この声が、聞こえるあいだに

小野紅白

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十一話

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 朝起きるといつもよりちょっと遅い時間だった。あれ、寝坊しちゃった。
 ま、いっか。学校も休むしバイトもないし、父さんの病院は昼からで良いし。
 スマホを確認すると夜遅い時間におじさんから病院一緒に行こうっていうメッセージが入ってた。返事を送って寝ぼけた頭で洗面所へ向かう。
 トイレに行って顔を洗って寝癖を直していると意識がハッキリしてきた。
 あれ、今朝はマダム何も喋らないな。いつもなら寝癖がタップダンスだとか何とか言ってくるのに。
 何となくモヤモヤしながら、喉が渇いたのでキッチンに向かう。ふとリビングを見ると昨日額縁から出てきたノートが机の上に置かれている。
 そういえば掃除に夢中になって忘れてたや。
 牛乳をコップに入れてリビングに持って行く。それから机の前に座ってノートを開いてみる。

「本日……何だ?んーっと……帰ラヌ……シタ……?んー、難しいな……」

 やっぱり達筆すぎてなかなか読めない。
 お腹が突然グゥゥーっと鳴る。昨日あんなに食べたのにお腹減るんだな……。

 キッチンを漁るけどカップラーメンも菓子パンも何もない。昨日買い出し行かなきゃ行けなかったんだっけ。牛乳と野菜ジュースくらいしか入ってない冷蔵庫を恨めしそうに見る。
 ……父さんの病院昼からだし、買い出し行くか……。スーパーまで行くのめんどくさいしコンビニにしよ。
 そう思って財布とスマホと家と自転車の鍵だけ持って外に出る。
 玄関のドアを閉めながら、思う。
「ハンケチは?!」とか言われると思ったんだけどな。
 ……何も言わないな。

 自転車を漕ぎながら、謎の鼻歌を謎のテンションで歌う。……現実逃避ってやつかもしれない。

 今日は伊藤がコンビニの前で焼き鳥食ったりしてないな。とか思いながらコンビニに入る。朝ごはんのパンとか新作のカップラーメンとかをカゴに入れながら雑誌のコーナーを何となく見ると『手帳・ダイアリー特集』なんてコーナーがちょっと出来てる。
 ダイアリーって日記だよな?とか思いながら近付くと、さっき見てたノートにそっくりな表紙よノートが置いてある。
 思わず

「なんで?!」

 って言ってしまってちょっと恥ずかしかったけど、これは確かにさっきまで見てたノート……だよね……。
 中をパラパラめくると、ノスタルジーを感じられそうな雰囲気で、さっきまで見てた文字みたいな、漢字とカタカナの文字が所々背景っぽく薄く書いてあるデザインでちょっとカッコいい。

 思わずそのノートをカゴに入れてレジに向かってしまった。

 意外と値段が高くてびっくりしたけど、何とかお財布の中身も足りたし、とりあえず家に帰る。

 家に帰って買ってきたノートと古いノートを見比べる。
 ……うん。確かに同じノートだ……。
 そんな事もあるものなのかなぁなんて考えながらとりあえず菓子パンを齧る。
 あーー、いちごジャムが染み渡るーーー。

 糖分を摂取して脳みそを活性化させた僕はまた古い日記に挑戦する。
 ……。
 全然だめだ。さっきと同じところしか読めない。糖分なんて何の役にも立たない。

 古い方は諦めて新しい方を開く。
 当たり前だけど何も書かれてない。
 どうしようかな。せっかくだから何か書こうかな。いや、でも何を書けば良いんだ?
 そう思ってたらスマホが震えた。何だ?伊藤からメッセージ?

『俺今日遅刻しそうで自転車ぶっ飛ばしてたら見かけたんだけど、お前さっきコンビニに行ったろ?私服だったけど今日学校来ないん?土曜だけど学校あるぞ?文化祭だぞ?忘れんなよーー!!』

 だって。
 思わず笑ってしまった。文化祭忘れるとかヤバい。忘れてないから。あはは。
 とりあえず今日は休むんだよって連絡返してたら中嶋からもメッセージが来る。

『山中ぁぁ!!!今日は遅刻か?!楽しみ過ぎて昨日寝れなくて寝坊したか?!』

 とか。
 そんな小学生みたいな事しないよ。あはは。
 メッセージを読んでる途中に三浦さんからメッセージが来たから中嶋のは後回しにしてそれを読む。

『昨日何かあった?せっかくの文化祭だし、いないと寂しいよー!!って凛が言ってる。笑』

 だって。嘘でしょ?!加賀屋さんがそんな事言う訳ないじゃん!!まぁ、笑とか付いてるし!し!!!
 とか思ってるとまたスマホが震える。

『昨日何か、ごめんね?サキが変なことメッセージ送ってたらごめん。まぁ、休みじゃなければ嬉しいけど……無理しないでね』

 ……やばい。加賀屋さん、これは、やばいですよ……。

 思わず天井を見上げてしまう。

「うひひ」

 何か気持ち悪い声出ちゃった。中嶋のこと揶揄えないな。これじゃ。マジで気をつけよ。

 一人ずつに丁寧に返事を返して行く。伊藤にも追加でスタンプ送っとこ。

 何か、さ。ついこの間まで友達なんていらないさ。とか思ってたけど。
 何か……温かいなぁ。

 スマホを置いて真っさらなノートを見る。
 とりあえず、
『マダムへ。ありがとう。』
 って書いてみる。
 ふふ。ちょっと恥ずかしいけどまぁいいや。
 とりあえず、マダムの声が聞こえた日のことから書き始めようかな。
 書き終わったら、古いノートと一緒に額縁の後ろに隠しておこう。あ、でも父さんに見つからないようにしなきゃ。

 そんな事を考えながら、僕は新しいノートに文字を書き進めるのだった。

 遠くから、マダムの上品な笑い声が聞こえた気がした。

 —完—
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