巨骸山脈

n_tsutamoto

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第二章 第八採掘区

12. 異変

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最初の一週間が過ぎた。
掘削作業は思っていたよりも単調で、手順も作業場所もほとんど変わらない毎日だった。
変わったことと言えば、僕の習熟度だ。
訓練していたときからは信じられない速度で削ることができるようになった。
パラヤにはまだ勝てないが、同じくらいの段階には達しているように思う。
僕とパラヤの採掘速度に引っ張られるように、班全体も加速しているようで、トマも訓練の時とは段違いだ。
といっても、僕とパラヤには遠く及ばないが。

「......ずいぶん早くなったね。光が見えるようになったの?」
「光ってはないけど、なんかわかるようになった。どっちかというと音なのかな?」
「......音?」
「うん。ここだよって教えてくれる気がするんだよね。」
理解できないというような顔でパラヤは夕飯を口に運ぶ。
「お前らって本当に変だよな!光るとか声が聞こえるとか!」
「僕たちに負けてるからって、僻みはよくないよ?」
「うっせぇ!これからだ!」
トマが口いっぱいに頬張りながら、自分を鼓舞するように宣言する。
採掘量が増えればより深い階層で作業できるようになる、つまり給料が上がるので、トマはどうしても負けたくないらしい。

気が付けば、班のメンバーともだいぶ打ち解けたように思う。
言葉は少ないが、班の中にはゆるやかな連帯があり、居心地は悪くなかった。
毎日同じ空気を吸って、同じ毒に浸食され、同じ道具で巨骸を削っていく。
その繰り返しが、奇妙な信頼を生んでいくように感じた。

異変は、採掘が始まってから3ヶ月が過ぎた頃だった。
いつものように採掘をしていたとき、不意に空気の密度が変わった気がした。
僕は違和感を覚えながらすぐに手を止め、静かに耳を澄ませた。
――“ギ、ギィ……”
聞こえたのは、かすかな何かが軋むような音。
刃が擦れる音ではなく、誰かの足音でもない、採掘で初めて聞く音だった。
まるで、地面の奥深く、巨骸の内側から響いているように感じられた。
背筋に冷たいものが這う。
「いま、何かが軋むような嫌な音がしなかった?」
隣で作業をしているトマとパラヤに声をかける。
二人は顔を見合わせてから首を横に振った。
「それじゃ、何か違和感とかは?光が大きくなったとか。」
「......そう言われてみると、たしかに一瞬光が強くなったような気も......」

班のメンバーにも確認してみたが、どうやら違和感を覚えたのは僕とパラヤだけのようだった。
班長のロハンと少し話し合い、監督官に報告することにした僕たちは、一緒に監督官のもとに向かった。
「違和感を覚えたのでご報告です。」
班長のロハンが監督官に簡単に経緯を説明した後、僕とパラヤで状況を補足する。
「それは共鳴だな。」
監督官があっさりと答えた。
「珍しいものではあるが、巨骸に体が共鳴するとそのような現象が起こるらしい。共鳴が起こる者は総じて採掘能力が高いことが多いが、お前たちもそうだろう?」
僕たちは顔を見合わせて、ただうなずくことしかできなかった。

「巨骸ってなんなんだろう?」
「......いきなりどうしたの。」
「共鳴って、何が共鳴してるんだろうって思ってさ。」
「......考えてもわからないことは考えない。」
自分には関係ないというような顔でパラヤは夕飯を口に運ぶ。
「今日はトマ静かだね。体調でも悪い?」
「なんかだるいんだよな......」
「そんな日があるなんて......びっくり。」
「うっせぇ......」
トマが手を止めながら、小さい声でつぶやいた。
あれだけ食べるトマが食べられないとは、本当に体調が悪いのだと思う。
医師に見てもらうように伝えたが、健康診断のときに見てもらったから大丈夫だと言い張った。
珍しいこともあるものだと思ったが、初めて見る姿に心配になった。

その後しばらくして、僕とパラヤはより深い階層での作業に異動となった。
トマの体調は良くなったり悪くなったりを繰り返していたが、最近は調子がいいようだった。
班の皆は快く送り出してくれたが、トマは納得いかない顔で終始不機嫌そうだった。
夕飯を食べてから別れ際にトマが高らかに宣言した。
「すぐに追いつくからな!」
「その間にもっと先に進んでるかもよ。」
「......たしかに。」
「うっせぇ!!」
最後までにぎやかなのがトマのいいところだなと思う。

大穴の方に配置が変更になっても、特にやることは変わらなかった。
ただ、周りの採掘速度は凄まじく、自分がまだまだだと思い知らされた。
班の皆は僕が最年少なこともあってか、とても良くしてくれている。
ベテランの作業員が多いので、巨骸に関する知識が豊富で色々なことを教えてくれるし、生活区の豆知識なんかも教えてくれる。
変わったことと言えば、作業時間が変更になった影響で元の班の皆と会えなくなったことくらいだろうか。
パラヤは僕と同じようなスケジュールで動いているので、タイミングが合えば会って話をするが、やはりやっていることは同じようだった。

異動になってから数か月が経った。
その日も、空は鈍く灰色だった。
採掘作業を終えて、班の皆とご飯を食べていると、ロハンがこちらに歩いてくるのが見えた。
「久しぶりだな!どうだ、元気にやってるか?」
「久しぶり!元気にやってるよ。そっちは?」
「変わらずだな。まだ同じところで作業してるよ。」
ロハンが頭を掻きながら、自虐的に笑う。
「トマは元気でやってる?」
「あー......今は班にいないんだ。」
「そうなんだ。ほかの場所に異動になったんだね。」
なんだかんだやるじゃないか、と思っていると、ロハンの顔が曇る。
「いや、異動じゃなくて......消えちまったんだ.......」
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