マリアージュ〜お探しの物あります〜

波間柏

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21.分かれ道

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「何を作ろうかしら」

 夕方から副業があるのに、まだ食事を決めていなかった私は、調理台に野菜を広げ悩んでいた。

「普段なら昨日には下ごしらえをしておくのだけど。仕立ての仕事に気をとられて忘れていたわ」

 集中してしまうと他が疎かになってしまうのよね。自分でもなんとかしたいけれど難しい。それより早く決めないと間に合わなくなってしまう。

「そうだわ。あれを作ってみようかしら」

 最近は汗ばむくらいの日もあるし、ぴったりじゃない。

「でも、一番重要なものが」

 そこで私は肝心な材料が無いことに気がついた。

 どうしよう。改めて広げた野菜を見る。

「やっぱり今日はコレしかないわ」

 それに、いつかはハッキリとさせないといけない。

 よしっと自分に言い私は身仕度もそこそこに外へと出かけた。


✢~✢~✢



「いらっしゃい。久しぶりだな」
「今日は」

 中も外も雑多な品で溢れているお店の店主、ムールさんに挨拶を返した。横にも縦にも大きい店主はアズのお父様。

「アズに用かい?」
「えっ、違い」

 違わなくもないけれど、一番必要なのは品物なんだけれど。

「マリー!」

 丁度お店の裏のドアから沢山の荷物を抱えているアズに名を呼ばれた。

 目が会えば、呼んだのはアズなのに叱られた子供みたいな表情をされた。

「ムールさん。カルとナツラを少し下さい」
「あいよ」
「アズ、わかってる」

 私は、無言で更に距離を詰めてきたアズを見て後回しにはできない事を悟った。

「あまり時間がないのだけれど、話しましょう」

 持ってきた小さな瓶に品物を入れてもらい、お店から少し離れた場所に昔から置かれているベンチに座った。

 子供の時と違い二人で座ると窮屈なくらいだわ。

「ねぇ。久しぶりに座ったら狭いわね」
「……ああ」

 さて、どう切り出そうかしら。

「この前はごめん」

 なるべく傷つけずにと考えていたらアズが先に口をひらいた。隣をちらなとみてみれば、座っても私より上にある顔は俯いていた。

 それを見て苦しくなった。

「私も怖がったりしてごめんなさい」

 アズが少しだけ顔を上げて此方を見てくれた。だけど……傷つけない言い方なんて思いつかない。

「アズ」
「言わなくていい」

 唇にアズの指が触れて言葉がとまってしまった。アズは、苦しそうに悲しそうに笑った。

「返事は聞かなくても分かった」
「アズ」

頬にキスをされた。

 アズはベンチから立ち上がると今度は額に唇が落ちてきて最後に頭を撫でられた。

「わかっていたんだ。俺は、そう思われていないって。でも、やっぱり辛い。だから暫くマリーの家に寄るのはやめる」
「ごめ」
「謝るな」

 謝ろうとしたら、強い口調で遮られた。だって、どうしていいか分からない。

謝るしかできない。

「ずっとマリーを好きなのは変わらない。だから俺が諦められるくらいのいい男を捕まえろよ」
「アズ!」

 お店の方へ足を向けたアズに思わず立ち上がり声をかけた。

「またな。今度はジィルの焼き菓子食わせろ」

 アズは、手だけを私に振り去っていった。

「なんで涙が」

 泣く資格なんてないわ。でも、アズとは何かが途絶えてしまった。

 今、歩く道がわかれたのか。

 私の「好き」とアズの「好き」は違った。

 好きは変わらないのに。

「……食事、作らないと」

 私は、目元をこすり篭を強く抱きしめて、のろのろと家に向かって歩みはじめた。

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