マリアージュ〜お探しの物あります〜

波間柏

文字の大きさ
20 / 36

20.違う形でも

しおりを挟む
「もう朝?」

 窓から射し込む強い光は、すぐに起きなさいと言わんばかり。

「んー、早めに寝たはずなのに眠いわ」

 私は、ベッドから半身を起こして、おもいっきり両腕を上げ伸びをしながらぼんやりと数日前の出来事を思いだした。

「不思議な人や銀色の…あれは、きっと竜よね。あの時、ライル様がいてくれてよかった。1人だったら耐えられなかったかもしれない」

 おもわず自分の唇を手でなぞった。

私、ライル様と。

「あまりにも気が動転していた私を落ち着かせる為だったのよ」

相手はお貴族様だ。

 かたや、お母様が貴族だったとはいえ今は。お父様も懐中時計に彫られた事が本当だとしても、現在は隣国に統治されているから関係ないわ。

『もう少し調べる必要がある。また近々伺いたい』

 昨夜、ラウル様から帰りがけにそう言われた時、私の心は弾んでいた。そんな状況ではないのに。

「あ、いけない!」

 今日は、仕立ての仕事が来ていないか伺う日だ。

 花祭が終わったから仕事もあまりないかもしれない。けれど、もしかしたら依頼があるかも。

一件あるだけでも、とても有難いもの。

「しっかりしなければ」

 私は、足を床におろし勢いをつけてベッドから立ち上がり、急いで外出の準備をはじめた。




✢~✢~✢


「おはようございます」
「あらっ、待っていたのよ!」
「え?」

「花祭の時にお願いしたドレスがとても好評だったの。特に刺繍が素晴らしいと。見たことのない柄だし、またお願いしたいと言われたわ。それに興味をもたれて、新しいお客様からも注文がきているわ!」

 お店の扉を開けたとたん物凄い勢いで話を始める店主のキャリルさん。こんなにも興奮している姿は初めて見たわ。

 また忙しくなるような予感。でも、生活していく為にお金は必要だし。なにより評判がよかったと言われて悪い気はしない。

「お願いした柄を見せてもらえるかしら?」
「はい」

 キャリルさんは、デザインを考える方で裕福な商家や貴族達からとても人気があるらしい。実際目にした事はないけれど、持ち込まれる生地はどれも上質の品ばかりだから噂は本当なのだろう。

「やっぱり見たことがない花ばかりね」

 わたしが手掛けた模様をみてキャリルさんは不思議そうにしている。

「想像の物なので実在しておりません」
「それにしては、とても細かく表現されているわ」
「ありがとうございます」

 本当は、これらの柄の花は実在しているはずよ。ただし世界が違う場所で。

 花祭が始まる前に何かいい案はないかとキャリルさんに相談されふと思いついたのが、マリアージュを引き継いだ際に調理方法が記された脇にちらほらと花の絵が描かれていた。

 それらはとても緻密で美しく。描いた人はサキコさんに間違いない。

「マリー? 奥で話しましょう。大体のデザインは出来ているから意見が欲しいの」
「あ、畏まりました」
「んもう、硬い話し方はやめてよ。いつも言っているでしょう?」
「キャリルさんは、本当に変わっています」
「そうかしら?」

 クスクスと笑うキャリルさんの後につづきながら思う。

 これらの模様が広まって、先の人達にも愛されれば。旅立っていったサキコさんが喜んでくれるかもしれない。

 そう考える私は、自分勝手かしら?

 でも何か遺したかった。彼女が存在していた事を。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

他国ならうまくいったかもしれない話

章槻雅希
ファンタジー
入り婿が爵位を継いで、第二夫人を迎えて後継者作り。 他国であれば、それが許される国もありましょうが、我が国では法律違反ですわよ。 そう、カヌーン魔導王国には王国特殊法がございますから。   『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

二年後、可愛かった彼の変貌に興ざめ(偽者でしょう?)

岬 空弥
恋愛
二歳年下のユーレットに人目惚れした侯爵家の一人娘エリシア。自分の気持ちを素直に伝えてくる彼女に戸惑いながらも、次第に彼女に好意を持つようになって行くユーレット。しかし大人になりきれない不器用な彼の言動は周りに誤解を与えるようなものばかりだった。ある日、そんなユーレットの態度を誤解した幼馴染のリーシャによって二人の関係は壊されてしまう。 エリシアの卒業式の日、意を決したユーレットは言った。「俺が卒業したら絶対迎えに行く。だから待っていてほしい」 二年の時は、彼らを成長させたはずなのだが・・・。

エメラインの結婚紋

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

【完結】 学園の聖女様はわたしを悪役令嬢にしたいようです

はくら(仮名)
ファンタジー
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にて掲載しています。 とある国のお話。 ※ 不定期更新。 本文は三人称文体です。 同作者の他作品との関連性はありません。 推敲せずに投稿しているので、おかしな箇所が多々あるかもしれません。 比較的短めに完結させる予定です。 ※

私の風呂敷は青いあいつのよりもちょっとだけいい

しろこねこ
ファンタジー
前世を思い出した15歳のリリィが風呂敷を発見する。その風呂敷は前世の記憶にある青いロボットのもつホニャララ風呂敷のようで、それよりもちょっとだけ高性能なやつだった。風呂敷を手にしたリリィが自由を手にする。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

ありふれた聖女のざまぁ

雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。 異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが… 「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」 「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」 ※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。

処理中です...