恋をする

波間柏

文字の大きさ
14 / 21

14.熱が出た

しおりを挟む

「悪いけど今日は探すのパスするね」
「気にしないで下さい。大丈夫ですか?」
「うん。薬飲んだから寝れば良くなると思う」

 昨日あれから寝られず気がつけば朝になっていて。やたら体の節々が痛いと思い熱を測ったら38.5℃だった。

心が弱ると熱って出るのかな? 部屋に戻りボフンと枕に頭を落とす。

「元々違う世界の人なのになぁ」

 只でさえイケメンさんなのに、昨日のおでこにキスされたので自覚しちゃったよ。好きになったって彼女持ちのうえに生きる世界が違うなんて最悪だ。

あと何日彼はいるんだっけ?

指を曲げて数えていく。…あと五日かな。

五日間だけ我慢すれば平穏が訪れる。そんな事をぼんやりと考えていたら、ノックの音がした。

「ホノカ」
 
 もう聞きなれた声に目を開けた。いつの間にか寝ていたらしい。

「大丈夫ですか? 起こしてすみません。何か食べたほうがいいかと思って」

 湯気が出ている物をお盆に乗せてランスが近寄ってくる。 

「どうぞ。体調か悪い時など、俺の国では食べるんですが。胃に負担がないように味は薄いですけど」
「これ…何故これを知ってるの?」

出されたそれは、シチューだった。

 でも、家のシチューは普通とは違う。乳製品は一切使わず、銀杏切りの人参、くし切りの玉葱。六等分くらいの大きいじゃがいもを入れ煮込んだ後に何故か片栗粉でとろみをつける。

味は塩のみ。

 しばらくして成長した私は、テレビや学校の給食で本当のシチューを知ったのだ。

「…やはりホノカは知っているんですね」

意味がわからない。

「何を?」
「熱どうですか?」
「えっ、ああ。だいぶ下がった気はするけど」
「熱を測る、体温計であってますか? それで熱が下がっていて話ができそうなら、話したい事があります」

静かな、けれど真剣な水色の瞳。

「とりあえず食べて。それとも食べさせようか?」
「えっ?!自分でできる!」
「じゃあ食べて」

 いつもと違い押しが強いというか、敬語もなくなってるし調子が狂うな。

「いただきます」

フーフーしながら火傷にならないように慎重に口にいれた。

「うん。昔と同じだ」

野菜の旨みがゆっくりと口の中に広がった。なんか、おばあちゃんや母を思いだすなぁ。

「今日のホノカは忙しいね」

誰のせいよ。

 懐かしくて、もう会いたくても会えない人達を思い出す。

いつのまにか泣いていた。

「ふっ、すごい顔」
「うるさい」

 からかうような口調とは裏腹に私の頭を撫でるランスの手はとても優しかった。

 食後、熱を測ると微熱程度になっていたのでリビングに足を向ければカウンターの椅子に座り長い足を組んだランスが文字の勉強をしていた。

やっぱりカッコいいな。

「ホノカ。気分は?」
「微熱程度でだいぶいいです」

ランスがこちらに気がつき話しかけられた。

あぁ、もうちょっとだけ横顔を眺めたかったな。

「じゃあちょっと待ってて」

 そう言った彼はニ階に上がって直ぐに降りてきた。

腕に何かを抱えている。一見本に見えたけれど本型の木の箱だ。

「これは、おじい様の机の後ろにあって、許可なく開けてしまった。たぶん、ホノカじゃ開かない」
「ああ、古くてかたかった?」
「いえ。鍵がかかっていた。魔術で」

それって、どういう事?




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音
恋愛
雨の日に滑って転んで頭を打った私は、気付いたら公爵令嬢ヴィオレッタに転生していた。 どうやらここは前世親しんだ乙女ゲームかラノベの世界っぽいけど、疲れ切ったアラフォーのうろんな記憶力では何の作品の世界か特定できない。 鑑で見た感じ、どう見ても悪役令嬢顔なヴィオレッタ。このままだと破滅一直線!?ヒロインっぽい子を探して仲良くなって、この世界では平穏無事に長生きしてみせます! ※他サイトにも掲載しています

中途半端な私が異世界へ

波間柏
恋愛
全てが中途半端な 木ノ下 楓(19) そんな彼女は最近、目覚める前に「助けて」と声がきこえる。 課題のせいでの寝不足か、上手くいかない就活にとうとう病んだか。いやいや、もっと不味かった。  最後まで読んでくださりありがとうございました。 続編もあるので後ほど。 読んで頂けたら嬉しいです。

ついてない日に異世界へ

波間柏
恋愛
残業し帰る為にドアを開ければ…。 ここ数日ついてない日を送っていた夏は、これからも厄日が続くのか? それとも…。 心身共に疲れている会社員と俺様な領主の話。

氷の騎士と陽だまりの薬師令嬢 ~呪われた最強騎士様を、没落貴族の私がこっそり全力で癒します!~

放浪人
恋愛
薬師として細々と暮らす没落貴族の令嬢リリア。ある夜、彼女は森で深手を負い倒れていた騎士団副団長アレクシスを偶然助ける。彼は「氷の騎士」と噂されるほど冷徹で近寄りがたい男だったが、リリアの作る薬とささやかな治癒魔法だけが、彼を蝕む古傷の痛みを和らげることができた。 「……お前の薬だけが、頼りだ」 秘密の治療を続けるうち、リリアはアレクシスの不器用な優しさや孤独に触れ、次第に惹かれていく。しかし、彼の立場を狙う政敵や、リリアの才能を妬む者の妨害が二人を襲う。身分違いの恋、迫りくる危機。リリアは愛する人を守るため、薬師としての知識と勇気を武器に立ち向かうことを決意する。

【本編完結】美女と魔獣〜筋肉大好き令嬢がマッチョ騎士と婚約? ついでに国も救ってみます〜

松浦どれみ
恋愛
【読んで笑って! 詰め込みまくりのラブコメディ!】 (ああ、なんて素敵なのかしら! まさかリアム様があんなに逞しくなっているだなんて、反則だわ! そりゃ触るわよ。モロ好みなんだから!)『本編より抜粋』 ※カクヨムでも公開中ですが、若干お直しして移植しています! 【あらすじ】 架空の国、ジュエリトス王国。 人々は大なり小なり魔力を持つものが多く、魔法が身近な存在だった。 国内の辺境に領地を持つ伯爵家令嬢のオリビアはカフェの経営などで手腕を発揮していた。 そして、貴族の令息令嬢の大規模お見合い会場となっている「貴族学院」入学を二ヶ月後に控えていたある日、彼女の元に公爵家の次男リアムとの婚約話が舞い込む。 数年ぶりに再会したリアムは、王子様系イケメンとして令嬢たちに大人気だった頃とは別人で、オリビア好みの筋肉ムキムキのゴリマッチョになっていた! 仮の婚約者としてスタートしたオリビアとリアム。 さまざまなトラブルを乗り越えて、ふたりは正式な婚約を目指す! まさかの国にもトラブル発生!? だったらついでに救います! 恋愛偏差値底辺の変態令嬢と初恋拗らせマッチョ騎士のジョブ&ラブストーリー!(コメディありあり) 応援よろしくお願いします😊 2023.8.28 カテゴリー迷子になりファンタジーから恋愛に変更しました。 本作は恋愛をメインとした異世界ファンタジーです✨

答えられません、国家機密ですから

ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。

処理中です...