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プロローグ
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桜咲く新学期の季節。
中学校の体育館では新入生を迎える入学式が行われている。
今年から中学一年生になる清水絵梨はそこで校長先生の言葉を聞いていた。
「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。私達教職員一同、こうしてみなさんと出会い、これからの中学生としての新たな学校生活を一緒に……」
絵梨は小学生の頃からこの校長先生の言葉が苦手であった。
長くて退屈だし、何か大切なことを伝えようとしているのは分かるけど、大人の言い回しは変に回りくどくて、どうしても聞いている途中で飽きてしまうのだ。
中学生になってもこの感じは変わらない。そんな事実を前にして、絵梨はこれから始まる中学生としての新生活にちょっとだけ不安を覚えた。
小学校からの友達は何人かいるけど、知らない子もたくさん周りにいる。まだどこに何があるのかも分からない学校の校舎。きっと難しい勉強もたくさんすることになるだろう。
けれど、中学生になったからといって、特別新しいことが始まるわけではないのだ。新学期や行事のたびに退屈な校長先生の話を聞いて、毎日教室で勉強して、放課後は遊んだり部活をしたりする。そんな当たり前の学校生活が始まるだけなのだ。
漫画やアニメが好きな絵梨はどうしてもその世界と自分の世界を比べてしまう。
漫画やアニメに登場する同級生のキャラクターはみんな冒険したり恋愛したり、時々起こる非日常的な事件に巻き込まれたりして、毎日楽しそうにしている。それに比べて、私のいる世界は同じようなことを繰り返すだけで面白い出来事はまったく起こらない。
空想と現実は違うことは分かっているけど、私も一度でいいから漫画の世界みたいな学校生活を送ってみたいな。そうしたらきっと毎日が楽しくなるに違いない。
そんなことを考えている内に、絵梨は校長先生の話を聞きながらついうとうとし始める。
ぼんやりとした意識の中、遠くのほうではまだ校長先生が長話をしているのが分かり、途切れ途切れではあるがその内容も聞こえてくる。
「……ですから、本日より魔法使い科に進学した皆さんは、将来立派な魔法使いになって社会へ貢献できるよう、たくさん勉強に励んで下さい」
ほとんど眠りかけていた絵梨はその話にふと違和感を覚える。
あれ、今校長先生は「魔法使い」って言ったの? 急に変な話が始まったなあ。それに校長先生の声って、こんな女の人みたいに高かったっけ?
おかしいなと思った絵梨は目を開けて顔を上げる。
すると、そこにはさっきとは違う女性の校長先生が立っていた。
白くてきれいな長い髪、空の色みたいに青い目、校長先生っていうよりは年上のお姉さんって感じだし、しかもまるで魔法使いみたいなローブを着ている。
絵梨は周りを見てびっくりした。
そこは明らかに学校の体育館ではなかったのだ。それに周りの人もおかしい。
壇上にはファンタジーの世界に出てくる老人みたいな長いヒゲを生やした先生や怖い顔した先生が立っていて、私の周りには魔法学校の生徒達が着るようなローブの制服を着た子がたくさんいる。って、いつの間にか、私もみんなと同じ制服になっているし、どうして?
絵梨が戸惑っていると、どうやら校長先生の話が終わったようで周りから拍手が起こる。
「ソフィ学園長、ありがとうございました。これにて、魔法使い科・火級生の入学式を閉会いたします。各自、担任の先生に従って教室に戻り、今後の流れについて話を聞いて下さい」
知らない先生達が周りの生徒に指示を出して、順番に建物の外へと出ていく。
絵梨は「これは夢だ」と思った。校長先生の話があまりにも退屈で眠ってしまい、ついその時にしていた妄想が夢になって現れただけで、本当は体育館の中にいるはずなのだ、と。
絵梨は爪の先で自分の頬をつねってみた。
頬にちくりと痛みが走る。つまり、これは夢ではなく、現実であった。
えっ、嘘でしょ、私どうすればいいの?
絵梨があたふたとしていたその時、誰かに背中をとんとんと叩かれた。
「ねえ、早く前に進んでよ? 置いていかれちゃうよ?」
振り返ると、絵梨の後ろにいた子が不機嫌そうにそう話し掛けてきた。
そう言われて自分の前に視線を戻すと、さっきまで絵梨の前にいた生徒達の列はすでに建物の出入り口の近くを歩いていた。絵梨の後ろからは「何してるの?」とか「早く行ってよ」とか、彼女を急かすような声が聞こえてくる。
「ご、ごめん!」
とにかく迷惑をかけてはいけないと思い、絵梨は前の列に追いつこうと駆け出した。
彼女は走りながら色々なことを考える。
どうして自分は知らない場所にいるのか。ここにいる人達は本当に魔法使いなのか。自分が居眠りをする前の入学式はどうなったのか。どうやったら元の場所に戻れるのか。
分からないことだらけで頭が混乱しそうになる。
私、何かの間違いで魔法学校に入学しちゃったんだ。
中学校の体育館では新入生を迎える入学式が行われている。
今年から中学一年生になる清水絵梨はそこで校長先生の言葉を聞いていた。
「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。私達教職員一同、こうしてみなさんと出会い、これからの中学生としての新たな学校生活を一緒に……」
絵梨は小学生の頃からこの校長先生の言葉が苦手であった。
長くて退屈だし、何か大切なことを伝えようとしているのは分かるけど、大人の言い回しは変に回りくどくて、どうしても聞いている途中で飽きてしまうのだ。
中学生になってもこの感じは変わらない。そんな事実を前にして、絵梨はこれから始まる中学生としての新生活にちょっとだけ不安を覚えた。
小学校からの友達は何人かいるけど、知らない子もたくさん周りにいる。まだどこに何があるのかも分からない学校の校舎。きっと難しい勉強もたくさんすることになるだろう。
けれど、中学生になったからといって、特別新しいことが始まるわけではないのだ。新学期や行事のたびに退屈な校長先生の話を聞いて、毎日教室で勉強して、放課後は遊んだり部活をしたりする。そんな当たり前の学校生活が始まるだけなのだ。
漫画やアニメが好きな絵梨はどうしてもその世界と自分の世界を比べてしまう。
漫画やアニメに登場する同級生のキャラクターはみんな冒険したり恋愛したり、時々起こる非日常的な事件に巻き込まれたりして、毎日楽しそうにしている。それに比べて、私のいる世界は同じようなことを繰り返すだけで面白い出来事はまったく起こらない。
空想と現実は違うことは分かっているけど、私も一度でいいから漫画の世界みたいな学校生活を送ってみたいな。そうしたらきっと毎日が楽しくなるに違いない。
そんなことを考えている内に、絵梨は校長先生の話を聞きながらついうとうとし始める。
ぼんやりとした意識の中、遠くのほうではまだ校長先生が長話をしているのが分かり、途切れ途切れではあるがその内容も聞こえてくる。
「……ですから、本日より魔法使い科に進学した皆さんは、将来立派な魔法使いになって社会へ貢献できるよう、たくさん勉強に励んで下さい」
ほとんど眠りかけていた絵梨はその話にふと違和感を覚える。
あれ、今校長先生は「魔法使い」って言ったの? 急に変な話が始まったなあ。それに校長先生の声って、こんな女の人みたいに高かったっけ?
おかしいなと思った絵梨は目を開けて顔を上げる。
すると、そこにはさっきとは違う女性の校長先生が立っていた。
白くてきれいな長い髪、空の色みたいに青い目、校長先生っていうよりは年上のお姉さんって感じだし、しかもまるで魔法使いみたいなローブを着ている。
絵梨は周りを見てびっくりした。
そこは明らかに学校の体育館ではなかったのだ。それに周りの人もおかしい。
壇上にはファンタジーの世界に出てくる老人みたいな長いヒゲを生やした先生や怖い顔した先生が立っていて、私の周りには魔法学校の生徒達が着るようなローブの制服を着た子がたくさんいる。って、いつの間にか、私もみんなと同じ制服になっているし、どうして?
絵梨が戸惑っていると、どうやら校長先生の話が終わったようで周りから拍手が起こる。
「ソフィ学園長、ありがとうございました。これにて、魔法使い科・火級生の入学式を閉会いたします。各自、担任の先生に従って教室に戻り、今後の流れについて話を聞いて下さい」
知らない先生達が周りの生徒に指示を出して、順番に建物の外へと出ていく。
絵梨は「これは夢だ」と思った。校長先生の話があまりにも退屈で眠ってしまい、ついその時にしていた妄想が夢になって現れただけで、本当は体育館の中にいるはずなのだ、と。
絵梨は爪の先で自分の頬をつねってみた。
頬にちくりと痛みが走る。つまり、これは夢ではなく、現実であった。
えっ、嘘でしょ、私どうすればいいの?
絵梨があたふたとしていたその時、誰かに背中をとんとんと叩かれた。
「ねえ、早く前に進んでよ? 置いていかれちゃうよ?」
振り返ると、絵梨の後ろにいた子が不機嫌そうにそう話し掛けてきた。
そう言われて自分の前に視線を戻すと、さっきまで絵梨の前にいた生徒達の列はすでに建物の出入り口の近くを歩いていた。絵梨の後ろからは「何してるの?」とか「早く行ってよ」とか、彼女を急かすような声が聞こえてくる。
「ご、ごめん!」
とにかく迷惑をかけてはいけないと思い、絵梨は前の列に追いつこうと駆け出した。
彼女は走りながら色々なことを考える。
どうして自分は知らない場所にいるのか。ここにいる人達は本当に魔法使いなのか。自分が居眠りをする前の入学式はどうなったのか。どうやったら元の場所に戻れるのか。
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私、何かの間違いで魔法学校に入学しちゃったんだ。
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