離した手の温もり

橘 凛子

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同棲

ep.84

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「大変?あの子の相手…」
『扱い方把握すれば割と平気なんですけど、プライベートなことまで突っ込まれると…』
「なんか揉めてる?」
『いや、そこまでではないんですけど…』
「?」
『相澤さんと…その…彼氏とで板挟み中というか…』
「え、三角関係?」
『違いますよ。ちょっと複雑なんです…』
「そう…
無理には聞かないけど、あの子にははっきり言ったほうがいいわよ。なんでも許しちゃうと調子乗っちゃうから」
『はい。わかってはいるんですけどね…』

こればかりは性格の問題だ。

私は人に物事を強く言えない。

不快な思いをさせないように生きている人間からすれば、それはかなり難しいことだ。

千葉さんみたいに物事をはっきり言えるタイプだったら楽だったのだろうが。

「まぁ、困ったら呼んで。仕事に関係なくても」
『ありがとうございます。本当に困ったら助けてもらうかもです』
「今日、巡回でしょ?」
『あ、はい。午後からですけど』
「さっさとデスクワーク終わらせて早めに出ちゃってもいいわよ。ゆっくりしてるとあの子に絡まれちゃうだろうから」
『……そうします』

巡回に出れば相澤さんに関わることはない。

早めに会社を出てしまおう。

解決策がまだ思いつかない今、少し時間が必要だ。

彼女には悪いが、案が思いつくまではなるべく関わらないようにしたい。

恐らく無理だろうが。

私は腕時計に目をやって時刻を盗み見た。

そろそろ就業時間だ。

戻らなければ。

千葉さんと共にデスクへ戻る。

その日、私はなるべく相澤さんの件を考えないように仕事に集中した。

幸い、今日は巡回で忙しい。

考える余裕もない筈だ。


—————
—————

『ぁ…もうこんな時間』

気づいたら時刻は十九時。

思ったより時間がかかってしまった。

巡回店舗で店長とミーティング中、ふと時計に目をやるといい時間になっていた。

「話し込んじゃいましたね」
『ごめんね、長々と。私帰らないと』
「はい。お疲れ様です」
『お疲れ様。なんかあったらいつでも連絡していいからね』
「ありがとうございます」

私は店舗のストックのデスクに乱雑に広げた書類を綺麗にファイルにしまった。

大きなトートバッグにしまい、肩にずっしり重みがのしかかる。

店舗を出てこのまま直帰する為、タクシーを呼び止めた。

予定通り蒼ちゃんのマンションまで向かう。

運転手のおじさんに行き先を伝えて、座席の背もたれに身を預けた。

疲れた。

初めての巡回で緊張しながらもなんとか仕事をこなすことが出来たよう。

店長が顔見知りだったのは少し気が楽だった。

いつの間にか店長に出世していたのは驚きだったが。
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