西洋風乙女ゲーム『ディアマンテ王宮恋物語』の世界に転生した私達を溺愛してくる攻略キャラ達の話。

藤咲紫亜

文字の大きさ
3 / 3
導きましょう、死の運命から幼馴染を救う婚約破棄を〜転生した庭師、気まぐれに伯爵様を籠絡してみました〜(攻略対象・モテモテ爽やか伯爵)

第3話 決裂

しおりを挟む
「……なんてこと」
 『聖樹』の世話をする娘。『聖樹』に選ばれる娘。
 クラウディオを救う、アリーチェが選ばれたもの。
 エレオノーラは選ばれなかった。

 エレオノーラがよく知るディアマンテ王宮恋物語でアリーチェを選んだ『聖樹』は沈黙し、国王がその娘を決めた。
 選ばれたのはエレオノーラでも、勿論ここに居ないアリーチェでもない、どこかの見知らぬ令嬢だった。

 ここ数週間、エレオノーラは庭の木や草に触れる日々で、白かった肌は日に焼けていた。
 夜遅くまで植物の本を読み、それぞれの植物の特徴を覚えた。前世でも植物を育てるのが好きだったから、植物に関する知識だけなら他の令嬢達には負けていなかったはずだ。

(なのに)
「まーそう落ち込むな」
 エレオノーラが落ち込んでいる本当の理由を知るはずもないクラウディオは、明るく声をかけてくる。

「エル。ベルナルディ家の庭園の管理をするのはどうだ?」
「え……」
「『聖樹』の世話ほどの名誉は無いかもしれないが、今ならこの水の伯爵とのティータイムが付いてくる」
「や……やる! 是非やらせて!」
(なんたって、クラウディオの暗殺現場はベルナルディの庭園なのよ)
 そちらに手を回して置くのも大事だろう。

 こうして私、エレオノーラ・シレアは、ベルナルディ家の特別庭師に任命されたのだった。


   ☆☆☆


 ベルナルディ家の庭園で木々の様子を調べるエレオノーラを屋敷の窓から眺めて、クラウディオは苦笑いを浮かべた。
 彼女は最近、よく髪をまとめず背中に流している。そうすると幼い頃の彼女を思い出す。
———「大人になったら、僕と結婚してくれる?」
 きっと彼女は覚えてすらいない。


   ☆☆☆


 四大精霊の力で、『聖樹』は順調に成長していた。
 エレオノーラはクラウディオの屋敷の庭園を見廻り、庭にある有毒植物を取り除く作業を続けていた。クラウディオが殺害されるのはこの庭園で、彼は毒で殺されるのだ。危ないものは消しておきたい。

 クラウディオは相変わらず、華やかな貴族令嬢達の間を蝶のように飛びまわっていると噂を聞く。
 エレオノーラはだんだんクラウディオと茶を飲むのがつらくなってきていた。

「クラウディオ。フィオレンティーナ様との婚約がまとまったと聞いたわ」
 クラウディオは飲んでいた紅茶のカップを受け皿に置いた。悪戯がばれた子供のように軽く笑う。
「そっか、知られちゃったか」

「どうして……」
「母親の強い薦めで仕方なく、だ」
 ズキリと胸が痛む。
(フィオレンティーナ様は貴方を殺すのよ)
 その言葉を飲み込んで、エレオノーラはクラウディオに告げた。

「クラウディオ。浮気はダメよ」
 クラウディオは目を丸くする。
「何、急に」
「急にでも何でも。今後はフィオレンティーナ様以外の女性と関係を持っちゃダメ」

 エレオノーラはクラウディオを落とす自信が無くなっていた。
 アリーチェはクラウディオに婚約を破棄させるほど愛された。

(でも私には無理。きっと無理)
 今のエレオノーラは、クラウディオにとってはただの茶飲み友達だ。茶飲み友達としてのアドバイスしかできない。

 クラウディオは困った顔をする。
「悪いけど、エルにだけは口を出してほしくない」
「なっ……」
(フィオレンティーナ様に恨まれて、殺されてしまうのに?)

「このままフィオレンティーナ様以外の人と付き合ったら絶対後悔する。貴方の身に良くないことが起きる」
「庭師ごっこの後は預言者ごっこ? 勘弁しろよ」
 クラウディオは軽く笑って視線を逸らす。

「……お願い。フィオレンティーナ様を悲しませないで」
「考えすぎだよ。こういうのは貴族社会ではよくあることだ。フィオレンティーナだって分かってる」

 エレオノーラは必死に言い募った。
「違う! フィオレンティーナ様は貴方のこと、本気で……」
 その先の言葉が、喉が詰まったような感じがして言えない。何故だか、どうしても言いたくない。

「約束して! もう浮気はしないって。他の女性の所に行かないって!」
「エル!」
 クラウディオは珍しく厳しい表情を浮かべていた。
「これは俺の問題で、エルには関係ないだろ」

「関係なくない! お願い、フィオレンティーナ様が……」
「もういい加減にしてくれ!!」
 クラウディオの怒鳴り声に、エレオノーラはびくりと震えて口をつぐむ。彼が声を荒げる姿など見たことがなかった。

「フィオレンティーナフィオレンティーナと、俺の気持ちはどうだっていいのか!? エル、どうしてお前が嫌だからじゃないんだ!!」
「何を……」
(クラウディオは何を言ってるの?)

「気分が悪い、俺は帰る。お前ももう二度とここに来るな」
 エレオノーラは呆然として、立ち去るクラウディオの姿を見送った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 完結済  コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

触れると魔力が暴走する王太子殿下が、なぜか私だけは大丈夫みたいです

ちよこ
恋愛
異性に触れれば、相手の魔力が暴走する。 そんな宿命を背負った王太子シルヴェスターと、 ただひとり、触れても何も起きない天然令嬢リュシア。 誰にも触れられなかった王子の手が、 初めて触れたやさしさに出会ったとき、 ふたりの物語が始まる。 これは、孤独な王子と、おっとり令嬢の、 触れることから始まる恋と癒やしの物語

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
【全16話+後日談5話:日月水金20:00更新】 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

処理中です...