先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい

月輪林檎

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先祖返りの真祖

とある秘密と自己嫌悪

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 屋敷に着いたところで、セレーネとカノンは一旦部屋に寄ってから浴室へと向かった。身体は拭かれているが、ちゃんと洗った訳では無いからだ。
 その間に、ミレーユ、リーシア、ミーシャは、ミレーユの執務室に来ていた。キリルは、自室に戻り今回の報告書をまとめている。

「それで、今回の件に関しては、どこまで調査が進みましたか?」

 リーシアからそう切り出される。

「先に届けられた首から身元の調査を行っている最中です。それと、カノンが無力化した犯人の意識が回復するのも待っている途中です。一名は間に合いませんでしたが、腹部を貫かれた二名は命を繋ぐ事が出来ましたので。ですが、キリルが送ってくれた物品からある程度分かった事があります。彼らは、この国だけでなく、他の国でも活動している人身売買組織の一員のようです」
「その根拠は?」
「これです」

 そう言って、ミレーユは机に向かう。そこでミレーユが出したのは、小さな袋だった。その中身をテーブルの上に出す。出て来たのは、円形の紋章だった。刻まれているのは、大きな蛇で円周に沿って彫られている。

「これと同じ紋章を持った者が、人身売買をしていたという情報があります。その情報は、一つだけではなく複数あるのです」
「なるほど。それであれば、巨大な人身売買組織という風に考えられますね。ですが、組織の全貌は掴めていないのですね」
「そうですね。詳しい情報までは回ってきていないので、他の街や王都から情報を貰うつもりです」
「他の被害者は、この街の住人でしたか?」
「いえ、別の街の方々でした。行方不明者として、情報が来ていました。全員一致します。既にご家族への連絡を送っていますので、数日中に確認に来ると思います」
「そうでしたか。一応、私の方でも探ってみます。ミーシャは残しておくので、何かあればミーシャにお伝え下さい」
「分かりました。この度はセレーネの救出を手伝って頂きありがとうございました」
「いえ、気にしないで下さい。私にとっても家族のようなものですから。では、今日は失礼します」
「はい。本当にありがとうございました」

 リーシアとミーシャは、屋敷を出て自宅へと帰って行った。それと入れ替わりで、サマンサが入ってくる。

「奥様。遺体安置所の前に大黒猫が居座っているようです。如何為さいますか?」
「一度中に入れてあげましょう。主人に会う事くらいはさせてあげてください。その後は、あの子さえ良ければ家に来てもらいましょう」
「宜しいのですか?」
「はい。雨風が凌げる場所にいる方が良いでしょう。いずれは、飼い主の方もいらっしゃるでしょうから」
「分かりました。その通りに」

 サマンサは決まった事を遺体安置所と大黒猫に伝える為に部屋を出て行った。その後、ミレーユは今回の事の報告書をまとめていく。これはクリムソン家当主であり、ミレーユの夫でもあるラングリドへの報告書だ。情報の伝達にはラグが生じてしまう。そのため、ミレーユはまだセレーネが誘拐されたという情報もラングリドには送っていなかった。
 カノンからの聴取も含めて報告書をまとめて、すぐにでもラングリドに送る。この際、実際に救出に向かったキリルの報告書も同封する。ミレーユには、救出時の情報などがないので、これは必要な事だった。
 またカノンが人を殺めた事に関しては、罰せられる事はなかった。カノン自身が身の危険に晒された事に加えて、人身売買組織が相手という事もあり、そこを考慮した判決となっていた。誰でもこうなるわけではなく、個人間の報復などでは有罪となる事もある。何でも噛んでも許されるという訳では無い。

────────────────────

 カノンが色々な場所に顔を出している間、セレーネは、自分の部屋のベッドで横になっていた。ジッと横になっていると、頭の中で犠牲になった女性達の事が浮かんでくる。あの場では上手く切り替える事が出来ていたが、こうして一人冷静になると、自己嫌悪に陥ってしまう。

「にゃ~」
「ん? うぇっ!?」

 部屋のベッドでゴロゴロとしていたセレーネの上に、大黒猫がのしかかる。絶妙に体重の掛け方を調整しているのかセレーネは完全に潰される事はなかった。

「ちょっと!? お嬢様を潰さないでください!」

 サマンサが一喝すると、大黒猫はセレーネの上から退いて、傍に控えた。そんな大黒猫の頭をセレーネが撫でると、大黒猫は嬉しそうに撫でられる。

「この子どうしたの?」
「ずっと遺体安置所にいて貰う訳にもいきませんので、飼い主が来るまでは屋敷で預かる事になりました。セレーネ様、面倒を見て頂けますか?」
「え? うん。良いけど。私で良いの?」
「はい。奥様から許可は得ています。詳しい事はカノンにお訊き下さい。では、失礼します」
「うん。またね」

 サマンサが部屋を出た後、セレーネは大黒猫にぎゅっと抱きつく。大黒猫は甘えてきている事を理解しているので、セレーネにより密着する。

「ごめんね」
「にゃ~」

 大黒猫に抱きついている間に、その温もりなどもあってセレーネは眠ってしまった。そこに様々な聴取を終えて無罪を勝ち取ってきたカノンが戻ってくる。

「ただいま戻りました。お嬢さ……ま!?」

 ベッドで寝るセレーネとその傍で丸くなっている大黒猫を見て、カノンは目を剥く。そして素早くセレーネに近づき、寝ている事を確認すると、大黒猫の方に近づく。

「あなた、どうしてここにいるの?」

 カノンが訊くと、大黒猫は顔を上げる。

「にゃ~」
「え? ここに住んでも良いって? ああ、ひとまずって事か。でも、何でお嬢様の部屋に?」
「にゃ~にゃにゃ~」
「お嬢様に面倒を見てもらう? ああ、奥様が許可したのね。う~ん……まぁ、確かに情操教育には良いのかな」
「にゃにゃにゃ~」
「え? 何で隠してたって、これはあまり人に知られない……方……が……」

 視線を感じたカノンがベッドに視線を落とすと、目をぱっちりと開けたセレーネと目が合った。カノンは、笑顔のまま冷や汗をかいていた。

「お嬢様……?」
「カノン、この子の言葉分かるの?」

 ばっちり聞かれていた事が確定し、カノンは顔色が真っ青になる。

「い、いえ……いや、はい。分かります」
「何で? 私も分かりたい」

 セレーネは、大黒猫の身体を撫でながら訊く。

「いえ、お嬢様には出来ません。私も猫科の動物に限って分かるというだけですので。ですが、これは秘密でお願いします」
「どうして?」
「この能力は、猫人族の中でも本当に珍しいのです。これがバレると、色々と面倒くさい問題に巻き込まれてしまいますので」

 猫人族の中でも特異な能力が、この猫科との意思疎通だ。猫との意思疎通は猫人族特有のものだが、他の獣人達も似たような能力を持つ存在が生まれる事がある。
 カノンは、この能力を常に隠して生きてきた。今もセレーネが寝ていると思ったから、声で会話をしていたのだ。まさか、普通に起きていたセレーネに聞かれているとは思いもしていなかった。

「ふ~ん……分かった。ねぇ、この子のお世話って何をすれば良いの?」
「私達が用意するのは食事ですね。排泄は外でしに行くでしょうし」
「にゃ~」
「えっ、庭でしては駄目かって? はぁ……奥様に確認して来るから。お嬢様を見ておいて」
「にゃ~」

 カノンは、大黒猫の糞問題を解決するためにカノンはミレーユに確認をしに向かった。その間、セレーネを任された大黒猫は、じっとセレーネを見ていた。

「カノンに任されたからって、じっと見てなくても大丈夫だよ」
「にゃ~」
「う~ん……私も言っている事が分かればなぁ……私の質問に答えてくれる時は分かるから、あまり困らないけどさ」
「にゃ」

 ベッドから降りた大黒猫は、首で背中に乗るように伝える。さっきもしたので、大黒猫の伝えたい事が分かったセレーネは、その背中に乗る。セレーネが乗った事を確認した大黒猫は、セレーネの部屋を走り回った。

「あはははは!」

 大黒猫の背中が楽しく感じ始めたセレーネは、大きく笑う。大黒猫のおかげで、自己嫌悪の思考から解放されていく。次第にセレーネも元気が出ていった。
 その後、帰ってきたカノンから暴れすぎだと叱られる事になるのだが……
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