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15.本当は見たくない
しおりを挟む「体調は大丈夫なのか?」
昼間なのに背中に夜を背負っているような副団長さんが我が家に再び現れたのは、前回から5日後の事だった。
「はい」
目上の人に対して素っ気ない態度をしたなと思うも手遅れだ。いつもの私なら、そのまま終わらせていたのに今日の私は、珍しく補足した。
「申し訳ございません。グラシアル様に対してではないです」
葉月の時は、毎日のように体調を確認されて、それはペリドールになっても同じ。いや、屋敷で働いている人も追加されているから今の方が。
「──辛いですか?」
よく見ると黒ではなく金色が入った目に問いかけられた。
『この世界が辛いか?』
そう言われていると解釈した私は、少しの間が空きながも答えた。
「まだ、分かりません」
副団長さんと会話をしたのは、今日を合わせて二回目だというのに本音が口から出てしまった。
「何でもないです。忘れて…え?」
その鋭すぎる視線に耐えられず、自然と目線が下がっていた私の耳が、カシャンと金属の音を捉えた。
「あの?」
「考えすぎも行き過ぎると身体に障る」
考えすぎって、私が?というか頭を撫でられている?
「まだ先は長い。焦る必要はない」
そりゃあ、焦りもする。ごっちゃになる記憶を整理しながら家庭教師から色々な事を教わり、日々勉強するも、加減を間違えると直ぐに体調不良になる身体。
挙句の果てに、乙女ゲームのおおまかなストーリーさえ未プレイの為に先を知らない不安感。
できる限り前向きに、小さな事から頑張っているんだよ。
「ペリドール嬢?」
でもね、貴方にわかる?
皆の頭に好感度があるんだよ?
その頭上の数字は、私に対しての評価でもある。
「知らないくせに」
最近、その数値を見たくなくて。でも、どうしても視界に入る。笑顔で接してくれるメイドさん。でも頭上の数字は、とても低い。
「常に見えるんですよ。私は、鋼の精神の持ち主じゃないっていうのに」
好感度がまるわかりだから友好的な関係を作りやすく便利だけど、直ぐに気づいていた。
なんて残酷なんだろうと。
「大丈夫ではなさそうだな」
ヒンヤリとしたモノが顔に触れた。
「この屋敷の使用人は優秀だな」
黒一色の世界とドアの微かな音。
「いるのは私だけだ」
正確には会って三回目の、しかも兄の上司の腕の中で、何故か私は壊れて止まらないアラームのように泣いた。
***
「タオルこちらに置きますね」
「ごめ……ありがとう」
副団長さんは、私が泣き止むとお姉さんが書いた物だという薄い綴られた紙を貸してくれた。
「明日からしばらくお城にはいないと言っていたから、忙しかったんだろうな」
それなのに、手を煩わせた中身成人、外は13歳の私。
「しがみついていたし、寄りかかったよ。鼻水もつけたかも」
最低である。
「だけど、好感度は上がっていた」
正直、よくわからない人だ。
「これで攻略対象者は何人になったのかな?」
血の繋がりのない兄、騎士団所属のデマントイドと学生のジェード、兄と同じ学年の騎士科のアンデシン。あとは、料理長代理レッドジャスパーにペリドールの友達のルビー。
「あ、追加で副団長さん。計5人」
かなりの人数に感じるが、私の乙女ゲームのイメージだと王子様とかも攻略対象者になりそう。
「何か鍵になる発言やアイテムで相手が決まったりなんてパターンだったら、お手上げだな」
もう、いっそう家出するか、ペリドールを溺愛している父親に泣きつき一生独身で暮らしても良いのかも。家出するよりはと、案外すんなりお願いすれば叶うかも。
「いざ開いたら、戻れなくなりそう」
いや、何から戻れないんだか、わけが分からない。
「明日、読もう」
必ず読むから。だから今日は、もういいや。
ゆらりとする気持ちよさに身を委ねた。
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