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成長する王女
治療
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朝の授業を終え、昼食の時間になった。マリー達はクラス内で、食事をとっている。
「とんだ目に遭ったよ」
「自業自得だったがな」
やれやれという風に首を振っていたマリーに、ジト眼になったアルがツッコんだ。実際、授業中に何かを考えふけって、ぼーっとしていたマリーが悪いのだ。
「お母さんも、あんなに怒らなくてもいいじゃんね。死ぬかと思ったよ」
カーリーの怒鳴り声は、学院を揺らすほどに凄かった。昔から、カーリーの怒鳴り声は変わらない。周りにいる事情を知らない人が、その声を聞いて反射的に「ごめんなさい!」と言った程だ。
「何か考えていたようだが、思いついたのか?」
「ううん。むしろ、難しくなっていたところ。先生の話で、一つの手段が完全に消えたからね」
「そうなのか。義肢作りは難航しそうだな」
アルの言うとおり、マリーの義肢作りは装着の部分で難航中だった。考えていた方法の一つも朝の授業で、絶対に使えないことが確定してしまった。
「はぁ、マリーの徹夜は続きそうだね」
コハクがため息をつきながらそう言った。一緒にご飯を食べているSクラスの皆も同時に頷く。
「皆で同じ意見だなんて、私だって学習するんだから、頻度は減るかもしれないじゃん!」
「結局なくならないってことなんじゃ……」
アイリが痛いところを突く。マリーは、胸を張って宣言していたところでそう言われて、頬に汗が流れる。
「まぁ、どうせ、その度にカーリー殿に怒られるんだ。その内、やめるだろう」
「それでも懲りずにやって、今の状態になったとも言えるけどね」
「リンくんまで、そんな事言う。でも、あと何回かは徹夜になるだろうから、その通りだけど」
「マリーさん、頑張るのはいいですけど、もっと自分の身体を大事にしないとですわよ。それと、口にソースがついてますわ」
そう言われて、マリーは、リリーに口を拭かれる。
「むぐっ。ありがとう、リリー」
「はぁ……これではどっちが姉なのか分からないな」
ここで、大声を出すわけにもいかないので、マリーは頬を膨らませることで不満を伝える。
そんなこんなで、いつも通りの光景が続いていた。ここまでは……
「ん? なんか、外が騒がしくない?」
セレナが、窓の外を見に行きながら言う。マリー達もつられて窓の方に向かう。そこには、学院にいるほとんどの先生が集まっていた。さらに、生徒の姿も見える。その生徒達は皆、大なり小なり怪我をしていた。
「Bクラスか。確か、昨日から野外演習だったな。あの分だと、相当やばい魔物に出会ったのか。だが、Bクラスの演習地は……」
「確か、東の森、ラファイアンスの森だったけ? あまり、深くない森だよね。魔物も弱いし、少ないって聞いた気がするけど」
アルとマリーは、何故Bクラスが怪我をしたのかを考え始めた。
「私達と同じなのかな?」
アイリが少し心配そうに言う。アイリが言っているのは、また王族が関わっているのではということだ。
「それは無いと思うよ。そうするメリットは無いからね。だから、恐らく本当のイレギュラーだ」
「私もそう思いますわ。お父様も何の関係もない生徒を巻き込みはしないでしょうし」
リンとリリーが、アイリの言葉を否定する。
「あれから、手紙であの事を知らせましたけど、私を心配したくらいで、何も言ってきませんでしたわ」
「だろうね。マリーの事は、リリーにもっていうか、全王国民に知られちゃいけないからね」
コハクの言うとおり、マリーの出生だけは国民の誰にもバレてはいけないほどの重大な秘密なのだ。事は、王族の信用に関わる。
「でも、何が出たんだろう? 付き添いに行っていた先生も怪我をしているし」
セレナが、怪我をしている先生を見つけてそう言う。皆もそちらを見る。
「かすり傷だけではないな。一部に大きな傷も見える」
「先生でも苦戦する魔物、あるいは苦戦する状況になったっていうことだよね」
「だろうな」
マリーとアルがそう話していると、教室のドアが勢いよく開く。
「君達! 手伝ってくれ! 人手が足りないんだ!」
入ってきたのは学院の教師の一人だった。マリー達は、本当にただ事では無いことを感じ、一斉に外に出る。窓から……
「え、いや、そこまで急がなくても……! いや、急いでは欲しいけど……」
マリー達がいなくなった後で、教師が目を丸くしながらそう言った。
マリー達は、地面近くまで来ると、セレナが起こした風により軟着陸し、すぐに近くにいるカレナの元に向かった。
「先生! 手伝いに来ました!」
「マリーさん、皆さんも。助かります。怪我人が多いので、トリアージを。授業で一通り説明したので、分かりますね」
『はい!』
マリー達は、カレナから赤、黄、緑、黒のタグを貰い、生徒の元に走る。
トリアージとは、患者の重症度に応じて、治療の優先順位を付けることを言う。赤なら命に関わってくるほどの重傷を負っている者。黄なら赤ほどの怪我では無く、意識もある状態だが、赤になる可能性がある者。緑なら歩行可能で、すぐの処置が必要ない者、あるいは無傷の者。黒は、死亡または絶対に助かることが無い者を指す……
このトリアージも、カレナが教科書に無い内容から、マリー達にも必要になると考えて教えておいたものだ。
マリー達は患者が寝かされている場所を走り回り、その怪我の具合を確認して。タグを巻いていく。赤を付けられた生徒から、先生達が治療を開始していく。幸いなことに、黒のタグを付ける事は無かった。
マリー達が手分けして行うことで、かなり早く患者の選別が終わった。
「マリー! こっちに来て手伝っておくれ!」
「うん!」
カーリーに呼ばれて、マリーが走る。他の全員も他の患者の治療を手伝っている。
「魔法での止血は、限界があるさね。手術で血を止めていくよ」
「分かった。その間、麻酔を掛けるって事だね。それなら、全員同時が良さそうだね」
「無理しない程度にしな。マリーが倒れたら意味が無いからね」
「うん!」
マリーは、腰のポーチを開ける。
「『剣唄・鎮魂歌』!」
ポーチから剣が五本飛び出した。そして、頭上で回転し、音が鳴り始める。その音は、寝かされている患者の全てに聞こえている。それこそ、意識の無い患者にも。
「苦しそうな顔が、和らいでいく……」
「治ったわけではありません! 感覚が遠くなっているだけです! 今のうちに止血を!」
「わ、わかった!」
マリーは、剣唄を持続させながら、カーリーの手術を手伝っていく。
「!! マリー、緊急止血!!」
「わかった!」
出血量が多くなったため、急遽、魔法による止血をする。それでも出血が全部止まる訳では無い。その間に、カーリーが外科処置を続け、止血と傷口の縫合を済ませる。
「終わった。次に行くよ!」
「うん!」
カーリーとマリーの二人は、次々に患者を治療していく。
「早い。これが大賢者様……」
「あらゆる知識に精通し、それを使いこなすことが出来る天才。故に、大賢者……」
他の治療をしていた先生達までその早さに唖然としている。
「ぼけっとしてないで働きな!!」
『は、はい!』
その先生達にカーリーの雷が落ちる。
「カーリー先生! こちらに!」
他の先生が呼び掛け、カーリーとマリーはそちらに走っていく。
「!!」
そこにいたのは、片腕のない少女だった。その少女は、マリーも見た事がある少女だった。
「あの時の店員さん……」
そう、マリー達が観光していたときに入った詐欺武具店の元店員だったのだ。名前をマニカと言う。
「知り合いかい?」
「観光したときに、ちょっと会っただけだよ」
「そうかい。この子の腕は?」
「魔物に食べられてしまい……」
「はぁ、なら、この状態で縫合だね」
カーリーは、手術を開始する。
「マリー! 麻酔を強めな!」
「分かった!」
マリーは、『鎮魂歌《レクイエム》』の威力はそのままに、別で麻酔となる魔法を掛けていく。
「血が足りなさそうだね」
「血液を調べるね」
マリーは、マニカの血液に分析魔法分析《アナライズ》を掛ける。鑑定の下位互換の魔法で、簡単な分析が出来る。
「後は、この血の情報に合う血を探すだけだね」
マリーは、学院に置いてある輸血袋から、マニカに合う血を探し出しマニカに輸血していく。
「手術は終わったさね」
マニカの腕は、完全に縫合出来た。容態も安定しているので、カーリーとマリーは、次の患者の元へ向かう。
「あの子以上の重傷患者はいないね」
「流石に腕を元に戻すなんて出来ないよね?」
「そうさね。腕を生やすことは、どんな魔法でも無理さね。出来る事と言えば、千切れた腕をつなぎ合わせることだけだよ」
「やっぱり、義手が必要になるかな……」
マリーがぼそっと言った事を、カーリーは聞き逃さなかった。
「マリーが今作っているものの、試着を頼んでみるといいさね」
「……気付いてたの?」
マリーは、カーリーが自分の作っているものに気付いていることに驚いた。
「今、気付いただけさね。何かあれば、すぐに言いな。事が事だから、アドバイスくらいはするさね」
「うん! 頑張る!」
「そうするといいさね。さぁ、この子の手術も終わりだ。次の子に行くよ」
「うん!」
マリー達は話している最中も、生徒達の治療を進めていた。Bクラスは、Aクラス以上に生徒がいるため、治療が必要になる生徒も多くなる。だが、マリー達の助力もあり、重傷者の治療が、かなり早く終わった。
「後は、軽傷者の治療だけさね」
「良かったぁ。死人はゼロだね」
「よく頑張ったさね。もう、解いても平気だよ」
カーリーがマリーの頭を撫でながら、労う。マリーは、カーリーに褒められたのが嬉しく、笑顔になる。そして、剣唄を解除し、ポーチにしまう。
「マリーは、魔力量は大丈夫かい?」
「まだ、少し余裕があるよ」
「なら、魔法は使わないで、薬での治療だけ担当するさね」
「え? まだ、大丈夫だよ?」
「そう言って、無理をするのが、マリーの悪いところさね。薬での治療を担当。わかったかい?」
「……うん。わかった」
マリーは、治療箱を持って軽傷者の元まで走る。魔法による治療が必要ない人に、薬を塗って包帯を巻いていく。
「これで大丈夫です。ですが、無理に動かさないようにしてくださいね」
「ああ、ありがとう」
「いえ、では」
マリーは、次々に患者の元に向かう。アル達も同様に軽傷者の治療をしていた。そして、何時間も掛かって、ようやく全怪我人の治療が終わった。
「とんだ目に遭ったよ」
「自業自得だったがな」
やれやれという風に首を振っていたマリーに、ジト眼になったアルがツッコんだ。実際、授業中に何かを考えふけって、ぼーっとしていたマリーが悪いのだ。
「お母さんも、あんなに怒らなくてもいいじゃんね。死ぬかと思ったよ」
カーリーの怒鳴り声は、学院を揺らすほどに凄かった。昔から、カーリーの怒鳴り声は変わらない。周りにいる事情を知らない人が、その声を聞いて反射的に「ごめんなさい!」と言った程だ。
「何か考えていたようだが、思いついたのか?」
「ううん。むしろ、難しくなっていたところ。先生の話で、一つの手段が完全に消えたからね」
「そうなのか。義肢作りは難航しそうだな」
アルの言うとおり、マリーの義肢作りは装着の部分で難航中だった。考えていた方法の一つも朝の授業で、絶対に使えないことが確定してしまった。
「はぁ、マリーの徹夜は続きそうだね」
コハクがため息をつきながらそう言った。一緒にご飯を食べているSクラスの皆も同時に頷く。
「皆で同じ意見だなんて、私だって学習するんだから、頻度は減るかもしれないじゃん!」
「結局なくならないってことなんじゃ……」
アイリが痛いところを突く。マリーは、胸を張って宣言していたところでそう言われて、頬に汗が流れる。
「まぁ、どうせ、その度にカーリー殿に怒られるんだ。その内、やめるだろう」
「それでも懲りずにやって、今の状態になったとも言えるけどね」
「リンくんまで、そんな事言う。でも、あと何回かは徹夜になるだろうから、その通りだけど」
「マリーさん、頑張るのはいいですけど、もっと自分の身体を大事にしないとですわよ。それと、口にソースがついてますわ」
そう言われて、マリーは、リリーに口を拭かれる。
「むぐっ。ありがとう、リリー」
「はぁ……これではどっちが姉なのか分からないな」
ここで、大声を出すわけにもいかないので、マリーは頬を膨らませることで不満を伝える。
そんなこんなで、いつも通りの光景が続いていた。ここまでは……
「ん? なんか、外が騒がしくない?」
セレナが、窓の外を見に行きながら言う。マリー達もつられて窓の方に向かう。そこには、学院にいるほとんどの先生が集まっていた。さらに、生徒の姿も見える。その生徒達は皆、大なり小なり怪我をしていた。
「Bクラスか。確か、昨日から野外演習だったな。あの分だと、相当やばい魔物に出会ったのか。だが、Bクラスの演習地は……」
「確か、東の森、ラファイアンスの森だったけ? あまり、深くない森だよね。魔物も弱いし、少ないって聞いた気がするけど」
アルとマリーは、何故Bクラスが怪我をしたのかを考え始めた。
「私達と同じなのかな?」
アイリが少し心配そうに言う。アイリが言っているのは、また王族が関わっているのではということだ。
「それは無いと思うよ。そうするメリットは無いからね。だから、恐らく本当のイレギュラーだ」
「私もそう思いますわ。お父様も何の関係もない生徒を巻き込みはしないでしょうし」
リンとリリーが、アイリの言葉を否定する。
「あれから、手紙であの事を知らせましたけど、私を心配したくらいで、何も言ってきませんでしたわ」
「だろうね。マリーの事は、リリーにもっていうか、全王国民に知られちゃいけないからね」
コハクの言うとおり、マリーの出生だけは国民の誰にもバレてはいけないほどの重大な秘密なのだ。事は、王族の信用に関わる。
「でも、何が出たんだろう? 付き添いに行っていた先生も怪我をしているし」
セレナが、怪我をしている先生を見つけてそう言う。皆もそちらを見る。
「かすり傷だけではないな。一部に大きな傷も見える」
「先生でも苦戦する魔物、あるいは苦戦する状況になったっていうことだよね」
「だろうな」
マリーとアルがそう話していると、教室のドアが勢いよく開く。
「君達! 手伝ってくれ! 人手が足りないんだ!」
入ってきたのは学院の教師の一人だった。マリー達は、本当にただ事では無いことを感じ、一斉に外に出る。窓から……
「え、いや、そこまで急がなくても……! いや、急いでは欲しいけど……」
マリー達がいなくなった後で、教師が目を丸くしながらそう言った。
マリー達は、地面近くまで来ると、セレナが起こした風により軟着陸し、すぐに近くにいるカレナの元に向かった。
「先生! 手伝いに来ました!」
「マリーさん、皆さんも。助かります。怪我人が多いので、トリアージを。授業で一通り説明したので、分かりますね」
『はい!』
マリー達は、カレナから赤、黄、緑、黒のタグを貰い、生徒の元に走る。
トリアージとは、患者の重症度に応じて、治療の優先順位を付けることを言う。赤なら命に関わってくるほどの重傷を負っている者。黄なら赤ほどの怪我では無く、意識もある状態だが、赤になる可能性がある者。緑なら歩行可能で、すぐの処置が必要ない者、あるいは無傷の者。黒は、死亡または絶対に助かることが無い者を指す……
このトリアージも、カレナが教科書に無い内容から、マリー達にも必要になると考えて教えておいたものだ。
マリー達は患者が寝かされている場所を走り回り、その怪我の具合を確認して。タグを巻いていく。赤を付けられた生徒から、先生達が治療を開始していく。幸いなことに、黒のタグを付ける事は無かった。
マリー達が手分けして行うことで、かなり早く患者の選別が終わった。
「マリー! こっちに来て手伝っておくれ!」
「うん!」
カーリーに呼ばれて、マリーが走る。他の全員も他の患者の治療を手伝っている。
「魔法での止血は、限界があるさね。手術で血を止めていくよ」
「分かった。その間、麻酔を掛けるって事だね。それなら、全員同時が良さそうだね」
「無理しない程度にしな。マリーが倒れたら意味が無いからね」
「うん!」
マリーは、腰のポーチを開ける。
「『剣唄・鎮魂歌』!」
ポーチから剣が五本飛び出した。そして、頭上で回転し、音が鳴り始める。その音は、寝かされている患者の全てに聞こえている。それこそ、意識の無い患者にも。
「苦しそうな顔が、和らいでいく……」
「治ったわけではありません! 感覚が遠くなっているだけです! 今のうちに止血を!」
「わ、わかった!」
マリーは、剣唄を持続させながら、カーリーの手術を手伝っていく。
「!! マリー、緊急止血!!」
「わかった!」
出血量が多くなったため、急遽、魔法による止血をする。それでも出血が全部止まる訳では無い。その間に、カーリーが外科処置を続け、止血と傷口の縫合を済ませる。
「終わった。次に行くよ!」
「うん!」
カーリーとマリーの二人は、次々に患者を治療していく。
「早い。これが大賢者様……」
「あらゆる知識に精通し、それを使いこなすことが出来る天才。故に、大賢者……」
他の治療をしていた先生達までその早さに唖然としている。
「ぼけっとしてないで働きな!!」
『は、はい!』
その先生達にカーリーの雷が落ちる。
「カーリー先生! こちらに!」
他の先生が呼び掛け、カーリーとマリーはそちらに走っていく。
「!!」
そこにいたのは、片腕のない少女だった。その少女は、マリーも見た事がある少女だった。
「あの時の店員さん……」
そう、マリー達が観光していたときに入った詐欺武具店の元店員だったのだ。名前をマニカと言う。
「知り合いかい?」
「観光したときに、ちょっと会っただけだよ」
「そうかい。この子の腕は?」
「魔物に食べられてしまい……」
「はぁ、なら、この状態で縫合だね」
カーリーは、手術を開始する。
「マリー! 麻酔を強めな!」
「分かった!」
マリーは、『鎮魂歌《レクイエム》』の威力はそのままに、別で麻酔となる魔法を掛けていく。
「血が足りなさそうだね」
「血液を調べるね」
マリーは、マニカの血液に分析魔法分析《アナライズ》を掛ける。鑑定の下位互換の魔法で、簡単な分析が出来る。
「後は、この血の情報に合う血を探すだけだね」
マリーは、学院に置いてある輸血袋から、マニカに合う血を探し出しマニカに輸血していく。
「手術は終わったさね」
マニカの腕は、完全に縫合出来た。容態も安定しているので、カーリーとマリーは、次の患者の元へ向かう。
「あの子以上の重傷患者はいないね」
「流石に腕を元に戻すなんて出来ないよね?」
「そうさね。腕を生やすことは、どんな魔法でも無理さね。出来る事と言えば、千切れた腕をつなぎ合わせることだけだよ」
「やっぱり、義手が必要になるかな……」
マリーがぼそっと言った事を、カーリーは聞き逃さなかった。
「マリーが今作っているものの、試着を頼んでみるといいさね」
「……気付いてたの?」
マリーは、カーリーが自分の作っているものに気付いていることに驚いた。
「今、気付いただけさね。何かあれば、すぐに言いな。事が事だから、アドバイスくらいはするさね」
「うん! 頑張る!」
「そうするといいさね。さぁ、この子の手術も終わりだ。次の子に行くよ」
「うん!」
マリー達は話している最中も、生徒達の治療を進めていた。Bクラスは、Aクラス以上に生徒がいるため、治療が必要になる生徒も多くなる。だが、マリー達の助力もあり、重傷者の治療が、かなり早く終わった。
「後は、軽傷者の治療だけさね」
「良かったぁ。死人はゼロだね」
「よく頑張ったさね。もう、解いても平気だよ」
カーリーがマリーの頭を撫でながら、労う。マリーは、カーリーに褒められたのが嬉しく、笑顔になる。そして、剣唄を解除し、ポーチにしまう。
「マリーは、魔力量は大丈夫かい?」
「まだ、少し余裕があるよ」
「なら、魔法は使わないで、薬での治療だけ担当するさね」
「え? まだ、大丈夫だよ?」
「そう言って、無理をするのが、マリーの悪いところさね。薬での治療を担当。わかったかい?」
「……うん。わかった」
マリーは、治療箱を持って軽傷者の元まで走る。魔法による治療が必要ない人に、薬を塗って包帯を巻いていく。
「これで大丈夫です。ですが、無理に動かさないようにしてくださいね」
「ああ、ありがとう」
「いえ、では」
マリーは、次々に患者の元に向かう。アル達も同様に軽傷者の治療をしていた。そして、何時間も掛かって、ようやく全怪我人の治療が終わった。
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