僕のかーちゃん、空を往く

みや いちう

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僕とかーちゃん、戦う

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◆◆第二章

 「おはよう」
  季節を忘れた年中真夏のこの国でも、朝はまだ涼しい。僕はその日、にこにこしながら、朝の涼しい空気を吸って登校していた。今日はNYから帰るパパを迎えに行く日。何で迎えに行くのかって? それはもちろん、かーちゃんの背中に乗って、さ。
  学校に着くと、しげる君と太陽君、それに最近仲間に入ったみさこちゃんもやってきて、化け物ウオッチ~戦闘編~の話をした。
  みんな、あのゲームには夢中だ。みさこちゃんは最初、学校に来たての頃は戸惑っていたけれど、僕が声をかけて、僕らの仲間になった。みさこちゃんは、確かに見た目は綺麗すぎてとっつきにくい感じもあるけれど、しゃべると愉快で面白い女の子なんだ。女の子のお友達も、たくさん増えたみたいだよ。きっと今まで、その優しくて楽しい人柄を知ってもらう機会がなかったんだね。そうこうしているうちに、なお先生が教室に現れた。手には紙を一枚持っている。
 「はーい、みんな静かに~では、以前配った授業参観の紙を出して下さい。あれはとっても大事だと先生言ったから、まさかなくしちゃった人はいないよね~」
  僕は思わずにびくっとした。そうだ。なお先生は言ったことを忘れてしまう子には怖い顔をするんだった。慌ててプリント入れの中を探す。ああ、よかった。あった。
と、僕の隣のまさる君が、青い顔で一生懸命机の中を探している。ありゃ、きっと失くしちゃったんだ。まずいなあ、と思った。まさる君はいつも、宿題も忘れちゃうし、給食当番も忘れて、勝手に給食を食べ始めていてなお先生に雷を落とされたことがある。なお先生は何度も怒ることが嫌いだから、もう二度としないように、って、念入りに怒る。雷の一撃が非常に強いのだ。僕は頑張って勇気を出して、
 「まさる君、僕のプリント使いなよ」
って、言いたかった。だけれど怖くて、言えなかった。だって、僕の分のプリントを渡したら、僕が怒られちゃうもの。戸惑うその一瞬に、
 「まさる君、これ」
  と、誰かがプリントをこっそり手渡した。みさこちゃんだった。まさる君は、ほっとしたのか
「かたじけねえ」
なんてちょっとおどけて受け取ったのが、僕には少し嫌な風に感じられた。
 「はーい、ではプリントを忘れた人はいない……みさこちゃん?」
 「先生、わたし、忘れてしまいました」
  あのみさこちゃんの黒目が少し潤んでいるのが、僕の目にもありありと見えた。まさる君は知らんぷりをして、そっぽを向いている。
 「みさこちゃん、後で職員室に来て下さい」
  なお先生の恐ろしく低い声が聴こえて、僕は思わず身の気もよだった。なお先生、やっぱり怒ってる。みさこちゃん、大丈夫だろうか。
  小休憩になって、教室がざわめきだしたとき、僕のそんな不安な思いを、しげる君が口に出した。
 「おい、まさる。お前、そんな芋食ってないで、なお先生に謝りに行けよ」
  まさる君は確かにいつもこっそりお菓子を食べている。そして確かに、まさる君はなお先生に謝りに行くべきだと思う。それでもって素直に言うべきだ。
 「プリントをなくしたのはみさこちゃんじゃなくて、僕です」って。
  でもまさる君は芋をほうばりながら、えくぼのある笑い顔で、こんなことを言い放った。
 「ええ、そんなの、知らねえよ。あっちが勝手に俺に渡してきたんだもん」
 「なっ」
  僕は思わずカチンと来て、まさる君に詰め寄ろうとした。慌てた太陽君が僕の腕をとる。
 「かける、やめとけよ」
 「でも、そんな言い方って」
 「なんだよなんだよ。揃いも揃って、みんな、あの子のことが好きなのかあ~」
  僕はまさる君のこういうところが嫌いだ。
 僕と同じで気が弱いくせに、トラブルが過ぎると妙に気が大きくなって、トラブルをちゃかそうとする。そういうところ、大嫌いだ。
  その場は険悪なふんいきのまま終わってしまった。僕はその後で、沈黙を守っているみさこちゃんのことが気になった。

 ズドドドドド
 放課後、かーちゃんが誰もいなくなった教室に飛んで僕を迎えに来てくれた。僕はもうちょっと待ってほしいと言った。なお先生が呼び出したみさこちゃんが、まだ帰ってきていなかったからだ。みさこちゃんを待つ間、僕は事のあらましをかーちゃんに語った。
 「まあ、そんなことが」
  かーちゃんはしばし黙ってしまった。
 「ね、かーちゃんもまさる君のこと、悪い子だと思うでしょう」
 「どうでしょう。私はまさる君のことを、とってもかわいそうに思います」
  このかーちゃんの一言に、僕は驚いて、琥珀の光射しこむ教室で、かーちゃんの顔を見た。かーちゃんはちょっと、寂しそうに笑っていた。
 「ダメなことはダメだと、教えてもらえない子供は、大きくなってからとっても苦労しますよ。今幸福でも、人を傷つけたそのつけは必ずまわってくるものです。ですからかーちゃんは、その子をとてもかわいそうに思います」
  今度は僕が黙ってしまった。かわいそう。そうか。かーちゃんは人間じゃないから、嫌いや好きを超えているんだ。かーちゃんはロボットでもなく人間でもなく、僕のかーちゃん、だから。
 「それにしてもみさこちゃんはとても勇気あるふるまいをしましたね」
 「本当にね。僕、全然、出来なかった」
 「また今度ですね。あ、みさこちゃん、帰ってきたみたいですよ」
  かーちゃんがそう言ったとき、みさこちゃんが教室のドアを開いてやってきた。よかった。あんまり泣いてないみたいだ。その綺麗な白い顔はそのままだ。
 「みさこちゃん」
  僕が駆け寄ると、みさこちゃんはえへっとにこやかに口の端をあげた。
 「先生に怒られちゃったわ。まさる君に渡したの、前から見たらばればれだって」
  ふふ、と微笑むみさこちゃんは、まるで本当のお人形さんみたいだ。
 「先生、ずっと待ってたんだって。まさる君が、ごめんなさいって言いに来るの。でも、全然来なかったって」
 「あいつ……」
  僕はますますまさる君が嫌いになった。だけれど、かーちゃんやみさこちゃんの前でそんな汚い僕になりたくなくて、見た目は困ったような笑顔を浮かべていた。
 「さて、では行きますか。かける君」
 「どこかへ、行くの」
  みさこちゃんが思わず僕とかーちゃんに尋ねる。僕は思い切って、みさこちゃんにこんなことを打ち明けた。
 「今日はね、パパがNYから戻ってくる日なんだよ。だから今から成田に行くの。みさこちゃんも、よかったら来る?」
  みさこちゃんは目を思い切り開いて、小首を傾げた。
 「成田? かーちゃんと、かける君と?  一緒に行っていいの?」
 僕がうんって頷くと、かーちゃんも、よかったらおいでなさいって、手で背中に招いた。
 「うん、わたしも一緒に行きたい!」
  そして僕らがベランダから飛び去ったとき、僕は校門のところで、まさる君を見た。芋を食べているまさる君もこちらを見て、びっくりしていた。僕はどうだって、ちょっとだけ、自慢したくなった。まさる君は本当にびっくりした表情をしていた。

 成田で出会ったパパは、前より少しだけ痩せたような気がしたけれど、笑顔はそのままだった。やっぱり外国もいいけれど、日本も捨てがたいな、なんて笑っていた。
  僕がみさこちゃんを紹介すると、
 「お、こんにちは」
  と微笑んだ。みさこちゃんが僕のパパにぽーっとしているのを見て、なんだかちょっと悔しい気持ちになった。おや、この気持ちはなんだろう。
  僕とパパはタクシーで、みさこちゃんはかーちゃんの背中で帰っていった。
その日の夜はかーちゃんが腕によりをかけたご馳走がテーブルに並んだ。僕はとっても嬉しかった。青い鳥が戻ってきたみたいだった。だって、お皿を並べるかーちゃんがまるで本当のママみたいに見えたから。それを、かーちゃんに伝えようかとも、思った。
 『もし明日あなたのパパが死んでしまったら』
  あの言葉が僕の頭をよぎった。だけれど、大丈夫って自分に言い聞かせて、それきりそのことは忘れようとしてしまった。だって、かーちゃんはロボットだから、死ぬことがないんだもん。
――今でも、このことは後悔している。

 次の日、僕が教室に入ると、僕の席には見慣れぬ人が座っていた。さも、偉そうに、どっかりと。誰だろう。勝手に座って……。僕が近づいていくと。
 「おい、お前が俺の弟をいじめたかけるってやつか」
 「……は?」
  僕の席の乗っ取り犯が振り向いた。その顔はにやにやしていて、頭は坊主で、笑うとえくぼが出来た。あ、こいつはまさる君のお兄ちゃんだ! そう気づいた時に、まさる君のお兄ちゃん、たける君は僕をしげしげと眺めて、吐き捨てるように言った。
 「抵抗は無駄だ、よせ。お前が俺の弟にわざとプリントをよこさなかったり、みんなの前で悪者にしたのは全部まさるから聞いてる。俺はお前を殴らないと気が済まねえ」
 「はあ?」
  僕は半ばあきれて、たける君の背中に隠れるようにして僕を睨んでくるまさる君を見やった。
 「僕、そんなことしてませんけど」
 「そうだ、かけるはそんなことしてないよ!」
  太陽君やしげる君が加勢に入ってかばってくれる。だけれどたける君の怒りにはガソリンと灯油がちゃんぽんで注がれるばかりだ。
 「うるさい! お前らと年下のくせに生意気だぞ! 俺は中学生だ、柔道部で、強いんだぞ! まさるをいじめるお前らなんて、すぐにひねりつぶしてやるからな」
  これには思わずクラスの面々も黙ってしまった。そんなとき、窓からまたお相撲さんの走りこんでくる音が聞こえて、僕はベランダを見た。そこではかーちゃんがブースターの火をおさめて、こちらへ『お弁当、忘れてますよ』と身振り手振りで示していた。僕が思わずそちらを見つめてばかりいると。
 「あ、あれだよにーちゃん!! あいつに乗って、かけるが自慢げに俺を見下してきたんだ!」
  まさる君が大きな声で叫んだ。するとたける君が、かーちゃんの方へずんずん進んでいったので、僕は慌てた。まさる君はかーちゃんの前に立って、いきなり怖い声と顔で問いただした。
 「おい、このポンコツ! お前は何者だ!」
 「私はかける君のかーちゃんですよ。どうもこんにちは」
  なんて奴だろう。僕のかーちゃんにあんな失礼な言い方。次にはかーちゃんがにこっとしたのに、まさる君はがはははといきなり指をさして笑いだした。
 「これが、かけるのかーちゃんかよ!! すげー古いロボットじゃん! 俺んちのロボットの方がもっと進んでるぜ!! だっせー!!」
 「きっと、お金がなくてこんなのしか買えなかったんだよ、にーちゃん」
  二人の嘲笑に、一瞬僕は意識が飛びそうになった。今にして思えば、あれがきれるって感覚だったのかもしれない。それに気づいたのは、みさこちゃんだった。みさこちゃんが僕の手をぎゅっと握って意識を取り戻してくれなかったら、僕はそのとき二人に殴りかかっていたかもしれない。
 「おい、なんとか言えよロボット! どうせお前あれだろ、何も出来ないんだろ!」
 「僕のかーちゃんを馬鹿にするな! 僕のかーちゃんは古くても世界一なんだ! 君んちのロボットがそんなにすごいっていうのか!」
  僕が思わず叫んだとき、まさる君がじろと、僕を睨んだ。
 「いいよ。そんなに言うなら、お前んちのかーちゃんと俺んちのロボット、どっちがすごいか勝負してやろうじゃねえか」
 「え?」
 「俺んちのロボットはすげえんだぞ。絶対お前んちのおんぼろロボットよりすごいんだぞ」
  そこで、なお先生の入ってくる音がして、まさる君が席を立った。
 「いいか、次の授業参観のとき、お前のかーちゃんと俺のロボット、どっちがすごいか勝負だからな、逃げたり負けたりしたら、全裸逆立ちで校庭一周だからな」
 「なっそんな、かーちゃんを勝負させるなんて!」
 「約束だからな!」
そうしてたける君は同じ敷地にある中学校へ帰っていった。僕はただひたすら困惑していた。

「ごめんよ、かーちゃん」
  おうちに帰って、かーちゃんと二人きりの食卓を囲んだとき、僕はぽつり、呟いた。
 「僕があんな喧嘩にしなければ、かーちゃんを巻き込むことには……」
  しおれた花みたいな僕へ、かーちゃんがお水をあげるように笑いかけた。
 「いいんですよ。それにかーちゃんはとっても嬉しかったから、それでいいんです」
 「嬉しかった?」
  まるで水をもらった花が顔をもたげるように、僕は顔をあげた。そう訝し気に訊くと、かーちゃんがまた、にこってした。
 「だって、かける君、私が馬鹿にされたとき、まるで自分のお母さんが馬鹿にされたみたいに怒ってくれたでしょう? 私、とっても嬉しかった。こんな嬉しいことは、今まで作られてから初めてかもしれません」
  ぷっ。僕はその作られたって表現がおかしくって、思わず笑顔になってしまった。そっか。でもそうなんだ。かーちゃんは生まれたんじゃなくて、作られた、んだもの。
 「実はね、かける君」
それからかーちゃんが静かな声で語りだした。
 「かーちゃんは実は廃棄寸前だったんですよ」
 「はいきって、捨てるってこと?」
 「そうですよ」
  かーちゃんはちょっと寂しそうに。
 「かーちゃんは古い古い機種の、売れ残りだったんです。ほら、今のロボットはすごいでしょう。見た目は人間と変わりないし、人工知能は入っているし、仕事も何でも人間のかわりに、はるかに優れた知能とスピードでこなしてくれる。それにひきかえかーちゃんは、見た目はウルソラマンだし、頭だってすごくよい訳じゃありません。人工知能もないですしね。ただ、お料理が出来て、言葉が話せて掃除機がかけられて、ちょっと空が飛べるだけのロボットです。今はすぐに科学の進歩で新しいロボットが売りに出されます。だからかーちゃんちっとも売れなくて、廃棄処分になるところでした」
 「そんな……」
 「だけど」
  ショックを受けた僕へ、かーちゃんが微笑を浮かべる。
 「お店の人がかわいそうに思って、最後に私を売りに出してくれたんです。長年倉庫にしまわれて死を待つばかりだった私を。ネット販売で。バーゲンみたいな、押し売りみたいな形でしたけれどね」
  うん、確かにあれは押し売りだったかも……。かーちゃんがそんな僕を見てまた微笑んでくれた。
 「かける君に会ったとき、最初はとってもドキドキしました。こんな古っちい、ぽんこつロボットと仲良くしてくれるかしら。って。だけれど、かける君は、こんな私と仲良くしてくれて、僕のかーちゃんを馬鹿にするなって言ってくれた。そのとき、本当に思ったんです。かける君、ありがとう。あなたは私の宝物です。私、頑張って、あなたのいいお母さんになりますって。私をすくってくれて、私のために怒ってくれる、そんないい息子の為なら、怖いことなど何もありません。どんな怖いものにも、立ち向かっていけます」
  僕はこれを聴いて、ツウーって音が聞こえた気がした。それは、涙のながれる音だった。僕の頬から、じゃない。かーちゃんの目から、黄色のオイルが流れ出ていた。
  かーちゃんには感情があったのだ。今時のロボットは、感情のない、自分の仕事だけを頑張る冷たい顔のものが多い。だけれど、かーちゃんには感情がある。それは僕にとって驚きだった。そして、いつの間にか僕も、涙を流した。
 「かーちゃん」
 「はい」
 「僕たちずっと一緒だよね?」
  かーちゃんが破顔して答えた。
 「ええ。どんな形でも、ずっと一緒です」


 そうして、授業参観の日がやってきた。僕は教室後ろに並ぶいろんなお母さんの顔を見ては、ドキドキをこらえた。僕の席の隣に、みさこちゃんが寄ってきた。
 「かける君、かーちゃんは、もちろん来るんでしょう」
 「うん。みさこちゃんちは?」
 「私、お父さんも、お母さんも、いないの」
  ざわざわした教室のなかで、みさこちゃんがぽつり、呟いた。
 「私んち、お金はあるの。だけれど、お父さん、めったにおうちに帰ってこないの。どうしてだかは、分からない。お母さんはきっと、待ち疲れたのね。ある日、突然いなくなっちゃった」
  そっか……黒目がちの目を潤ませるみさこちゃんも、僕も、きっと似た哀しみを抱いている。僕はみさこちゃんをじっと見つめて、言った。
 「大丈夫、みさこちゃんが好きなレモンパイを焼くのは、僕のかーちゃんだけれど、みさこちゃんのかーちゃんでもあるんだよ。僕らには世界で一番、素敵なかーちゃんがついているんだよ」
 「……そう、ね」
  みさこちゃんが、涙で潤んだ瞳を細めて笑った。

「おらー! どけどけー!!」
  そのとき、教室の後ろ側に、一人の女性を連れて、まさる君とたける君が現れた。そのロボットと思われる女性は、確かに綺麗だった。ブロンドの波打ったのを腰まで伸ばし、白い端正な顔が、まるで感情もなく、人々を睨み据えている。
  そこでかーちゃんも飛んでベランダより入ってきた。まさる君たちのロボットが走ってかーちゃんに接近する。
 「主人の命令で来ました。申し訳ありませんが、主人の命ですので、あなたを壊すかもしれません。ご容赦を」
 「まあまあ、そうですか。私はかける君のかーちゃんです。今日はお手柔らかに」
  授業参観の間中も、そのロボットはかーちゃんを睨み据えていた。
  そして授業終了後。たそがれ。
  誰もいなくなりつつある校庭に僕らは呼び出された。あたりは人もまばらで、けれど僕とかーちゃん、みさこちゃん、まさる君とたける君とそのロボットの異様な雰囲気に、おやと思って足を止める人々もあった。たける君が大声で言い放った。
 「では、今から校庭二周勝負だ!  ルールは簡単だ。この広い校庭を先に二周した方が勝ち。負けたら、分かっているだろうな! かける!」
  僕はたける君の怖い目にも屈さず、睨み返した。そのあとで、校庭のスタートラインに並ぶかーちゃんへ、そっと耳打ちした。
 「本当に大丈夫? かーちゃん」
 「大丈夫です。安心してください」
  かーちゃんはにっこり笑った。
 「では、並んだところで、スタート!!」
  ズドドド
 たける君たちのロボットは、まるでその身に纏った紺のスーツが裂けるような勢いで走り出していく。なんという速さだ。まるで高速をかっ飛ばす車のようだ。かーちゃんは、大丈夫だろうか。と思ったらかーちゃんはその先にいた。なんとブースターを使って、飛びながら走っていったのだ。まるで戦闘機みたいにアッという間に一周走り終えた。僕は思わず笑いがこみあげてきて。
 「いいぞ、いいぞかーちゃん!」
 「頑張って。かーちゃん!」
  僕とみさこちゃんで掛け声をかける。
  その時だった。
  かーちゃんの飛行に乱れが生じた。また僕はびっくりした。なんと、今度は後ろをひた走るロボットが小型ミサイルを打ち出してきているのだ。
 「きゃあ、かーちゃん!」
 「卑怯だ! 迎撃するつもりか!」
  みさこちゃんも僕も思わず声を張って、まさる君チームの方を見やる。まさる君もたける君もにこにこしていた。
 「ははっどうだ! お前んちのポンコツには、こんな機能ついてないだろう!」
 「そりゃあそうだけれど! でもこんなの卑怯じゃないか! 今すぐやめさせて!」
 「やだぴ~」
  僕は再びかーちゃんの方を振り返った。かーちゃんはミサイルをうまくよけていたが、苦しそうだ。燃料が切れかかっているのかもしれない。
 「かーちゃん!!」
  そこで、かーちゃんはある作戦を発動させた。なんとなんと、後ろのロボットに向けておたまやしゃもじを投げ始めたんだ。するとロボットはミサイルでそれを迎撃して、怖い目のまま笑んだ。
 「これがあなたの攻撃ですね。ちっとも怖くないわ!」
  高らかに言い捨てたのはよかったけれど、彼女は次第に速度を落としていった。なんだろう。僕はそこでやっと気が付いた。
  小型ミサイル弾がもうなかったのだ。いくらロボットとはいえ、ミサイル弾をそんなに無限に持っているはずはない。ああ、そうだ。だからかーちゃんはあえて逃げずに、しゃもじなんかをトラップとしてわざと放って撃たせて、弾数を減らしていたんだ。僕のかーちゃんは、なんてすごいかーちゃんだろう!
  気づけばかーちゃんはもう校庭を二周しおわっていた。
  まさる君もたける君も、これには唖然としていた。
  ロボットの方はあんなにミサイルを搭載し、打ち込んだんだもの。燃料切れでもうヘロヘロだ。
 「やった! 勝った!!」
  無事ゴールしたかーちゃん。僕らが手を取り合ってぴょんこぴょんこ跳ねていると、たける君とまさる君が苦い顔をしてロボットの方へ詰め寄った。
 「おい、このぽんこつ! なんであんなだっせえロボットなんかに負けるんだよ!」
 「申し訳ございません」
 「このくず! ぼけっ」
  二人でロボットを足蹴にしている。たまらず僕らがそれを止めようとする。
  その時だった。
  ヒュルルルルー!!
 突然、すごい音が聴こえて、僕らはその方角へ振り返った。
 「なっなにあれ……」
  それは燃えながら落ちてくる隕石だった。大きくはない。一瞬流れ星かと思ったくらい。隕石はまっすぐ裏山に落ちそうになった。いや、落ちたんだ。
  その直後、すごい衝撃で、地面が揺れて、裏山がゆらいだ。と思うと裏山は火を吹いた。
 「ひいいいいい」
 「きゃあああああ」
  みなみな悲鳴をあげて逃げていく。僕はかーちゃんに抱きしめられていた。不思議と、怖くはなかった。映画を見ているみたいだった。かーちゃんの右腕は僕を、左腕ではみさこちゃんをしっかりと抱きしめてくれていた。
  かーちゃんは呟くように言った。
 「ついに、来ましたね……」



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