リビルドヒストリア ~壊れたメイド型アンドロイドを拾ったので私の修復能力《リペアスキル》で直してあげたら懐かれました~

ヤマタ

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第16話 アオナの気遣い

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 海底に沈んだ商船の調査から帰ってきたカティア。浮上した彼女が持っていたのは蓋のされた木箱で、重たそうに地面にゆっくりと置く。

「マリカ様、これをご覧ください!」

 海水で濡れた蓋を開くと、中にはいくつもの金塊やら宝石などが敷き詰められていた。今までに見たことないほどのお宝の山で、マリカは若干手が震えている。

「これらの貴重品が保管庫の中に漂っていまして、それを回収してきたのです」

「おお! カナエの話は本当だったんだ」

 ハーフェンに寄港していた商船に宝が乗っていたというのはカナエが聞いた噂話であったが、どうやら本当だったようだ。

「しかし本当にいいのかねぇ……こうして現物を目の当たりにすると罪悪感もあるけど……」

「元の持ち主に返すにしてもフラッド・クラーケンの攻撃で死んでしまっているよ。それにな、あたし達があの化け物を倒して、あんどーろいどのカティアちゃんが引き揚げなかったらコレらは永久に海の底さ。だからあたし達が有効に活用してあげるって寸法だよ」

「スゴイ屁理屈を聞いた」

「勇者を名乗る奴だってお宝漁りをしたりするって聞くし、なんなら民家から勝手に物を持ち出したりするっていうじゃん。そもそもあたしはトレジャーハンターだからな。そりゃ泥棒みたいなモンだが誰かを傷つけて奪ったわけじゃない。むしろ命懸けで人を救ったんだから」

「ま、まあね……」

 なんだか言いくるめられているような気がして、善良なる一市民のマリカはどこか心に引っかかるものはあったが、自分も破棄されたジャンク品を回収してきたことを思い出す。それらだってかつては誰かの所有物だった物であり、リペアスキルで直して販売してきたのだからカナエをどうこう言う資格は無いのだ。

「こうなったら素直に喜ぶことにするよ」
 
「それがいい。けどまぁ…傷が付いていたり、ひび割れてるな」

 フラッド・クラーケンの襲撃で船が沈んだ際に受けた傷だろう。よく見てみると、いずれもどこかしら破損したりしている。このままではガラクタ同然でお宝とは言えなかった。

「これじゃあ価値が激減しちまう。王都の金持ち達に売れるかどうか……」

「ふっふっふ…なにを暗い顔をしているのだね、カナエ君」

「なんだなんだ…どういうキャラだよマリカ……」

「まあ聞いて。確かにこのままでは高い値段は付かないだろうね。けれどね、諦めるには早いよ」

 マリカは折れ曲がった宝石付きの指輪を手に持った。そして掌から青白い光を放出すると、徐々に指輪の歪みが元に戻っていき、まるで新品同然のような美しさを取り戻す。

「そうか! マリカのリペアスキルを使えば綺麗な状態に戻せるのか!」

「てことよ。これなら高く売れるでしょ」

「さすがマリカ! やりますねえ!」

「というわけで三分の二は私とカティアのモノね」

「まあ、うん……」

 そもそもカティアとて頑張ったのだから等しく三等分にするべきだろう。マリカとカティアで三分の二を持っていくのは当然で、多少損をした気持ちになりつつもカナエは同意する。

「よし。そうと決まれば街に帰って修復の続きをやろう。こんな所にいたら、また魔物やら盗賊やらに襲われるかもしれないからね」

 財宝の入った木箱を車へと乗せ、マリカ達はハーフェンを離れて自宅のあるフリーデブルクへと帰還していくのであった。





 街に帰った翌日、カナエは再びコノエ・エンタープライズを訪れる。

「よっす。お宝の修復は終わったか?」

「全部綺麗にしたよ。ほれ」

 マリカが自室のある二階から木箱を運んできて、カナエの前にドサッと置いた。窓から差す陽の光を反射する財宝達は美しいの一言に尽き、昨日の汚れやら傷やらは全く無くなっている。さすがはマリカのリペアスキルで、物を修復する才能の凄さを改めてカナエは実感していた。

「コレなら高く売れるな! わっはっは!」

「ウチの店も資金難から脱出できそうだよ。一応カナエには感謝しておくね」

「一応って…まあいいや。ともかく、売り捌かないとお金に変えることはできない。てことで行くぞ」

「どこに?」

「そりゃ王都でしょ」

 カナエは手に入れたお宝を王都の上流階級相手に売っている。彼らは高価な貴金属や宝石などをステータスのように扱っていて、それらを着飾ることで自分の裕福さをアピールしているのだ。
 しかし、カナエからすればその様子は滑稽であり、虚像を作り出してまでも見せかけの姿に拘るのはナンセンスだと鼻で笑っている。

「王都ねぇ…また店を抜けちゃうのはなぁ……」

 ハーフェンへの遠征でアオナに店番を任せっきりにしてしまっていたため、また店番を頼んでしまうのは申し訳なく思ったのだ。だが、そもそもハーフェンに赴くように指示したのはアオナであり、マリカが気にする必要もないのだが。

「ご心配なく! マリカ、王都に行ってお宝を換金してきなさい!」

「お姉ちゃん、いいの?」

 話を聞いていたのか、店の奥にいたアオナがマリカに近づいて肩を叩く。

「店番は引き続きウチにお任せ。それに、これは仕事の一環だよ。なんせお金を稼ぎに行ってもらうわけだから」

「そうかもだけど……」

「心配しなさんな。サボるのは最低限にするから」

「オイ…まあ今日出発しても王都に着くころには遅くなっちゃうから、明日の朝出るよ」

 どちらにせよ現金化のために王都にいずれは行かなくてはならず、少しでも早めのほうがいいだろう。
 マリカはアオナに頷き木箱を運び出す。カティアが自分がやりますと代わろうとしたが、なんでもかんでも頼んでしまうのは忍びないと優しく断った。

「あのコには頑張ってもらってばかりだからねぇ…王都に行くのが多少の息抜きになればいいんだけど」

「つまり今回の王都への仕事は、観光としての意味合いもあるということですか?」

「うん。王都に行くのは久しぶりだろうから楽しんでもらいたいな。カティアちゃんは初めてなんだし、このフリーデブルク以外の街の様子を見学してくるといいよ。ウチもたまに仕事で行くんだけど、歓楽街とか楽しい場所は沢山あるからさ」

「はい!」

 アオナは変人ではあるも妹想いのマトモな感性も持ち合わせている。できればマリカには好きに生きてほしいのだが、店の都合で自由を奪ってしまっていることを心苦しく感じていた。マリカからすれば無用の心遣いとはいえ、姉としてはどうしても気にしてしまうのだ。

「王都は遊びに行くにはいいんだけど、住むには忙しすぎる街だよ。特にあたしのような社会に馴染めない人間には、フリーデブルクくらいのゆったりとした街が丁度いい」

「それは分かる。ウチもマイペースな人間だから、フリーデブルクの寛容さが好きなんだよね」

 例えるなら王都は都会のようなもので、憧れはあっても実際に住んでみたら何か違うと違和感を覚える場所である。忙しなく歩き回る人々に取り残されるような感覚は虚しささえあるのだ。

「王都、かぁ……」

 現代社会を知る機会となる王都訪問を楽しみにするカティアは、遠足前の子供のようなワクワク感を抱きながら明日を待つのであった。




 日が暮れて月明かりの照らす夜、マリカは風呂に入るための準備をしていた。といっても近代的な機械式湯沸し風呂ではなく、ドラム缶を用いたもので五右衛門風呂に近いものである。旧世界の遺物が残る現代においてはドラム缶の入手難度は低く、割と普及したやり方だ。

「わたしの製造された時代では、こうしたドラム缶風呂は趣味として用いられるものでした」

「そうなの? このやり方は私達にとっては贅沢なんだよ。なんせ水を沢山使うから頻繁にはできないんだ。普段は体を洗い流すしかないんだけど、冬場は寒くて厳しくてねぇ……」

 フリーデブルクの街の近くには大きな河川が流れており、そこから水を汲んできて市民に販売する業者が存在して、マリカ達はお金を出して購入しているのである。裕福な家庭でなければ水は貴重で、このように水を大量に使うドラム缶方式の風呂の入り方は毎日できるものではなく、いつもは桶を使って洗い流す程度だ。
 石を積んで作った釜の上にドラム缶を置き、釜に火を点けて加熱していく。この加熱を行うのが大変な作業で、かなり面倒であるために嫌う人も多い。

「適温だと思われます、マリカ様」

「それでは……」

 裸のマリカがお湯に身を沈める。勿論底には厚い木の板を敷いての入浴で、直接ドラム缶の底を踏むと大火傷をするので注意が必要だ。
 温かなお湯と夜風が気持ちよく、マリカはリラックスしながら満天の星空を見上げた。ここは店舗兼自宅の裏手にある庭で、敷地は背の高い壁に囲われているので覗かれる心配は多分無いだろうが、にしても大胆ではある。

「もし覗くような不遜な人間を見つけましたら、すぐに対処するのでご心配なく」

「壁があるから大丈夫だよ。それに私の裸なんて見ても得しないしね」

「いえ、そんなことありません! 得しかありません!」

「あ、うん…?」

「とても魅力的だと思います! 少なくとも私の識別機能では、マリカ様は芸術品と判定されているレベルですよ!」

「もしかして識別機能が壊れているのでは…?」

 ならカティアのほうがよほど美的な存在に見える。人工的にデザインされた容姿であるからとも言えるが、まるで人形のように綺麗でマリカの目の保養となっていた。

「私の後のお湯でよければカティアも入りなよ」

「むしろマリカ様の残り湯のほうが嬉しいので!」

「えっ、あっ、うん……」

 カティアの興奮をマリカはよく理解できていないが、嫌でないならいいかと目を閉じた。  
 虫の鳴き声が奏でる夜のメロディーを耳にしながら、ここ数日の疲れを癒すのであった。
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