14 / 30
14 好きなのに……
しおりを挟む
満月の月影が作り出す自分の影を追いかけながら、蒼衣は無我夢中で家まで走って行った。
家の前に着くと当然、家の中は暗いままだった。
琥太郎はあの腕を組んで歩いていた若い女の家に泊まると言っていたし、究竟も今頃百合江と一緒に……。
暗い部屋の戸を開けて中に入ると、暗闇の中で小さな赤い光が蛍のように付いたり消えたりしている。
それは畳の上で片肘を突いて寝そべったまま、煙管で煙草を喫っている究竟だった。
「遅かったな。風邪を引いて熱っぽいんじゃなかったのか?」
窓の障子越しの満月の光に照らされた究竟は、蒼衣の方を全く見ないまま煙草盆を引き寄せると煙管の灰を捨てた。
「お酒飲んだら治るかなって思って、居酒屋で飲んできたんです」
「誰と?」
「独りで」
「ふーん」
「究竟様こそ、こんな暗闇で何してるんです? 今、灯り付けますね」
土間で草履を脱いで畳に上がり丸行灯に火を入れようとした蒼衣の手首を、究竟が掴んだ。
「嘘をつくな。お前の身体に知らない香の香りが沁み付いているぞ。誰に抱かれた? 女か? いや、この香りは男か?」
蒼衣はつかまれた手首を振り払った。
「究竟様には関係ないです」
「何?」
「究竟様こそ、百合江お嬢様とはどうだったんですか?」
「どういう意味だ?」
「とぼけないでください。百合江お嬢様に迫られたでしょ? それともその前に究竟様から? 百合江お嬢様はおっぱいが大きいから、男なら抱かずにいられるわけがないですもんね」
「やはりそういうことか。百合江に何を頼まれた?」
「別に何も」
顔を背けた蒼衣の顎を究竟の細く長い指がつかんで、無理やり究竟の顔の真正面へと引き戻した。月明かりでも真剣な瞳で見つめられているのがわかった。
「男だな。どこまで許した? 口づけか? 愛撫か? それとも全部か?」
「究竟様が答えるなら答えます」
「百合江とはなんでもない」
「嘘」
「どうして信じようとしない?」
「だって……だって! 究竟様は僕の精が欲しいだけなんでしょ? 僕の精を呑んで神通力を取り戻したいだけなんでしょ!?」
「……琥太郎か」
「いいですよ、そんなに欲しいなら、イカせてくれればいくらでもあげますよ!」
「……」
「……利用するならすればいいです」
「違う。利用なんてしていない」
「何が違うの? 違うなら、好きな相手なら、最後まで抱いてくれるはずでしょ?」
「お前、おかしいぞ。酔っているとしても、らしくなさすぎる。誰に何を吹き込まれたんだ?」
「……僕のこと、少しでも好きでいてくれるなら、僕は我慢できるから、最後まで抱いてよ」
蒼衣は縋るように究竟を見つめたが、究竟の硬い表情は変わらなかった。
「駄目だ、できない」
「! お願いしても駄目なんて……そんなに僕のことが嫌いなら……もういい!」
走り去ろうとした蒼衣を究竟は抱き止めた。しかしその着物の胸元からははっきりと、百合江がいつもつけている香の香りがした。
「ほらやっぱり百合江様の香り! 究竟様の嘘つき!」
蒼衣が振り払っても究竟はまた蒼衣の手首を掴んで、真っ直ぐに見つめた。感情が昂ってしまっている蒼衣の目から涙が溢れている。
「ここはお前の家だ。お前が出ていく必要はない。俺が出ていく」
掴んでいた蒼衣の手首を放し、煙管を咥えると究竟は振り返りもせずに部屋から出て行った。
暗い部屋に閉められた戸の音が響く。
最後に手首を掴まれた時、口づけして抱きしめてくれるのではないかとまだ懲りずに淡い期待をしてしまった。しかし彼は迷うことなく出て行った。
どこまで僕は馬鹿で独り善がりなんだろう……。
蒼衣は畳に突っ伏して大声で泣いた。
家の前に着くと当然、家の中は暗いままだった。
琥太郎はあの腕を組んで歩いていた若い女の家に泊まると言っていたし、究竟も今頃百合江と一緒に……。
暗い部屋の戸を開けて中に入ると、暗闇の中で小さな赤い光が蛍のように付いたり消えたりしている。
それは畳の上で片肘を突いて寝そべったまま、煙管で煙草を喫っている究竟だった。
「遅かったな。風邪を引いて熱っぽいんじゃなかったのか?」
窓の障子越しの満月の光に照らされた究竟は、蒼衣の方を全く見ないまま煙草盆を引き寄せると煙管の灰を捨てた。
「お酒飲んだら治るかなって思って、居酒屋で飲んできたんです」
「誰と?」
「独りで」
「ふーん」
「究竟様こそ、こんな暗闇で何してるんです? 今、灯り付けますね」
土間で草履を脱いで畳に上がり丸行灯に火を入れようとした蒼衣の手首を、究竟が掴んだ。
「嘘をつくな。お前の身体に知らない香の香りが沁み付いているぞ。誰に抱かれた? 女か? いや、この香りは男か?」
蒼衣はつかまれた手首を振り払った。
「究竟様には関係ないです」
「何?」
「究竟様こそ、百合江お嬢様とはどうだったんですか?」
「どういう意味だ?」
「とぼけないでください。百合江お嬢様に迫られたでしょ? それともその前に究竟様から? 百合江お嬢様はおっぱいが大きいから、男なら抱かずにいられるわけがないですもんね」
「やはりそういうことか。百合江に何を頼まれた?」
「別に何も」
顔を背けた蒼衣の顎を究竟の細く長い指がつかんで、無理やり究竟の顔の真正面へと引き戻した。月明かりでも真剣な瞳で見つめられているのがわかった。
「男だな。どこまで許した? 口づけか? 愛撫か? それとも全部か?」
「究竟様が答えるなら答えます」
「百合江とはなんでもない」
「嘘」
「どうして信じようとしない?」
「だって……だって! 究竟様は僕の精が欲しいだけなんでしょ? 僕の精を呑んで神通力を取り戻したいだけなんでしょ!?」
「……琥太郎か」
「いいですよ、そんなに欲しいなら、イカせてくれればいくらでもあげますよ!」
「……」
「……利用するならすればいいです」
「違う。利用なんてしていない」
「何が違うの? 違うなら、好きな相手なら、最後まで抱いてくれるはずでしょ?」
「お前、おかしいぞ。酔っているとしても、らしくなさすぎる。誰に何を吹き込まれたんだ?」
「……僕のこと、少しでも好きでいてくれるなら、僕は我慢できるから、最後まで抱いてよ」
蒼衣は縋るように究竟を見つめたが、究竟の硬い表情は変わらなかった。
「駄目だ、できない」
「! お願いしても駄目なんて……そんなに僕のことが嫌いなら……もういい!」
走り去ろうとした蒼衣を究竟は抱き止めた。しかしその着物の胸元からははっきりと、百合江がいつもつけている香の香りがした。
「ほらやっぱり百合江様の香り! 究竟様の嘘つき!」
蒼衣が振り払っても究竟はまた蒼衣の手首を掴んで、真っ直ぐに見つめた。感情が昂ってしまっている蒼衣の目から涙が溢れている。
「ここはお前の家だ。お前が出ていく必要はない。俺が出ていく」
掴んでいた蒼衣の手首を放し、煙管を咥えると究竟は振り返りもせずに部屋から出て行った。
暗い部屋に閉められた戸の音が響く。
最後に手首を掴まれた時、口づけして抱きしめてくれるのではないかとまだ懲りずに淡い期待をしてしまった。しかし彼は迷うことなく出て行った。
どこまで僕は馬鹿で独り善がりなんだろう……。
蒼衣は畳に突っ伏して大声で泣いた。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
平凡高校生の俺にイケメンアイドルが365回告白してくる理由
スノウマン(ユッキー)
BL
高校三年生の橘颯真はイケメンアイドル星宮光に毎日欠かさず告白されている。男同士とのこともあり、毎回断る颯真だが、一年という時間が彼らの関係を少しずつ変えていく。
どうして星宮は颯真に毎日告白するのか、そして彼らの恋の行方は?
入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?
monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。
そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。
主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。
※今回の表紙はAI生成です
※小説家になろうにも公開してます
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される
Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。
中1の雨の日熱を出した。
義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。
それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。
晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。
連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。
目覚めたら豪華な部屋!?
異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。
⚠️最初から義父に犯されます。
嫌な方はお戻りくださいませ。
久しぶりに書きました。
続きはぼちぼち書いていきます。
不定期更新で、すみません。
「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜
中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」
仕事終わりの静かな執務室。
差し入れの食事と、ポーションの瓶。
信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、
ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる