中途半端な私が異世界へ

波間柏

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25.楓&ルーク

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今日は月が半月だった。

 色は違うけど満ち欠けはするみたい。お気に入りになっているベンチまでの小道をゆっくりと進む。

あっそうだ。

 腕輪が万能なら私にもできるかもと腕輪に触れて小声で言ってみる。

「この庭一帯に人に知られないように強く防御、音遮断、外から見えないように」

 外からみたら誰もいない庭であるように。一瞬だけ薄い金の膜が広がったように見えた。

さて、できたかな。

「これは」

 先に外に出た私に急いで後からきたルークさんが周囲を見渡していた。

「力がわからないように念じてみたんですが」

 ルークさん達と私は力の使う方法はまったく違う。

私は強く思うだけ。

 ようは、思いの強さが反映される。ルークさん達正統派は組む術式があり、それを学び頭の中で練り上げていく。人によって得意な分野も違うけど、まず持っている魔力の強さが一番の鍵になるらしい。

 私はそもそも魔力がないからヴィラの腕輪でずるをしているのだ。

「面白い。力は極僅かしか感知できないのに触ると強い防御がかかっている。カエデ様だから出来るのだろう」

楽しそうですねルークさん。

「外からまったく分からず、見えないはずなので一緒に座ってお茶でもどうですか? アリヴェルさんがせっかく用意してくれたし」

さて、その前に悪い事をしたら。

「急に外出してすみませんでした。私が無理にお願いしたので、ラウさんやシャルさんはお手柔らかにお願いします!」

 立って頭をきっちり下げる。面接って役にたつなぁ。下げた頭の上に重さがかかる。撫でてくれているらしい。

嫌ではないけど。

「あの?」
「俺が言いたいのは外出の件も重要だがそこじゃない。外出する為に防御の他に何をしました? そして、それはまだ解除されていない」

 顔を上げた私の頬へ手が移動していく。どうしていいかわからないのでその手、困るんですけど。

「自分ではどれだけの力かは、わかりませんが。でも今この世界で一番必要で一番危険なもの。それが私では?」

ラウさんに言われた言葉だ。

「ちょっ、あの?」

 聞かれた質問に答えた瞬間、姫抱っこされ、ルークさんは、そのままの状態でベンチに座った。ようは私はルークさんの腿の上にいる。

ホント無理なんですけど!

「下ろして下さ…」
「人の病や怪我は治して自分はどうでもいいのか?」

 近すぎて目を見て話せない。下を自分のドレスのレースを見ながら言われたことを考える。

どうなんだろう。

「どうでもいいわけじゃないですけど、例えば痛みや苦しみがなく最後を迎えられて、その代わりに五人の子供が助かると言われたら多分…できます」

だってさ。

「私一人分で何人も生かせるなら充分だと思うから。自己満足なんでしょうけど」

 理由を絶対聞いてくるだろうから先に答えた。

「前にカエデに治癒を施したが効きがとても悪かった」

話題が変わった?

 そして最近たまにだけど呼び捨てになりますよね。

「カエデは思いの強さで力が変わるのだろう? ならば生きる意欲がないのが効きが弱い原因かもしれない」

そっか。

「なるほど」
「愚かな」

なんですと?
は~とため息をつかれても何て言えばいいかわからないから困るな。

「そうだ、忘れていた」

 ルークさんは、何かを思い出したのか制服の胸ポケットをあさり始めた。今日のルークさんは話がコロコロ変わるなぁとぼんやりしていたら、左腕をとられ何かを付けられた。

「あっ、これ!」

 今日、外出した時欲しいと思ったブレスレットだ。

「ラウがすごく欲しがっていたと言っていた。奴が後で買いに行きそれを侍女達やシャルが聞いて結局皆からだ」

 腕を動かすと月明かりできらきら光る。

「皆の髪や瞳の色がはいっていていいなぁと思ったんです」

 ブレスレットを眺めながらルークさんに笑いかけたら、頭をポンポンされた。

 私に父はいない。いたらこんな感じなのかな。

 安心感みたいな。なんとなく気持ちがほんわかして口が滑った。

「お父さんみたいですねールークさん」
「俺はまだ二十四だ」

あれ?
イラッとしてます?

「カエデは何歳なんだ?」
「こちらと同じなのかわからないですけど十九です」
「十九…」

あー、固まってるよ。

 こっちの人にしてみれば、外見も精神も幼いのは知っている。

「警戒心が無さすぎだな」

呆れたような口調で言われた。

「夜に音も遮断された中で男の膝に乗っている」
「いや、もがきましたけど無理だったし」
「嫌なら本気で抵抗しろ」

 いや、本気だしても無理ですよ~。と言おうとしたら体を倒された。

「ちょっ、あっ、」

 何故かおでこ、瞼、頬に軽いキスをされた!

それだけで終わらず、手が私の首から胸、お腹とゆっくり撫でられていく。

ヤ、ヤバい。

 でも…困った事に嫌ではなく、ぞくぞくする。

 頭だけじゃなく体も撫でられると気持ちいいなんて初めて知った。

 そう思っている間に唇が首筋にあたりピリッと痛みがきた。頭がどんどんさがっていく。

ムリムリ!

「ぎゃっ!もー無理!」
「ぶっ」

 ギブアップの声をあげれば何故笑ってるんですか!? 私の胸あたりで吹き出さないでくださいよ!

「危機感足りないのはわかってますけど、慣れてないので遊ばないで下さい!」

 ルークさんが私の上から離れていき私を起き上がらせながら、頬にキスをされ囁ささやかれた。

「俺は本気だ」

目があった。

 さらさらの少し長めの紺色の前髪の間から深い海色の瞳が見つめてくる。

冗談ですよね?

 そう言おうとしたけど言えなかった。

絡み合う視線は本気だ。
会って三日。
おかしいでしょ。

 そもそも容姿や頭のできからして釣り合わなさすぎだ。

…違う。

私は帰るのだから。



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