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第9話 熱砂戦線
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灯台の警備を全滅させたカノン・オーネスコルピオに襲われるマリカ達。必死に応戦するも近づくことすらままならず、連射される強力な魔弾を回避するので精一杯だった。
「なんとしてもマリカ様をお守りしないと!」
カティアはマリカが修復したキャノンパックを背負い、カノン・オーネスコルピオに照準を定める。しかしカティアの魔弾はあっさりと躱されて有効弾を叩きこむことができずにいた。
マリカが無謀ながらも近接戦を挑み敵の気を引いてくれているが、これ以上時間をかけてはマリカのリスクが上がる一方だ。
「落ち着け…落ち着いてカティア……」
自分にそう言い聞かせて片膝を付き、より正確な射撃を行える姿勢を取る。ただでさえ機動力が落ちているのに、これでは回避行動を行うのは不可能だ。しかしマリカの頑張りを目にするカティアに躊躇いはない。
「次こそ! 直撃をかけます!」
カティアの内部に蓄積された魔力の残りも少ない。魔道キャノンは高威力であるが魔力の消耗が激しく、短時間での連続使用は不可能なのだ。
あと数発の内に勝負を決めなければならず、慎重且つ的確に次弾を発射した。
「やりましたか!?」
光の尾を引きながら飛翔した魔弾はカノン・オーネスコルピオの側面に直撃し、装甲のような皮膚を打ち砕いた。爆煙を巻き上げ、有効なダメージとなったように見えるが、
「ダメですか……」
背中の一部を抉っただけで致命傷にはならなかったようだ。まだまだピンピンして問題なく戦闘を継続している。
「カティア、その調子でお願い!」
「は、はい!」
マリカの応援が飛び、カティアはそれによって活力が湧くように感じた。敵を仕留められない自分が情けなくなるも、マリカの激励があれば頑張ろうという気持ちになれる。
それはアンドロイドが人間の思考や感情を模倣して造られているからで、状況などによってパフォーマンスが左右されるのだ。ある意味機械としては欠陥であるが、アンドロイドの設計者はただの機械として造ったわけではないのだろう。
ともかく気力がマックスになったカティアは新たな打開策を模索する。
「マリカ様、魔物を倒す作戦を立案しました!」
「おっ、どんな?」
「敵が魔弾を発射する際、下腹部に高熱源反応が発生します。恐らく下腹部にて魔力を凝縮し、それを尻尾に送って撃ちだしているのです。その部位を破壊すれば魔弾攻撃を阻止することが可能かもしれません」
「なるほど。動き回る尻尾よりは狙い易いか…頭部もハサミでガードしてくるしな……」
「それに、その部位付近の皮膚は比較的薄いように見えます。多分ですが、魔力凝縮の際に発生する高熱を逃がしやすいようにしているのでしょう」
高熱を体内に籠らせておくと内臓が損傷して機能が低下する。そのため熱を冷ます必要があり、外気冷却をしやすいよう皮膚を薄くしているのだろう。実際に放熱板と思わしき突起が下腹部にいくつか存在していて、カティアの推測の正しさを証明しているようだ。
「となると、カティアがその部位を狙い易いようにしないとね」
下腹部を狙うためには後方に回り込まなければならない。しかしオーネスコルピオタイプは図体の大きさに関わらず旋回性能が高く、とても回り込む余裕などなかった。ならばマリカが敵を誘導し、カティアにバックアタックを仕掛けてもらうほうが確実だ。
「おーい、こっちだぞ!」
マリカはカノン・オーネスコルピオの足に攻撃をしつつ、灯台から離れるように走る。目の前の獲物に集中するカノン・オーネスコルピオはマリカを追い、ハサミを振りあげて質量を活かした叩きつけを行う。
「かかったな!」
間一髪で回避したマリカは勝利を確信する。視界の端に閃光が煌めき、そのカティアの魔弾が敵の下腹部に当たると思った。
しかし、
「迎撃した!?」
尻尾が旋回して後ろに向きを変え、魔弾を撃ってカティアの魔弾にぶつけて迎撃してみせたのだ。顔はマリカを捉えつつの行動であり、尻尾にも目がついているのだろうか。
「だったらさ!」
マリカはハサミによる薙ぎ払いを跳躍して避け、カノン・オーネスコルピオの背中に乗った。そして尻尾に斬りかかるが薄い傷を与えただけで弾かれる。
「やはり効かないか! でも!」
剣を放り捨てて尻尾にしがみついた。当然ながらマリカを振り落とそうと尻尾を振り回し、カノン・オーネスコルピオ自体の動きは停止している。
「カティア!」
「はい!」
カティアはマリカに頷いて魔道キャノンに信号を送り、最大出力で魔弾を発射した。残り魔力はほとんど消費してしまったため、これが最後の一発となる。
「当たってくださいっ!」
叫び、祈るカティア。これが失敗したら今度こそ打開策はない。そうなればマリカとカティアに待つのは死のみである。
絶体絶命の状況の中、光の奔流が砂を巻き上げながらカノン・オーネスコルピオの背後に迫りゆく。そして魔弾は足の付け根付近に着弾し、放熱板もろとも皮膚を粉砕した。血がバッと散り、柔らかそうな肉と臓器が露出する。
「マリカ様、剣でトドメを!」
「かしこまり!」
地面に飛び降りたマリカは捨てた剣を拾い傷口に追撃を行う。刃が臓器を貫き、カノン・オーネスコルピオは苦痛に悶えながらマリカに尻尾の砲口を向けた。
「この距離では…!」
至近距離で撃たれれば躱しようがない。仮に直撃は免れても、熱波と衝撃波で粉砕されるのがオチだ。
マリカは焦り剣で防御の構えを取るが、魔弾が飛んでくることはなかった。
「…やったか」
カノン・オーネスコルピオは体のあちこちから血を噴き出して擱座する。魔力を凝縮していた器官が損傷して制御が暴走した結果、蓄積されていた魔力が体内に向けて放射されたのだ。そしてあらゆる臓器が破壊されて絶命に至ったのである。
「マリカ様ー! ご無事ですか!?」
キャノンパックをパージしたカティアが手を振りながらマリカに駆け寄る。敵を倒せた安堵もあるが、それよりもマリカが怪我をしていないかという心配のほうが上回っていた。
「大丈夫、この通り。カティアこそ魔道キャノンを沢山使って調子が悪くなったとかはない?」
「はい、問題ありません。体内の魔力残量は少ないので暫く戦闘行動は不可能ですが……」
「さすがにもう魔物はいないハズ。もしもの時は、今度は私がカティアを守るよ」
「はわ~マリカ様~……」
マリカのウインクに惚けるカティア。メイドである自分にこうも優しく接してくれることが嬉しいし、主という枠組みを超えて心を寄せ始めていた。
「しかしカティアがいなかったらマジでヤバかったよ。この前のフェンヴォルフもそうだけど、私一人では死んでいるシチュエーションが多くなってきた」
「わたし如きでもマリカ様のお助けできているなら幸いです」
「これからも私と頑張ってくれると嬉しいよ」
「どこまでもお供します!」
マリカの中でもカティアへの信頼は強くなって、彼女の手助け無しなどもう考えられない。お互いに軽い依存の域に突入しているが、それが悪いこととはどちらも思っていなかった。
「あの、終わったのですか…?」
灯台の中で事の推移を見守っていたバタムが周囲をキョロキョロと警戒しながら出てくる。戦闘中はマリカ達の応援をしつつも、魔物の威圧感に恐怖を抱いて動けずにいたようだ。
「一時はどうなるかと思いました…お二人には感謝してもしきれませんね」
「想定外は起こるものです。だから出来得る限りの対策は取っているつもりです」
例えば灯台の修復にキャノンパックは不必要な物に思えるが、街の外というアウェーでの活動ということを考慮して持ってきたのだ。これは魔物の出現をマリカが恐れたためで、実際に魔物を倒す決め手となった。
「私の思慮不足でした…大切な妹さんを危険に晒して、これではアオナさんに顔向けできません……」
「姉も街の外での活動には危険は付き物だと理解しています。バタムさんのせいではありませんし、そんなに心配しなくとも大丈夫ですよ」
「そう言っていただけるとありがたいです。この戦闘についても別途報酬金としてお支払いしますので」
「お金が貰えるなら、むしろ姉は感謝しますよきっと」
先ほどまでの緊張感が嘘のようにマリカはニカッと笑う。こんな死にも直結する危ない目に遭えば大抵の人は文句も言うだろうし、それが至って普通の反応であろうが、マリカは胆が座っているというか根性が他の人間とは違っている。それは魔物との遭遇を何度も繰り返して死地を駆け抜けてきたからこそで、バタムのように安穏と暮らしている者には一生身に付かない要素だ。
「さて、本命のお仕事にいきますか」
魔物退治がマリカに与えられた仕事ではない。灯台の篝火台を直すことが目的であり、気を取り直して灯台の上部を目指すのだった。
「なんとしてもマリカ様をお守りしないと!」
カティアはマリカが修復したキャノンパックを背負い、カノン・オーネスコルピオに照準を定める。しかしカティアの魔弾はあっさりと躱されて有効弾を叩きこむことができずにいた。
マリカが無謀ながらも近接戦を挑み敵の気を引いてくれているが、これ以上時間をかけてはマリカのリスクが上がる一方だ。
「落ち着け…落ち着いてカティア……」
自分にそう言い聞かせて片膝を付き、より正確な射撃を行える姿勢を取る。ただでさえ機動力が落ちているのに、これでは回避行動を行うのは不可能だ。しかしマリカの頑張りを目にするカティアに躊躇いはない。
「次こそ! 直撃をかけます!」
カティアの内部に蓄積された魔力の残りも少ない。魔道キャノンは高威力であるが魔力の消耗が激しく、短時間での連続使用は不可能なのだ。
あと数発の内に勝負を決めなければならず、慎重且つ的確に次弾を発射した。
「やりましたか!?」
光の尾を引きながら飛翔した魔弾はカノン・オーネスコルピオの側面に直撃し、装甲のような皮膚を打ち砕いた。爆煙を巻き上げ、有効なダメージとなったように見えるが、
「ダメですか……」
背中の一部を抉っただけで致命傷にはならなかったようだ。まだまだピンピンして問題なく戦闘を継続している。
「カティア、その調子でお願い!」
「は、はい!」
マリカの応援が飛び、カティアはそれによって活力が湧くように感じた。敵を仕留められない自分が情けなくなるも、マリカの激励があれば頑張ろうという気持ちになれる。
それはアンドロイドが人間の思考や感情を模倣して造られているからで、状況などによってパフォーマンスが左右されるのだ。ある意味機械としては欠陥であるが、アンドロイドの設計者はただの機械として造ったわけではないのだろう。
ともかく気力がマックスになったカティアは新たな打開策を模索する。
「マリカ様、魔物を倒す作戦を立案しました!」
「おっ、どんな?」
「敵が魔弾を発射する際、下腹部に高熱源反応が発生します。恐らく下腹部にて魔力を凝縮し、それを尻尾に送って撃ちだしているのです。その部位を破壊すれば魔弾攻撃を阻止することが可能かもしれません」
「なるほど。動き回る尻尾よりは狙い易いか…頭部もハサミでガードしてくるしな……」
「それに、その部位付近の皮膚は比較的薄いように見えます。多分ですが、魔力凝縮の際に発生する高熱を逃がしやすいようにしているのでしょう」
高熱を体内に籠らせておくと内臓が損傷して機能が低下する。そのため熱を冷ます必要があり、外気冷却をしやすいよう皮膚を薄くしているのだろう。実際に放熱板と思わしき突起が下腹部にいくつか存在していて、カティアの推測の正しさを証明しているようだ。
「となると、カティアがその部位を狙い易いようにしないとね」
下腹部を狙うためには後方に回り込まなければならない。しかしオーネスコルピオタイプは図体の大きさに関わらず旋回性能が高く、とても回り込む余裕などなかった。ならばマリカが敵を誘導し、カティアにバックアタックを仕掛けてもらうほうが確実だ。
「おーい、こっちだぞ!」
マリカはカノン・オーネスコルピオの足に攻撃をしつつ、灯台から離れるように走る。目の前の獲物に集中するカノン・オーネスコルピオはマリカを追い、ハサミを振りあげて質量を活かした叩きつけを行う。
「かかったな!」
間一髪で回避したマリカは勝利を確信する。視界の端に閃光が煌めき、そのカティアの魔弾が敵の下腹部に当たると思った。
しかし、
「迎撃した!?」
尻尾が旋回して後ろに向きを変え、魔弾を撃ってカティアの魔弾にぶつけて迎撃してみせたのだ。顔はマリカを捉えつつの行動であり、尻尾にも目がついているのだろうか。
「だったらさ!」
マリカはハサミによる薙ぎ払いを跳躍して避け、カノン・オーネスコルピオの背中に乗った。そして尻尾に斬りかかるが薄い傷を与えただけで弾かれる。
「やはり効かないか! でも!」
剣を放り捨てて尻尾にしがみついた。当然ながらマリカを振り落とそうと尻尾を振り回し、カノン・オーネスコルピオ自体の動きは停止している。
「カティア!」
「はい!」
カティアはマリカに頷いて魔道キャノンに信号を送り、最大出力で魔弾を発射した。残り魔力はほとんど消費してしまったため、これが最後の一発となる。
「当たってくださいっ!」
叫び、祈るカティア。これが失敗したら今度こそ打開策はない。そうなればマリカとカティアに待つのは死のみである。
絶体絶命の状況の中、光の奔流が砂を巻き上げながらカノン・オーネスコルピオの背後に迫りゆく。そして魔弾は足の付け根付近に着弾し、放熱板もろとも皮膚を粉砕した。血がバッと散り、柔らかそうな肉と臓器が露出する。
「マリカ様、剣でトドメを!」
「かしこまり!」
地面に飛び降りたマリカは捨てた剣を拾い傷口に追撃を行う。刃が臓器を貫き、カノン・オーネスコルピオは苦痛に悶えながらマリカに尻尾の砲口を向けた。
「この距離では…!」
至近距離で撃たれれば躱しようがない。仮に直撃は免れても、熱波と衝撃波で粉砕されるのがオチだ。
マリカは焦り剣で防御の構えを取るが、魔弾が飛んでくることはなかった。
「…やったか」
カノン・オーネスコルピオは体のあちこちから血を噴き出して擱座する。魔力を凝縮していた器官が損傷して制御が暴走した結果、蓄積されていた魔力が体内に向けて放射されたのだ。そしてあらゆる臓器が破壊されて絶命に至ったのである。
「マリカ様ー! ご無事ですか!?」
キャノンパックをパージしたカティアが手を振りながらマリカに駆け寄る。敵を倒せた安堵もあるが、それよりもマリカが怪我をしていないかという心配のほうが上回っていた。
「大丈夫、この通り。カティアこそ魔道キャノンを沢山使って調子が悪くなったとかはない?」
「はい、問題ありません。体内の魔力残量は少ないので暫く戦闘行動は不可能ですが……」
「さすがにもう魔物はいないハズ。もしもの時は、今度は私がカティアを守るよ」
「はわ~マリカ様~……」
マリカのウインクに惚けるカティア。メイドである自分にこうも優しく接してくれることが嬉しいし、主という枠組みを超えて心を寄せ始めていた。
「しかしカティアがいなかったらマジでヤバかったよ。この前のフェンヴォルフもそうだけど、私一人では死んでいるシチュエーションが多くなってきた」
「わたし如きでもマリカ様のお助けできているなら幸いです」
「これからも私と頑張ってくれると嬉しいよ」
「どこまでもお供します!」
マリカの中でもカティアへの信頼は強くなって、彼女の手助け無しなどもう考えられない。お互いに軽い依存の域に突入しているが、それが悪いこととはどちらも思っていなかった。
「あの、終わったのですか…?」
灯台の中で事の推移を見守っていたバタムが周囲をキョロキョロと警戒しながら出てくる。戦闘中はマリカ達の応援をしつつも、魔物の威圧感に恐怖を抱いて動けずにいたようだ。
「一時はどうなるかと思いました…お二人には感謝してもしきれませんね」
「想定外は起こるものです。だから出来得る限りの対策は取っているつもりです」
例えば灯台の修復にキャノンパックは不必要な物に思えるが、街の外というアウェーでの活動ということを考慮して持ってきたのだ。これは魔物の出現をマリカが恐れたためで、実際に魔物を倒す決め手となった。
「私の思慮不足でした…大切な妹さんを危険に晒して、これではアオナさんに顔向けできません……」
「姉も街の外での活動には危険は付き物だと理解しています。バタムさんのせいではありませんし、そんなに心配しなくとも大丈夫ですよ」
「そう言っていただけるとありがたいです。この戦闘についても別途報酬金としてお支払いしますので」
「お金が貰えるなら、むしろ姉は感謝しますよきっと」
先ほどまでの緊張感が嘘のようにマリカはニカッと笑う。こんな死にも直結する危ない目に遭えば大抵の人は文句も言うだろうし、それが至って普通の反応であろうが、マリカは胆が座っているというか根性が他の人間とは違っている。それは魔物との遭遇を何度も繰り返して死地を駆け抜けてきたからこそで、バタムのように安穏と暮らしている者には一生身に付かない要素だ。
「さて、本命のお仕事にいきますか」
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