憎し憎しや皇帝陛下

みや いちう

文字の大きさ
8 / 13

暗躍

しおりを挟む
その頃、屋敷の自室で水晶を使い凛鳴を操っていた白幻に、あわただしい足音が耳に入った。
「どうした」
 その栗毛の髪を肩まで伸ばした白幻へ、家臣が耳打ちした。
「殿下、大変でございます! こんな時に客人がまいりました」
「そんなの、断ればいいじゃないか」
 それが……と家臣の顔が緊張でこわばる。
「あの、果林公主がこの屋敷を探索したい、との仰せで、おいそれとお断りできません」
「なんだとお!」
 広間にはすでに、十は数える家臣を連れて、先の王の思い人、果林公主が威あるたたずまいで彼を見据えた。
「ごきげんよう、白幻殿下。わたくし、第四皇太子殿下の伯母、果林と申します」
 それから間髪おかず、果林公主は。
「この家から失礼ながら、呪術の匂いがいたしますゆえ、家内を調べさせて頂きますよ」
「何を勝手に……!!」
 怒号を飛ばす白幻に、まるで微塵も屈さず、果林は言った。
「もし、もしあなた様が、不思議な力を用いて人を操り呪わば、あるいはそれが皇太子さまであれば、これ、天下の重罪。車裂きは、逃れられませんよ」
「くっ」
 栗毛色の髪をかきむしり、白幻は仕方なく呪に用いた蛙をひねり潰した。
「龍王め、卑怯な手を使う! だが、この次は必ず」

 「そういう訳で、証拠は見つからず、白幻を捕らえることは出来ませんでした。まことに、申し訳なく思っております」
 白幻の家からこちらへ直行した伯母へ、龍王は感謝の念を込めて言った。
「いえ、こちらこそ、元に戻った凛鳴が、解毒をすぐさま調合し、碧玉に呑ませたので、なんとか難事を乗り越えることが出来ました。ありがとうございます」
 その碧玉は別室にて、意識を取り戻したあとでの、深い眠りに入っている。毒薬で命もあわや、というところまでいったのだ。寝付くのも無理はないであろう。
「しかし伯母上、よくわかりましたね。白幻が呪術をかけていると」
「わたくしはあらゆるところへ間者を飛ばしているのです。その間者が知らせてくれました」
 そうだったのか……。さすがは伯母上、といえど、やはりこの女人は怖い。
 「殿下、奥方様がお目覚めになりました」
  すっかりまなざしも変わり穏やかになった凛鳴が、二人のいる客間に知らす。
「ではわたくしはこれにて。ああ、そうそう、龍王殿下」
 席を立った果林公主が、最後に付け加えた。
「間者によれば、第一皇子天狼、および第二皇子幽來が、あなたの存在に興味をもっていると言います。興味、と申しても、決して、よい意味の興味ではないことを、重々承知しておいで遊ばせ」
「はい、伯母上」
 龍王が頷くと、果林は輿に乗って去っていった。

「具合はどうだ、碧玉」
 目覚めた妻を見舞いに、龍王は碧玉の自室へと足を踏み入れた。そこで碧玉は起き上がり、半身を褥の枕に預けていた。
「少しは元気も出たか?」
「出る訳ないじゃない」
 彼女の美しい眉が顰められて。
「あんた、私はね、怒っているのよ。たかだか妻の一人が毒を盛られたからって、あんなに動転して、敵の言うことを丸のみにしようとして!! このおバカ! そんなに優しかったら、皇帝争いなんてうまくいかないわよ! もっと冷酷にならなくては……」
 あなたのお父上様みたいに……。そうまで言わずに、碧玉は口をつぐみ龍王を見据えた。龍王がふっと、微笑む。
「あいにく、俺が似ているのは顔立ちだけで、あとは無邪気でお人よしと言われた母に似たのかもしれんな」
「な、でも……」
「本当さ。お前もいない玉座などこの世など、興味はないよ」
「! あんたったら、大好きっ。じゃない!! 大嫌い、だったわ」
 慌てて訂正を施す碧玉へ、龍王がまたにこやかに、牡丹のほころぶように笑んだ。
「おやおや、まだ薬が残っているのかな。どれ、俺が毒をといてやろう。接吻すれば少しは毒も消え去るのではないか?」
「何よその理論! って、褥に勝手に入ってこないでよっ誰かっ誰か筝をもってきてっ筝をー!!」
 これを部屋の外から聞いていた凛鳴は、
「まったく、犬も食わない……」
 そう呟いて、箒を見つけて部屋の扉をたたいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

処理中です...