21 / 36
21.分かれ道
しおりを挟む
「何を作ろうかしら」
夕方から副業があるのに、まだ食事を決めていなかった私は、調理台に野菜を広げ悩んでいた。
「普段なら昨日には下ごしらえをしておくのだけど。仕立ての仕事に気をとられて忘れていたわ」
集中してしまうと他が疎かになってしまうのよね。自分でもなんとかしたいけれど難しい。それより早く決めないと間に合わなくなってしまう。
「そうだわ。あれを作ってみようかしら」
最近は汗ばむくらいの日もあるし、ぴったりじゃない。
「でも、一番重要なものが」
そこで私は肝心な材料が無いことに気がついた。
どうしよう。改めて広げた野菜を見る。
「やっぱり今日はコレしかないわ」
それに、いつかはハッキリとさせないといけない。
よしっと自分に言い私は身仕度もそこそこに外へと出かけた。
✢~✢~✢
「いらっしゃい。久しぶりだな」
「今日は」
中も外も雑多な品で溢れているお店の店主、ムールさんに挨拶を返した。横にも縦にも大きい店主はアズのお父様。
「アズに用かい?」
「えっ、違い」
違わなくもないけれど、一番必要なのは品物なんだけれど。
「マリー!」
丁度お店の裏のドアから沢山の荷物を抱えているアズに名を呼ばれた。
目が会えば、呼んだのはアズなのに叱られた子供みたいな表情をされた。
「ムールさん。カルとナツラを少し下さい」
「あいよ」
「アズ、わかってる」
私は、無言で更に距離を詰めてきたアズを見て後回しにはできない事を悟った。
「あまり時間がないのだけれど、話しましょう」
持ってきた小さな瓶に品物を入れてもらい、お店から少し離れた場所に昔から置かれているベンチに座った。
子供の時と違い二人で座ると窮屈なくらいだわ。
「ねぇ。久しぶりに座ったら狭いわね」
「……ああ」
さて、どう切り出そうかしら。
「この前はごめん」
なるべく傷つけずにと考えていたらアズが先に口をひらいた。隣をちらなとみてみれば、座っても私より上にある顔は俯いていた。
それを見て苦しくなった。
「私も怖がったりしてごめんなさい」
アズが少しだけ顔を上げて此方を見てくれた。だけど……傷つけない言い方なんて思いつかない。
「アズ」
「言わなくていい」
唇にアズの指が触れて言葉がとまってしまった。アズは、苦しそうに悲しそうに笑った。
「返事は聞かなくても分かった」
「アズ」
頬にキスをされた。
アズはベンチから立ち上がると今度は額に唇が落ちてきて最後に頭を撫でられた。
「わかっていたんだ。俺は、そう思われていないって。でも、やっぱり辛い。だから暫くマリーの家に寄るのはやめる」
「ごめ」
「謝るな」
謝ろうとしたら、強い口調で遮られた。だって、どうしていいか分からない。
謝るしかできない。
「ずっとマリーを好きなのは変わらない。だから俺が諦められるくらいのいい男を捕まえろよ」
「アズ!」
お店の方へ足を向けたアズに思わず立ち上がり声をかけた。
「またな。今度はジィルの焼き菓子食わせろ」
アズは、手だけを私に振り去っていった。
「なんで涙が」
泣く資格なんてないわ。でも、アズとは何かが途絶えてしまった。
今、歩く道がわかれたのか。
私の「好き」とアズの「好き」は違った。
好きは変わらないのに。
「……食事、作らないと」
私は、目元をこすり篭を強く抱きしめて、のろのろと家に向かって歩みはじめた。
夕方から副業があるのに、まだ食事を決めていなかった私は、調理台に野菜を広げ悩んでいた。
「普段なら昨日には下ごしらえをしておくのだけど。仕立ての仕事に気をとられて忘れていたわ」
集中してしまうと他が疎かになってしまうのよね。自分でもなんとかしたいけれど難しい。それより早く決めないと間に合わなくなってしまう。
「そうだわ。あれを作ってみようかしら」
最近は汗ばむくらいの日もあるし、ぴったりじゃない。
「でも、一番重要なものが」
そこで私は肝心な材料が無いことに気がついた。
どうしよう。改めて広げた野菜を見る。
「やっぱり今日はコレしかないわ」
それに、いつかはハッキリとさせないといけない。
よしっと自分に言い私は身仕度もそこそこに外へと出かけた。
✢~✢~✢
「いらっしゃい。久しぶりだな」
「今日は」
中も外も雑多な品で溢れているお店の店主、ムールさんに挨拶を返した。横にも縦にも大きい店主はアズのお父様。
「アズに用かい?」
「えっ、違い」
違わなくもないけれど、一番必要なのは品物なんだけれど。
「マリー!」
丁度お店の裏のドアから沢山の荷物を抱えているアズに名を呼ばれた。
目が会えば、呼んだのはアズなのに叱られた子供みたいな表情をされた。
「ムールさん。カルとナツラを少し下さい」
「あいよ」
「アズ、わかってる」
私は、無言で更に距離を詰めてきたアズを見て後回しにはできない事を悟った。
「あまり時間がないのだけれど、話しましょう」
持ってきた小さな瓶に品物を入れてもらい、お店から少し離れた場所に昔から置かれているベンチに座った。
子供の時と違い二人で座ると窮屈なくらいだわ。
「ねぇ。久しぶりに座ったら狭いわね」
「……ああ」
さて、どう切り出そうかしら。
「この前はごめん」
なるべく傷つけずにと考えていたらアズが先に口をひらいた。隣をちらなとみてみれば、座っても私より上にある顔は俯いていた。
それを見て苦しくなった。
「私も怖がったりしてごめんなさい」
アズが少しだけ顔を上げて此方を見てくれた。だけど……傷つけない言い方なんて思いつかない。
「アズ」
「言わなくていい」
唇にアズの指が触れて言葉がとまってしまった。アズは、苦しそうに悲しそうに笑った。
「返事は聞かなくても分かった」
「アズ」
頬にキスをされた。
アズはベンチから立ち上がると今度は額に唇が落ちてきて最後に頭を撫でられた。
「わかっていたんだ。俺は、そう思われていないって。でも、やっぱり辛い。だから暫くマリーの家に寄るのはやめる」
「ごめ」
「謝るな」
謝ろうとしたら、強い口調で遮られた。だって、どうしていいか分からない。
謝るしかできない。
「ずっとマリーを好きなのは変わらない。だから俺が諦められるくらいのいい男を捕まえろよ」
「アズ!」
お店の方へ足を向けたアズに思わず立ち上がり声をかけた。
「またな。今度はジィルの焼き菓子食わせろ」
アズは、手だけを私に振り去っていった。
「なんで涙が」
泣く資格なんてないわ。でも、アズとは何かが途絶えてしまった。
今、歩く道がわかれたのか。
私の「好き」とアズの「好き」は違った。
好きは変わらないのに。
「……食事、作らないと」
私は、目元をこすり篭を強く抱きしめて、のろのろと家に向かって歩みはじめた。
5
あなたにおすすめの小説
他国ならうまくいったかもしれない話
章槻雅希
ファンタジー
入り婿が爵位を継いで、第二夫人を迎えて後継者作り。
他国であれば、それが許される国もありましょうが、我が国では法律違反ですわよ。
そう、カヌーン魔導王国には王国特殊法がございますから。
『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
二年後、可愛かった彼の変貌に興ざめ(偽者でしょう?)
岬 空弥
恋愛
二歳年下のユーレットに人目惚れした侯爵家の一人娘エリシア。自分の気持ちを素直に伝えてくる彼女に戸惑いながらも、次第に彼女に好意を持つようになって行くユーレット。しかし大人になりきれない不器用な彼の言動は周りに誤解を与えるようなものばかりだった。ある日、そんなユーレットの態度を誤解した幼馴染のリーシャによって二人の関係は壊されてしまう。
エリシアの卒業式の日、意を決したユーレットは言った。「俺が卒業したら絶対迎えに行く。だから待っていてほしい」
二年の時は、彼らを成長させたはずなのだが・・・。
エメラインの結婚紋
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――
【完結】 学園の聖女様はわたしを悪役令嬢にしたいようです
はくら(仮名)
ファンタジー
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にて掲載しています。
とある国のお話。
※
不定期更新。
本文は三人称文体です。
同作者の他作品との関連性はありません。
推敲せずに投稿しているので、おかしな箇所が多々あるかもしれません。
比較的短めに完結させる予定です。
※
私の風呂敷は青いあいつのよりもちょっとだけいい
しろこねこ
ファンタジー
前世を思い出した15歳のリリィが風呂敷を発見する。その風呂敷は前世の記憶にある青いロボットのもつホニャララ風呂敷のようで、それよりもちょっとだけ高性能なやつだった。風呂敷を手にしたリリィが自由を手にする。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
ありふれた聖女のざまぁ
雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。
異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが…
「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」
「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」
※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる