本をあっさりと平らげた。そこに牛串屋の店主が一本の牛串を持ってくる。
「嬢ちゃんの食べっぷりを称えて、一本サービスだ」
「ありがとうございます。お嬢様」
カノンは牛串を受け取り、セレーネの背中に手を添える。それだけで、カノンが何を言いたいのかセレーネも察した。
「あ、ありがとう」
「良いって事よ! いっぱい食べて大きくなりな!」
店主はセレーネの頭を優しく撫でると、屋台に戻っていった。
「よく言えました。半分食べますか?」
「良いの?」
「はい。今日のお昼は外で済ませる事になっていますので」
セレーネが気付かぬ内に、様々な手配をカノンはしていた。通りすがりに知り合いのメイドに言伝を頼んだりと、淀みなく支度を済ませていたのだ。
「じゃあ、食べる」
「では、どうぞ」
セレーネが牛串の半分を食べたところで、カノンももう半分を食べる。そうして出た串のゴミは近くのゴミ箱へと入れる。
「街にゴミ箱があるの?」
「はい。街の衛生管理のために、ゴミが道端に撒き散らされる事を防ぐ目的で設置されています。日に三度ゴミが回収されて処理施設へと運ばれます。処理施設では、ゴミの分別、再利用、焼却などが行われます。人の手だけでやれば大変ですが、魔術を使う事で手間を省いているそうです」
「ふ~ん……どんな魔術なんだろう?」
「大きく出回っているわけではないので、私も詳しいところは分かりませんが、基礎魔術を使っていると言われています」
「先生の研究室?」
「恐らくは関わっていると思います。次の授業の日にお訊きしてみるのも良いかもしれませんね」
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