リビルドヒストリア ~壊れたメイド型アンドロイドを拾ったので私の修復能力《リペアスキル》で直してあげたら懐かれました~

ヤマタ

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第11話 旧友の来訪

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 カノン・オーネスコルピオとの激闘から数日後、晴れた昼下がりのことである。
 赤いロングコートに身を包んだ、いかにも怪しげな銀髪の少女がコノエ・エンタープライズの扉を無遠慮に開いた。

「おっすおっすー。マリカはおるかー?」

 銀髪の少女はカウンターを覗くがマリカの姿を見つけられず、近くに寄ってきたカティアへと視線を移して怪訝そうに全身を一瞥する。

「あの、マリカ様に御用でしょうか?」

「ん? アンタは見かけない顔だけど、誰?」

「わたしはカティアと申します。マリカ様のメイドを務めております」

「メイド!? マリカの!?」

 銀髪の少女は驚いたあと、お腹を押さえて大声で笑いはじめた。どうやらマリカの知り合いらしく、マリカがメイドを雇っていることがおかしかったようだ。

「うわっ…うるさい奴が来たと思ったらカナエじゃん……」

 声を聞きつけて二階から降りてきたマリカは、その声の主である銀髪の少女カナエを見てウンザリとしたようにうな垂れた。どうやらカナエのことを客として見ていないらしい。

「おいおいおい。客に対してその態度はないんじゃないですかねぇ、マリカさん」

 カナエはニヤつきながらマリカの肩に手を回し、いかにも自分のほうが立場は上だぞという風に迫った。

「店にも客を選ぶ権利はあるわい。さあさあ冷やかしなら帰った帰った」

「ははっ! 言うようになったな?」

「カナエの影響でね」

 フッと笑うマリカが差し出した拳にカナエも拳を合わせる。なんとも不可思議だが二人の関係は決して悪いわけではないようだ。

「マリカ様、このお方は…?」

 様子を窺っていたカティアが恐る恐るといった感じにマリカに問う。主たるマリカの会話に割り込むのには遠慮があったが、どうしてもカナエの事が気になっていたのだ。

「ああ、紹介がまだだったね。コイツはカナエ・ホシオカ。学生時代の同級生で、今は働かずに好き放題している社会不適合者のダメ人間だよ」

「そういうこと。よろしく、メイドさん」

 気さくなウインクを飛ばすカナエに会釈を返しつつ、マリカの傍にスッと寄るカティア。

「しかしメイドってどういうこっちゃ? そんなにこの店は稼いでいるん?」

「カティアとは偶然出会ってね…それ以降、この店で働いてもらってるんだけど、メイドとしての使命を帯びているらしくて、それで私のメイドも兼任してるの」

「そんなことある…?」

「あるんだから、こうなってる」

 どちらかというとカティアにとってはマリカのメイドが本職なのだろう。あくまで店の手伝いはその一環としてである。

「カティアちゃんは歳いくつ?」

「製造日から逆算したいのですが機能停止状態中に世界が破滅を迎えてしまい、空白の期間と現代における年号の整合を取ることができないので不明です」

「…なにを言っているんだ?」

 カティアの頭はオカシイのではとカナエは首を傾げる。製造日だとか機能停止中だとか言われても、すぐに理解できるものではない。

「えっとね、カティアは人間じゃないんだよ」

「じゃあ魔物か?」

「いや、アンドロイドなんだ」

「あんどーろいどさん?」

「分からんか……」

 基本的に現代においては先進的技術に関する知識を持つ者は少なく、特にカナエのように勉強をサボっていた人間には旧世界の事など分からないのだ。

「簡単に言うと…機械人間ってところだよ」

「機械でできた人間? よく分からんけど高い値段で売れそうかもな」

 悪い笑みを浮かべるカナエは品定めするようにカティアの瞳を覗き込み、その圧に押されたカティアはマリカの背中に隠れる。

「カティアには手を出させないよ。このコは私の大切な友達なんだから」

「冗談だって。レアな存在を見ると、あたしのトレジャーハンター魂が反応しちゃうんだよ」

「トレジャーハンターねぇ…墓荒しの間違いでしょ?」

「それも兼任してる」
 
 カナエは定職に就かずに宝探しをして生計を立てているようだ。珍しい物品を収集し、お金に換金するというダメなその日暮らしの典型的パターンである。

「カナエは街の外に出てトレジャーハンティングをしていてね。いい加減マトモな仕事をすればいいのにさ……一か月前にお宝探索の旅に出てって最近帰ってきたみたい」

「なるほど。えっと……ステキなお仕事ですね、ハイ」

 お世辞にもほどがあるが、カティアはなんとか褒めの一言を発する。
 しかしそれに気をよくしたカナエは、腰にぶら下げていた鞄から妙な装飾品を取り出して自慢し始めた。

「そうでしょ? あたしの仕事は世界に眠る美品や珍品を掘り起こして光を当ててやることなんだ」

「そんで売り飛ばす」

「おいおいマリカ。あたしのコレクションを買いたがっている人は大勢いるし、むしろお宝回収を依頼してくる人もいるんだぜ? コレだって王都のバカな金持ち達が高値で欲しがるだろうよ」

「客となる相手をバカ呼ばわりしていいの?」

「だってアイツら光る物なら何でも群がるんだぜ? 虫と同じだよ。まっ、あたしにとってはいいカモ…お得意様だから、今後も良好な関係を築いていくさ」

 いつかトラブルになりそうだなとマリカは思うが、忠告したところで聞くカナエではない。むしろ、このロクデナシ人間は一度痛い目に遭うくらいが丁度いいのだ。

「でさ、マリカに話しがあるんだケド」

「ウチにはお宝を買い取るだけの余裕は無いよ」

 コノエ家は裕福な家庭ではないので贅沢品を買う余裕などなく、むしろカナエに何か売りつけてやろうと企んでいたところである。そういうしたたかなマインドはアオナやカナエの影響を受けているようだ。

「じゃなくて。マリカはハーフェンっていう街を知っているよな?」

「確かこのフリーデブルクから離れた場所にある湾岸沿いの港街だよね? 旧世界にて建造された人工島とも言える立地で、港の海底深度が深いから大型船も寄港できるし、漁業も盛んだとか」

「詳しいな……それで、旅の帰りにそのハーフェンに寄って来たんだけど…凄いことになってたんだよ」

「いや、もったいぶんないで」

 まさか話しの続きは有料だとか言うんじゃないだろうなとマリカがガンを飛ばす。

「なんと街が水没していたんだよ。住人の姿も無くて廃墟状態……近くの村で話を聞いたら、デケェ魔物に襲われて一晩で沈んだんだと」

「そいつはまた大変な……」

「でな、あたしとハーフェンに一緒に行ってくれんかね?」

「なにしに? そのデカい魔物を討伐して死骸を売る気?」

「魔物がどんなヤツかも気になるが、もっと気になるものがあるんだ。実はハーフェンに寄港した商船の中に大量のお宝が積まれていたらしくて、その商船も魔物の襲撃で街と一緒に沈んでしまったらしい」

「なるほどね」

 その商船を海底から掘り出し、中のお宝とやらを収穫するつもりのようだ。不謹慎と言われればその通りではあるが、自称トレジャーハンターのカナエは全く気にしていない。

「一攫千金も夢じゃない、またとないチャンスだ。これを逃す手はないっしょ」

「都合よく手に入るかねぇ……」

「これだから夢の無い人間はやだよ」

「ムッ……」

 カナエに呆れられるという極めて腹立たしい状況とはいえ、現実的な物の見方をするようになったマリカは懐疑的である。

「海に沈んじゃったなら、お宝は海流に流れてしまってるよ」

「分からねぇだろうよ。それを自分の目で確かめなきゃさ」

「一人で行ったら?」

「いやほら、魔物に襲われたら怖いじゃん。だから護衛が居たほうがいいかなって」

「ウチは便利屋じゃないよ」

 ボディーガードはコノエ・エンタープライズの仕事内容には無い。なら暇を持て余している魔導士でも雇って連れていったらどうだと提案する。

「知らない人間を信用できるわけないだろ。お宝が見つかった瞬間、後ろから刺されて横取りされるなんてゴメンだもんな」

「そりゃそうだけど……私には店があるんだよ。働いていないカナエとは違って責任重大なんだ」

「いつからツマラナイ人間になっちまったんだマリカ…あたしは悲しいよ」

 ウソ泣きと分かる仕草で目をこするカナエ。それを無視して仕事に戻ろうとしたマリカだが、階段を降りてきたアオナと鉢合わせして足を止める。

「おはよ~」

「お姉ちゃん今起きたんかい……」

「昨日はお酒を飲み過ぎてね~……おや、カナエちゃんじゃーん」

 アオナもカナエと面識があるようで、二人はハイタッチを交わす。

「アオナさん、お久しぶりっす!」

「相変わらず元気でよろしい!」

「それが取柄ですからね。早速で恐縮なんですけど、マリカを暫く貸してもらっていいですか?」

「どうぞどうぞ」

 簡単に了承するなとマリカが抗議の声を上げるが、アオナには届かずカナエの話に夢中になっている。アオナもまたロマンを求めるタイプであり、カナエとは妙に感性が合うようだ。

「話は聞かせてもらった! マリカちゃんに出撃を命じる!」

「お姉ちゃん!?」

「これは店主命令で絶体指令である! ハーフェンに赴き、お宝をゲットせよ!」

「これだもんな…店はどうするの?」

「ウチにお任せ! あのカノン・オーネスコルピオの死骸はグチャグチャで使い物にならなかったし、今度は有益な物を頼むよ」

「無理難題を仰る……」

 しかしこうなればマリカに拒否権は無い。否が応でもアオナの指示を受けざるを得なくなってしまった。

「マリカ様、わたしもお供しますので!」

「カティアだけが私の癒しだよホント」

「えへへへ」

 カティアの頭を撫でつつ、どんな装備が必要か考え始めるマリカであった。
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