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照日

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第十話 【桐島かをり/後編】 藤沢陸 著

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「書いてみなよ」


 セナが沈黙を破った。おまえ本当にそれしか言えないのか。不謹慎だけど少し笑えた。

「書いたって読んでもらえないよ」
「だとしても、読んでもらうつもりで、伝えるつもりで書くしかないよ」

「言いたいことがたくさんあるんでしょう」

 たしかにそうかもしれないけれど、そんなことを書き出させるのは酷ではないのか。セナは畳みかける。いつもの押しの強いセナだ。いや、いつもよりも必死に見える。

「そうやって書くことは絶対に無駄にはならないから」
「どうして…」

 そうだ、どうして言い切れる?

「言いたいことで頭がいっぱいのままじゃ自由に物事を考えるスペースがない。書いてみると頭がすっきりするから」
「すっきりかぁ…」

 桐島は泣き笑いみたいな表情になった。

「すっきりしていいのかな…?」

 
 桐島は学校を休んでいた理由を話してくれた。内容は概ね噂通りで、桐島はさっきとは違って淡々と理路整然話し続けた。その友人は長く入院生活を送っていたこと、高校に入ってからは学校から病院も遠くなり、勉強に部活に忙しく、何より新しい生活が楽しくてお見舞いに行くことが減ってしまったこと、後悔していること、そしてその後悔してることを忘れたくはないということ。

 つまり桐島はずっと苦しんでいたいのだ。罪悪感と一緒に生きて、自分だけ楽になどなりたくないのだ。

 こんなのは手詰まりじゃないか。

「すっきりしてもその人が消える訳じゃないよ」

 セナは引かない。すっかりいつもの調子を取り戻している。いや、セナはさっきまで知らない(桐島から直接聞いていない)ことに対しては何も言わなかっただけなのだ。

「それに頭に詰まって邪魔になっているのはその人の思い出じゃなくて君の気持ちの方でしょう?

 むしろ思い出が探し出せないほど君の声がうるさいんじゃないかな」

 俺にはぴんとこない話だったけれど、桐島は弾けるように立ち上がってセナの手を握りしめた。

「ありがとう!」
「どういたしまして」

 セナは首を傾げてにっこり笑う。

「その子のこと、思い出してあげて」
「ありがとう!ほんとに……書かなきゃ、私……」
「自転車、気をつけて!」

 腰まである長い髪をなびかせて自転車をこぐ桐島の背中はあっという間に見えなくなった。
 俺とセナは帰りが遅くなったので日課の寄り道はやめてその場で別れた。



 翌日の桐島は魂が抜けていた。

 心と体はしっかり机に突っ伏していたが意識がお留守だった。ほぼ丸一日中居眠りをしていたのだ。

「大丈夫?」

 放課後声をかけると桐島は笑って返事をした。

「うん、すっきりしてる」

 そりゃあ一日中寝てたもんな…。桐島の顔にはくっきりノートの跡がついている。俺の背後からひょこっとセナが顔を出した。桐島の顔がぱっと明るくなる。

「セナくん!」

「ありがとう、あれからとにかくいろんなこと書けるだけ書いて…そしたら、あの子の顔とか話したこととか…

 思い出せるようになったんだ」


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