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マリーの進む道
二週間の重さ
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後方拠点で、物資の分配をしていたアルは、苛立ちを覚えていた。普段は、そういった感情を表に出さないアルだが、今はコハクやリリーにも分かるくらいに表に出ていた。
「アルさん……苛々してますの……」
「まぁ、ずっとここで仕分けばかりしてるしね。早くマリーを助けに行きたいんじゃないかな?」
「気持ちは分かりますが、どうやっても行けませんでしたわ。何か方法はありますの?」
「補給部隊に紛れ込めばって感じだけど、一つ違和感があるんだよね」
「なんですの?」
「マリーがいる右翼への補給が、全然行われている感じがしないの」
この二週間、コハクは仕分けをしながら、それがどこに送られているかを確認していた。最初こそ補給が行われていたが、昨日はその補給がされていなかったのだ。
「それは……」
「多分ね」
国王の名前は出せないので、曖昧な言葉しか出せなかったが、コハクもリリーが言いたい事を察して答えた。
「じゃあ、ここから抜け出して、右翼に行くしか無いですわ」
「そうだけど、抜け出すタイミングは、夜には見回りがいるんだよ?」
「そうですけど……」
コハク達がそう話していると、セレナとアイリが近寄ってきた。
「ねぇ、嫌な事を聞いたんだけど、右翼からの報告が上がってこないんだって」
セレナの言葉に、コハクとリリーの表情が曇る。右翼から報告が上がってこないという事は、右翼側で何かトラブルがあったか、既に全滅してしまったかの二択になるからだ。だが、魔族がここまで攻めてこない点から、後者の可能性は低いと考えられた。
「もう猶予は無い気がするの。だから、今夜抜け出さないかなって……」
アイリの提案に、コハク達が頷かないという選択肢はなかった。
「それじゃあ、アルくん達にも言ってくる」
そう言ってセレナ達はアル達の方に向かって行った。コハクとリリーは、仕分けの手を止めなかった。だが、さっきまでよりも覚悟が決まったような表情をしていた。
────────────────────────
その日の夜中。コハク達は一箇所に集まっていた。
「武器は持ったな。俺達は、今、戦場に向かおうとしている。魔族と戦闘になる可能性は高い。本当に覚悟は良いか?」
アルは、全員の顔を見て、最後の確認をしていた。コハク達は、頷いて返事をする。それを見て、アルも頷き、行動を開始する。まず初めに、この場を突破する必要がある。突然の魔族襲来に備えて、陣地では見回りがいる。それが、一人二人であればいいのだが、ここには、十人以上の見回りがいる。
念のため、アイリが隠蔽を掛けているので、見付かる確率は減っている。だが、それでも絶対に見付からない訳じゃない。
慎重に慎重を重ねて、周囲を警戒しながら、進んで行き、何とか後方拠点を脱する事に成功した。それでも、アル達は油断せず、後衛拠点から距離を取って、ようやく詰まっていた息を吐いた。
「はぁ……ようやく抜け出せたね」
アイリも安堵する。
「アル、右翼が張っている陣がどこにあるかは……?」
「分かっているが、定期的な報告がないことを考えると、後退している事も考えられる。そっちを見に行きながら、陣があるはずの場所に向かう」
「分かった。最後尾は、僕が行くから、皆はアルに付いていって」
アルを先頭にコハク達は、マリーの元へと急いだ。大切な友人の無事を信じて。
────────────────────────
一晩歩いて、夜が明ける頃。アル達は、マリーがいるはずの陣に辿り着いた。アル達は、少し後方に移動したという事よりも、その陣周辺の凄惨な状態に言葉を失っていた。そこには、いくつもの血と魔族の死体が積み重なっている。とても衛生的とは言い難い状態だった。
陣周辺に張り巡らされた壁に沿って移動していくと、入口に立っているザリウスと鉢合わせた。ザリウスの身体には、浅くない傷が複数付いている。しっかりと治療はされているが傷自体は残っていた。特に深い傷は、片目に走った傷だろう。ギリギリで眼球に当たらない位置だったため、失明は免れていた。この事から、ここの戦いが激しかったと分かる。
ザリウスは、すぐにアル達に気が付いた。
「お前達……いや、用件は分かっている。取り敢えず、中に入って、叱られてこい」
「え……あ、はい」
コハクはそう返事をしながら中に入っていく。その後をアル達も追っていった。
「叱られてこいって、誰になんだろう?」
アイリは、ザリウスの言葉が気になっていた。普通に考えれば、マリーにというところだが、アルの考えは違った。
「これは……もしかしたら、カーリー殿か先生がいるのかもしれないな」
「うっ……いや、説教は、ちゃんと受けよう……」
「そうだね。マリーのためだもん」
カーリーからの説教を受ける覚悟をしたコハク達は、陣の中を進んで行く。陣の中には、多くの軍人がいたが、全員無事とは言い難かった。怪我をしていない者など一人もいないのだ。それどころか腕や脚を失っている者も少なくない。だが、その全員が、簡易的な義手や義足を着けていた。これのおかげで、まだ戦う事も出来ているのだ。
「おぉ! マリーちゃん! こっちに来てくれ!」
「は~い!」
アル達の耳にそんな声が聞こえた。アル達は、その声が聞こえた方に急いで向かう。そこには、一人の軍人の義手を調整しているマリーの姿があった。
「すまねえな」
「いえいえ、私が作ったものですから。これでどうですか?」
「ん……おお! バッチリだ! 助かったぜ!」
「良かったです。また、不調があれば言って下さい」
「おうよ! ありがとうな!」
調整を終えたマリーが立ち上がり、アル達がいる方を見た。アル達の事を見つけたマリーは目を丸くしていた。だが、すぐに眉を寄せながら、皆に近づく。その足音に金属音が混じっていた。
「ちょっと! 皆、何でこんなところにいるの!? 全く、今は危険なんだよ!?」
そう言って、マリーが怒っているが、アル達はそれどころではなかった。怒っているマリーの左脚は、元のマリーの脚ではなく、金属で出来た義足になっていたからだ。
「聞いてるの!? もう! 先生!!」
マリーがそう呼ぶと、塹壕の中からカレナが出て来た。
「どうしましたか……って、皆さん!? こんなところで何をしているんですか!?」
カレナもマリー同様に顔を顰めて、アル達に近づく。
「取り敢えず、こっちに来なさい!!」
そう言って、全員を陣の隅に連れて行き、カレナが説教を始める。マリーも説教に参加しようと思っていたが、他の人の義手義足を調整する為に陣の中を回りに向かったので、参加は出来なかった。
カレナの三十分程の説教が終わると同時に、マリーが戻ってくる。
「取り敢えず、来てしまったものは仕方在りません。これから戦闘が始まるので、皆さんは陣の中で待機していてください。マリーさん、皆さんをサイラさんの元に」
「はい。分かりました。ほら、皆、付いてきて」
マリーの先導に従って、アル達も歩き始める。最初に口を開いたのは、アルだった。
「マリー」
「脚は、五日前くらいの夜に失ったの。ソフィが守ってくれたんだけど、ちょっと大規模な攻撃があってね。寧ろ、ソフィのおかげで、片脚で済んだって感じ。材料自体は、色々なところからかき集められたから、作るのに苦労はあまりしてないけど、数が数だからね。マニカのみたいな凝った作りは出来なかったんだ。一応、戦闘に耐えられるくらいにはしているけどね
名前を呼ばれただけで、何を訊きたいのか察したマリーは、義足になった経緯を話した。何でもないようにそう言うマリーに、アル達は言葉も出なかった。
そんな中で、マリーは、塹壕の中の一室の前で止まり、壁を強めに叩いた。
「サイラ先輩。マリーです。ちょっと複数人で中に入りますね」
「うん。どうぞ」
その返事を受けて中に入るマリーの後に続いて、アル達も中に入った。そして、その場でアル達は息を呑む事になる。
何故なら、サイラの目に包帯が巻かれていたからだ。
「調子はどうですか?」
「うん。マリーちゃんと先生のおかげで痛みとかはないよ。それに、マリーちゃんの魔道具のおかげで、周囲の空間がある程度認識出来るから、不安も減ったかな」
「それは良かったです。そちらの不調はありませんか?」
「うん。ちょっと雑音……って言うのかな? 乱れる感じがするけど、認識は出来るから」
「そうですか……すみません。街に戻ったら、改良したものを作りますね」
「うん。ありがとう」
サイラは、マリーの方に手を伸ばす。マリーは、すぐにその手を掴む。すると、サイラが引っ張るので、前に出てサイラを抱きしめる。サイラもマリーの背中に手を回す。握手よりもこの形の方が、サイラは安心出来るのだ。
「あ、そうだ。実は、私のクラスメイトが、こっちに来ちゃって。しばらく一緒にいてもらっても良いですか?」
「うん。大丈夫だよ。気を付けてね」
「はい」
サイラから離れたマリーは、アル達に近づく。
「それじゃあ、皆は、ここに待機してて。もしかしたら、中に魔族が入ってくるかもだから、その時は、先輩と一緒に逃げて」
「いや、俺達も戦うぞ」
「えぇ~……じゃあ、アルくんとリンくんだけね。コハク達は、サイラ先輩といて」
「わ、私もマリーを助けに来たのに……」
そう言って、刀を握るコハクにマリーは近づいていく。
「コハクを頼りにしていないわけじゃないよ。でも、ここの戦いは、本当に危険だから。コハクは、サイラ先輩を守って」
「でも……」
尚も食い下がろうとするコハクを、マリーが抱きしめる。
「今は駄目。アルくん達は騎士団の家系だから、色々な経験があるけど、コハク達は、まだ戦争を経験してないんだから。今は、ここにいて。すぐに頼るようになるから」
マリーはそう言って、コハクを放す。コハクは、マリーの頼みに頷いた。
「分かった」
「ありがとう。リリー達もここにいてね」
「マリーさん……その……」
リリーが、少しまごまごとしていると、マリーが頬を摘まむ。
「ここに来た事は怒ってるけど、嬉しくないわけじゃないよ。私からの説教は、また後でね」
マリーはそう言うと、部屋を出て行った。アル達もその後に続く。
「皆、そんなに落ち込まないで」
マリーがいなくなった後で、サイラがコハク達にそう言う。
「マリーちゃんは、本当に嬉しくないわけじゃないの。不用意に戦場に出れば、どうなってしまうのかを身をもって知ってしまったから、皆にそんな思いをして欲しくないんだと思う」
「はい。分かってます……」
コハクの返事に、サイラは満足げに頷く。
「それなら良かった。あ、そうだ。私が目を失っているからって、こっそり抜け出そうとしても駄目だからね。マリーちゃんの魔道具のおかげで、ある程度皆の位置は分かるから」
口で笑いながらそう言うサイラに、コハク達は、少し顔を強張らせる。皆の様子が変な事に気付いたサイラは、両手を叩く。
「ああ、何で目を失ったのかって事ね。後輩が危ないって状況で助けに入ったら、少しドジしちゃってね。風刃を目に喰らっちゃったの。後輩は助かったから、良かったんだけど、この状態じゃ戦えなくてね。皆に迷惑を掛けちゃっているんだ」
勘違いをして、サイラは、自分自身の事を話す。それを聞いて、益々全員の表情が硬くなる。
(あれ? 掴みの話、失敗しちゃったかな? さすがに、重すぎたか……)
これには、サイラも反省していた。
「アルさん……苛々してますの……」
「まぁ、ずっとここで仕分けばかりしてるしね。早くマリーを助けに行きたいんじゃないかな?」
「気持ちは分かりますが、どうやっても行けませんでしたわ。何か方法はありますの?」
「補給部隊に紛れ込めばって感じだけど、一つ違和感があるんだよね」
「なんですの?」
「マリーがいる右翼への補給が、全然行われている感じがしないの」
この二週間、コハクは仕分けをしながら、それがどこに送られているかを確認していた。最初こそ補給が行われていたが、昨日はその補給がされていなかったのだ。
「それは……」
「多分ね」
国王の名前は出せないので、曖昧な言葉しか出せなかったが、コハクもリリーが言いたい事を察して答えた。
「じゃあ、ここから抜け出して、右翼に行くしか無いですわ」
「そうだけど、抜け出すタイミングは、夜には見回りがいるんだよ?」
「そうですけど……」
コハク達がそう話していると、セレナとアイリが近寄ってきた。
「ねぇ、嫌な事を聞いたんだけど、右翼からの報告が上がってこないんだって」
セレナの言葉に、コハクとリリーの表情が曇る。右翼から報告が上がってこないという事は、右翼側で何かトラブルがあったか、既に全滅してしまったかの二択になるからだ。だが、魔族がここまで攻めてこない点から、後者の可能性は低いと考えられた。
「もう猶予は無い気がするの。だから、今夜抜け出さないかなって……」
アイリの提案に、コハク達が頷かないという選択肢はなかった。
「それじゃあ、アルくん達にも言ってくる」
そう言ってセレナ達はアル達の方に向かって行った。コハクとリリーは、仕分けの手を止めなかった。だが、さっきまでよりも覚悟が決まったような表情をしていた。
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その日の夜中。コハク達は一箇所に集まっていた。
「武器は持ったな。俺達は、今、戦場に向かおうとしている。魔族と戦闘になる可能性は高い。本当に覚悟は良いか?」
アルは、全員の顔を見て、最後の確認をしていた。コハク達は、頷いて返事をする。それを見て、アルも頷き、行動を開始する。まず初めに、この場を突破する必要がある。突然の魔族襲来に備えて、陣地では見回りがいる。それが、一人二人であればいいのだが、ここには、十人以上の見回りがいる。
念のため、アイリが隠蔽を掛けているので、見付かる確率は減っている。だが、それでも絶対に見付からない訳じゃない。
慎重に慎重を重ねて、周囲を警戒しながら、進んで行き、何とか後方拠点を脱する事に成功した。それでも、アル達は油断せず、後衛拠点から距離を取って、ようやく詰まっていた息を吐いた。
「はぁ……ようやく抜け出せたね」
アイリも安堵する。
「アル、右翼が張っている陣がどこにあるかは……?」
「分かっているが、定期的な報告がないことを考えると、後退している事も考えられる。そっちを見に行きながら、陣があるはずの場所に向かう」
「分かった。最後尾は、僕が行くから、皆はアルに付いていって」
アルを先頭にコハク達は、マリーの元へと急いだ。大切な友人の無事を信じて。
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ザリウスは、すぐにアル達に気が付いた。
「お前達……いや、用件は分かっている。取り敢えず、中に入って、叱られてこい」
「え……あ、はい」
コハクはそう返事をしながら中に入っていく。その後をアル達も追っていった。
「叱られてこいって、誰になんだろう?」
アイリは、ザリウスの言葉が気になっていた。普通に考えれば、マリーにというところだが、アルの考えは違った。
「これは……もしかしたら、カーリー殿か先生がいるのかもしれないな」
「うっ……いや、説教は、ちゃんと受けよう……」
「そうだね。マリーのためだもん」
カーリーからの説教を受ける覚悟をしたコハク達は、陣の中を進んで行く。陣の中には、多くの軍人がいたが、全員無事とは言い難かった。怪我をしていない者など一人もいないのだ。それどころか腕や脚を失っている者も少なくない。だが、その全員が、簡易的な義手や義足を着けていた。これのおかげで、まだ戦う事も出来ているのだ。
「おぉ! マリーちゃん! こっちに来てくれ!」
「は~い!」
アル達の耳にそんな声が聞こえた。アル達は、その声が聞こえた方に急いで向かう。そこには、一人の軍人の義手を調整しているマリーの姿があった。
「すまねえな」
「いえいえ、私が作ったものですから。これでどうですか?」
「ん……おお! バッチリだ! 助かったぜ!」
「良かったです。また、不調があれば言って下さい」
「おうよ! ありがとうな!」
調整を終えたマリーが立ち上がり、アル達がいる方を見た。アル達の事を見つけたマリーは目を丸くしていた。だが、すぐに眉を寄せながら、皆に近づく。その足音に金属音が混じっていた。
「ちょっと! 皆、何でこんなところにいるの!? 全く、今は危険なんだよ!?」
そう言って、マリーが怒っているが、アル達はそれどころではなかった。怒っているマリーの左脚は、元のマリーの脚ではなく、金属で出来た義足になっていたからだ。
「聞いてるの!? もう! 先生!!」
マリーがそう呼ぶと、塹壕の中からカレナが出て来た。
「どうしましたか……って、皆さん!? こんなところで何をしているんですか!?」
カレナもマリー同様に顔を顰めて、アル達に近づく。
「取り敢えず、こっちに来なさい!!」
そう言って、全員を陣の隅に連れて行き、カレナが説教を始める。マリーも説教に参加しようと思っていたが、他の人の義手義足を調整する為に陣の中を回りに向かったので、参加は出来なかった。
カレナの三十分程の説教が終わると同時に、マリーが戻ってくる。
「取り敢えず、来てしまったものは仕方在りません。これから戦闘が始まるので、皆さんは陣の中で待機していてください。マリーさん、皆さんをサイラさんの元に」
「はい。分かりました。ほら、皆、付いてきて」
マリーの先導に従って、アル達も歩き始める。最初に口を開いたのは、アルだった。
「マリー」
「脚は、五日前くらいの夜に失ったの。ソフィが守ってくれたんだけど、ちょっと大規模な攻撃があってね。寧ろ、ソフィのおかげで、片脚で済んだって感じ。材料自体は、色々なところからかき集められたから、作るのに苦労はあまりしてないけど、数が数だからね。マニカのみたいな凝った作りは出来なかったんだ。一応、戦闘に耐えられるくらいにはしているけどね
名前を呼ばれただけで、何を訊きたいのか察したマリーは、義足になった経緯を話した。何でもないようにそう言うマリーに、アル達は言葉も出なかった。
そんな中で、マリーは、塹壕の中の一室の前で止まり、壁を強めに叩いた。
「サイラ先輩。マリーです。ちょっと複数人で中に入りますね」
「うん。どうぞ」
その返事を受けて中に入るマリーの後に続いて、アル達も中に入った。そして、その場でアル達は息を呑む事になる。
何故なら、サイラの目に包帯が巻かれていたからだ。
「調子はどうですか?」
「うん。マリーちゃんと先生のおかげで痛みとかはないよ。それに、マリーちゃんの魔道具のおかげで、周囲の空間がある程度認識出来るから、不安も減ったかな」
「それは良かったです。そちらの不調はありませんか?」
「うん。ちょっと雑音……って言うのかな? 乱れる感じがするけど、認識は出来るから」
「そうですか……すみません。街に戻ったら、改良したものを作りますね」
「うん。ありがとう」
サイラは、マリーの方に手を伸ばす。マリーは、すぐにその手を掴む。すると、サイラが引っ張るので、前に出てサイラを抱きしめる。サイラもマリーの背中に手を回す。握手よりもこの形の方が、サイラは安心出来るのだ。
「あ、そうだ。実は、私のクラスメイトが、こっちに来ちゃって。しばらく一緒にいてもらっても良いですか?」
「うん。大丈夫だよ。気を付けてね」
「はい」
サイラから離れたマリーは、アル達に近づく。
「それじゃあ、皆は、ここに待機してて。もしかしたら、中に魔族が入ってくるかもだから、その時は、先輩と一緒に逃げて」
「いや、俺達も戦うぞ」
「えぇ~……じゃあ、アルくんとリンくんだけね。コハク達は、サイラ先輩といて」
「わ、私もマリーを助けに来たのに……」
そう言って、刀を握るコハクにマリーは近づいていく。
「コハクを頼りにしていないわけじゃないよ。でも、ここの戦いは、本当に危険だから。コハクは、サイラ先輩を守って」
「でも……」
尚も食い下がろうとするコハクを、マリーが抱きしめる。
「今は駄目。アルくん達は騎士団の家系だから、色々な経験があるけど、コハク達は、まだ戦争を経験してないんだから。今は、ここにいて。すぐに頼るようになるから」
マリーはそう言って、コハクを放す。コハクは、マリーの頼みに頷いた。
「分かった」
「ありがとう。リリー達もここにいてね」
「マリーさん……その……」
リリーが、少しまごまごとしていると、マリーが頬を摘まむ。
「ここに来た事は怒ってるけど、嬉しくないわけじゃないよ。私からの説教は、また後でね」
マリーはそう言うと、部屋を出て行った。アル達もその後に続く。
「皆、そんなに落ち込まないで」
マリーがいなくなった後で、サイラがコハク達にそう言う。
「マリーちゃんは、本当に嬉しくないわけじゃないの。不用意に戦場に出れば、どうなってしまうのかを身をもって知ってしまったから、皆にそんな思いをして欲しくないんだと思う」
「はい。分かってます……」
コハクの返事に、サイラは満足げに頷く。
「それなら良かった。あ、そうだ。私が目を失っているからって、こっそり抜け出そうとしても駄目だからね。マリーちゃんの魔道具のおかげで、ある程度皆の位置は分かるから」
口で笑いながらそう言うサイラに、コハク達は、少し顔を強張らせる。皆の様子が変な事に気付いたサイラは、両手を叩く。
「ああ、何で目を失ったのかって事ね。後輩が危ないって状況で助けに入ったら、少しドジしちゃってね。風刃を目に喰らっちゃったの。後輩は助かったから、良かったんだけど、この状態じゃ戦えなくてね。皆に迷惑を掛けちゃっているんだ」
勘違いをして、サイラは、自分自身の事を話す。それを聞いて、益々全員の表情が硬くなる。
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