江戸の奉公人ですが美しい神仙の封印を解いたら運命の人でした

闇雲シャルロッテ

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 結城が握った脇差わきざしの鋭い刃を蒼衣の首の頸動脈けいどうみゃくに突き付ける。もう一方の手はき出しになっている蒼衣を強く握った。

「やめろ」

 静かではあるが怒りを込めて究竟がさとす。
 あまり怒らせてもとでも思ったのか、結城は握っていた蒼衣から手を放すとその手で蒼衣の顔を掴み、その頬を舌でべったりと舐めた。気持ち悪さで背筋がぞっとする。

「究竟よ、神通力を失ったお前に何ができるというのだ。大体、この子を酷く傷付けてこんな目に遭わせたのは、すべてお前のせいじゃないか」

 蒼衣は混乱した。
 どういうこと? まるで究竟と結城は元々知り合いのような話しぶりなんだけど!

「究竟様……これは一体……どういうこと?」
「すまないな、蒼衣。巻き込んでしまって。この男の結城彦左衛門という姿は仮の姿。本当の正体は、200年前に俺を封印した張本人、戦国武将だった間宮義勝の生まれ変わりだ」
「まさか!?」
「ぶはははは! もう少し蒼衣を甚振いたぶって身も心も俺のものにしてから、挨拶に行ってやろうと思っていたのに。もう嗅ぎ付けられたか。随分と久し振りだのう、究竟」

 結城の話し方はそれまでの武士の結城としてのものではなく、間宮そのものの話し方になっているようだ。

「どうだった? わしが送ってやったかめの中は」
「お陰様で200年間、ゆっくり休養させてもらったよ」
「相変わらず口が減らない奴だ」
「お前の方こそ、相変わらず卑怯な男だ」
「最高の誉め言葉だのう」

 蒼衣は涙を流してがくがく震えながら二人の話を聞いていた。
 この二人が知り合いだったなんて……しかも結城が間宮の生まれ変わりで、究竟を封印した張本人だったなんて。この二人の間には一体どれほど深い因縁があるというのか……。

「間宮よ、お前は200年後に自分の術が解けて俺の封印が解除されることを知っていた。だからその前に再度俺を封印するつもりだったはず。なのに何故、わざわざ蒼衣を使ってこんなことをする?」
「決まってるじゃないか。お前が憎くて憎くて仕方ないからさ! お前が泣いてわめいてわしにひざまずいて、びる所を見たいんだよ!」
「困ったものだ、200年経っても何も変わってないとは。執念深いにも程がある。俺は逃げも隠れもしない。さっさと蒼衣を解放して、俺を封印しろ」
「さっきも言っただろ? わしはお前が泣いて喚いて詫びる所が見たいんだよ。そのあとにゆっくり封印してやる」

 間宮は蒼衣の首に突き付けていた脇差を離し、背中を前に押した。

「行け」

 両手首を縛られたまま急いで立ち上がり駆け寄った蒼衣を、究竟はしっかりと抱きしめてくれた。

「なぜ今蒼衣をお前に返すかわかるか?」
「さあな」

 究竟は間宮の問い掛けを聞き流すかのように目を伏せて、きつく縛られた蒼衣の両手首の麻縄を解いてくれている。

「わかっておるくせに。封印するだけではつまらん。お前は究極の選択を迫られ悩み苦しみ泣き喚いた挙句の果てに、わしに降伏するのだ。今蒼衣を返すのは、その過程を楽しむためだ」

 間宮の言葉を無視し、究竟は自分の着物を一枚脱いで全裸の蒼衣に羽織らせてくれた。究竟の胸にしがみ付き、その広い胸の中で安堵の涙を流す。

「おい蒼衣!」

 急に間宮に名前を呼ばれてビクッと震えた蒼衣を、究竟が強く抱きしめる。

「お前は必ずお前の方からわしに抱かれにくる。必ずな。その時にはもっとかわいがってひいひい泣かせてやるから覚悟しておけ! ぶはははは!」

 そう言って高らかに笑いながら部屋の奥の襖を開けて間宮は出て行った。
 絶対にそんなことになるわけなんてないのに。間宮が残していった不穏な予言が蒼衣を震え上がらせる。そんな蒼衣を究竟はさらに強く抱きしめた。
 蒼衣と究竟が急いで間宮の屋敷を出ると、門の外で二頭の軍馬を引き連れた琥太郎が待っていてくれた。

「蒼衣様! 心配したニャ」
「琥太郎さん!」
「話はあとだ。行くぞ!」

 究竟は蒼衣の両脇を抱えて馬に乗せてやると、颯爽と自分も馬の背に飛び乗った。もう一頭の馬には琥太郎が鮮やかに飛び乗る。

「飛ばすぞ! しっかり掴まれ! はっ!」

 究竟が馬の腹を足で蹴ると物凄い速さで馬が走り出した。琥太郎も遅れずに隣にぴったりと並んで馬を走らせている。二人とも軍神の遣いとして戦場を駆け巡るのが当たり前だっただけあって、軍馬を乗りこなす術が華麗で鮮やかだ。
 軍馬などに乗ったことのない蒼衣は振り落とされないよう、しっかりと究竟の胸にしがみついていた。見上げればすぐそこに、あんなにも恋い焦がれた美しい究竟の顔がある。間宮に怖ろしい目に遭わされた時、もう終わりだと思った。されるがまま屈辱に耐え、自分を殺すしかないと思った。
 それなのに、思いがけず究竟が助けにきてくれた。予想だにしていなかったから余計、こんなに嬉しくて幸せなことはないと感じる。
 その反面、聞きたいことも山ほどできてしまった。
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