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12.魔法使い、正体を晒す

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「なっげー、毎回よく話すことあるよな」
「声デカイって」

 校庭で月に一度ある朝礼は、秋の気配があるから少しは楽だけど。

「はぁ、確かに長いよねぇ」

 前を向きつつも、周囲の紅葉しかけている葉をぼんやりと眺めていたら花が話しかけてきた。

「そうだ…来る」

花にほんとだよと言おうとした時、空気が変わった。その直後。

「ヤダー!」
「地震!」
「揺れ大きくない?!」
「怖い!」

 皆の腕に着けている通信機から警報を知らせるブザーが一斉に鳴り響く。

「そ、空っ?!」

この揺れは不味い。

「皆さん! 落ち着いて!な、なんだね。あ、君は」

 階段になっている場所に上がり落ち着かせようとしている校長先生から、マイクをひったくった。

「今は、まだ大丈夫。だから揺れが完全に収まり次第、速やかに高台に避難して下さい」

 腕の通信機が光る。私は、あえて映像を拡大したままに応答した。

皆が納得をするように。

『登録番号1123D104で間違いないか?』
「はい。1123Dです」

 映し出されているのは軍服の男性。国の司令室の一部だ。


『状況は』
「校内の為、町の把握はできていません。ただ」
『一人呼ぶか』

 揺れは断続的に続くだろう。それよりも防がなければいけないものは。

「待機でお願いします。まだ時間にして20分はある。すぐに私が向かいます」
『わかった。正直、他にも被害がでている。君が持ちこたえてもらえると助かる』
「はい」

 通信は切れたと同時に今度は避難指示のアナウンスが聞こえる。

「空っ!」

 人を掻き分け近づいて来たのは海だ。

「空、どういう事?!」

花が大声で私の名前を呼ぶ。

「いまの揺れで津波が来る。ここはシールドが弱い。だから今から避難して」
「そうじゃない! なんで空がそんな事を言うの!?」

なんでって。

「私は、魔法使いたがら」

 右手に青い光を生みだす。それを大きな鳥に変化させる。


「先生、この子が安全な場所に誘導します。もし何か起きても、必ずこの鳥が示す場所に避難し待機を」
「それを信じて…大丈夫なのか?」

 不安と混乱の表情の教師達に生徒。

「先程の映像みましたよね。魔法使いは嘘は言わない」

 いいえ。言えない。もし言えば国との契約違反で、この身体は一瞬で灰になる。

「空、お前一人でどうするんだ?! これから何をするつもりだ?!」

 ウイルスの蔓延に異常気象。世界人口は著しく減少しているなか渡航は制限され、国内の移住も厳しい。

 そんな状況で何故私は、移動できたのか。

「この地域は、まだ汚染も少なく砂浜も残っている。でも、同時に災害に対してとても脆弱なの」

 海は、今まで見たことがないくらい怒っているみたい。

「だから何だって言うんだよ!」

私の為に怒ってくれてるのかな。

「私が、魔法使いだから。私が盾になれるから」

 隅に立てかけられた木の棒を見つけた。植木に使うのかな。右手をかざし、引き寄せた。

「何それ! 空が一番危ないじゃん!」

花の顔は真っ青だな。

「海、花。あの鳥を信じて逃げて。皆も」

 絶対大丈夫なんて言葉は好きじゃない。

だけど、護るよ。

 皆、いきなり来た愛想のない私に優しくしてくれた。魔法使いって知られてないからだと理解していても嬉しかった。

「絶対、守るよ」

 木の棒の上に海でボードに乗るように足を乗せた。

従わせるの苦手なんだけど。

「──我に従い飛べ」

 嫌がる仕草をみせたけど力を強く流せば諦めたらしく、浮いた。

なんとか行けるかな。

「空っ!」
「待てよ!」
「行ってきます」

 国からの命令だけど、自分の意思で護りたいと思えた。

あの砂浜を町を失くしたくない。

「海へ飛びなさい」

ねぇ、お母さん。
私は、お母さんの命を奪って生きた。ずっと罪悪感でいっぱいだったよ。

私、やっと役に立ちそう。


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