先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい

月輪林檎

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学園中等部

凶報

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 午前の授業が終わり、セレーネとフェリシアでお昼ご飯を食べていると、息を切らしたレイアーが走ってきた。

「食事中にごめんなさい。二人とも研究室に来てくれる? 大至急で」
「うん」
「分かったわ」

 レイアーは、すぐに研究室へと戻っていった。セレーネとフェリシアも、食事を中断し、残してしまった事を厨房に詫びてから、レイアーの後を追っていった。その途中で、カノン、マリア、ジーニーとも合流する。
 研究室には、ミルズの姿もあった。

「来たか。二人にはキツい事だが聞いて欲しい。シフォンの家が襲われた」
「「!?」」

 セレーネとフェリシアの目が大きく開く。

「家は全焼。家族は亡くなられた。だが、シフォンは生き残った。それでも全身に火傷を負い、現在集中治療中だ。だが、死に至る心配はないらしい」

 セレーネとフェリシアは、安堵して良いのかどうなのか反応に困っていた。シフォンが生き残った事は嬉しいだが、その家族が全員亡くなったというのは、正直喜ばしい事では無い。

「周囲が目撃したところによると、今朝方学園へと向かうシフォンさんが襲われたそうです。その後、家に連れ込まれ、十分もしないうちに放火。周辺住人が動こうとしましたが、脅しを掛けられてしまい、動くに動けなかったそうです。暴行犯と放火犯は、逮捕に至ったようですが、移送中に自殺。シフォンさんへの護衛が配備される事になりました。犯人は二人組。そこから犯人へ依頼した者の特定を急いでいますが、どうなるか」
「そういう事だ。シフォンは、病院にいる。場所はカノンが分かるだろう。午後の授業は免除とする。お前らには必要ないからな。見舞いに行ってもシフォンと話す事は出来ないだろうが、お前達は行きたいだろう」
「ありがとうございます」
「ありがとう! カノン!」
「はい。すぐにご案内します。荷物は教室に置いていきましょう。では、失礼します」

 セレーネ達は、すぐに学園を出て行き、シフォンが治療を受けている病院へと向かっていく。セレーネはカノンが、フェリシアはジーニーが抱える事で移動速度を上げていた。

「病院って一箇所しかないの?」
「いえ、いくつかありますが、集中治療が出来る場所となると場所が限られます。具体的な病院名が出ない場合は、王立病院を指します。王都の住人の中では基本ですね」
「そうなんだ……シフォンは大丈夫だよね?」
「先程の話通りであれば大丈夫なはずです。ですが、それは命の話です。今後定期的な治療が必要になるか後遺症が残るか。集中治療が必要になる場合、この二通りが考えられます。勿論何もなく治療を終えられる可能性もありますが、覚悟はしておいた方が良いでしょう」
「うん……」

 セレーネは、カノンにしがみつく。その背中を撫でながら、カノンは走り続けた。カノンとジーニーは息も切らさずに病院に着いたが、マリアは肩で息をしていた。息を整える暇のないまま、五人は病院内に入っていく。人混みも考えて、セレーネとフェリシアは抱き抱えたままだ。
 代表してカノンが受付に行く。

「すみません。シフォン・コーラルのお見舞いに来たのですが」
「少々お待ちください」

 受付が書類を確認していく。

「失礼ですが、お関係は?」
「友人とその従者です」
「お名前は?」
「セレーネ・クリムソン、フェリシア・ウルトラマリンです」

 セレーネとフェリシアの家名を聞いて、受付は目を見開く。二人が侯爵家、伯爵家というのもあるが、平民であるシフォンに貴族が見舞いとしてくる事が驚いた理由だった。

「失礼致しました。コーラルさんは、現在治療中です。三階の第二集中治療室にいらっしゃいますが、直接面会することは出来ません。外にあるソファでお待ちください」
「ありがとうございます。このまま移動します」
「うん」

 病院内という事もあり、ここからは歩きとなる。ただ、ここで下ろすと逆に邪魔になるという判断で、そのまま第二集中治療室へと移動した。治療室の扉の上には、治療中のランプが点いていた。その前のソファにセレーネとフェリシアを座らせる。マリアは、セレーネの隣に座り寄り添う。これでだけでもセレーネの心労を和らげる事に繋がっていた。

「この治療って、朝から続いてるの?」
「搬送されたタイミングは分かりませんので、何とも言えません。ですが、集中治療は、時間を必要とする事が多く、その可能性も否定出来ません」
「そうなの?」
「同じ認識です。命の危機がないと医者が判断したという事は時間を掛ければ、脱する事が出来るという事になります。ですが、それでも治療が失敗する可能性は残っています。油断は出来ません」

 カノンとジーニーの認識は一致していた。集中治療は、集中して治療を続けなければないことを指す。それを施せば、命の危機を脱する事が出来ると判断されれば、命の危機はないという風に扱われる。だが、ここで万が一失敗すれば、その限りではない。その可能性は低いがゼロではないのだ。
 カノンとジーニーは立って控える。セレーネとフェリシアは、互いに寄り添う。マリアはセレーネと手を握る。セレーネは、少し泣きそうになっていたが、二人のおかげで持ち堪えていた。
 それから一時間が経つと、治療中のランプが消えた。それを見て、セレーネとフェリシアが立ち上がる。すると、治療室から緑色の服を着た医者が出て来た。医者は、そこにいるセレーネ達を見て近づく。

「彼女の親戚の方々ですか?」
「ううん。友達。シフォンは……?」
「治療は成功しました。ですが、火傷の跡が残ってしまいますので、継続的な治療は必要になります。そして、ご家族が亡くなった事で治療費などの問題もございます。彼女の親類に心当たりはありませんか?」
「ううん。治療費は家で請け負うよ。クリムソン侯爵家に請求して」

 セレーネは即答で治療費を払うと言った。ラングリドやミレーユへの交渉はまだだが、自分の小遣いから出しても良いと考えている。それも見ようによっては、クリムソン家の金だ。嘘は言っていない。
 医者は、クリムソンの家名を聞いて驚く。

「なるほど。分かりました。これから彼女を入院棟に移動させますので、付いていってください」
「うん」

 移動用簡易ベッドに乗せられたシフォンが出て来る。セレーネとフェリシアは、すぐにシフォンの元に飛びついた。シフォンは眠ったまま起きない。だが、息をしている事が分かり、セレーネとフェリシアは、ひとまず安堵した。だが、その身体に刻まれた火傷の跡を見て、歯を食いしばっていた。

「意識はいつ頃戻るのでしょうか?」

 セレーネ達がシフォンに付いていく中で、カノンが医者に訊いた。

「それは私にも分かりません。ただ、火事に巻き込まれる前に暴行を受けていたようです。骨折などもあり、内臓への損傷も見られました。そちらの治療も済んでいますので、ご安心を」
「そうですか……ありがとうございます」

 お礼を言ってから、カノンもセレーネ達を追っていった。シフォンの病室は、個室になっていた。これは、セレーネがそう要求したからだ。シフォンが狙われている可能性もあるので、個室の方が安全と考えたからだ。
 シフォンには点滴が繋げられる。寝顔は穏やかだが、目を覚ます気配はない。セレーネとフェリシアは、シフォンの手を握る。そんな病室にミレーユが来た。

「お母様?」
「セレーネ? 学園はどうしたの?」
「早退して良いって。後、シフォンの治療費なんだけど……私の小遣いから出せない?」
「それは家から出すから安心して」
「ありがとう」

 ミレーユは、セレーネの頭を優しく撫でる。

「カノン、この子の護衛をお願い出来ますか?」
「はい」
「しばらくは、マリアがセレーネのお世話をお願い」
「はい。お任せ下さい」

 他にも護衛を付ける事になっているが、ミレーユは、それと同時にカノンも護衛に付ける事にした。カノンの優秀さを信じての事だった。カノンには、更にシフォンの見守りが仕事として追加される。その間、セレーネの世話はマリアに一任される事になる。それでも問題はないという事をミレーユは知っているからこその判断でもあった。

「それじゃあ、私は失礼するわ。今日は早退でも良いけれど、明日からは学園に行きなさい。お見舞いは放課後にする事。心配するのは仕方ないけれど、ずっと学園を休み続けるのは駄目よ」
「うん……分かった」

 ミレーユはそれだけ言うと、病室を出て行った。担当医からシフォンが負った怪我の状態を聞くためだ。
 セレーネ達も面会時間終わりまで、病室にいたが、シフォンが目を覚ます事はなかった。セレーネ達は、カノンを置いてそれぞれの家に帰る事になる。
 そして、翌日からそれぞれの日常が戻っていった。
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