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第42話 荒野に潜むアンドロイド

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 雲一つ無い快晴の空のもと、マリカは庭に停めてあるピックアップトラック型四輪駆動車のエンジンを始動させた。これから向かうのは戦場であり、穏やかな気候とは違ってマリカ達は緊張感と少しの恐怖に包まれている。

「さて、荷物も積んだし皆も乗ってちょうだい」

 運転席からマリカが車に乗るように手招きし、カティアが助手席、カナエとエーデリアは後部座席へと座る。ちなみにシェリーとアオナは荷台であるが結構スペースは広く、朝食代わりのお菓子を食べながらアオナはあぐらをかいていた。

「これがピクニックとかならワクワクもするんだけどね」

「とか言いながらアオナはリラックスしているように見えますケド?」

「そうでもしないと気が保たないでしょ。お菓子、シェリーも食べる?」

「い、いえ。結構です」

「ああ、お酒のが良かったか」

「なんで酒まで持ってきてるんです!?」

 あくまで勝利を祝うためだと言い張り、アオナは満タンの酒瓶をケースの中にしまった。こういう楽天的な思考はシェリーにはないが、だからこそ違う感性に惹かれるし、深刻になり過ぎずに物事に当たれると言える。

「後ろは賑やかだね。お姉ちゃんはいつも通りである意味羨ましいよ」

「あたしも別に普段通りだがね?」

「それはカナエが順調にお姉ちゃんに近づいている証拠だよ」

「いい傾向ってことだ。さっ、モンストロ・ウェポン討伐なんてスグに終わらせて帰ってこようぜ。皆でな」

「皆でね。一人も欠けることなく」

 戦闘に勝っても犠牲者が出てしまったら負けと同じだ。だからこそ誰も死なせることなく帰ることは至上命題であり、再び平穏な日常へと全員で戻らなくてはならない。
 マリカはアクセルを踏み、街の外に出るべく西門へと向かった。



 西門の内側にはまだ臨時で建てられたテントなどが残っていて、役所の人間を中心にして撤収作業が続いていた。その中には保安課所属のバタムの姿もあり、マリカ達の車に気がついて手を振っている。

「これはどうも。お出かけですか?」

「この前の化物達の残党狩りさ。どうやら西の方角にアジトがあるらしくて」

「魔物達の巣、ということですか? それをアオナさん達で襲撃するということで?」

「そうしないとヤツらはまたフリーデブルクにやってくるかもだからね。本当は防衛隊の力も借りたいところだけど?」

「防衛隊は消耗しているので動かすのは難しいですね…警察と協力して治安維持活動にも従事していますから人員を割けないのです……」

 魔力で身体能力を底上げしている魔導士に一般人が対抗するのは難しく、魔導士による犯罪が発生した場合には防衛隊所属の魔導士が鎮圧を行うのが定例だ。そのため防衛隊の人数が少なくなれば街の治安維持にも問題が発生し、魔導士がほとんど在籍していない警察だけでは不充分なのである。

「…あの、私も連れていってくれませんか?」

「バタムを? でも魔導士じゃないし敵と戦うのは無理じゃあ?」

「サポートさせてほしいんです。いつもは傍観する立場に甘んじていましたが、街の危機をこうも目の当たりにすれば黙っていられません。私の権限で食料等の物資も融通できますし、何より街の保安のためにも敵の拠点について詳細に把握する必要があります」

「うーむ…そんじゃあ許可しよう。というのも、敵さんの拠点を叩き潰すという大役がタダ働きっていうのもナンなので、ここで役所所属のバタムを証人としてウチらの活躍を認めさせ、特別手当を貰おうという魂胆があるから!」

「本当にアナタは自分に素直に生きている人ですね…それがイイところですがね。物資を集めてくるので少しだけ待ってください」

 バタムは片付けの進む中に駆け戻り、アオナ達への同行を上司に掛け合っているようだ。魔導士でもない彼女がそこまでするのは職務柄の義務感もあるのだろうが、一個人としての正義感も持ち合わせているからだろう。

「アオナの裏表無い性格はわたしも好きですよ。そういう人が皆の上に立つべきと日頃からわたしは思っています」

「人様の上にいける程ウチは優れた人間ではないよ。そりゃ少しは才あると自負してはいるけれど、社会に馴染むような人柄じゃないさ」

「と言いますが、アオナさんの講義は学生さんには好評なようですよ? 本格的に教鞭を執るのはいかがです?」

「学者としてのウチを高く評価してくれているんで特別講師をお願いされることもあるけど、教師になろうとは思っていないよ。ウチはイロイロな事を経験したいからフリーランスなんだもの。まっ、コノエ・エンタープライズこそがウチのホームグラウンドであることは未来永劫変わらないけど」

 アオナの多才さはシェリーのよく知るところであり、彼女が王都の学校に通っていた時から発揮されていた。その自由奔放さから嫌厭する者も少なからず居たが、逆にシェリーのように惹きつけられる者も多かったのだ。

「お待たせしました。食料のほうも分けてもらえましたし、特別手当の件も了承を得ましたよ」

「さすがバタム、仕事ができるぅ」

「税金泥棒とは呼ばれたくないですからね。足手まといにならないよう真剣且つ焦らないよう頑張ります!」

 荷台にバタムを乗せ、西門をくぐって車は街の外に出る。ここからは通常の魔物との遭遇も考えられるので気は抜けない。
 総勢七人と人数は心許ないが、それぞれが強い覚悟を持って荒野を突き進んで行く。





 フリーデブルクを出発してから一時間後、魔物数体と遭遇して時間を取られながらも損失なく撃破し、丘陵の影に隠れて休憩に入る。戦闘では体力と共に魔力も消耗するため、無理に進んで再び魔物やモンストロ・ウェポンとエンゲージした場合は苦戦は免れられないだろう。

「バタムが持ってきてくれた食べ物が早速役に立つよ。サンキューね」

 硬めのパンを豪快に喰いちぎりながらアオナがピースサインと共に感謝している。正直味気ないものであったが無いよりは断然マシだし、飲料水はコノエ宅にストックしてあった在庫を引っ張り出してきたので問題はない。
 
「夜までには決着を付けたいケド、見つかるかねぇ……」

 夜間は魔物が活発に動き回るので、街の外で夜に行動するのは危険極まりない行為である。だからこそ夕方までにはモンストロ・ウェポンの巣とやらを叩き潰し、安全に身を隠して朝を待てる場所を見つけなければならないのだ。

「カティア、レーダーに反応はない?」

「はい…もしかしてわたしの推測が間違っていて、皆さんをただ消耗させているだけなのかもしれません……」

「まだまだ探索は始まったばかりだし、これからだよ」

 少々自信なさげに俯くカティアの頭に優しく手を置くマリカ。もし空振りだったとしてもカティアを責める気など毛頭ないし、モンストロ・ウェポンという魔物とは違う不気味な存在が何処から来るのかという興味があったから遠征に来たのだ。

「さて、先に進むとしますか」

 一時的な休息地点としていた場所から再び車に乗って移動を再開する。
 カティアは車の天井に備え付けられた窓、サンルーフを開いて身を乗り出す。そしてバックパックとして装着した偵察パックを稼働させて対象の捜索を始めた。

「うーん…感無し、ですか……」

 電波反応、及び金属反応すら感知できない。ただ砂と岩が大地を埋め尽くしているだけだ。

「困りました…ポンコツメイドを再び名乗らなければいけないかもですね……」

 旧世界における自分の蔑称を思い出しながら眉を下げるカティアだったが、直後に鋭い何かの反応がレーダーに引っかかった。

「この反応はアンドロイド! 識別番号が不明というのが怪しさを醸し出していますね」

 捉えた対象は間違いなくアンドロイドだ。しかし詳細情報を照会しようとするも個体識別番号等をスキャンすることができず、どのようなアンドロイドかは分からなかった。
 だが、これでカティアは確信する。レーダーにアンノウンと表示されているこの相手こそが討つべき敵であると。

「自らの個体識別信号を改竄、隠匿するなど普通はしない……外部からの緊急停止を遮断できるようなアンドロイドだからこそ、人間からの干渉を避けるために偽装工作をしているのでしょうね。でも旧世界ならいざ知らず、現代において稼働するアンドロイドは限られるのですから、もはや特定したと言っていいでしょう」

「カティア、何かあった?」

「目標とするアンドロイドを発見しました。十一時の方向に反応があります」

「いよいよか…!」

 マリカはカティアの指さす方向へとハンドルを切る。
 モンストロ・ウェポンの残党と、それを支配下に置くアンドロイドとの決戦の時は迫りつつあった……
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