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第41話 燻る脅威
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カティアからモンストロ・ウェポンと、それにまつわる旧世界の話を聞いたシェリーは顎に手を当てて少し考え込む。どうやらモンストロ・ウェポンは魔物以上に厄介な相手らしく、カティアの説が正しいのなら更なる対策が必要だろう。
「モンストロ・ウェポンは命令を受けなければ行動しない…つまりヤツらに指示を与えている存在が何処かにいるということですね。そして、それがカティアさんの言う高性能アンドロイドの可能性が高いと」
「はい。わたしの知る限りでは、モンストロ・ウェポンを指揮制御する機能を有したアンドロイドは一体のみです。わたしが機能停止した後に増産された可能性もありますが、ともかく推測ではアンドロイドの指示でこの街を襲っているのではないかと……」
「その指揮官を倒さなければ脅威を取り除いたとは言えませんね。しかし、居場所が分からなければ攻撃を仕掛けることはできません……何か手がかりはありませんか?」
「戦闘前に感知した電波により、おおよその方角は掴むことができました。後はその方角を調査するしかないですね」
「とはいえ広大な大地を探し回るのは簡単ではありませんね。魔物と遭遇する事もあるでしょうし、もっと絞り込むことができればいいのですが……」
敵の方角が分かったとしても具体的な位置が判明してはいないので、かなり面倒な捜索となる。しかも道中には魔物がそこかしこに分布しているため、常に危険が付き纏うのだ。
「一つ解決策があります。以前マリカ様と訪れた工場からいくつかのオプションユニットを持ち帰ったのですが、その中に強行偵察パックがありました。その装備なら電波を発する相手の位置を探り出すこともできるはずです」
「なら早速倉庫に行こう。あの中に回収した物資が仕舞ってあるからね」
シェリー達も引き連れ、マリカは庭にある倉庫の扉を開く。ここには各地で集めたジャンク品も収納されていて、旧世界の機械や道具に関心のある者には宝の山に見えることだろう。
カティアは目のライトを点灯させて真っ暗な倉庫の中を探し、一つのボロボロな機械を抱えて運んできた。
「それが強行偵察用のオプションユニットなんだね?」
「はい。壊れてしまっているのですが、マリカ様のリペアスキルなら元に戻せるのではと」
「よし、任せて」
マリカは膝を付き、地面に置かれたユニットにリペアスキルをかける。すると折れ曲がっていたアンテナがピンと張り、真っ二つに割れていたレーダーシステム内蔵式レドームが皿のような円形を取り戻す。
この装備にはいくつもの通信、索敵装置が搭載されているようで、カティアの言うように敵の位置を割り出すことに使えそうだ。
「装着、認証完了……ユニットのレーダーとのリンクにも問題ありません」
「敵のアンドロイドの位置は特定できた?」
「レーダーの有効範囲は半径五キロメートルですが、範囲内にはいないようですね。なので電波が発せられた方角へと索敵に出なければなりませんが、装備無しで探すよりも発見しやすくなるはずです」
「直径で十キロメートルをカバーできるのはスゴイね。それだけの能力があれば余裕で特定できるよ」
荒野の中、人の目視だけで何処にいるかも分からない相手を見つけるのは困難だ。しかし強行偵察パックによってカティアは広大な視野を手に入れたのと同義であり、現代のように機械の少ない時代であれば怪しい電波反応のある物を発見するのは容易い。
「この事を防衛隊の方達にも伝えれば手伝ってもらえますかね?」
「それは難しいかもしれません。先日の戦闘で死者も複数人出ているようで、防衛隊の戦力に少なくない被害が出ています。なので遠征に回せるだけの人材がおらず、しかも遠征中に他の魔物の襲撃があった場合には対処できなくなってしまうでしょう」
マリカの問いにシェリーはそう答える。人類の敵はモンストロ・ウェポンだけではなく、普通の魔物達も街を襲うことはあるのだ。それこそカノン・オーネスコルピオなどの強敵が来る可能性もあり、防衛隊の戦力を割けるだけの余裕は無いらしい。
「王都騎士団にヘルプを求めることはできませんか?」
「議会が承認しないでしょうね。あの人達は魔物から自分の身を守ることに必死なので、軍や騎士団を派遣することに強い拒否感を持っています。もし議会に掛け合ったとしても時間がかかることでしょう……わたしのエーデリアを連れ戻すという特命は、議会に強い影響力を持つ母が圧力をかけたことで承認されていて、特例中の特例なのです」
「私にも権力があれば……」
残念ながら一般庶民であるマリカでは議会メンバーに会うことすら叶わないだろう。シェリーですら一介の騎士にしか過ぎず、強い権限を持った議会に意見が反映されることはない。
「こりゃ厳しいか。私達だけではねぇ……戦いは数だもんな」
「数の点でいうと希望はありそうですよ、マリカ様」
「というと?」
「魔導士の皆様の活躍によって敵は戦力を多数喪失しました。モンストロ・ウェポンは魔素を素材として、マザー級などによって生産することが可能ですが時間がかかります。つまり今こそが攻め込むチャンスだと思うのですよ。問題なのは、敵の拠点となる場所にどれだけの防衛戦力が配置されているかが不明な点ですが……」
フリーデブルクに侵攻したモンストロ・ウェポンは全戦力ではないだろう。指揮を執るアンドロイドを防衛するためにもそれなりの数が配置されているはずで、その総数が分からないことが懸念点である。
しかし、敵が再び勢いを盛り返す前にケリを付けなければ、また街が危険に晒されてしまう。次もまた人類が勝利するとは限らないし、いずれジリ貧になって押し切られるのは火を見るよりも明らかだ。
「戦うしかない、私達で」
「やりましょう。軍属でない皆さんを頼らざるを得ないというのは、騎士団所属の身としては心苦しいのですが……」
「こういう時は動ける人が動かないとですから。生まれ育ったフリーデブルクにはそれなりに愛着もありますし、モンストロ・ウェポンに怯えて過ごすのはイヤですからね」
いつあの化け物達が襲来するかと不安で眠れない日々を送るなど冗談ではない。安眠に就き、気持ちよく朝を迎えるためにも不安材料は排除しておくべきだ。
「話は聞かせてもらった! ウチも同行しよう!」
「酔っ払いには荷が重いんじゃ?」
酒の匂いをプンプンに漂わせるアオナがカナエに支えられながらアピールしているが、あまりに頼りない姿にマリカはからかう。
「うっへっへ。この酔っ払いは役に立つよォ! そんじょそこらの騎士なんかよりも強いもんねー!」
「実際にアオナに実力があるのは間違いないことですからね…わたし程ではありませんがね」
「へぇ、そんなコト言っていいんだぁ? シェリーの弱点ならイロイロ知ってるんですけどね~。例えば特に敏感な……」
「そ、そういうのはいいですから! さあホラ皆さん、早速出発の準備ですよ! 明日の朝には発てるように」
アオナの口を手で物理的に塞ぎつつ、マリカ達に準備を促すシェリー。このメンバーの中でアオナと並んで年上である彼女がまとめ役になるのは必然であり、まるで引率の教師のようにも見える。
マリカはカティア用の装備のチェックをし、翌日の出立に備えるのだった。
深夜、コノエ宅のリビングにて寝ていたシェリーは目を覚まし、暗い室内を見渡す。エーデリアやカナエの他、アオナやマリカも一緒になって横になっており、死地に向かう前日とは思えない穏やかな光景だ。
シェリーは上体を起こし、近くで座ったままの姿勢で微動だにしないシルエットに小さな声で話しかける。
「カティアさん、アナタは眠らなくて平気なのですか?」
「はい。わたしはアンドロイドですから睡眠は必要ないのです。なので、こうして眠っているマリカ様を見守るのが夜のわたしのお仕事なのですよ」
膝枕をされて安らかな表情をして熟睡しているマリカに愛おしそうに視線を送るカティア。恐らく毎晩こうして寝顔をジッと観察するように見ているのだろう。
「メイドの鑑ですね。常に自らの主の傍に付き添うなんて普通のメイドにはできませんもの」
「そう言って頂けて嬉しいです。ですが、わたしがマリカ様にとっての理想のメイドになれているか分かりません……なので自分に出来得る全てでマリカ様にお仕えするだけです」
「その心意気があれば立派なメイドだと思いますよ。なんだか羨ましいです」
メイドと一口に言っても仕事内容などに様々な差がある。つまり決まった正解というものは無く、仕えるべき相手に合せてスタイルを変えるのが真のメイドと言えるのかもしれない。そういう意味ではマリカという主に最適化した仕事をして、固い忠誠心を持つカティアは立派なメイドなのだ。
「明日は宜しくお願いしますね。カティアさんのアンドロイドとしての力がキーになると思うので」
「はい、マリカ様のためにも全力で事にあたります」
小さく微笑むカティアは、マリカだけを瞳に捉えながらモンストロ・ウェポンとの戦闘シミュレーションを演算し、今度こそマリカに傷一つ負わせることなく勝利することを誓うのだった。
「モンストロ・ウェポンは命令を受けなければ行動しない…つまりヤツらに指示を与えている存在が何処かにいるということですね。そして、それがカティアさんの言う高性能アンドロイドの可能性が高いと」
「はい。わたしの知る限りでは、モンストロ・ウェポンを指揮制御する機能を有したアンドロイドは一体のみです。わたしが機能停止した後に増産された可能性もありますが、ともかく推測ではアンドロイドの指示でこの街を襲っているのではないかと……」
「その指揮官を倒さなければ脅威を取り除いたとは言えませんね。しかし、居場所が分からなければ攻撃を仕掛けることはできません……何か手がかりはありませんか?」
「戦闘前に感知した電波により、おおよその方角は掴むことができました。後はその方角を調査するしかないですね」
「とはいえ広大な大地を探し回るのは簡単ではありませんね。魔物と遭遇する事もあるでしょうし、もっと絞り込むことができればいいのですが……」
敵の方角が分かったとしても具体的な位置が判明してはいないので、かなり面倒な捜索となる。しかも道中には魔物がそこかしこに分布しているため、常に危険が付き纏うのだ。
「一つ解決策があります。以前マリカ様と訪れた工場からいくつかのオプションユニットを持ち帰ったのですが、その中に強行偵察パックがありました。その装備なら電波を発する相手の位置を探り出すこともできるはずです」
「なら早速倉庫に行こう。あの中に回収した物資が仕舞ってあるからね」
シェリー達も引き連れ、マリカは庭にある倉庫の扉を開く。ここには各地で集めたジャンク品も収納されていて、旧世界の機械や道具に関心のある者には宝の山に見えることだろう。
カティアは目のライトを点灯させて真っ暗な倉庫の中を探し、一つのボロボロな機械を抱えて運んできた。
「それが強行偵察用のオプションユニットなんだね?」
「はい。壊れてしまっているのですが、マリカ様のリペアスキルなら元に戻せるのではと」
「よし、任せて」
マリカは膝を付き、地面に置かれたユニットにリペアスキルをかける。すると折れ曲がっていたアンテナがピンと張り、真っ二つに割れていたレーダーシステム内蔵式レドームが皿のような円形を取り戻す。
この装備にはいくつもの通信、索敵装置が搭載されているようで、カティアの言うように敵の位置を割り出すことに使えそうだ。
「装着、認証完了……ユニットのレーダーとのリンクにも問題ありません」
「敵のアンドロイドの位置は特定できた?」
「レーダーの有効範囲は半径五キロメートルですが、範囲内にはいないようですね。なので電波が発せられた方角へと索敵に出なければなりませんが、装備無しで探すよりも発見しやすくなるはずです」
「直径で十キロメートルをカバーできるのはスゴイね。それだけの能力があれば余裕で特定できるよ」
荒野の中、人の目視だけで何処にいるかも分からない相手を見つけるのは困難だ。しかし強行偵察パックによってカティアは広大な視野を手に入れたのと同義であり、現代のように機械の少ない時代であれば怪しい電波反応のある物を発見するのは容易い。
「この事を防衛隊の方達にも伝えれば手伝ってもらえますかね?」
「それは難しいかもしれません。先日の戦闘で死者も複数人出ているようで、防衛隊の戦力に少なくない被害が出ています。なので遠征に回せるだけの人材がおらず、しかも遠征中に他の魔物の襲撃があった場合には対処できなくなってしまうでしょう」
マリカの問いにシェリーはそう答える。人類の敵はモンストロ・ウェポンだけではなく、普通の魔物達も街を襲うことはあるのだ。それこそカノン・オーネスコルピオなどの強敵が来る可能性もあり、防衛隊の戦力を割けるだけの余裕は無いらしい。
「王都騎士団にヘルプを求めることはできませんか?」
「議会が承認しないでしょうね。あの人達は魔物から自分の身を守ることに必死なので、軍や騎士団を派遣することに強い拒否感を持っています。もし議会に掛け合ったとしても時間がかかることでしょう……わたしのエーデリアを連れ戻すという特命は、議会に強い影響力を持つ母が圧力をかけたことで承認されていて、特例中の特例なのです」
「私にも権力があれば……」
残念ながら一般庶民であるマリカでは議会メンバーに会うことすら叶わないだろう。シェリーですら一介の騎士にしか過ぎず、強い権限を持った議会に意見が反映されることはない。
「こりゃ厳しいか。私達だけではねぇ……戦いは数だもんな」
「数の点でいうと希望はありそうですよ、マリカ様」
「というと?」
「魔導士の皆様の活躍によって敵は戦力を多数喪失しました。モンストロ・ウェポンは魔素を素材として、マザー級などによって生産することが可能ですが時間がかかります。つまり今こそが攻め込むチャンスだと思うのですよ。問題なのは、敵の拠点となる場所にどれだけの防衛戦力が配置されているかが不明な点ですが……」
フリーデブルクに侵攻したモンストロ・ウェポンは全戦力ではないだろう。指揮を執るアンドロイドを防衛するためにもそれなりの数が配置されているはずで、その総数が分からないことが懸念点である。
しかし、敵が再び勢いを盛り返す前にケリを付けなければ、また街が危険に晒されてしまう。次もまた人類が勝利するとは限らないし、いずれジリ貧になって押し切られるのは火を見るよりも明らかだ。
「戦うしかない、私達で」
「やりましょう。軍属でない皆さんを頼らざるを得ないというのは、騎士団所属の身としては心苦しいのですが……」
「こういう時は動ける人が動かないとですから。生まれ育ったフリーデブルクにはそれなりに愛着もありますし、モンストロ・ウェポンに怯えて過ごすのはイヤですからね」
いつあの化け物達が襲来するかと不安で眠れない日々を送るなど冗談ではない。安眠に就き、気持ちよく朝を迎えるためにも不安材料は排除しておくべきだ。
「話は聞かせてもらった! ウチも同行しよう!」
「酔っ払いには荷が重いんじゃ?」
酒の匂いをプンプンに漂わせるアオナがカナエに支えられながらアピールしているが、あまりに頼りない姿にマリカはからかう。
「うっへっへ。この酔っ払いは役に立つよォ! そんじょそこらの騎士なんかよりも強いもんねー!」
「実際にアオナに実力があるのは間違いないことですからね…わたし程ではありませんがね」
「へぇ、そんなコト言っていいんだぁ? シェリーの弱点ならイロイロ知ってるんですけどね~。例えば特に敏感な……」
「そ、そういうのはいいですから! さあホラ皆さん、早速出発の準備ですよ! 明日の朝には発てるように」
アオナの口を手で物理的に塞ぎつつ、マリカ達に準備を促すシェリー。このメンバーの中でアオナと並んで年上である彼女がまとめ役になるのは必然であり、まるで引率の教師のようにも見える。
マリカはカティア用の装備のチェックをし、翌日の出立に備えるのだった。
深夜、コノエ宅のリビングにて寝ていたシェリーは目を覚まし、暗い室内を見渡す。エーデリアやカナエの他、アオナやマリカも一緒になって横になっており、死地に向かう前日とは思えない穏やかな光景だ。
シェリーは上体を起こし、近くで座ったままの姿勢で微動だにしないシルエットに小さな声で話しかける。
「カティアさん、アナタは眠らなくて平気なのですか?」
「はい。わたしはアンドロイドですから睡眠は必要ないのです。なので、こうして眠っているマリカ様を見守るのが夜のわたしのお仕事なのですよ」
膝枕をされて安らかな表情をして熟睡しているマリカに愛おしそうに視線を送るカティア。恐らく毎晩こうして寝顔をジッと観察するように見ているのだろう。
「メイドの鑑ですね。常に自らの主の傍に付き添うなんて普通のメイドにはできませんもの」
「そう言って頂けて嬉しいです。ですが、わたしがマリカ様にとっての理想のメイドになれているか分かりません……なので自分に出来得る全てでマリカ様にお仕えするだけです」
「その心意気があれば立派なメイドだと思いますよ。なんだか羨ましいです」
メイドと一口に言っても仕事内容などに様々な差がある。つまり決まった正解というものは無く、仕えるべき相手に合せてスタイルを変えるのが真のメイドと言えるのかもしれない。そういう意味ではマリカという主に最適化した仕事をして、固い忠誠心を持つカティアは立派なメイドなのだ。
「明日は宜しくお願いしますね。カティアさんのアンドロイドとしての力がキーになると思うので」
「はい、マリカ様のためにも全力で事にあたります」
小さく微笑むカティアは、マリカだけを瞳に捉えながらモンストロ・ウェポンとの戦闘シミュレーションを演算し、今度こそマリカに傷一つ負わせることなく勝利することを誓うのだった。
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