21 / 21
21.恋した先は
しおりを挟む「それで全部?」
「多分」
私は気を失っている間に体験した数々をランスに話した。窓からは朝日が差し込んでいる。
ついに朝になってしまった。
ソファーに座った私達の周りは凄いことになっていた。
あの石の解除と私の魔力の暴走で、ランスが帰る為に溜めていた力を使い、すぐ結界とやらを張ってくれたらしいけれど。
丸テーブルに置いたはずのコーヒーカップは床に落ち割れ、観葉植物の鉢は倒れ土が床に散らばっており、貝のモビールは砕けていた。
片付けなきゃ。でも、そんな体力は残ってない。
「ホノ」
ほんやりとしてたのか、ランスに呼ばれ彼のほうに視線を向ける。
相変わらず真剣な表情だ。
「もし、俺とザーキッドへ行くとしたら何が気になる? 何が心残り?」
夢じゃないなら選択肢なんてないはずなのに彼は優しい。
心残りな事。
寝不足と疲労感で、働かない頭で考えてみる。
「…その異世界に何の資格も知識もない私が行って生活できるのか。友達の花音や来年受けようとしていた資格の試験。永代供養だけど母や祖父母の眠るお墓」
一番は。
「──この家」
私にとってこの別荘は、今はいない人達との思い出が沢山つまっている。ランスが、急に立ち上がったかと思ったら、今度は私を抱き上げた。
「な、何?」
「とりあえず聞きたい事は聞けたから。ホノは一度寝て」
ずんずん階段を上がり私の部屋に入るねと言い、ベッドにおろされた。
こんな状態じゃ寝れないよ。そう思ったら手を握られた。
「寝るまでいるから目を瞑って」
私は、寝れる気分ではないけれど疲れて文句も出ないので仕方なく従い目を閉じた。手を握られ緊張するかと思ったら、なんだか安心感がある。
温かい大きな手。
私は、いつの間にか寝ていた。はっと目を覚ましたら周りは真っ暗だった。急いで起き上がり電気をつけ、時間を確認する。
もう夜の9時だ。急いでシャワーを浴び、少しスッキリしたところで下へ降りる。
「嘘」
リビングは、何もなかったかのように綺麗に元に戻っていた。キッチンではランスがお茶をいれている途中らしく、こちらに気付きニッコリ笑う。
「顔色がよくなってよかった」
なんかスッピンで申し訳なくなってくる。
「少し食べれる? どうぞ」
お腹すいたと言ったら、おにぎりとお味噌汁が出てきた。
「おにぎりの中身は、鮭、おかか、梅干しで味噌汁の具は、大根、豆腐、ワカメ」
「…美味しい」
「よかった」
微笑む彼。おにぎりはご飯部分に少し塩を使っている。お味噌汁もだしをとってあった。
一度見せただけなのに完璧だ。
間違いない。
ランスはとても良いお母さんになるだろう。
「あれから色々考えたり調べてみたが」
カウンターテーブルに座る私の隣で湯飲みを持つ彼はなんかジジくさい。
「まず、ザーキッドに行った際には基礎知識は学べばいいし生活は仕事をしたいなら、確実にその魔力だと魔術士で食べていけるというか、国が君を手放さないだろう」
まあ訓練は必要だけどと付け加える彼。
「住む所は、一緒に暮らしたいけれど正式に婚約してからになるから暮らすのはヒュラルの屋敷かな」
なんか、ひっかかる。
「何故そこでヒュラルさん?」
「ヒュラルは、父親が急死して現在ターナ家の当主だよ。ヒュラル・ヴィ・メルト・ターナ。ホノの血縁者だし、彼は魔術に優れているから教わればいいと思う」
…えっ。
あの派手美女が親戚? 私の動揺なんて気づかないランスは話は続く。
「それと隣国に平和を保つ為に嫁ぐはずだった消えたひいおばあ様の後の状態だけど」
そう。
見せられた映像の中で後半に曾祖母が気にやんでいた場面があったのだ。
「確か歴史書には隣国との戦はなかったけれど、その時期内乱、クーデターが起きて王は倒されたはずだ」
そっか。よかったというべきなのか微妙だけれど。
「あと、友達とは恐らく二度と会えなくなるし、お墓は運べるなら持っていけるけど難しい。試験は、向こうと此方では全く違うから諦めるしかない」
ですよね。
「で、最後にこの家だけど。庭は難しいけれど家ごと転移できると思う」
「嘘?!」
「本当」
被せるように言われた。つい興奮してランスに近づきすぎ、慌てて離れようとしたら逆に引寄せられた。
「地下のこの家の中心部に盤をはめ込む箇所があった。ひいおばあ様とおじい様は何か予感していたのかもしれない」
ランスにひたと見つめられて。
「…明日一緒にきてくれる? ホノと生きたい」
なんで不安そうに聞くの?
ランスは、急に私から離れると目の前で片膝を床につけた。彼は、私に彼と同じ瞳の色のピアスを片方耳から外し私に渡した。
見上げてくる視線が強すぎるよ。
「ホノの国では指輪だけど俺の国では、プロポーズには自分の瞳の色のピアスに魔力を溜め片方渡すんだ」
「えっ?」
「こんな不安な気持ちの時のホノに狡いのは分かっているけれど、誰にもホノを盗られたくない」
頭が追い付かない。
「俺の家柄では、まして爵位を継がない俺が、公爵家の君とは、まったく釣り合わないけれど。いつか他の男の隣にいるホノを見るのは嫌なんだ」
……なんか、こんなちっぽけな私がお姫様になった気分です。
なんて言っていいか言葉がでず、無言で彼が差し出してきたピアスを久しく何もない耳につけた。
途端に体が宙に浮き、気づけば持ち上げられていた。
高い高いのように。
怖い!
「降ろして!」
そのまま強く抱きしめられた。
「スッゴイ嬉しい!」
なんか、もう君に負けたよ。
ううん、私もなんか嬉しい。
*~*~*
次の日の夜。
夜空には満月が輝いている。
私は昼間ずっと大忙しだった。
お墓参りに行き、出来る限りの手続きをこなし、できないのは海外にいる花音にメールでお願いした。
彼女はズボラだから、まだメールに気がついていないだろうけれど。お金も彼女に送り、残りは寄付した。
あぁ。
花音は、信じてくれるだろうか?
きっと彼女も来たことがあるこの別荘がなくなっているのを見たら驚愕するだろうな。他の誰も信じてくれなくていいから、花音だけは、信じて、そして私を忘れないで欲しいな。
「ホノ」
「うん。行く」
家の窓は月の力を取り入れる為に全て開け放たれている。
私とランスは地下に降り、中央のはめられた盤に近づいた。
「盤に触れて」
ランスに言われて恐る恐る手を盤に伸ばす。もう逃げ場はないのに、往生際が悪く私は震えていた。
不意に手が温かくなる。
盤に置いた私の手の上に被せるようにランスの手が置かれていた。
「絶対、大丈夫」
なんの根拠もない彼の言葉。でも、信じられる気がした。
「飛ぶ」
ランスの言葉の直後、強烈なオレンジ色の光に包まれる。
一人じゃない。
隣にはランスがいる。
私は、新たに動き始めた人生を信じ目をつぶった。
~ END ~
32
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
異世界育ちの侯爵令嬢と呪いをかけられた完璧王子
冬野月子
恋愛
突然日本から異世界に召喚されたリリヤ。
けれど実は、リリヤはこの世界で生まれた侯爵令嬢で、呪いをかけられ異世界(日本)へ飛ばされていたのだ。
魔力量も多く家柄の良いリリヤは王太子ラウリの婚約者候補となる。
「完璧王子」と呼ばれていたが、リリヤと同じく呪いのせいで魔力と片目の視力を失っていたラウリ。
彼との出会いの印象はあまり良いものではなかった。
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる