身代わり奴隷、公爵令嬢の仮面を脱いだら大公に執着溺愛されました

Megumi

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18.密告と絶望の離婚宣言(後編)

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 同じ頃、ロランは一つの決断を胸に、セリーヌの部屋の扉をノックしていた。
 使用人の誰かかと思ったのか、セリーヌからは「どうそ入って」と気軽に入室を許可された。

 扉を開けると、驚いたようにこちらを振り返るセリーヌの姿が目に入る。
 部屋の壁には、話に聞いていた通り、ロランの肖像画が飾られていた。
 それを一瞬視界にとらえたロランは、すぐに視線をそらすと、セリーヌのそばに仕えていたミシェルに下がるよう命じた。

 戸惑いながらも、ミシェルは命令通り部屋の外へと出ていく。
 そして静寂が訪れた瞬間、ロランは深く頭を下げた。

「どうか……今すぐ離婚してほしい」
「……え?」

 あまりにも唐突な言葉に、セリーヌは言葉を失ってしまった。

「貴女が望むなら、新しい嫁ぎ先も探す。国外で不自由なく暮らせるよう、全て手配したっていい。絶対に公爵家には戻らなくて済むよう、責任は持つ」

 そう言ってロランは、セリーヌに一枚の為替手形を差し出した。
 記されていたのは、離婚の慰謝料として契約書に記載されていた額の、倍の金額。
 一瞬、見間違いかと思うほどの数字だった。
 いくら大公家といえども、家が傾いてもおかしくないほどの金額だ。
 それをロランは、なんの躊躇もなく差し出している。

 ——ああ、そういうことか。

 元々この結婚は、皇女が結婚するまでという契約だった。
 契約期間が満了したから、自分は速やかに切り離される。
 そのための代償として、この金額が提示されているのだ。

 ここまでしてでも、早く、確実に、自分との関係を終わらせたいのだと——そう理解した瞬間、セリーヌは、胸の奥が抉られるような痛みを感じた。

「も、もう……皇女殿下のご結婚が、お決まりに……?」

 セリーヌが震える声で恐る恐る問いかけると、ロランはゆっくりと首を振った。

「いや……状況が変わったんだ」

 ロランは視線を床に落とすと、懺悔するような面持ちで口を開いた。

「この契約結婚の目的は……あの女——皇女による“犠牲者”を、これ以上出さないようにするためだった」
「犠牲者って……」

 理解が追いつかないセリーヌに、ロランは言葉を選びながら語った。

「あの女は、昔から異様なほど私に執着して……私に近づく女性すべてに敵意を向けていた。そして、時に……その感情が行き過ぎた形で表に出る」

 ロランの脳裏に浮かぶのは、かつて自分に向ける視線が気に食わないという理由で、両目を奪われた使用人の姿。
 ロランの存在に気付かず残酷に微笑むラリサの姿を、今でもはっきりと覚えている。

「……だからあの女に希望を与えないために貴女と結婚をした。そして妻である貴女に敵意が向けられないよう、わざとひどい扱いを……」

 罪悪感から、言葉に詰まってしまう。
 ロランは大きく息を吸うと、キッパリと告げた。

「あの女は、手段を選ばない。このままだと……貴女は殺されるかもしれない」

 ロランの声は低く、絶望がにじんでいた。
 そんなロランの言葉が、重くセリーヌの胸に沈み込む。
 背筋を冷たいものが走り、セリーヌは思わず自分を守るように両手で自分を抱きしめた。
 知らず知らずのうちに、呼吸が浅くなっている。

(女神様みたいなあの方が……私を、殺す……?)

 それは、まさしく青天の霹靂だった。
 美しい微笑みに隠された悪意の視線が、自分に向けられていたという事実に、セリーヌは恐怖した。
 過去に何度も、理不尽な暴力に晒されてきたセリーヌにとって、命の危険は現実感を伴うものだった。

 しかし同時に——

 ロランの告白に、胸の奥から込み上げてくる感情があることに気付く。

 命の危険を告げられているのに。
 恐ろしい話を聞かされているというのに。

 それでもなお、この感情を抑えることができない自分が、どうしようもなく恥ずかしかった。
 ロランは、自分を守るために頭を下げ、離婚を申し出たのだ。

(それなのに……)

 セリーヌは眉を寄せ、涙が出ないよう必死に堪える。

(彼は、皇女に恋をしているわけじゃなかった——)

 その事実が、どうしようもないほど強くセリーヌの心を揺さぶった。
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