離した手の温もり

橘 凛子

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来訪

ep.55

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「え…じゃあ、最近も月島さんと頻繁に会ってるの?」
『うん。昨日も会ってるし、今日も会うよ』
「え、今日も?時間、大丈夫?」
『平気。夜だから。
髪切ってもらうだけだもん』
「そっか…。
美愛はさ……どうしたいの?月島さんと」
『………。
蒼ちゃんといると気遣わなくて楽だし、やっぱり好きだもん。一緒にいたいよ』
「じゃあ何も悩む必要ないじゃん」
『でも、沢山傷つけた私が側にいる資格なんてないよ』

本音を言えば、私だって元に戻りたい。

何事もなかったかのように蒼ちゃんの隣に身を寄せたい気持ちはある。

でもそんなの都合良すぎるだろう。

「一度さ……
全部、話してみたら?」
『え?』
「月島さんに美愛の気持ち全部。今日、会うんでしょ?」
『まぁ…』
「私は月島さんが過去のことをぐちぐち気にするタイプだとは思えないんだよね。あの人美愛にゾッコンだし」
『そんなのわかってるよ』

過去のことは気にするな、と蒼ちゃんも言ってくれた。

けれどもそれは無理な話だ。

罪悪感が自分を襲う。

ふとした時にきっと思い出すだろう。

過去にずっと捕らわれたまま元に戻るのは嫌だ。

「美愛はさ、罪悪感が月島さんに対してあるんだろうけど…。
気にしすぎだよ、過去のことに。過ぎたことはもうどうしようもないんだから」
『………』
「全部ぶちまけちゃえばいいんだよ。月島さんに。
それでいっぱいいっぱい話し合って、今後どうすればいいのか決めればいいの。難しく考えすぎ!」

菜乃は断言した。

彼女らしい考え方だ。

確かにいくら悩んでもこれは答えが出る問題ではない。

結局は当人同士が話し合うしかないのだから。

また三年前と同じ過ちを犯すところだった。

自分一人で答えを導きだそうとした。

私の悪い癖だな。

『そう…だね…』
「そんなことより!」

話を切り替えるように菜乃は強い眼差しで私を捉えた。

何故だか嫌な予感がする。

私は思わず、少し身を引いた。

『な…なに…?』
「その姿で月島さんに会ったりしないよね?」
『ぇ……
化粧はするつもりだけど…』
「その格好でいくの?」

菜乃は私を上から下まで値踏みするような視線でこちらを見た。

今の私の格好はジムに行くだけと思っていたので、Tシャツとジーパンというラフな装い。

なにか問題があるのだろうか。

彼女は不満そうだ。

『そ…そうだけど…?』
「絶対駄目!着替えて!
折角のデートなんだから!」
『デ…デートって…
ただ髪、切ってもらうだけだよ』
「でも終わったらご飯くらい食べ行くでしょ?」
『まぁ…』
「じゃあ、デートだよ」
『………』

側からみればそうなのだろう。

だが、私にはその認識はない。

菜乃と話しているうちに注文した料理が提供された。

ローストビーフのサラダプレートと野菜たっぷりのタコライス。

お互いヘルシー志向だった。

運動したばかりなのであまり脂っこい食事が胃に入らないだけなのだが。
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