憎し憎しや皇帝陛下

みや いちう

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信じてくれ。

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「ええええ」
 弓矢は次々に襲ってくる。
「ちっ敵襲かっ碧玉、お前なんかまたやったろっ」
「あんた以外には悪さしてないわよ! あんたのせいじゃないの!!」

二人は四阿の影に隠れ、お互いに生き延びるための策を講じた。
「いいか、俺が出ていくからお前はここにいろ。助けを呼ぶ」
「嫌よお! あんたそのまま遁走する気満々じゃないの! あの弱虫龍王が助けなんて呼んでこられる訳ないわっ」
「俺は一応皇太子なんだぞ……俺を信じろ、頼むから」
 嘆息して告げる龍王へ、碧玉が激して喚いた。
「無理よっあんたなんて信じられないわっだって、私の父上はあんたを信じて死んだんだから」
 龍王がはっとした。なぜ、碧玉の髪が短いのか、今わかったのだ。碧玉の短髪には白髪が混じっていた。自分を讃えて殺された家臣、それが我が父と……あの話だけは、嘘ではなかったのだ。
(ふがいない俺のせいで、この女の運命を、狂わせてしまった、のか)
「もういいわっとっととあんただけでも逃げなさいよ! 私はここにいるわ。短剣ももっているもの。いざとなればこの身くらい……きゃっ」
 龍王は抵抗する碧玉を、力強くその腕のうちに入れた。
「ななななな何するのよこの馬鹿変態弱虫っ早く逃げなさいったら! あんたは皇太子さまなんでしょう!?」
「……碧玉、すまなかった」
 そうして龍王は疲れと心労に萎えた碧髪を、優しく撫でてやった。
「これからは父にかわって、俺がお前を守る。だから、ここにいろ。約束だ」
「なっでっでもっ」
 碧玉の頬を、すっと優しく撫ぜて、龍王は笑った。
「女のために危険を冒すのも一興と、兵法にも書いてあったな」
「ばかっ何を言うのよ、この状況で口説くなんてっ」
 真っ赤になる碧玉を、いとおしむようなまなざしで、腰をあげた龍王が見つめた。
「では、続きはあとでゆっくり口説いてやろう。ではな」
 「龍王っ」
 碧玉が叫ぶのも一瞬で弓矢の音にかき消された。雨のような執拗さで、彼の身体を弓矢が狙った。それをたくみに避けて、龍王は駆けていく。その足元に刺さった弓矢を、すかさず一本引き抜いて。
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